エアコンの生温い風に肌を震わせ、悠理はここが自分の部屋でないことを再認識した。
階下の和室で夜を明かしたことは何度もある。
酒とご馳走、そして常に仲間がお伴だったけれど。
しかし今宵は二人きり。
15年前に出会い、一時期は婚約までした男の視線に悠理は晒されている。
いつものクールなそれではなく、熱を帯びた野獣の瞳で。
「寒くはないですか?」
「う、うん。」
女の細い身体に跨がったまま、その見事な肉体美をさらけ出す男は、いつになく優しい気遣いを見せ、微笑んだ。
張りのある厚い胸板。
六つに割れた滑らかな腹筋。
制服の上からでは感じられない清四郎の男ぶりに、悠理は無意識で喉を鳴らす。
二人は交際して二度目の夜を迎えている。
最初の夜は清四郎が用意したホテルの一室で、嵐のように結ばれた。
痛みと羞恥、そして混乱の中、涙が止まることはなく、それでも女としての第一歩を踏み出せたことに、悠理は感動を覚えた。
行為の後、男の胸にすがりつくよう眠ったが、清四郎は朝までその無理な体勢を解くことはなかった。
━━━優しい男だ。
付き合う前、親のような慈愛に包まれてきた悠理は、清四郎の優しさを改めて思い知る。
幾度となく、『鬼、悪魔』と罵って来たが、彼の本質は面倒見がよく、責任感が強い。
そして懐にある仲間の為になら、命がけで危険に飛び込んで行く勇気の持ち主だ。
プライドの高さは多少鼻につくが、それでも清四郎以上の男はなかなか存在しないだろう。
悠理はそんな彼に可愛がられるペットであり、時に信頼されるパートナーでもあった。
恋とは縁遠い二人だったのに。
いつの間に導火線に火が点いたのだろう。
火は瞬く間に恋心を燃やし始めた。
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「震えてますね。今、暖めてあげますから。」
そう言って清四郎は、裸で横たわる恋人の背中に腕を差し込んだ。
伝わる熱は男特有のものだろうか?
それとも彼の興奮?
悠理はうっとりとその温もりに目を閉じ、降りてくる唇を優しく受け止めた。
キスは………前戯でもあり、清四郎のお伺いでもある。
悠理の心を推し量りながら、どこまで進んでよいかを知る手段。
まだ僅か二度目の夜。
あれから十日も経っている為、痛みはないはずだが、それでも悠理の肩が強張っているのを見て、清四郎は不安になる。
普段頑丈な彼女でも、それとこれとはやはり別だろう。
たっぷりと口付けた後、ようやく力が抜け始めた悠理にホッとする。
とろんと落ちた瞼。
半開きの唇。
仄かに染まった頬。
そして━━━━胸の尖り。
明確に感じ始めている体が、清四郎を甘く誘い出す。
輪郭に沿い、手のひらを滑らせながら緊張を取り除いて行くと、くすぐったそうに身を捩り、汗が滲み出て来る。
何度も往復させることで淡い快感を引き出し、心の解放を求める清四郎。
「悠理……声を聴かせてください。」
「こ、声?」
口の端から零れ出る女の喘ぎ声は、男にとって何よりの媚薬。
必死で我慢する姿はいじらしいほど可愛いが、やはりここは悠理の全てが知りたいと願う。
「そう。おまえの感じている声が聞きたいんです。」
「か、感じてるって……あ、っん!」
不意に摘ままれたそこはぷっくりと勃った赤い実。
弾けるような鋭い気持ち良さが、悠理の口から見事、『喘ぎ』を引き出した。
「そう。もっと啼いて……もっと聞きたい。」
身を屈めた清四郎の唇は嬉しそうに先端をくわえ、ねっとり、ゆっくり、彼女の反応を確かめながら、張り詰めた卑猥な果実を心ゆくまで味わい始めた。
