その後、空が白み始めるまで貪り尽くされた悠理。
身体のあちこちが未だ熱を帯びたように火照っている。
ようやく目が覚めたのは、チクリとした腹痛の為。
「あ……………」
気怠い身体を起こすと、清四郎の腕が無意識のまま追い縋ってくる。
起こさぬよう、そろりと腰の辺りを確認した悠理は、二ヶ月間来なかった生理がとうとう訪れたことを知った。
「やべ………血、ついちゃった。」
白いシーツには赤色の斑点。
清四郎のセックスがあまりにも激しかったからだろうか?
それとも、心の問題?
どうしよう?
ナプキンはさすがに買ってなかったな。
そう悩んでいると、気配を察知したのか、清四郎の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「…………………悠理?」
寝ぼけ眼なその顔に、何故か見覚えがある。
本当の自分は何百回と見てきたのだから、当然かもしれないが。
「あの、さ……生理、来ちゃった。」
「え?」
覚醒した清四郎が慌てて身を起こす。
そしてシーツを見た後、深い溜息と共に悠理を抱きしめた。
「………………良かった。」
安堵する彼の言葉を、数瞬後に理解した悠理は、清四郎が胸の奥で不安に思っていたことを察知した。
───そうだよな。ラファエルとは避妊してなかったし……。
考えたらあたい、スゴくヤバいことしてたんだ。
もし万が一、子供出来てたら、いくらこの男でもあたいのこと、捨てちゃうんだろうな。
珍しく自己反省に陥る悠理に優しくキスをした清四郎は、時計を見ながら、こう告げた。
「もう………九時ですね。店も開いてるでしょうから、ひとっ走りしてきますよ。」
「ごめん。」
「タオルを持ってきますから、それを巻き付けて休んでいなさい。あぁ、確かおまえは二、三日痛むんだったな。薬も用意しておきましょう。」
ガウンを羽織り、ベッドから立ち上がろうとした男の背中へ、悠理は衝動的に抱きついた。
何故かは解らない。
今、そうすべきだと感じただけ。
「どうした?」
「……………あたい、まだ思い出せないけど、きっと……絶対、あんたのこと好きだったと思う。」
曖昧な告白。
記憶を失ってなお、こんなにもこの男を求めているのだから、その答えは間違っていないはずだ。
「…………ええ。それが正解です。おまえは僕に惚れていた。僕たちは、誰よりも相思相愛だったんですよ。」
胸板に回した手を、清四郎は優しく撫でる。
「ごめん、思い出せなくて…………ごめん、他の男にふらついて。…………あたい、ほんと…………馬鹿だよね?」
「おまえの所為じゃない。それにもう………過ぎたことです。」
声が微かに震えている。
恐らくは思い出したく無かった現実。
「清四郎…………キス、して?」
悠理は背中に唇を押し当てながら懇願した。
振り向いた彼の顔が、苦渋に歪んでいる。
いや、苦渋だけではない。
背後に歓びが隠れていることを、悠理は見つけた。
「キス…………だけではすみませんよ?」
「え、でも………血が………」
「シャワールームに行きましょう。」
アッと言う間もないほど簡単に抱き上げられ、慌てて清四郎の首にかじりつく。
「清四郎って………もしかして、ちょっとヘンタイ?」
「おや、少しは思い出してきたんですか?」
「違うよ。…………当てずっぽう。」
「あながち、間違ってはいませんよ。」
・
・
熱いシャワーの下で、清四郎は穏やかに悠理を抱いた。
両の手で泡立てた真っ白なボディソープが、身体の隅々を飾りたててゆく。
「ここは特に念入りに───ね?」
「はぅ………んっ!」
薄ピンク色をした真珠を柔らかく捏ねられ、悠理は身をビクつかせた。
ぬるぬると滑りを纏ったそれは、清四郎の指によって皮を剥かれ、形を変えてゆく。
「あ………ひぁあ!!やっ!それ、やだよぉ!!」
「嘘を吐くな……好きだったはずでしょう?」
首を弱々しく振りながらもがけど、逃げ場はない。
悠理は清四郎の腕の中であられもない嬌声をあげながら、ひたすら与えられる快感に啜り泣いた。
「せ、せぇしろぉ~・・も、ダメぇ!!」
細く頼りない腰が、前後に艶めかしく揺れる。
仰け反って喘ぐ悠理の喉に、だらしなく開いた口から涎が垂れ、さざ波の様に震える肌は熱を孕んでいた。
オーガズムに浸る悠理は、泡だらけの裸体を清四郎に擦り付け、媚びるように見上げる。
それは記憶を失う前と同じ仕草。
清四郎は胸が熱くなり、ごくんと音を立て、唾を飲み込む。
「せぇしろ………」
「………………欲しいんですか?」
こくり
恥ずかしそうに俯く恋人が、本当に自分のことを覚えていないなんて、有り得るのだろうか?
未だ信じられない思いを抱く清四郎は、シャワーで軽く流したそこへゆっくりと挿入を始めた。
背中をタイルの壁面にぴったりと押し付け、片足を持ち上げる。
「あ………ぁ………はぁ………」
一晩中、何度も貫き、掻き回し続けたはずなのに、キュウっと締め付ける膣が愛おしい。
彼女にも深く求められていると解るから。
「おまえは………最高の身体です。」
溜め息を吐きながらの言葉に嘘偽りはなかった。
悠理は感じ入ったように目を閉じる男を、うっとりと見上げる。
濡れた前髪。
滴り落ちる水。
ああ、見たことがある────
この角度を、この表情を、何度も、何度も…………
「あたい…………思い出したいよ………」
「ええ………僕も思い出して欲しい。どれほど愛し合っていたか………どれほど幸せだったか、を。」
グンと奥深くまで届いた切っ先が、どろどろに溶けた蜜壷を優しくかき混ぜる。
「あぁ……っ!!」
「悠理…………ゆうり………愛してます!」
心からの叫びに悠理は涙が零れた。
決して快感だけではない、彼の想いの激しさを感じて────
・
・
その後───────
案の定のぼせてしまった悠理の身体は、清四郎の手で隅々まで洗われ、浴室を出た後、ベッドに運ばれた。
大きなバスタオルに包まれた悠理は、ぼんやりと清四郎を見つめる。
「では行ってきますね。」
「うん────」
「寝ていなさい。さすがに…………無茶をしてしまいましたから。」
照れたように顔を背ける男が、意外と可愛かった。
額に口付けられた後、ゆっくりと眠りに沈んでいく悠理。
寝室の扉が閉まり、彼の足音が遠ざかる。
もう簡単には開きそうもない瞼。
今は、この揺蕩うような心地よさから目覚めたくない。
しかし──────
彼女の安眠はたった10分で破られてしまう。
次に目を開いた時、悠理の視界に飛び込んできたのは──────ラファエルだった。