祭りの喧噪が届かない場所。
しかしそこは間違いなくベストスポットだった。
少し古びた民宿だが、二階の窓からは見事な月と打ち上がる花火がのぞめる。
部屋は八畳ほどでさほど広くはない。
がしかし、清潔感に溢れていた。
一般的なものより大きめの腰窓は、花火がよく見えるよう工夫されているのか、開け放つとまさしく絶景のパノラマが広がる。
約40分にわたる夜空の饗宴を、二人きりで味わう贅沢。
悠理は喜びをじんわりと噛みしめていた。
「こんな宿(とこ)、よく取れたな。」
「ええ。知り合いのツテでなんとか。」
「さっすが清四郎ちゃん!褒めてつかわす。」
「それなら早速………褒美を貰いましょうかねぇ。」
「ん?」
夜空を赤く、青く彩る大輪の花々。
背後からギュッと抱き寄せられ、打ち上がる花火から一瞬だけ気が削がれるも、悠理は抗うことなく身を任せる。
清四郎の思惑を受け入れる準備は万端だった。
浴衣の襟元から下着も着けていない胸をやわやわと揉みしだかれ、包み込まれるような快感に酔いしれる。
「もう………こんなに固くなってるんですか?」
「あ………ん!」
絶妙な力加減で捏ねられたそこは、悠理が感じる最も弱い場所。
コリコリと 指の腹で芯を揉み解すように触れられると、更に固さを増して行く。
ヒュルルルル…………ドーーーン!
真っ白な光が二人を包み込み、長い影が座敷に伸びる。
「あ………ぁ………せぇしろぉ……」
「ふふ………感じてるんですね?」
身悶える悠理の耳元で甘い声が囁かれ、反射的に首を竦めるも、清四郎は更に欲情の熱い吐息を吹きかけた。
大好きな男の大好きな声。
背後から首筋を舐められ、ゾクゾクと這い上がる快感に身体はぐったり。
あれほど楽しみにしていた花火も、もはや遠くに感じる。
「………………うなじ、色っぽいですよ。」
賞賛と共に何度も口付けられると、悠理の意識は次第に朦朧としてきた。
恐らくは花火など一瞥もしていない男。
彼にとっての花は、腕にある愛しい恋人だけだ。
「浴衣も………すごく似合ってる。僕の好きな色味だし──何よりもほら、こうして悪戯もしやすい。」
割られた裾から忍び込む手。
汗ばんだ内腿を宥めるよう擦られ、ビクビクと反応する身体は自分でも止めようがない。
何もかもが陽炎の如く揺らぐ中、腰窓の桟を掴む悠理は、清四郎の官能的な愛撫に身も心も蕩けていった。
・
・
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クライマックスを迎えた花火が矢継ぎ早に弾けている。
迫力あるスターマインの中、小さく震える花芽を散々嬲られ、絶頂へと追い上げられる悠理。
この迫力ある音響の中では、声を押し殺す必要もなかった。
「あぁ………!!も………っ、ダメッ!!」
轟く爆音。
地響きさえ感じられるその終焉に、背中を大きくしならせ達する。
風に運ばれてくる火薬の匂い。
静けさが戻った後も、ヒクヒクと震える身体を清四郎の舌が執拗に這い回る。
帯が解かれ、桜色の浴衣が畳に放り投げられると、悠理は慌てて身を縮めた。
静寂が理性を呼び戻す。
開け放たれた窓の下では、十代の若者達が花火の余韻に浸りながら、賑やかに歓談しているのだ。
僅かな声すら届きそうなその距離で。
「ね………窓、閉めよ?」
「どうして?」
「だって………声、聞こえちゃうだろ?」
「我慢すれば良いだけでしょう?この宿は扇風機しかありませんからね。外のひんやりとした風を呼び込みたいんですよ。」
自分はまだ汗一つかいていないくせに──────
清四郎はいつも意地の悪い提案をする。
「これから汗だくになるんだ。だから、このままで………ね?」
そう言って押し倒された悠理に反論出来るはずもなかった。
襖の向こうにはきちんと布団が敷かれているというのに───わざわざこんな場所で?
