Wandering Dream

Wandering Dream(二人の夜:R)

 

「さすがに、この格好では・・・ね。」

そう言われて、清四郎と二人で飛び込んだ真新しい商業施設。
各々好きな洋服を選び、制服を脱ぎ去ると、大きな紙袋と共にホテルを目指す。「前々から気になっていたホテルがあったんですよ。」

連れていかれた其処(そこ)は、都内の端っこにあるが、一年前にオープンしたばかりの高級ホテル。
たくさんの緑に囲まれた、『自然との調和』がコンセプトのアメリカ系ホテルチェーンの一つだった。
ロビーに入ると大きく吹き抜けいて、高い壁からは滝のように水が流れている。
仄かな間接照明が足元を照らし、色とりどりのキャンドルライトが至る所に飾られていた。

ウェルカムドリンクで出されたパイナップルジュースは、多少なりとも緊張した悠理の喉を潤す。

「さ、部屋が用意されましたよ。」

「あ、うん。」

手慣れた様子でチェックインする男の後を追い、悠理は胸の鼓動を速くした。

黒とグレーのチェック柄のセーターに、モスグリーンのスラックス。
何処から見ても、休日の社会人風情である清四郎。
自分は黄緑色のニットワンピにゼブラ柄のレギンス、革のウェスタンブーツを履き、どーみても遊び人のソレである。
チグハグなのは今更だが、ホテルのスタッフにどんな風に思われてたんだろう。
らしからぬ考えが頭を過ぎる。

チン♪

軽やかに鳴ったエレベーターは最上階で停まる。
ふかふかに敷かれた絨毯は足音を消し、先を歩く清四郎は真っ直ぐに部屋を目指した。

カードキーは緑に点滅し、その大きな扉が自動で開く。
悠理も見慣れたスイートルーム仕様。
見慣れなかったのはその内装だ。

「うわっ!!すごっ!」

至るところに置かれた南国の観葉植物が活き活きと生い茂り、玄関から見える大きな窓には先程の滝のように水が流れ、静かな音をたてている。
その向こうには東京の夜景。
フィルターがかかったようにぼやけているがそれこそが幻想的に感じる。

悠理は直ぐ様、気になる寝室へと向かう。
バリテイストな天蓋ベッドは、広々としたキングサイズ。
支柱から垂れ下がるパーティーションクロスは柔らかな薄手のコットンリネンで、たっぷりとしたドレープを引き摺っている。
大小組み合わされたクッションはベッドシーツとお揃いのネイチャーカラーで、悠理はそこへと思いきり飛び込んだ。

ふわっ

突如として嗅ぎ慣れぬ、しかしどこか頭の芯を蕩けさせるような甘い香りが漂う。
俯(うつぶ)せのまま、その香りを思い切り鼻から吸い込むと、何故か、心が安らいでいく・・・・。
代わりにどろりとした情欲が湧き上がってくるが、それはきっとこれからへの期待。
そっと目を瞑り・・・清四郎の気配を辿る。
ウォーキングクローゼットの扉を開く音が聞こえてくる。
きっとハンガーに制服を掛けているところだろう。
そう、自分の分も一緒に・・・。

くすっ・・・
清四郎の几帳面な性格を思い出し、悠理は思わず笑った。
こんな時でも清四郎は清四郎だ。
それがすごく安心させてくれる。
好きだと思ってしまう大きな要因なのだ。

静かに近付く足音。
しかし悠理は動かぬまま、その身を横たえていた。
目を閉じている為、他の神経が研ぎ済まされている。

清四郎の息遣い。
衣擦れの音。
鼻をかすめる清涼感ある香り。
そして・・・・・

堪えきれぬ欲望を秘めた身体の放熱。
悠理の背中に覆い被さった清四郎は、その耳元で小さく囁いた。

「いいんですね?」

悠理はうっすらと目を開き、見上げる。

「いいよ。・・・・抱いて?」

少しだけ瞠った目は、しかしすぐに細められ、男は柔らかく微笑んだ。

「キスを・・・・」

背後からのキスを受け入れる。
キス・・・は今まで何度もしてきた。
軽く戯れるものなら数えきれぬほど。
少し深いものは、一ヶ月ほど前。
唇が深く重なり合って、少しだけ互いの舌を舐め合うくらいの・・・・。

