Xmas Night(R) 続編R作品です
流されてしまえばいい、このまま───
男はそう耳元で囁いた。
華奢な身体を後ろから拘束された女は、俯せになったままシーツの香りを鼻にする。
「や………ちょっと………待てって………」
そんな声にも耳を貸さない彼は、いつもの冷静さを失ったかのように彼女にのし掛かり、自らの足で身体を開かせた。
「待てない………どれだけこの日を………この夜を心待ちにしていたか、わかるか?」
耳に忍び込む熱っぽい声。
さっきまでの彼と同じ人物には到底思えない。
「………あたい………覚悟がまだ…………」
「覚悟?そんないつ整うかも解らないあやふやなものなど無視して、流されてしまえばいい。このまま………身を委ねなさい。」
説得力があるのかないのか───
だが、清四郎の言葉はいつも魔法のように悠理を捕らえてしまう。
「…………だ、だって………」
「遅かれ早かれ、おまえは僕にこうされる運命なんですよ?こちらも修行僧ではないのだし、それなりの欲望だって抱きます。」
欲望───?
悠理は先ほどからお尻に感じる硬い異物に気付いてはいた。
それが彼の男性器であることも。
────清四郎が欲情してる?
タマフクの発情期を思い出し、思わず身を固くする悠理。
動物との接触は幼い頃から父の手で教わってきた為、オスとメスの交尾なんかも日常的に目の当たりにしていた。
牛、馬、羊に豚。
自然界のそれは、あまりにもありふれた光景だ。
人間については映画や漫画などで見知ってはいるものの、我が身に降りかかることなど考えても来なかった。何せ、恋人を作る予定もなければ、結婚だって雲の上の話。彼女は自分とはかけ離れた世界の話だと信じて疑わなかった。
清四郎と付き合うようになり、多少なりとも恋人の自覚が芽生えてきたけれど、悠理は手を繋ぐのも緊張するほど、初(うぶ)な小娘だった。
経験値はもちろんゼロ。
それなのにいきなりこんな迫り方をされ、混乱しないはずはない。
寝技をきめられた時のように動きがとれず、それでも必死で清四郎の腕から逃れようとした。
「悠理…………別に殺されるわけじゃないんだ。これはお互いを深く知る為の行為なんですよ?」
「お、おまえのことなら、これ以上ないほどよく知ってるわい!」
「いいや………知らないことだらけだ。友人としてじゃなく、男としての僕をおまえは知らなさすぎる。」
腰に回された腕が、よりきつく悠理を縛り付けるも、清四郎のどことなく荒い息遣いが気になって、振り向くことが出来ない。
────怖い!
初めて与えられる恐怖に悠理はとうとう涙をこぼし始めた。
情けないほど呆気なく涙腺が緩む。
そんな様子を見て慌てたのは清四郎だ。
名残惜しさを感じながらも、恋人を素早く解放する。
「なにも、泣かなくたっていいだろう?」
「ふぇぇーーん!!」
「わかった、わかりましたよ!僕も少し焦りすぎた。…………何もしません!シャワーを浴びてきますから、泣くな。」
ガシガシと頭を掻きむしり、コートを脱ぎ去った彼は深いため息をこぼしながらバスルームへと消えていった。
残された悠理は小さな嗚咽をあげ、恐る恐る身を起こす。
腕の感触がしっかり残ったままの身体は焼き尽くされたように熱く、激しい鼓動に包まれていた。
─────こ、怖かった。
目の当たりにした現実に震えが治まらない。
果たして何に対しての恐怖か。
自分は女で、清四郎は男。
恋人になったからには、どんな関係が待ち受けているのかも解っている。
問題はタイミングなのだ。
悠理は心の在処すら気付いたばかりで、覚悟が決まっていない。
清四郎の隠された欲望を知ったのもついさっきのこと。
─────あいつ、あんな風になるんだ。
深い深呼吸を繰り返し、動悸を無理矢理抑え込む。
熱かった腕。初めて聞く声。