「あ、あ、あっぁ………んっ!」
「そう………いい声だ。堪りませんね。」
絶え間なく与え続けられる刺激に限界を迎えた身体が、無意識のままシーツの上でしなやかに反り返る。
それはあたかも強請るような仕草で━━━
胸を突き出した悠理は涙ながらに懇願した。
「も、むりぃ……っ、あ……あ……っ、あぁ……!」
しかし清四郎の口は止まらない。
自らの唾液を啜るように音を立て、熱い粘膜の中で乳首を舐め転がす。
強く吸い上げられる刺激は、まだまだ初心者の悠理にとって強烈過ぎた。
「ひゃぅ、あっん………ああっ……!せぇしろ!!!」
ビクンビクン
打ち上げられた魚のような反応に、男はほくそ笑む。
決して唇を離さないまま、そっと下肢へ手を伸ばすと、そこはもうどっぷりと蜜を湛え、太股までもが濡れそぼっていた。
痛いほど疼く胸の先端。
チュク、チュプと唾液混じりの舌にしゃぶられる度、過ぎる快感に鳴き濡れる悠理。
反対の胸もまた、清四郎の器用な指先に乳首が転がされ、適度なリズムで押し込まれては勃ち上がったところを摘ままれ、コリコリとやらしく捏ねられる。
悠理は気がおかしくなりそうだった。
初めての夜と比べ、清四郎の執拗さが明るみになり、その上更に、自らの身体の淫らさに戦いてしまう。
「も、恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしい?何が恥ずかしいんです?こうして僕の手で上り詰めていくことが?」
もう片方の意地悪な手は、下半身の突起を小さく弾いた。
「ひゃぁ……っん!!」
「ふふ。いい反応だ。今日はたっぷりと僕に溺れてもらいますからね。」
悪魔めいた囁き。
端正な男の顔が淫らに歪む。
自分でもどうしようもない興奮が彼を襲い、優しくしてやりたいと思う一方で、とことん啼かせ、快楽の奈落へと突き落としたくなる乱暴な衝動に戸惑う。
悠理の目と頬は既に真っ赤で、心臓の真上が激しく波打っていた。
小さな乳房が微かに揺れる中、ピンピンに勃ち上がった淫靡な乳首に目が釘付けとなり、再び口が引き寄せられる。
甘い、甘い果実。
永遠に舐めていたい。
清四郎は華奢な腰の括れをなぞりながら、その果実を味わい尽くす。
悠理はきっと、自分ではどうしようもない快楽に諦め、身を委ねてくることだろう。
━━━━それから小一時間。
喘ぎはとうとう、泣き声に変わっていた。
「ふぇ……ん、あ、も、やぁっ!」
たっぷりと時間をかけ、もどかしさと未知の快感を引き出した清四郎は、首を振り、涎を垂らす恋人の下肢へと顔を埋める。
しっとりと濡れた肌を舐め、どろりと溢れた欲望の香りに恍惚とする。
悠理はそんな男の手から逃れられなかった。
信じられないほど体が熱い。
全身を灼熱に焼かれているようだった。
清四郎の愛撫で疼く子宮は切なく、
奥深くからとろとろと熱いものが溢れ出た。
そしてそれらを啜られる哀しさと優越感。
悠理は男の性とやらを、初めて知った気がしていた。
だがそれは大きな間違い。
清四郎の貪欲さは更なるステージへと向かう。
ひくん
揺れる腰は大きな掌で押さえられたまま。
清四郎の長い舌が淡い陰毛に隠れた小さな粒を探り当て、チュプチュプとあられもない音を立て始める。
「ひぁ!!ああ!あ……せいしろ……やめてぇ!」
自分でも耳を塞ぎたくなるような嬌声。
男に媚びるその甘い声に、清四郎は気を良くしたのかさらに強さを加えた。