けれど・・・・

今、清四郎がしているソレは比べものにならないほど濃厚で、情熱的で、身体にじんわりと熱がこもる。
悠理の口腔内はあっという間に男の舌で埋められ、舐め尽くされ、感じさせられる。

「んっ・・・ふっ・・・ぁ!」

息など出来ない。
出来ない分、鼻で呼吸をしようとするが、それがちょっと恥ずかしくて結局、限界まで我慢する。
たまに離れた時に新鮮な空気を取り入れようと口を開く。
しかし清四郎はすかさず舌を入れてくるのだ。

「ぁ・・・んっ・・・・・」

苦しさに涙を零せば、ようやくそれに気付き、開放される。

「悠理・・・舌を出して・・・」

「こ、こう?」

恐る恐る言われた通りにしてみると、清四郎は嬉しそうにそこへとしゃぶりつき、まるでキャラメルを転がすように舐め回した。
あまりの恥ずかしさに引っ込めようとするが、いつの間にか顎をしっかりと掴まれていた為、それもままならない。

出したままの舌がじわりと痺れてくる。
清四郎の唾液を纏いながら・・・。
そして自分の涎がどんどんと口端から溢れ、その淫らさに目が眩んだ。


ねっとりとした、まるで愛撫のようなキスを繰り返し、いつしか身体は仰向けに広げられていた。
溢れた唾液を全て掬うように、清四郎の唇は顔から首、そして耳の下へと移動する。

「悠理・・・・おまえの全部を舐めてやりたい。」

「え・・・全部?」

驚くべき発言をした男は、それを実行すべく服に手を掛けた。

「あ・・・っ・・・待って・・・シャワー・・・・」

「シャワー?」

首を傾げ、「何を言ってるんだ?」とばかりに怪訝な表情を見せる。

「だ、だって・・・汗とか・・・匂いとか・・・気になるんだもん。」

「いい香りですよ。僕としてはこのままの方が興奮するんですが・・・・。」

「興奮・・・・?」

ほら・・・と目で促されたソコはこんもりと盛り上がり、確かに通常のソレとは状況が異なっていた。

「う、うひゃ!」

「見てみます?」

「え・・・・・!??」

シパシパと目を瞬かせながら、悠理は戸惑う。

『え・・・どうしよう。確かに興味あるけど。清四郎のなら、きっとどんな形してても可愛がることが出来ると思うし別に良いんだけど・・・。皆どうしてるんだ!?こんな時・・・・』

その手の勉強不足を密かに呪いながらも小さく頷けば、清四郎は片手でベルトを外し、チャックを下ろし始めた。

『うわーーー・・・清四郎が生々しい!!どうしよう・・・こんな清四郎見ちゃっていいのかな、あたい。』

軽くプチパニックに陥り、顔を赤くしたり青くしたりしていた悠理。
しかしその間にも清四郎はセーターを脱ぎ、とうとう薄いシャツとボクサーブリーフだけの姿になってしまった。
そこに誇張されている「男の部分」は驚くほど大きくて、悠理は慌てて顔を背けた。

「や、やっぱ・・・・そのままでいい!」

そうですか・・・と残念そうにしながらも、次に悠理の服の端っこを摘まむ。

「僕が脱がせましょうか?それとも自分で?」

「じ、自分で脱ぐ!!」

「では・・・どうぞ。」

後ろを向くでもなく、清四郎は悠理の脱衣姿を真剣な眼差しで見つめ続ける。

「あ・・・あの・・・どこまで脱げば良い?」

「ああ、下着はそのままで・・・」

「う、うん。」

悠理は脱いだばかりのニットワンピをそっと胸に抱えたまま、そろりと窺い見た。

「それは邪魔ですよ。」

「あっ・・・。」

あっさりと奪われてしまった最後の砦。
真っ赤になりながらも両方の腕で隠したが、何の役にも立ちはしない。
清四郎は悠理の腕を掴み、再びベッドへと押し倒すと、熱のこもった目で上から下までを舐めるように見つめた。

