30を過ぎた辺りから、妻が僕を求めてくる夜はめっきり、その数を増やした。
もちろんそれ自体は喜ばしいことなので、出来るだけ応えるようにしている。
日々増大する色気は、複雑な思いすら感じさせるが…………。
問題はその理由。
彼女のなかで一体何があったのか?
消極的、とはいかないまでも、どちらかと言えばセックスに対して受け身だったはず。
むしろ僕の方が必死だった。
今はもう、僅かな恥じらいすら感じさせないほど、積極的かつ大胆で━━━日々、嬉しいような、悲しいような。
今宵も、帰宅したばかりの夫を嬉々とした表情で出迎える悠理。
最近お気に入りのTシャツに、ショートパンツ。
すらりとした長い足がタタタ、と駆け寄ってくる。
もこもことした、子供っぽい着ぐるみ姿が少し懐かしい。
まだジャケットを脱いだだけの状態なのに、彼女は絨毯に膝を付くと、スラックスのファスナーにそっと指をかけた。
「こら、はしたない。着替えるまで、待てないんですか?」
「もう、いっぱい待ったもん。」
拗ねた様に尖らせた唇が、こちらの心を擽る甘い言葉を吐く。
とても30過ぎには見えない悠理。
むしろどんどん若返っているようで、先行きが怖い。
こちらは年相応、老けて来ているだけに、余計。
優しく取り出され性器はまだ充分な硬さではない。
シャワーで身を清めていないそれを、彼女は嬉しそうに眺める。
だがどうやらいつまでも沈黙しているその姿を見て、女としての闘争心が煽られたようだ。
「もぉ!疲れてんの?」
責める言葉と共に睨まれ、まずは軽くキス、紅い舌を見せつけるように差し出す。
それらは全部僕が教えた。
男がそそられるやり方を。
「悠理………中途半端は駄目ですよ?」
「ん。わぁってる。」
ゆっくりと這う生暖かい感触に、疲れを凌駕する勢いで欲望が高まっていく。
僕は壁に背中を凭れ、与えられる心地良さに身を委ねた。
熱が一箇所に集中する。
その先の快楽を期待して。
彼女の指は細くて、白い。
そんな美しい物が、グロテスクな肉を包む光景はとても淫らである。
左手で包み込み、小指だけを立てて、先端をチロチロと掠めていた舌が、ねっとりと根元まで下りて行く。
悠理の唾液はまるで媚薬だ。
たった数度繰り返すだけで、僕の愚息はピンと反り返り、妻が期待する通りの硬さとなる。
そう………まだまだ衰えてはいられない。
身も心も満足させられる夫でなければ、まるで価値がないのだのから。
舐めながら見上げてくる、欲に冒された視線。
緩くたわんだTシャツの隙間から覗く小さな胸に目をやると、どうやら下着は着けていないらしく、ピンク色の突起が可憐に主張していた。
ドクリと胸が鳴る。
興奮がこみ上げる。
更に力を増す男根を見て、心からの笑みを浮かべる妻。
どうやら狙い通りだったらしい。
あからさまに目が細められた。
━━━━こんなの…………好きだろ?