清四郎もまた浴衣を脱ぐ。
張り詰めた筋肉に割れた腹筋。
逞しい身体と豊かな知性を兼ね備える男は、涼しい表情の下、しかし激しい欲情に駆られていた。
細い肩のラインを降りていく両の掌は、やがて幼き膨らみを覆う。
不釣り合いに尖った紅色の蕾が夜風にふるりと震えた。
覆い被さった清四郎の唇がゆっくりと乳房を愛撫し始め、悠理は喘ぐように息継ぎをする。
期待はこの上なく高まっていて──────
「あ………気持ち………良いよぅ……」
男を煽る素直な表現。
「まだまだ………これからですよ。」
濡れて立ち上がる真珠に熱い吐息がかかった。
舌で転がされ、頂きを甘噛みするよう吸い上げられると、肌がぞわりと粟立ち、下腹部が切ない感覚に襲われる。
「あ……ぃやっ………せぇしろ……」
「‘いや’?………嘘を吐くな。ほらもう、びしょ濡れじゃないか。」
散々弄られ、育ちきった芽が、清四郎の指で再び捏ねられる。
割れ目からは濡れた音が響き、感度を高めるよう何度も何度も押し潰されることで、悠理はとうとうか細い悲鳴をあげてしまった。
「ひぁぁぁ!!!!」
外のはしゃぐ声が一瞬途絶える。
それは異様を察した、気まずい沈黙。
「おや、そんな声を出して。良いんですか?彼らに聞かれても?」
悠理は羞恥のあまり、高鳴る心臓を胸の上からぎゅっと押さえた。
「おまえ…………意地悪いぞ!」
声を押し殺し非難しても、堪えるような男ではない。
暫くすると、若人達の話し声は遠ざかっていき、ホッと胸を撫で下ろす。
「今更、何を───」
清四郎はくすっと笑った後、悠理の両足を思い切り抱え、顔をその付け根に近付けた。
慌てて覆い隠そうとしても、時既に遅し。
「あ………待って、今日はそれ、やだ!」
「何故?」
「まだ、風呂に入ってないし………汗臭いだろ!」
「大丈夫────悪くない香りですよ。」
うっとりとした表情に悠理は言葉を失う。
反論に躊躇いながらも腰を揺らし逃げようとするが、がっちりとホールドされた身体は逞しい腕から外れそうもない。
男の重みと腕力に成す術なく、悠理は力を抜くほかなかった。
・
・
「………あっ………あっ……ん………」
味わうように、じっくりと蠢く舌。
熱を帯びた白い肌が徐々に赤みを増して行く。
それはあまりにも美しく鮮やかな変化だった。
幾度となく秘裂を往復した後、入り口の具合を確かめる為、清四郎は長い指を少しだけ中へと押し込んだ。
「はぁ………んっ……!」
「相変わらず………狭いですね。」
充分に濡れてはいるものの、媚肉はきゅうっと締め付ける。
それは条件反射のようなものかもしれないが、挿入した時の快感が思い出され、清四郎の昂ぶりは興奮のあまり、ぶるんと震えた。
「……こんなに濡れて。いい感じですよ。────あまり我慢出来そうもないな。」
肺から絞り出されたような声に悠理が反応する。
「も……入れんの?」
「挿れたいです。良いですか?」
了承を得、一旦離れた清四郎の手には避妊具の箱があった。
目尻を赤く染めた悠理は、しかしその箱をそっと取り上げる。
「悠理?」
「…………そのままで、シテ?」
「こら。妊娠してしまうかもしれませんよ?」
「良いから………シテ?」
大学に入学したばかりでそれは流石に拙かろう。
清四郎はユルリ、首を振った。
「おまえを孕ませるわけにはいきません。僕もまだ親になる覚悟は出来ていない。」
「え………そなの?あたいは………いつでも良いのに………」
「!!莫迦なことを………」
奪い返した箱から、急くように中身を取り出すと、先走り溢れる肉の楔にスルスルと被せる。
もう一刻も我慢出来ない。
悠理の甘く締め付ける肉に突き入れ、ただひたすらに腰を振りたかった。
グチュリ……
いやらしい音と共にヌプヌプと沈みゆく姿は、何度見ても脳が痺れる。
この狭く小さな穴が、猛りきった竿を受け入れ、そしてその身で男の欲望を満たしてくれるのだ。
神秘的とすら感じる。
「んぁ……!」
柔軟な肉壁をかき分けるように押し入ると、悠理はグッと息をのんだ。