「あんま・・・見ないで・・・」

「見るだけでは済みませんよ。こんな美味しそうな身体・・・余す所なく食べ尽くさないと・・・。」

ゴクリ。

清四郎の形良い喉仏が上下する。
それが男の興奮の証だと、悠理は直感した。



「あ・・ああ・・・せいしろ・・・!」

清四郎の言葉通り、悠理の身体は隅々までその舌で舐め尽くされていく。
最初は真っ白な下着の上から胸を刺激され、その唾液ですっかり形が浮かび上がった乳首を唇で摘ままれた。
初めて感じた、甘く切ない痛み。
悠理の下腹部は一気にもどかしくなる。
顔も、首も、腕も、腋も、脇腹も・・・胸の先は特に優しく、そして執拗に舐(ねぶ)られ、声は次々に溢れ出る。

「あ・・も・・・も、やだ・・・そこ気持ちいい!」

啼き叫ぶ悠理の腕をしっかり固定しながら軽く歯を当てると、身体が面白いように跳ね始める。
清四郎はそんな快感を何度となく与え、とうとう形の良い臍までも丹念に舌で愛撫し、次第に下半身へとその手が伸びていった。

薄い布越しに息を吹きかける。
そしてゆっくりと脚を広げ、香り立つような秘所を、焼き尽くすかのように見つめた。

「せ、せぇしろぉ・・・」

「おや・・・もう染みが出来てますよ?」

わざと意地悪く告げ、そこを指先で突く男。
悠理はカッと頬を染め、自らの手で顔を覆った。

「い、言うなよぉ・・・」

「感じてくれていたんですね?」

「・・・・・。」

「悠理?」

「・・・・・うん。」

覆ったままでコクリと頷く愛らしさ。
清四郎の昂ぶりが驚くほど素直に反応した。

「悠理・・・顔を見せて。そんな風に恥ずかしがらなくてもいいんですよ。これは極々普通のことで、僕にとっては凄く嬉しい事なんですから・・・。」

優しく説けば、悠理はそろりと指の間から清四郎を覗く。

「ほんと?」

「ええ・・・こんな風に濡れていたら、僕のモノもすんなりと挿入できます。」

「そ、そか・・・良かった。」

へへ・・と照れ笑いをしながら、悠理は両手を顔から離した。

「でも・・・・」

清四郎は言いながら、下着を脚からするっと抜き去る。

「もっと濡れた方がより気持ち良いですからね。たっぷりと愛してあげますよ、ここを。」

「え・・・・?」

無防備な顔を見せた悠理は、次の瞬間再び顔を覆う羽目となった。

「あ・・・やだ!んなとこ舐めなくて良いから!」

「むしろココを一番に舐めたいんですよ。」

清四郎は有無を言わさず唇を寄せる。
柔らかな恥毛を掻き分けると、中から美しいピンク色の秘唇が現れた。
それこそが純潔の証であるかのように、清らかに存在する。

「ああ・・・すごいな。想像してたよりずっと素敵な色形をしている。」

「い、言うなってば!!」

悠理がむずがる子供のように首を振るが、何故か身体はその先を求めて興奮している。

「僕に任せてくれますね?」

「・・・・・。」

それは確かにその通りなのだが、悠理は恥ずかしさのあまり「ウン」とは言えず、無意識に脚を閉じようとした。

「悠理。」

窘(たしな)めるような口調。
それを聞き、仕方なくおずおずと広げる。

「とことん気持ち良くしてやるから、このまま身を任せていなさい。」

清四郎の言葉はまるで魔術。
悠理は次第に身体の力が抜けていくのを感じた。



長い舌がそろりと触れるだけでも、電気が走ったような反応を見せる。
それが初々しくて、男は更に熱を込め、舐めしゃぶった。

「あ・・・あああ・・・せいしろぉ・・・!」

ちらりと窺えば、悠理の顔はこの上なく赤く、初めて告白してきた時よりも照れているように見える。

『堪らない可愛さだ。』

果たして自分はいつまでこうして優しくしてやれるのだろう。

そんな不安がこみ上げる。
この上なく昂ぶった分身は、先ほどからうずうずしながらその精を吐き出したがっている。
誰の手垢もついていない無垢な蜜壺に猛り狂った性器を押し込み、たとえ彼女が泣き喚いても貫き続けたい、獰猛な欲望。
そんな「雄」の本能が頭を擡げる。

今回、悠理から誘ってきてはくれたが、その実、男女の営みについてはさほど知らないのだろう。
どれほど汚らしく、開けっぴろげな行為であるか・・・身をもって教えてやらなくてはならない。
そして心を曝け出すことの快感を覚えさせなくてはならない。
清四郎はそう覚悟した。

