untrue statement

お仕置き編(R)

 

「あ・・・・や・・・・だ・・・・」

薄闇に、細く小さな声が震える。
悠理にとっては、まったくの闇の中であるが・・・。

「しぃ・・・・姉貴が早めに帰宅する予定なんです。あまり声を出さないでください。」

「む、無理だもん・・・・」

日はまだ落ちきってはいない。
しかし分厚い遮光カーテンのおかげで光は差し込まず、更にサイドテーブルの小さな灯りはさほど明るくない。
きっと真っ赤に染まった顔すら、男には見えていないのだろう。
悠理は悔しそうに唇を噛んだ。

『お仕置き』

清四郎がこの言葉を冗談で済ますはずがない。
過去、既に幾度かの『お仕置き』を受けてきた悠理は、男が’有言実行’をモットーとしていることを嫌と言うほど知っている。
そして・・・それに抗えばどんな結果を招く事になるかも・・・・。

「無理?なら、猿轡(さるぐつわ)でも噛ませましょうか?」

「や、やだ!」

バスローブの紐で手首をしっかりと縛られ、それをベッドに結びつけられた悠理は万歳の姿である。
身に着けているものは何もない。
強烈な美しさで輝く瞳も、今は薄く折り畳まれた布の下。
清四郎が愛用する藍色の手拭いは、ひんやりと冷たく心地良い。
もちろん羞恥に顔を熱くする彼女にとっては、の話だが。

部屋に連れ込まれた途端、彼は手際の良さを見せつけ悠理を驚かせた。

「僕としてもあまりしたくないんですよ。おまえの甘い声や小さな吐息を、余すことなく聞きたいのでね。」

シュル・・・・・

悠理の鋭い耳に衣擦れの音が飛び込んでくる。

きっと今、彼はシャツを脱いでいるのだろう。
あ、バックルを外す音がする。
ファスナーが下りた・・・。
下着は・・・・そのまま?

視界を奪われたままでも、悠理は彼の行動を想像する。
何度も、それこそ何度も見てきた清四郎の裸体。
滑らかな肌質に、無駄のない筋肉。
引き締まった腹筋と、張りのある臀部。
鍛えられた足腰は、いつも目眩く快感を与えてくれる。

「は・・ぁ・・・・」

思い描いただけで、熱っぽい吐息が漏れてしまう。
そしてそれを聞いた清四郎がクスッと笑う事も予想の範疇だった。

「欲情してきましたね。何を考えてる?」

「知ってるくせに・・・」

「言いなさい。」

’お仕置きにならないでしょう?’
耳元でそう小さく囁かれ、悠理は同じ大きさで呟いた。

「せいしろ・・・の身体。」

「僕の?」

コクリと頷き、顔を背ける。
同じように熱をもつ吐息が、優しく頬を掠めたからだ。
今、清四郎がすごく近くに居ると解って、悠理は身を捩らせた。

「悠理は僕の身体で欲情するんですね?」

改めて確認されると、気恥ずかしさで素直になれない。
しかしそれは真実だ。
あの厚い胸板にぎゅっと抱かれるだけでも、下半身が蕩けてしまう。
あの逞しい腕に腰を持ち上げられたら、すぐにでも貫かれたいと望んでしまう。

