Snow storm(前)

 

ビュォォォォォ───

外は猛吹雪。
立派なログハウスだが、瓦礫となって吹き飛んでしまうんじゃないかと心配するほどの風速である。

そんな状況においても、すきま風すら吹き込んでこない理由は、この建物が北欧の職人によって作られたものだから。
とはいえ、やはり不安になる天候であった。

「はぁ~・・・こりゃダメかな。」

ちらりと流す視線の先は買ったばかりのスノーボード。
イニシャルの横にタマフクをプリントしてもらった特注品で、今年の冬はとことん使い倒してやる!と意気込んでやって来たのに━━━━━

「滑るどころか……遭難気分だい!」

可憐が淹れてくれた甘めのカフェオレを啜りながら、悠理はヤケクソ気味にぼやいた。

 

高校最後の冬休み。
六人でやってきたのは、北海道の片隅にあるわりとメジャーなスキー場だった。
剣菱リゾートの開発で辺り一帯にログハウスが並び、長く楽しめるようシーズン貸しもしている。
プロも好んで訪れるというその場所は、温泉施設なんかも充実している為、開発当初から人気はあったのだが………。
一旦吹雪き始めると、1メートル先も見えないほどのホワイトアウト。
スキーどころの話じゃあない。

「取り敢えず暖房の油と薪さえあれば何とかなるだろ。天気は明日の午後から快方に向かうってネットに書いてあるしよ。」

仲間たちの不安を宥めるよう、スマホをかざす魅録が告げた。

「それはそうなんだけど、さっきから電気が不安定じゃない?ほら時々消えちゃいそうなくらい小さくなる。」

天井を見上げながら可憐はそう指摘する。
シンプルな裸電球はあくまで“山小屋らしさ”を追求したからだろう。
ダイニングに三つ、それぞれの寝室に二つずつ。
時折、消えそうなほど小さくなり、か弱いオレンジ色の光を瞬かせていた。
恐らくは電線が暴風で何かしらの影響を受けているに違いなく────皆の不安を余計に煽る。
停電なんてお呼びじゃない。
何せ此処は、薪ストーブだけでは心許ない極寒の地なのだから。

「可憐、今の内にお鍋を仕込んでおきませんこと?電気が消えれば流石に作業しにくいでしょうし。」

「それも………そうね。」

野梨子の提案は的確だった。
仲間内には一人、万年欠食児が存在するわけだし、いつ停電しても良いよう出来るだけ多くのストックが必要である。
女性二人が台所へ消えた頃、二階から降りてきた美童が、青白い顔で肩を震わせ、薪ストーブの前で手を擦り合わせた。

「やっぱ寝室は寒いね。不安定な電気の所為でエアコンが全く利かないよ。あれじゃ役立たずの箱さ。」

「ええー?下手したら凍死しちゃうじゃんか!」

「確かに。元々暖房能力はあまりよくありませんし、停電となれば死活問題ですよ。」

清四郎の答えに魅録は考え込む。

「まぁとにかく、薪ストーブは間違いないわけだから、ベッドマットとありったけの毛布を持ってきて、ここで暖をとりながら寝ればいいだろ。」

「うん、その方がいいよ。六人で凍死だなんて洒落になんないからさ。」

互いの顔を見合わせ頷いた美童と魅録は、大仰に肩を回しながら二階の寝室へとムカった。

「あたいもいく!」

「悠理はここで薪ストーブの筒の中を掃除していてください。少々灰が溜まっているようだ。きちんとしておかないと火事の原因になりますから。」

「うげっ!そなの?」

手渡された灰掻き棒で煙突の内部を擦ると、確かにドサッと音を立て黒っぽい灰が落ちてきた。
それを袋に入れ、玄関に備え付けられてある大型のゴミ箱へと捨てる。
頑丈そうな玄関扉が吹雪でガタガタと音を鳴らす様は、確実に忍び寄る自然の脅威を感じさせた。

