unfading love(Happy father)

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「んじゃ、がっこ行ってくる。」
「しっかり勉強してくるんですよ!」

剣菱家に婿入りした清四郎の朝は早い。
高校を卒業し、無事大学生となった若夫婦は、現在子育てと学業を同時進行でこなしている。
2800グラムで生まれた剣菱家の王子、悠眞(ゆうま)は生後三ヶ月。
顔立ちは悠理にそっくりで、色素の薄い髪と目が特徴だ。
そんな我が子を殊の外可愛がる父、清四郎。
万作、百合子と取り合いになるほど溺愛しているのだから、人間とは変われば変わるものだ、と執事五代は密かに思う。
今や、どこか斜に構えていた青年は見当たらない。
夫として、父として、精一杯全力投球する熱い男がそこにいた。

メイドに子育てを任せ、気ままに遊ぶだろうと思われた悠理も、人が変わったかのように母性を溢れさせている。
その上で小さな命への責任をしっかり果たそうとしているのが見て取れた。
清四郎は学業の傍ら、剣菱の仕事に携わっている為、自宅のコンピュータールームに隠る事も多い。
そういった時は、彼が率先して育児を担うこととなっていて、代わりに悠理は大学へと通う。
彼女が進んだ学部は国際教養学部。
剣菱の一員として語学はもちろんの事、他国の文化や歴史について学ばなくてはならない為、ここを選んだ。
成績が乏しい悠理、それも高校生の身で妊娠したとあって、歴史ある学園に大いなる物議を醸した。
そこを剣菱の力で捻じ伏せたのはさすがとしか言いようがない。
さらにミセス・エールの口添えもあったことで二人は無事大学部に進学できたのだ。

それはさておき・・・・・

清四郎が息子を抱え、仕事部屋に隠ってから30分。
慌ただしく扉を叩きやって来たのは、自由気ままな会長・万作である。

「おましゃ・・・・そんなにも忙しいのなら、悠眞をわしに預けるだがや。」

「問題ありませんよ。僕一人で。」

ぴしゃりと断られたとて万作は諦めない。
やれ抱っこさせろと婿の周りをぐるぐると回る。

「五分だけですよ?」

そのしつこさに負け、不承不承手渡せば、「べろべろばーー!」と懐かしの顔芸で笑わせようとする万作。
悠眞はまぁるい目できょとんとしているが、笑顔は見せない。
不思議なモノを見た、と言ったところだろう。
決して不機嫌ではないので、清四郎もそんな二人を微笑ましく見守っていた。

「見れば見るほど悠理にそっくりだがや。」

娘を溺愛する万作の表情は、今まで目にしたことが無いほど優しい。
無条件に愛することが出来る顔立ちに、彼は蕩けるような笑顔を見せる。

「そうですね。将来はきっとハンサムになるでしょう。」

「子供ならなんぼでも作りゃええ。子は宝。子は鎹かすがい。たくさん産んで育てて、剣菱をどんどん盛り立てていくだ!」

「はい!お義父さん。」

悠理がこの場に居たら、何と答えただろう。
きっと……
━━━犬の子じゃねーんだぞ!!
と怒ったに違いない。

清四郎とてもちろん自然の成りゆきに任せるつもりだったが、それでもある程度の計画は立てているのだ。

『悠理に似た娘なら三人ほど欲しい。』

きっと毎日がパラダイスであろう。
そんな将来を想像しただけでも、口元からにやけてしまう。

万作が立ち去った後、手際よく息子のおむつを替え、デニム地のおんぶ紐で背中に結わえた清四郎。
そこは彼のお気に入りの場所だ。
キャッキャッと声を立てて喜ぶ。
背凭れの無い椅子に満足そうに座った清四郎が新しい事業計画書に目を通していると……。

トントン

小さな、しかし無視出来ない強さのノック音が響いた。

「やれやれ。ひっきりなしですな。」

腰を上げて出向けば、扉の向こうには想像通り、百合子の姿。

「清四郎ちゃん。わたくしにも悠眞ちゃんを抱かせてちょうだい。」

「どうぞ。」

有無を言わさぬ満面の笑顔に、清四郎は最初から白旗を挙げている。

「ほんと!いつ見ても愛らしい赤ちゃんだこと。将来きっとフリルのブラウスも良く似合うわ。そう、宝○歌劇団の男役のようにね。」

義母の少女趣味は留まることを知らない。
つい先日も、息子に用意された外出着全てに小さなフリルとリボンが付いていた。
色は当然ピンク。
もちろんまだまだ天使のように性別を感じさせぬ存在であるため、良く似合ってはいるのだが。