ジュプ・・チュプ・・・

二本の指で開いた秘唇に音を立てて吸い付く。
既にたっぷりとした愛液が零れだしているが、更に奥から導き出そうと、舌技に力がこもった。

「あ・・・あ・・・・っ・・・や・・・・」

悠理にとって、ある意味地獄のような羞恥。
でも清四郎は決して止めないと解っている。
そして徐々にではあるが、その心地よさに身体と心が素直になり始めていた。

「・・・・せ・・・せぇしろ・・・・気持ち・・・いい・・・」

息を荒げながら、そう呟く。
そんな言葉を聞けば、舌の動きがねっとりといやらしさを増す。

「う・・ぁ・・・・・・」

「悠理・・・指を入れますよ?」

ツプッと音を立て忍び込む長い指は、悠理にとって初めての異物。
だが、なんの抵抗もなく沈んでゆく。

「ああ・・・柔らかいな。熱くて・・・・すごく心地良い。」

清四郎の感極まった声はあまりにも官能的で、直後、悠理の胎内からとぷりと蜜が零れ出した。
それを目にした途端、清四郎の頭で何かがプツリと音を立てる。

果たして、それは「理性」という名の限界だったのだろうか?

気付けば、悠理の中に押し入っていた。
避妊具も着けずに・・・。

「あっ・・・!!」

悠理が驚愕に目を開く。
その美しい形に見惚れながら、清四郎は一気に奥まで貫いた。

「ゆうり・・・ゆうり・・・・!!無理だ・・・もう・・・・」

脚を大きく開かせ、逞しい腰を滑らせる。
狭いと感じながらも、そのぬめりは男の性器を受け入れようと蠢いていた。

「あ・・・・っ、は・・・ぁ・・っ・・・」

詰めていた息を吐き出すように、悠理の可憐な唇が開く。
そこを再び激しく奪いながら、清四郎は抽送を始めた。
最初はゆっくりと、そして次第に速さを加えていく。

脳が焼き切れるのではないかと不安になるほどの快感。
悠理の中は想像を絶する心地よさと刺激を与えてきた。
清四郎は自分の拙さを誤魔化す様に、女の快感スポットを探りだそうとする。

「ゆうり・・・ここは?どうです?」

「え・・・あ・・・・なに・・・?」

「気持ち良く・・・・ないですか?」

「・・・・わ、わかんないよぉ・・・」

「なら・・・・・ここは?」

硬く滾った熱の棒で擦りつけ、一つ一つの反応を見つめる。

「あ・・・せいしろ・・・・あたい・・・」

「どうした?」

「・・・・こうやって、一つになれただけでも・・・・おかしくなるほど・・・気持ちいい・・・」

ドクリ

清四郎の胸が波立つ。
それはもう、男の自制心を崩壊させる為の呪文だった。



そこからの記憶はあまりない。
気付いた時、悠理の白い肌に、夥(おびただ)しいほどの精を吐き出していた。
悠理は呆然と天井を見つめたまま、それでも蕩けるような表情を見せている。

「悠理・・・・・・」

清四郎は息を整えた後、自分のしでかした後処理を済ませ、悠理の身体を抱き起こす。

「あ・・・せいしろ・・・・」

華奢な背中を支えながら、ぎゅっとその腕に抱きしめた。

「すまない・・・無理をさせたな。」

「え・・・あ・・・・だ、大丈夫だって。それに・・・」

悠理はポッと頬を染め、男の心臓に話しかける。

「すごく・・・・気持ちよかった。だって清四郎の色んな顔、見れたし・・・・いっぱい愛してくれたもん。」

神よ!!

清四郎は感謝する。
こんなにも可愛い女をこの世に送り出してくれた奇跡に。
無論、万作と百合子に感謝してこそ道理ではあるが・・・・。

よしよし・・・と優しく肩を撫でながらも、清四郎の計画はまだ始まったばかり。
「男女の営み」の本質とやらを、いまだ教えてはいないのだから・・・。

悠理はホクホク顔で満足している。

『本番はこれからなんですよ・・・悠理。』

第二ラウンドの鐘は、ほくそ笑む清四郎の頭の中でのみ、大きく鳴り響いた。