視線だけで誘惑され、僕は軽く頷く。
ひときわ膨張したそれが、開いた口に飲み込まれてゆく様は、クラクラするほど官能的だ。
届いた喉の奥に、先端部分がヒクヒクと感じ始める。
彼女はどこもかしこも柔らかかった。
律動し、絡みつく舌はまるで違う生き物。
ねっとりと押し付けられ、括れを執拗に刺激する。
息が上がり、吐精に向けて背中がゾクゾクし始める。
深く飲み込んだまま、溢れた唾液で滑り良く上下されれば、得も言えぬ快感が押し寄せてきた。
「ゆ、ゆうり……!あ………良すぎる………もう………」
ジュプジュプ
淫らな音が下腹部を伝い、耳へと到達すると、僕は更なる快感を求め、激しく腰を振り立てた。
それでも離そうとはしないその姿は、視覚的な興奮を絶え間なく与えてくれ、とうとうクライマックスが訪れる。
「出すぞっ………!」
数回にわたり、吐き出された濃厚な精液を、彼女の喉がゆっくりと飲み下す。
ビクンビクン
小刻みに腰を打ち出し、最後の一滴まで放出する支配感。
膨らんだ頬が徐々に萎む淫靡な光景が、僕の目を焼いてゆく。
名残り惜しそうに吸われながらも、力を失った肉茎が口からずるりと現れると、男とはなんと情けない生き物だと感じ、少々恥ずかしくもなる。
「は……ぁっ……」
夢心地のまま、悠理の髪を掻き乱し見下ろせば、ペロリと舌舐めずりする愛らしい仕草に心臓が疼き出すのは、いつものこと。
「おいし………」
満足そうな笑顔。
決してそんなわけはないのに、嫌な顔一つしない妻へ、愛しさがこみ上げる。
「………シャワーを浴びてきます。」
息を整えながらそう言うと、悠理は
「あ………うん。待ってる」と熱っぽい瞳で見つめてきた。
熱を━━━少しでも熱を冷まさないと、手加減出来そうもない。
とてつもなく自分本意なセックスで、彼女を壊しかねなかった。
熱めに設定したシャワーを浴びながら、未だ発熱する其れを軽く扱き、先ほどの鮮やかな痴態を思い出す。
滑らかな舌の感触や、欲情に濡れた目。
飲み下す喉の動きは、ぞくぞくするほど扇情的だった。
「…………っくぅ……悠理!」
自分でも呆れるほど、二度目の絶頂は早く訪れ、僕は静かに欲を吐き出した。
荒い呼吸と共に、汚れた手を見つめ、空虚と戦う。
悠理はよくもこんなものを…………
嫌悪すら感じる白い粘液を洗い流し、シャワーを終えると、さすがに倦怠感がまとわりついてきた。
このまま眠りに落ちたい気分にもなるが、彼女はきっとシーツにくるまり、ひたすら僕を待っているのだろう。
期待に応えねばなるまい。
バスローブを軽く羽織って、覚悟しながらベッドへ向かうと、悠理はすっかり裸で寝そべり、その艶かしい肢体で僕を誘ってきた。
まるでヴィーナスのように。
程よく脂の乗った腰回り。
長くしなやかな手足。
学生時代よりも膨らんだ胸はそれでも小振りな方だが、手のひらに吸い付く感覚と柔らかさは格別だ。
果実の色をした突起はすっかり勃ち上がっていて、彼女の欲望が如実に表れている。
「せぇしろ………早くぅ……」
「はいはい。今行きますよ。」
ぞくぞくとした戦慄が背中を這い上がるのも、これから目の当たりにする悠理の痴態を期待してのこと。
口でどれだけ冷静ぶっていても、僕はそんな妻に、とことん溺れていた。
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「あ……んっ!あぁ!!すごい………気持ちいいよぉ!!」
跳ねる、しなやかな身体からは汗が舞い散り、グチュグチュと淫靡な音が二人の間を行き交いながら、限界まで密着する。
気持ちいい。
悠理とのセックスは、何もかもを忘れられるほど気持ち良かった。
彼女の味を知って十年以上経つが、飽きるということがない。
日々美しく、女らしく、変化してゆく妻は、僕にとってそれこそ女神だ。
「悠理………きれいだ………」頭が煮えそうになる中、賛辞する言葉はあまりにチープで……それを補うかのように腰を繰り出す。
「あ……んっ!せぇ……しろ!そこ、ダメぇ……!」
「ダメ?違うでしょう?もっとして欲しいんですよね?」
背中を反らしながら、コクコクと頷く素直な妻。
SEXは基本、女性が受け身になりがちだが、この体位だけは快楽を求める積極性がまざまざと伝わり、堪らない魅力を感じる。