「ねえ・・・もう触ってよ?」

「ふ・・・・。なら、今回のお仕置きは触れないまま感じさせてやりましょう。」

「え!?」

手拭いの下、悠理は目を瞠った。

「言葉だけで焦らしてやる。」

清四郎の体温が明らかに離れていく。
悠理はそれが我慢出来なかった。

「や、やだよ!やだ・・・・側に居て?」

「お仕置きですから・・・・」

その声は少しだけ、迷いに上擦っていたように思えた。



「悠理、目を閉じて・・・僕の指を想像しなさい。」

そんなことしなくても視界は真っ暗だけど、悠理は言うとおり、瞼を下ろした。

「おまえの肌に触れますよ?今、頬をなぞっています。」

長い指を思い出す。
綺麗で器用な長い指。
いつも短く切りそろえられた爪は悠理を傷つけない為でもある。
優しい愛撫。
切ないほど優しい。

悠理の頬がひくっと震えた。

「可愛い耳に移動して、小さな膨らみをいつものように揉みます。」

清四郎は毎回、耳朶を擽るように揉んでくる。
それと共に舌を這わせ、湿った吐息を忍ばせる。

「んっ・・・・!」

身動ぐ姿を見てスイッチがしっかり入った事を理解した清四郎。

「悠理・・・・おまえは可愛い・・・誰よりも、可愛いですよ。」

毎回囁かれる甘い睦言。
いつもと違うのは、離れた距離だけだろう。

「せいしろぉ・・・近くに来て?寂しいよぉ・・・・」

「我慢しなさい。」

呆気なく断られ、悠理は再び悔しそうに唇を噛んだ。

「キス、しますよ。ほら、口を開けて・・・・」

柔らかくてしっとりとした感触を思い出しながら、噛んでいた唇を恐る恐る開く。
重なり合う瞬間も、その後も、清四郎の情熱的な動きが悠理を徐々に熱くしていく。

「そう、舌を絡めて。ああ・・・・おまえの唾液は甘くて美味しいな・・・・・・」

ごくっ・・

喉が大きく鳴る。
その音は果たして自分のものか、それとも清四郎のものか・・・。
頬が火照ってくる。
熱くて、熱くて・・・悠理は縛られた手を左右に揺らし、何かを訴えたくなった。

「焦れったいでしょう?」

我が意を得たり、とほくそ笑む男の顔が思い浮かぶ。
悠理はコクコクと頷くが、清四郎が近付く気配はない。

「僕の声だけでたっぷりと濡らしなさい。そうしたらご褒美をあげるから・・・・・」

’ご褒美’

その言葉に反応してしまう悠理はすっかり飼い慣らされたペットだ。
しかし今、快感に飢えたこの身体はどんな事でも簡単に聞き入れてしまうだろう、と思う。
悠理は腰を少しだけ揺らして、答えを示す。
すでに濡れ始めた秘所が、くちゅりと音を立てた。




「悠理、問題です。今、僕の指はどこに触れている?」

「え・・?」

優しい声でそう尋ねられ、悠理は戸惑った。
確かさっきは胸の突起を爪で引っ搔くように愛撫していた。
なら・・・・今は・・・・

「お、お腹?」

「惜しい。脇腹ですよ。細い括れを確かめるようになぞっている。ほら、いつもおまえがくすぐったくて嫌がるところだ。」

思い出すだけで身体が捩れる。
清四郎の繊細なタッチは、産毛が逆立つようなもどかしさを孕んでいるのだ。

「今日は止めません。おまえが悲鳴をあげるまでそっと擦ってやる。」

ゾクゾクとした快感に鳥肌が立つ。

「や・・・やだぁ・・・!」

触れられてなどいないはずのに、身体を這う感触は何故かリアルで、清四郎の視線も相まって、悠理はとっぷりと感じ始めていた。
いまだ幼い乳房の芯が疼き、子宮の奥底で男を強く求める。