「………飛んでったりしないかな。」

「そんな事にはならないでしょう。わりと金はかかってますしね。」

独り言のつもりだったが、背後に清四郎が居て、悠理は跳ねるように驚く。

「こ、このログハウス、頑丈?」

「その辺に関しては問題ないと思いますよ。ただし電気系統が明らかに弱い。場所が場所だけに…………地中に配線したほうが良かったと思うんですが、ま、それも今更ですな。」

言ってる間にも、玄関の電灯がチカチカと不安定に瞬く。
悠理はピョンと清四郎の側に駆け寄ると、「行こ!」と暖かな光こぼれるリビングへ急かした。
しかし清四郎は悠理の肩を引き寄せ、半ば強引に廊下の壁へと押しつける。
皆の憧れ、壁ドン状態。
もちろん悠理に通用するはずもないが。

「え、なに?」

「おまえと二人きりなら、たとえ停電しても温め合う自信があるんですけどね。」

清四郎の口角が上がり、意味深な笑みがこぼれる。
その意味を瞬時に捉えるようになったのも、ある種の成長と云えよう。
林檎のように染まった頬で睨み上げる恋人を、清四郎は微笑みながら受け止めた。

「……………エロいぞ、清四郎。」

「これでも相当我慢してるんですけど?」

「よくそんな事言えるな!この旅行に来る直前までヤりまくってたくせに。」

「おや、そうでしたかね?」

とぼける清四郎は片目を瞑る。
もちろんその優秀な頭が忘れるはずもない。

特別な関係になって三ヶ月と半月。
悠理と清四郎は順調に恋人の階段を上っていた。
ある意味、今が一番楽しい時期だ。
暇があればくっつき、甘いひとときを過ごす。
特に清四郎は悠理との情事に溺れていて、一旦そんなモードになれば、彼女がベッドから離れる事を片時も許さなかった。
週末ともなればホテルで思う存分爛れた時間を楽しむ。
携帯電話の電源を完全に落としきってまで淫蕩に耽るほど。

こんなわけだから、悠理はあっという間に女の悦びを知ってしまった。
恋人の強くて激しい愛にまみれる日々。
心よりも体が先に疼いてしまう。

「とにかく、しばらくは禁欲!わかった?」

「ふむ………おまえは、我慢出来るんですか?」

どことなく不満そうな顔が近付いてきて、思わず顎を引く悠理。
普段クールぶった男の拗ねた顔には、ついつい母性愛が芽生えてしまう。
が、ここで負けてはならない。

「あ、あたいはだいじょ…………」

我慢できる!と言い切りたかった。
でも間近にある清四郎の目が、唇が、悠理に中の隠れた欲情を煽る。
この男の形良い唇がどんな風にキスするのか…………イヤというほど解っている。
どれほど見事な天国を見せてくれるのかも。

「僕はきっと我慢出来ません。こんな寒々しい旅より、二人きりで南の島に飛べばよかったと後悔してますよ。」

さらり、酷いことを言うけれど、スキーも出来ない今の状況を考えればそれもそうだと納得出来る。
もちろん仲間の気持ちを考えれば、口には出せないが。

「…………あたいはおまえが側に居てくれるだけで、楽しいよ?」

それは男を宥めようとする台詞だった。
無垢で邪気の見あたらない上目遣いは、清四郎の胸を即座にノックアウト。
少し目を瞠った彼の長い指が、馴れた動きで悠理の顎をとらえる。

「随分と可愛いことを言えるようになりましたね。…………しかし今回は逆効果ですよ。」

言い終わるや否や重なる唇。
表面はひんやりとしながらも、皮膚の下に潜む温もりを感じ取り、その温度にどうしても酔わされてしまう。
一秒でも長く触れあっていたい。
清四郎だけでなく、悠理も本心ではそれを望んでいた。

