別荘に辿り着くやいなや、清四郎は悠理を自分の寝室へと引きずり込んだ。
いや、その表現は間違っているのかもしれない。
悠理もまた、それを望むかのように大人しくついて行ったのだから。
眩しすぎる太陽を遮るため、背丈よりも遙かに大きなカーテンを引く。
途端に妖しげな雰囲気へと変化する室内。
真っ白なダブルベッドに押し倒した清四郎の顔は、留めようもない欲情に彩られていた。
見上げた悠理はそっと手を伸ばし、そんな彼の頬に触れる。
「清四郎の顔って…………すっごく、整ってるよな。」
「そう、ですか?」
今までそんな感想を聞かされたことのない清四郎は、驚くと同時に胸が熱くなった。
それが照れ屋な彼女の本音だと解ったから。
────もう、一刻も待てない。
急くような仕草でシャツ脱ぎ去ると、厚みのあるバランスのとれた躰が現れる。
その造形美にうっとりとしながら、悠理もまた、自らのワンピースを脱ぎ始めた。
太陽を浴びた小麦色の肌に、白い下着が眩しい。
清四郎の喉が興奮に焼け付く。
抱きたかった。
ずっと。
あの殺しても飽き足らない男の感触など、全て消し去りたかった。
どうせなら、この二ヶ月間の記憶が全てなくなればいいのに、とすら願った。
それでも悠理を怯えさせたくはない。
二人の男に愛された現実を抱え、不安定な精神に揺れ動く彼女を、決して自分の手で壊してはならない。
そう、何度も言い聞かせた。
感受性が豊かなせいもあるのだろう。
悠理は奔放な性格ながらも傷つきやすい。
今回のことを気を病んで、自分達の未来が絶たれるなんて事は絶対にあってはならないのだ。
二人は生まれたままの姿で見つめ合う。
清四郎は逸る心を抑え、まずは優しく髪を梳かした。
そして悠理はといえば、彼の胸板から伝わる熱にのぼせそうな勢いで喉を鳴らす。
婚約者は、凛々しくも美しい男だった。
ラファエルとは違う筋肉の付き方。
ストイックに鍛えられた身体は、今、湯気立つように興奮している。
「悠理…………二度と余所見などさせませんよ。」
もうこれ以上は我慢出来ないとばかりに落とされたキスは、悠理が想像していたよりも遙かに情熱的だった。
触れた粘膜が縦横無尽に絡み合い、息すら奪うような勢いで食らい尽くされる。
唾液が溢れ、こぼれ落ちても、清四郎の口は離れようとしなかった。
「っん………ふ………!」
酸素が欠乏した頭で、悠理はその懐かしい感触に蕩けていた。
自分だけを見つめ、想いの深さを伝えようとする強引なキス。
────ラファエルとはやっぱり違う。
比べようとしたわけではないが、彼女の五感は自然と納得してしまう。
記憶が無くても本能的な部分がそう働いていた。
本当に求めていた男が誰かを知らしめるかのように。
どれだけ時間がが過ぎたのか。
それすら解らないほど長いキスの後、清四郎の愛撫は始まった。
長い指と器用な舌が、火の灯った身体を滑り落ちてゆく。
耳から首、鎖骨から胸へと────じっくり、丁寧になぞられる。
「あ、や…………うそ…………」
胸の先をツンと弾かれただけで、じゅわっと湿り気を帯びる秘所。
触れなくても解るほどの愛液が滴り、シーツを冷たく濡らす。
「そう簡単には挿れませんからね。覚悟しなさい。」
彼の言葉に肌が震えるほど期待してしまう。
────いつもこうだったのだろうか?