「痛いか?」
「ううん………なんかいつもよりおっきいから、びっくりしただけ。」
「…………おまえの所為ですよ。あんな事を言われたら、男なら皆、興奮します。」
「え?」
悠理の覚悟は清四郎の全てを受け入れてくれている証拠だ。
それは彼にとって何よりの喜び。
滾る心を力強い律動に加え、悠理の全てを呑み込む勢いでキスをする。
「は………っ!ふぅあ……ん!」
「愛してる…………愛してる………悠理!」
「あぁっ…………!!」
悠理は溢れ出す声を抑えきれない。
揺さぶられ抉られるまま、その激しく狂おしいまでに快楽に溺れ続けた。
清四郎の息遣いがどんどんと感度を高めていく。
全てが快感へと繋がる中、甘い痛みが矢のように襲ってくる。
「そ………こ………ダメぇ!」
「ここ?………あぁ、ここも感じるのか………」
奥深い場所に、痺れるような感覚が広がる。
長い雄のシンボルが確実に弱点を探り始め、悠理はひたすら泣き叫んだ。
涙が零れる。
涎が止まらない──
「ひっ………あっ………あっあ………せぇしろぉ!!」
「もっと呼べ………悠理!」
熱を孕んだその声は、悠理の心に甘く響く。
「せぇしろ………せぇしろ…………い、イくっ………!!」
たとえ誰に聞かれても良かった。
けれどここは二人きりの世界。
脳内に弾ける打ち上げ花火は、まさしく極彩色だ。
「くっ…………悠理………!」
ドクドク
焼けるような脈動が体の芯で響く。
それは彼が達したという合図。
ポタリポタリ………
清四郎の汗が悠理の頬を濡らし、彼女は無意識にそれを舌で掬った。
「…………はぁ………はぁ………」
こんなにも辛そうな清四郎を誰が知っているだろう。
厳しい鍛錬を長年続けてきた鋼のような身体は、今、悠理に覆い被さり脱力している。
しっとり汗ばんだ肌が心地良かった。
時が経っても縮まらない肉茎が、収縮する胎内を味わい尽くすかのように留まり続ける。
「…………すごいな。」
「────え?」
「中がまだ痙攣していますよ。よほど快感が深かったのか。」
「…………………ウン。」
穏やかな重みを感じながら、悠理は清四郎の脈打つ胸に小さく呟いた。
・
・
あんなにも強くて深い絶頂は初めてだった。
いつもの身体ごと浮くような優しい感覚ではなく、全身を破壊され、バラバラになってしまうような………恐れにも似た快感。
クセになりそうな予感に、悠理は清四郎の首にかじりついた。
「アレ…………気持ち、良かった。」
そんな風に白状されれば、もはや欲情は止まらない。
清四郎は薄いゴムを付け替え、直ぐ様、挿入を試みた。
膝を抱え上げ、最初から深くにまで押し入り、悠理の火照った顔に口付ける。
「いきますよ───」
宣言通りの荒々しい揺さぶりに呼吸さえままならない。
熱い昂ぶりが襞のどこもかもを擦り、目眩く刺激を与えられ、もう喘ぐほか何も出来なくなる。
「あっあぁ………いいよぉ!せぇしろ………」
反射的にのけぞる体。
悲鳴のような嬌声が唇から溢れ、一度覚えた感覚が意志を凌駕し、更なる快感を求め始める。
「もっと………あ、そこ………そこ………良い!」
「あぁ………僕もおかしくなりそうだ。」
清四郎の甘い本音に息が上がる。
子宮近くを打ち付けられる度、あまりの気持ち良さに涙が零れ、悠理は無意識に唇を噛みしめた。
「ゆう……り!」
肌と肌がぶつかり合い、
粘膜が濡れた音を立てて擦れ、
何よりも一つだと感じるその瞬間。
「くうっ……………あぁ!」
清四郎は堪えきれない咆哮の末、二度目の白き欲望を膜の中にぶちまけた。
・
・
・
その日の夜はひたすら長く──────
清四郎は布団を敷いた部屋でも悠理を抱いた。
刻みこんだ快感が、彼女の意識を奪うまで。
「浴衣も確かに可愛いですがね。おまえはその野生的な姿が一番ですよ。」
剥き出しの背中にそっと口付け、静まりかえった闇夜を覗く。
「さて。次はどの花火大会にしましょうか。」
夏はまだ始まったばかり。
たとえどれほど美しい花火であろうとも、悠理の痴態に叶うはずはないだろう。