「んっ……………」

抱きしめられ求められたことで、体はすっかりホカホカ状態に。
セーター越しの胸板に顔を預けると、世界中のどこよりも安穏な気分に浸れる。

「温まりましたか?」

寒々しく薄暗い廊下の片隅。
なのにまるで炬燵に包まれたかのように温かく、胸の奥まで幸せそのものだ。
スリスリと頬を擦った悠理はいつもの調子で微笑んだ。

「戻ろ?」

「そうですね。」

清四郎に巣くっていた理由なき焦燥は、穏やかな波に浚われていった。
悠理に触れたことで心の安定を取り戻したのかもしれない。
清四郎はつくづく悠理にハマっていると自覚していた。
決して体だけじゃない。
悠理という人間の中に融け込みたくて仕方ないのだ。
細い躰に秘められたパワーをこの身で感じ取りたい。
泣き喘ぐ顔を眺めながら、より深い場所を求めてしまう。
自分たちは男と女だからこんな手段でしか繋がれない。
それが少し勿体ない気がする。

「清四郎?」

「向こうでホットココアでも作りましょうか。」

空気を変えるべくそう言えば、悠理の顔が素直にほころんだ。

好きになったのはこんな瞬間。
清四郎は細い肩を抱くと、身を寄せ合うように暖かな部屋を目指した。


「よし。これで何とか凌げるな。」

マットレスと布団、そして人数分以上の毛布。
それらを薪ストーブ中心に上手く配置し、更に物置で眠っていた小型のファンヒーターを背後に設置した。
これで凍える夜を何とか回避できそうだ。

ログハウスの外はやはり猛吹雪らしい。
ガタガタと窓枠が鳴り、激しい雪風がガラスに吹き付けていた。
時折、屋根の軋む音も響く。

「こんな悪天候になるなんて、ついてないわねぇ。」

大量に煮込まれたシチュー鍋をテーブルに置き、赤ワインを二本開ける。
酒がなくては始まらない。
人数分のグラスと皿が並べられ、ようやく楽しい晩餐が始まった。

悠理はいの一番にダイニングテーブルへ駆け寄ると、その美味しそうな香りに涎を垂らし、勢いそのままに席に着く。
不完全燃焼な気持ちは旨い食事で発散するに限る。
彼女のモットーである。

「サラダも出来ましたわ。」

野梨子手製のポテトサラダは彩りもよく、味に定評があった。

乾杯の合図と同時に悠理の手がサラダへと伸び、てんこ盛りに皿へと乗せる。
恋をしようがしよまいが、彼女のスタンスは変わらない。
目の前のご馳走に食らいつく姿勢は、昔とまったく同じだ。

「ちょっと悠理、僕の分も残しておいてよね。」

「へへーんだ!んなの早いもん勝ちだい。」

調子づく悠理の手を、保護者兼恋人がぴしゃりと叩く。

「いい加減にしなさい。」

二人の時はどれだけでも甘い男だが、皆の前では通常運転。
食い意地の張った恋人へ容赦ない制裁を加えた。

「大丈夫よ。ストックはまだあるから。此処にくる前、麓のスーパーに寄ったでしょ?あの時悠理の言うままに買っておいて良かったわぁ。まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったもの。取り敢えず、三日分の食料は確保出来てるから安心して。」

可憐の助け船に、悠理はにんまり笑顔。
それみたことかと清四郎を見上げる。

「言って聞かせておかないと、際限なく食い散らかしますよ。明日には冷蔵庫が空になっているかもしれない。」

「清四郎の言う通りだぜ。こいつは空気読むってこと、知らねぇからな。」

「うっ………うるせぇやい!」

こうして和やかな団欒は続き、結局酒瓶が五本ほど転がったところでお開きに。
一人一人シャワーを浴び、就寝することとなった。
暖かさの源である薪の爆ぜる音が、この状況下では心地よい。
外こそ大荒れの天気だが、このリビングだけは寒さから守られている気がした。