そして、悠理はこれが好きだった。
全てが煽られる。
理性的な自分は遥か彼方へ飛んで行き、彼女とならどんな深淵をも覗ける気がした。
腰の動きがぴたりと合わさり、より深い快感が二人を包み始める。
「あ………ん!いい………いい!!おかしくなるよぉ!!」
収縮する胎内が僕を絞ろうと躍起になる中、それでも先に達してしまうことはしない。
彼女が先だ。
「ゆうり………可愛い。………僕もすごくいいぞ。」
淫らに絡み付く誘惑に耐えながら、激しい抽送を繰り返していると、悠理は息を詰め、声なき声を上げたまま深い絶頂を迎えた。
倒れ込んでくる体を抱き止め、しばらくは余韻に浸らせる。
ひくひくと痙攣するのは肌だけではない。
本気で達した後の膣内は細かく波打ち、鬼頭を優しく包み込むよう刺激する。
じっとりと張り付いた汗。
僕は悠理の首筋を舐めながら、兼ねてからの疑問をぶつけてみた。
「………どうしてこんなに僕を求めるようになったんです?」
「……………え?」
「昔は……僕の方が必死だったでしょう?」
すると悠理はゆるりと頭を上げ、こちらを真っ直ぐに見つめてきた。
「だって………可憐が………」
何を思い出したのか、次第に哀しげな泣き顔になる。
「『男の30代は浮気率が高いのよ?』って言うんだもん。奥さんに飽きちゃって他の女に目を向ける事が多くなるって………あたい、やだもん、そんなの。」
現在、美童と恋人関係にある彼女はどうやら不安定な様子。
余計な情報を悠理に注ぎ込み、不安に陥れ、一人満足しているらしい。
全く━━━彼女らしい悪戯心だが、流石に見逃すことは出来ないな。
後々、釘を刺すとしよう。
だが…………
確かに一般的な話で言えば、心が緩む頃なのだろう、と思う。
僕の周囲でも、平気な顔をしながら浮気している男は多く、『妻とはセックスレスだから』などといった、夫としてのプライドを捨てたような言い訳で正当化している輩もよく見かけた。
でもね………僕は違うんですよ、悠理。
日々の疲労にかまけることはあっても、未だにおまえを欲しがっている。
まだ全部を手にした実感がないんです。
どれだけ身体を繋げても、心を吐露しても、まだまだ、おまえが遠く感じることも多いんだ。
沈黙している僕に不安が増したのだろう。
悠理はしょぼんと項垂れ、ゆっくり離れようとする。
しかしそうはさせない。
浮いた細腰を折れんばかりに抱き寄せ、再び硬いままの杭を強引に沈ませた。
「あっあ………んっ!」
「可憐の言葉より、僕の情熱を信じろ。他の女に興味を持てないほどおまえに狂ってる僕の………!」
主導権を握り、悠理の中を激しく淫らに掻き回す。
同様に唇を奪い、舌を絡ませ、目眩を感じるほどのキスに溺れる。
「んっ!んん…………っうぅ!」
容赦ない突き上げにくぐもった悲鳴が洩れ出すが、止まることなく腰を動かし続ける。
燃え盛る情熱を伝えるよう、何度も、何度も。
二度目の絶頂は瞬く間に訪れたらしい。
「せぇしろ……せぇしろ!」
僕の名を切なく呼びながら、苦しそうに目を瞑った悠理は、半開きになった口で更なるキスを求める。
クラクラするほど………可愛い。
求められる悦びに身を焦がし、それに応えると、僕もまた強い射精感に抗わず、彼女の胎内にたっぷりと放出した。
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夜遅くまで、否、夜明け近くまで互いを堪能した後、二人仲良く湯船に浸かる。
汗まみれのぐったりとした身体を僕の胸板に委ね、彼女はポツリと呟いた。
「浮気………しないで?」
「しませんよ。」
「本気もダメだぞ?」
「そんなに器用じゃありません。」
「信じていい?ばあちゃんになっても………あたいだけだって。」
「ええ。僕も……それを願ってます。年を重ね、白髪になっても、僕だけを欲しがって下さいね。」
「うん!!約束!」
輝くような笑顔を見せられた僕は、またしても彼女求めてしまったのだが、それに応えてくれる悠理はとても幸せそうで………
いつまでも、いつまでも、互いだけを愛し、求め合える夫婦であり続けたい。
そのためにすべき事は、
━━━━やはり修行の積み重ねですな。