「悠理・・・ほら、足を広げて僕に見せなさい。でないと解らないでしょう?」

蕩けるほど優しい声に男の欲情が混じっている。

きっと清四郎だって自分を求めて焦れているはず・・・・。

そう確信した悠理は出来るだけ素直に従った。

広げられた白い脚の付け根。
薄暗い中でも、その艶やかな蜜は光を放ち、芳しい香りを振り蒔く。

「ああ・・・すごく濡れてる。本当におまえはやらしいですね。」

清四郎はすぐにでも触れたくなったが、寸でのところで手を引っ込めた。

「せぇしろ・・・・もういいだろ?触ってよ!」

「もう少し見ていたい。ほら、シーツにまで垂れてる。解りますか?」

腰を少しでも下にずらせば、きっとその冷たさが伝わるのだろう。
しかし悠理は敢えて避けるように上へと逃げた。

「た、タオル敷く?」

「敷かなくていい。おまえが帰った後も、僕はこのままの状態で眠りたいから・・・。」

そんな暴露に脳が熱く痺れてしまう。
涼しい顔をした清四郎が、頭の中でどれほど淫らな事を考えているのか、少しだけ覗き見たような気がしたからだ。

容赦ない視線を注がれ、我慢の利かなくなった悠理はとうとう叫び声をあげる。

「早く・・・・・・・・早く触って!こんな生殺し状態、やだよぉ・・・!」

「悠理・・・・!」

我慢が利かなかったのは清四郎自身だ。
直ぐ様覆い被さると、美しい目を覆う紺色の布と、手首の紐を取り去った。
露になったその美しい瞳は、懇願に切なく濡れていた。



たった二、三度、胎内を指で掻き回しただけで、清四郎ははち切れんばかりの欲望を突き入れる。
荒っぽい動きで抜き差しを繰り返し、更に奥深くを目指した。

「あぁっ・・・・・んっ・・・・・・せぇしろ・・・気持ちいい・・・」

「こんなにも早く?随分と・・・淫乱な身体になってしまいましたね。」

「・・・おまえの所為・・・・だろ・・・・あ・・・・!そこ、ダメ・・・・ぇ・・・」

与えられる快感に悠理は仰け反る。
容赦なく穿たれる絶妙なポイントに、羞恥心は徐々に薄れていく。

「ほら・・・・言いなさい。僕にどうして欲しいか・・・」

「も、もっと・・・奥・・突いてぇ・・・!せいしろぉ・・・・」

「これ以上したら、壊れてしまうかもしれませんよ?」

「いい・・・から・・・・早く・・・して、もっといっぱい・・・・欲しいの・・・・!」

「悠理・・・・ピルはきちんと飲んでいるな?」

「ん、うん・・・飲んでるよ・・・?」

予想していたはずの答えを聞き出し、満足そうに頷いた清四郎は、ギリギリまで抜いたそれを一気に最奥へと打ち込んだ。

「あ・・あ・・ひゃあ・・・・・・!」

押し付けた腰を大きくグラインドしながら膨らみきった花芽の裏辺りを強く擦りつけると、歓喜に蠢く膣壁がどんどんとその締め付けを強くさせていく。

「あっ――――!」

絶頂はすぐにやって来た。
視界に火花が散らせながら、悠理は涎を溢す。
しかし清四郎は腰の動きを止めず、二度目の快楽へと追い込んでいく。

「あ・・・待って・・・あたい・・・・・・・イッて・・・」

「解ってます。今度は僕も一緒にイきたいんだ。」

悠理は清四郎の意図を確実に理解すると、ようやくホッとしたように笑顔を見せた。

「ん・・・・中に出して?」

「ええ・・・・思う存分、おまえを汚してやりますよ。」

持ち上げた両脚を肩にかけ、清四郎は更に深く繋がった状態で悠理を揺さぶる。
密着した二人は大きな一つの塊となり、淡い影を揺らめかせた。
焼けた楔を何度も沈められ、再び訪れるエクスタシーの予感。
悠理は抗うことなく、それを言葉で告げた。

「あ・・・・あ・・・・もう・・・来るっ・・来ちゃうよ・・・・せいしろ・・・・!」

腰の動きは更に加速し、全ての思考から解放される。

「くっ・・・・・・・ゆう・・・り・・・・!僕も・・・・・・・」

呻くような言葉と荒い呼吸。
悠理は清四郎の限界を肌で感じた途端、目眩く二度目の絶頂に身を投じる。
と同時に、胎内を満たしていく熱い飛沫に、この上ない充足感を味わいながら瞼を閉じ、そっと本音を呟いた。

「すごく・・・・良かった・・・」

そんな呟きが欲深き男の力を漲らせる。

「悠理・・・後で家に電話しなさい。今日は泊まるから、と。」

「え・・・?」

「お仕置きはまだまだこれからですよ。」

恐怖にも似た表情で目を見開く女の腰を抱え、清四郎はゆっくりと律動を始める。
苛烈さを増す執拗な仕置きに、思うような声も出せず・・・・悠理が半ば気絶するよう眠りについたのは、もちろん朝日が昇ってからのことだった。