どうしようもなく跳ねる身体を彼の手はしっかりと押さえ込む。
狂っていく身体。
狂わされる理性。
ただひたすら、快感を拾う淫らな自分。
鋭敏な五感を持つ身体と不明瞭な頭の中。
思考を放棄し始めた脳は羞恥心を薄れさせていく。
いつの間にか清四郎の手は身体から離れ、悠理の秘処を弄んでいた。
薄紅色の柔らかな唇が彼の手に吸い付く。
零れる蜜は全て吸い取られ、それでも涸れる事のない泉が彼の指で掻き回されていた。
「…あ……もっと……もっとぉ!!」
その言葉は無意識のまま悠理の口から吐き出され、クスッと嗤った清四郎の息が濡れた粘膜に吹きかかる。
「もっと……?いいでしょう。食べ尽くしてやりますよ。」
視界が白く霞む中、悠理はとうとう全ての理性を放棄した。
・
・
・
重なった身体が生暖かい風を受けながら、ギシギシと揺れ動く。
逞しさを誇示したような杭は悠理の中で淫らに蠢いていた。
「あ…………せいしろ……せいしろぉ……」
「悠理……二度目でこれとは……おまえはなかなか……素質がありますよ。」
怒張した物は彼女の子宮まで到達するかのよう。
見事反り返った卑猥な角度で、胎内をしっかりと擦り続ける。
「そ、そこ……ダメ……気持ちよすぎるぅ!」
強烈な圧迫感の中で快感が次々に生まれ、悠理は堪えきれない感想を口にした。
「ああ……僕もすごく良いですよ……悠理が僕を求めて……絡んで……くっ……」
清四郎の言葉が到達しているとは思わないが、それでも悠理の胎内はしっかりと反応をして見せた。
ぐちゅっぐちゅっ
淫猥な粘着音が二人の隙間から洩れ出す。
充血した膣壁に与え続けられる刺激。
引くことのないさざ波。
悠理はとうとう奥深くからせり上がってくるような快感を迎え始める。
「あ……なに……なに……これぇ!」
そんな嬌声を耳にした清四郎は更に探るような腰つきで中を掻き回した。
「悠理……ここか?」
ある一点を擦り上げると、反射的に喘ぎが飛び出す。
まさかたった二度目でこれほど見事な反応を見せるとは、清四郎にとっても驚きだった。
狙いを定め、集中的にそこを攻め続ける。
悠理の甲高い声は紛れもなく深い絶頂への標。
「せぇしろ…………あ……あ……あ!!おかしくなる!も…………っ!!」
首を大きく振り始めた悠理はとうとう手を伸ばし、清四郎の黒髪をくしゃくしゃにかき混ぜた。
どうにかしてほしい!
そんな切なる懇願が聞こえる。
「悠理、そのままイけ……大丈夫、僕が…………いるから……」
恋人の初めての絶頂を見逃すまいと、性急な律動を繰り出しながらも、真剣に目を開いたまま見据える清四郎。
細い腰をしっかりと掴み、最後の追い込みとばかりにガンガンと突きまくる。
「あっ………………………………!!!」
それは儚い声だった。
抗うことのない快感に悠理の真っ赤な目は見開かれ、とろりとした唾液がこぼれ落ちる。
ざわざわ……とまるで生き物のような収縮が始まり、清四郎は瞬間、びくっと腰を震わせた。
「く……っっ、これは………………」
堪えられなかった。
その搾り取るような蠢きから、逃れる手段はなかった。
ぶるりと身を震わせた男は胎内の奥深くで熱を解き放つ。
この上ない恍惚感。
二人して深い絶頂を味わえる幸福感に酔いしれる。
焦点が合わないまま、ヒクヒクと痙攣する悠理を、清四郎はゆっくりと抱き締めた。
甘やかな余韻が二人を包みこみ、汗だくの身体がじんわりと冷えていく。
「愛してる……悠理。」
耳元で囁かれた真実の言葉。
悠理はようやく静かな眠りへと沈んでいった。