「清四郎ちゃんに似た女の子も欲しいわ~。お着物をたくさん用意してあげたいもの。」

日本人形のような孫娘もお望みらしい。
清四郎は苦笑いでそれを聞き流した。

「そうだわ!最新の子供服を選びにパリまで買い出しに行かなくっちゃ。悠眞ちゃん、待っててね。お祖母ちゃんがスッゴク可愛いお洋服を揃えてきてあげるから。」

生後三ヶ月の息子はすでに着せ替え人形と化している。
金に糸目を付けない義母の迫力に押され、悠理と清四郎は口を挟むことも許されてはいない。
悠眞用クローゼットが日に日に狭く感じていく。
彼女の生き甲斐にケチを付けることは、命懸けのチャレンジだ。

「お義母さん、ほどほどに願います。どうせすぐ成長するんですから・・・」

「だからこそ!よ。この小さな天使に出来るだけ可愛らしい格好をさせてあげたいじゃないの!たっくさん写真を撮って、今年のクリスマスには展示会を開こうと思ってるんですからね。」

ぞっとする申し出。
しかし百合子は本気である。
清四郎とて自分が親バカであると認識しているが、彼女には到底敵わない。

肩を落とした彼は「お手柔らかに・・・」と、呟くことしか出来なかった。

★★★★

「たっだいま~!悠眞!清四郎!」

午後四時。
講義を終えた新米ママのご帰宅である。
手には大量のシュークリームが入った箱が二つ。
悠理にしては珍しく真面目に机へと向かっているせいか、身体が糖分を欲しているのだ。
ちなみに現在、粉ミルクと母乳の混合授乳である。

「おかえり。」

「清四郎、あたい、悠眞に乳やるから・・・・あっち向いてろ。」

「そろそろ見せて下さいよ。何を恥ずかしがってるんです?」

「~~駄目!恥ずかしいんだってば・・・」

「子供とはいえ他の男に胸を吸われているからですか?」

「ち、ちがわい!」

「まさか・・・・乳首が大きくなってるから?そういえば夜もキャミソールを脱ごうとはしませんよね。」

「・・・・・・・!!!」

図星を指され、悠理は真っ赤になる。
体型こそ元に戻りつつあるが、胸の突起は色が濃くなり、大きさも変化した。

「僕はちっとも気になりませんよ。母親の身体とは得てしてそういうものです。」

「・・・・・・でも昔・・・・」

「え?」

「おまえ・・・あたいの小さい乳首が可愛いって言ってたじゃん。」

「あ・・・・・」

彼女の言うとおり、清四郎はピンク色をした可憐な大きさの乳首を褒め称えたことがあった。
過去に見たことがなかったほど可愛らしいそれに、我を忘れ夢中でしゃぶりついたことも・・・・。

「悠理はバカですねぇ。小さくても大きくても、おまえのものならどれだけでも愛でることが出来ますよ。だから、さっさと見せなさい。」

悠眞を抱きかかえた悠理が渋々服の前を開ける。
チャコール色のマタニティブラジャーから溢れる胸は、恐らくCカップほどあるだろう。
清四郎は久々にその全体像を見ることが出来、満足そうに頷いた。

「一時的なものとはいえ、随分大きくなりましたね。」

「感想はいい!」

「照れなくても・・・・」

慣れた手つきで授乳させる妻を神々しいと感じてしまう為、夫はそれ以上何も言えない。
んく、んく・・・と無垢な顔で吸い付く我が子は例えようも無いほど愛らしく、まさに比類無き存在だった。

「幸せですな・・・・」

「・・・・・・・・うん。」

「この愛しい存在の前では何もかもが正当化されるような気がする。」

「なんとなく分かるよ。」

天使を挟み、笑顔を見せ合う二人。
心からの幸福感に酔いしれる。

「悠理。」

「ん?」

「卒業したら・・・・また子作りしましょうね。」

「・・・・・・・父ちゃん達に何か言われた?」

「いえ、あくまでも僕の意思です。」

「・・・・・・・・・考えとく。」

「それまでは、二人きりでたっぷりと淫らな事を楽しみましょう。」

「・・・・・・・・バカ。」

剣菱家の優しい一日はこうして過ぎていくのであった。