答えがでないまま快楽に堕ちる悠理を、清四郎は更に攻め立てた。
「あ、あ、あ………そこ、やぁ!」
二本の指が手慣れた感じで悠理の中を掻き回すと、グチュグチュとはしたない音を立て続ける身体から、羞恥と共に力が抜けてゆく。
「良い反応ですね………」
うっとり、そう囁いた後、悠理の股に潜り込んだ清四郎は、悦びを滴らせる薄紅色のそこへと口を押しつけ、淫靡な音を立て啜り始めた。
此処を、あの男が触れたのかと思えば、頭が沸騰するほどの怒りに捕らわれる。
今なら理解出来るのかもしれない。
嫉妬に狂う男が、女に貞操帯を装着させることを。
清四郎は己の中に渦巻く独占欲を見つめ、恐怖すら覚えていた。
それでも────
悠理への愛に狂いがあってはならないと思う。
長い時を共に歩んでゆく相手だ。
今回の事をも糧にし、より深い絆を繋ぐ為、最善の道を選ばなくてはならない。
嫉妬に狂い、己を見失っては、明るい未来は閉ざされるだろう。
理性で怒りを押し留めながらも、悠理への愛撫に熱がこもってしまうのは、ひとえに彼女の肌に飢えていたから。
────必ず、あの男を忘れさせてやる!
滾る思いを全てぶつけるかのように、清四郎は濡れそぼる秘裂を啜った。
・
・
何度達したか解らぬ身体が、ぐったりと横たわる。
やがて日が落ちたのだろう。
シーツに描かれた華奢な裸体は得も言えぬほど美しかった。
泡立つ秘所の淫らめいた光景に、清四郎の屹立はこの上なく聳え立つ。
「今夜は───ストップは受け入れない。良いですね?」
「ふにゃ?」
夢現のまま幼い反応を見せる悠理の脚を限界まで開くと、身体を滑り込ませ、性器を押し付けた。
「あ…………」
ラファエルとは違う色と形。
その猛々しさはこの男に軍配が上がる気がした。
「悠理………愛してる。」
静かな宣言。
そして清四郎がその身をずっぷりと沈ませた時、悠理はそれだけで歓喜にむせび泣いた。
「ハ……ァ…………」
自然と熱い息が洩れる。
悠理の身体が記憶している形と大きさ。
鍛えられた下腹部がゆっくりと律動を始め、粘膜の至る所を擦られると、頭の芯が痺れ始める。
これが清四郎。 あたいの男────
「悠理、ゆうり!………僕を思い出せ!」
徐々に激しさが増し、悠理は清四郎の肩にしがみつく。
「あっ………は……ぁ………せぇしろぉ!!」
濡れた音が絶え間なく聞こえる中、悠理の中で沈んでいた感覚が甦ってきた。
男の吐息
汗の香ばしさ
逞しい肩の感触
全て、夢ではない。
「奥………挿れますよ?」
そう告げた後、ラファエルが一度も辿り着かなかった場所を探られる。
「あっ!あ………やぁ!そこ!!!」
「おまえのことなら何でも知っている。どこを擦られれば気を失うかも、ね。ほら、これはどうです?」
ピンポイントで当てられたそこは、戦慄が走るほどの快感が導き出される場所。
「ひやぁ………あ!!!」
身悶える悠理を清四郎は腕に閉じ込め、腰を振り立てた。
「悠理……すごく………締まってます。僕が欲しくて仕方なかったんですよね?」
耳元で囁かれる低音に、悠理はただひたすら頷いた。
まさか彼とのセックスがこんなにも身に染みついているとは。
「ほら、言葉にして。’僕が欲しかった、清四郎しか欲しくない’、と言いなさい。」
「あ………ぁ!せぇしろ………が……欲しかったよ!あ、あたいには………清四郎だけ!」
「いい子です。………おまえは僕にしか本気で感じられないはずだ。長年、そう調教してきましたからね。」
自信に満ちた断言の後、ピンと尖った色づきを咥えられ、悠理は軽く意識を飛ばした。
と同時に、清四郎の迸りが子宮へと浴びせつけられる。
「………まだまだこれからですよ。僕の想いは、こんなもんじゃありません。」
フワフワとした余韻に浸る中、悠理が感じたのは恐れよりも強い期待だった。