まず最初に眠ったのは可憐、続いて野梨子、そして美童と魅録がほぼ同時に眠りに落ちた。
わりと寒がりな悠理は、しばらくの間薪ストーブに当たりながらホットワインを啜っていたが、清四郎が読書を始めた為、仕方なく布団に潜り込んだ。

━━━さっきまで情熱的に迫ってきてたくせに。涼しい顔しやがって。

少々おもしろくない悠理だったが、他のメンバー達が側で寝ている手前、イチャつくわけにもいかず、結局大人しく目を閉じるしかなかった。
酒が多めに入ると、甘えてしまう性質の悠理。
いつもなら清四郎の腕の中で猫のようにグルグル、喉を鳴らしているはずなのに。

━━━━ほんと、南の島の方が良かったかも。

二人きりの目眩く時間を想像し、悠理は深い溜息を吐いた。

その溜息が原因ではないだろうが、天井にぶら下がった灯りが点滅を始める。
ログハウスの外では風雪が更に強まり、いよいよ本格的に停電となりそうだ。

布団の上で胡座をかいていた清四郎は、おもむろに立ち上がると、ダイニングテーブルに用意してあった二つのランタンに火を灯す。
元々は山小屋の雰囲気を醸し出すためのアイテムとして物置の中に置いてあったのだが、今はこの上なく実用的だ。

優しく暖かな火が灯って二分ほど経った頃、予想通り、照明は命の灯火のようにすっと消えた。
皆はぐっすりと眠っていて気付かない。

「せぇしろ………どこいくんだ?」

二つの内一つをテーブルから取り上げた清四郎は、不安そうに見上げてくる恋人へ「トイレですよ。」と小声で答えた。

「自家発電機でもあればいいんですけどねぇ。」

悠理は慌てて自分の毛布を頭から被り、部屋から出ようとする清四郎の後を追いかける。
電気が止まったことで心細くなったわけじゃなく、清四郎が離れていくことに不安が突き動かされたのだ。

「廊下は寒い。風邪ひきますよ?」

「いい。ついてく。」

清四郎はトイレに行く前、玄関先に置いてあったポリタンクの水を片手で持ち上げ、悠理にランタンを預けた。

「水は手動でしか流れませんからね。」

「あ、そっか。」

「酒が入ってるとトイレが近くなるかもしれませんし。」

タンクになみなみと水を注いだ清四郎は、悠理から手渡されたランタンを足下に置く。
取りあえずはこれで凌ぐしかない。
電気の復旧を今夜中に期待しても無駄だろうことは分かっていた。

「さ。寝ましょうか。」

「……………。」

「どうしました?」

腰を曲げ覗き込んでくる男は、すべてを理解しているといった表情である。
彼は悠理が甘えん坊になっていることを承知の上で、いつも通りの態度で接しているのだ。

「………抱っこしてよ。」

「ここで?」

肯く悠理のほっぺは真っ赤。
意地っ張りで素直。
清四郎にとってそんな彼女の性格が何よりも愛しい。

「抱っこするだけでは終わらないかもしれませんが………」

「え、エッチはダメだかんな!その………寒いし……」

「ふむ。」

その言葉を聞いて、清四郎は毛布ごと悠理を背後から抱きしめた。
ふわふわの髪は冷たい空気をはらみ、二人分の白い息が辺りを浮遊する。

「…………ここまで寒いと、流石に勃ちませんよ。」

「そ…………そっか。」

あれほど厳しい鍛錬を積み重ねた身体ですらそんな風に感じるのかと悠理は驚いたが、抱きしめる男の熱は自分のものより遙かに高く、毛布越しの抱擁でも充分に心地よかった。

「何なら………別の方法で暖めてやりましょうか?」

耳の後ろに唇を押しつけ、魅力的な提案を囁く恋人。
悠理は喉を鳴らし胸ときめかせたが、どう考えても盛る場所では無い。

「……………いい。今夜は我慢する。」

「ふふ………らしくないですね。」

以前よりわずかにふっくらした胸を、セーターの上から優しく揉みしだく清四郎も、実のところそれほど余裕はなかった。
でも此処は流石に寒く、かといって皆が眠る場所でいちゃつくのはリスクが高く、悠理の甘い声を他の男に聞かせることはもちろん我慢ならない。

「ではもう少しだけ、こうして………」

耳まで赤い悠理を抱きしめながら、煩悩と戦う清四郎は脳内で暖かな南の海を思い浮かべた。
ヒマワリ柄のビキニを着た可愛い恋人が元気よく泳ぐ姿を。
強烈な日差しにさらされても、その輝きに負けない笑顔を振りまく。

どうせなら現実にしたかったが、少なくとも今は自分の腕の中に存在し、甘い香りを漂わせている。
それだけで充分気分が高揚し、心が満たされるのだから、彼女の価値は計り知れないと感じ入る清四郎であった。

「次のまとまった休みには、どこか暖かいところへ行きましょう。」

「…………ん。」

「ヨットを借りて、海の上に二人きりというのも悪くないですね。」

「何するつもりなんだ?スケベ。」

「知ってるくせに…………」

青い空の下で、生まれたままの姿で、お互いを貪り合う幸せを思い浮かべ、清四郎は熱い息を吐く。
こんな冷気に震えるのでなく、眩しそうに目を細め、淫らに誘う悠理が見たかった。

「おまえはやはり………陽の光が一番似合いますから。」

溶けるほどに熱い太陽こそが二人のボルテージを上げる。
汗だくになりながら絡み合う至福の時が、清四郎の脳内で繰り広げられた。

───まずい。触れていると高ぶってくる。

理性が崩れゆくことはある意味快感でもあり、一度それを味わうとどんどん堕落したくなる。
いつもと違う自分。
悠理とならどこまでも。

衝動に任せ顎を捉えた指が悠理の顔を赤くさせる。
点火スイッチに触れられ、期待と羞恥が発動すると、彼女は誘導されるかのように瞼を閉じた。
冷えた唇が重なり、誤魔化せない欲情が高ぶってくる。
何度も角度を変え味わうキスに、清四郎の下半身が熱くなり始めた。

言葉なんかいらない。
濡れた音が響く、それだけで想いが伝わる。

こんなにも寒いはずなのに、悠理もまた毛布の中で火照り始めていた。
情熱的な口付けが、そしてワインによる適度な酔いが、彼女の女の部分を強く引き出してくる。

「ん………っ、は……ぁ……」

色っぽい声が洩れ出す唇を清四郎は幸せそうに貪った。
ゾクゾクと立ち上る欲望は寒さを跳ねのける。
むしろ体の芯は熱くなり、今すぐにでも欲望のしるしを取り出したくなる。

「悠理………」

愛を込めて囁けば、潤んだ甘い瞳が清四郎を見上げ、微かに震えた。

戦いの火蓋を切るゴングが頭の中で鳴り響いたと同時。
ビュウビュウ、横殴りに吹雪く風の隙間からドンドンドン!と分厚い扉を叩く音が聞こえた。
こんな夜中に、こんな状況下で、考えもつかない無遠慮な音。

二人はハタと動きを止め、仄かな灯りに照らされる玄関を振り返った。

「せ、清四郎………聞こえた?」

「………ええ。」

密着したまま恐る恐る廊下を歩き始めるとまたしても同じ打撃音が響く。
それは明らかに精一杯叩く、といった行動で、二人の恐怖をよりいっそう掻き立てた。

「だ……誰だよぉ………」

暖かかったはずの毛布が今は何の役にも立たないほど冷たい。
信じられるのは清四郎の逞しい腕だけ。

庇うように前へ出た恋人がゆっくりと玄関の鍵を開けた時、猛烈な風の一瞬の隙をついて

「助けてください。」

と女の声が忍びこんできた。

 

……………続く