友人の頃交わしたじゃれ合いなど、遙か彼方へ飛び去ってしまうような熱い抱擁が、悠理の更なる自覚を促した。
清四郎が好きだ。
でも…………怖い。
清四郎は男だ。
それが………怖い。
立ち上がろうとしたところ、膝が震えて崩れ落ちそうになる。
こんな風じゃなかったのに───
自らの脆さを自覚した悠理は、暗い窓に映る弱々しい自分を見つめた。
「…………あたいに欲情するなんて、変な奴。」
艶めかしい空気を拭い去るため、自虐的に呟くも、もちろん返事はない。
映画で観た女優とは違い、ちっとも肉感的ではない身体。自分が男だとしても失望するだろう。
けれど清四郎は間違いなく興奮を覚えていた。
あれほど切羽詰まった声も初めてだ。
悠理の頭の中を荒い息遣いがリフレインしていて、それがじわじわと喜びに変わっていく音を彼女は聴いた。
「映画なら………もちっとロマンチックなんだろうけどな。」
自分はそんな世界からかけ離れた場所に存在すると解っている。
元々恋愛に不向きな性格。
相手は清四郎だし、どう転んだって世間一般のカップルのようにはなれない。
ただ…………
他の男女よりもずっと、強い繋がりを築ける自信はあった。
清四郎とだから結べる世界一の絆。
セックスすることがその礎となるのなら、今ここで決断すべきなのかもしれない。
雄としての清四郎を知り、雌としての自分を解放する。
何がどう待ち受けているのかは解らないが、少なくともそれはデメリットではないだろう。
及び腰だった悠理は立ち上がると、ピンク色のカシミアコートを脱ぎ、もう一度夜の窓に映る自分を見た。
あまりにも高層階であるため、遠くの夜景は小さな宝石の様に煌めいている。
黒いガラスにはくっきりと細い身体が映っていて、薄いニットセーターと派手な色のスキニーの自分が所在なさげに佇んでいる。色気など皆無だ。
果たして清四郎はこのスイートルームをどんな思いで予約したんだろうか。
一ヶ月もの間、彼は手も繋がず、キスもせず、抱擁すらしてこなかった。
さっきの絞り出すような、やるせない台詞が耳に蘇る。
「やっぱ………やせ我慢してたのかな。」
そう思い当たると、何故だか可愛く感じるのも不思議な変化だ。
同じ立ち位置に並んだような安心感。
清四郎もまた自分と同じ十代の青年なのだと解り、悠理の心は自ずと決まった。
・
・
「悠理?」
「よ。遅かったな。」
バスローブ姿の清四郎は、目に飛び込んできた光景に驚かされた。
そこには下着の上にナイトガウンを羽織っただけの恋人が、ベッドの上で胡座を掻き、シャンパンを啜っている。
「飲む?」と差し出されたグラスを無意識に手にしてしまうほど、清四郎は動揺していた。
シャワーを浴びる直前までシクシク泣いていた女とは思えない大胆さ。
白い肌が目に眩しい。
「覚悟は決まったんですか?」
のどを潤し尋ねると、彼女ははにかんだ様子で頷いた。
どのような気持ちの変化が起こったのかは解らないが、これは清四郎にとって嬉しい大誤算。
何せ、熱いシャワーを浴び、今宵一晩、修行僧で居ることを覚悟してきたのだ。
色即是空どころの話ではない。
手からグラスを奪い取り、サイドテーブルに置くと同時、清四郎は悠理を押し倒していた。
今度は正面から真っ直ぐ見据え、相手の目に映った自分を確認する。
────余裕のない男など嫌われるぞ?
だがそんな自戒すら容易く崩れてしまうほど、目の前の女は扇情的だった。
飾り気の無い下着ながらも、それこそが悠理らしさを醸し出していて、細い首からのデコルテは息をのむほど美しい。
引き締まった腰のラインから伸びる長い脚。
撫で回したくなるような美肌に、清四郎の指先は微かに震えた。
何よりも、ほんのり染まったその美貌が堪らない。
酒に濡れた唇も。
空気を震わす吐息も。
潤んだ瞳も。
全てが男の欲望を煽り、奮い立たせた。
「………いいんだな?」
ナイトガウンを優しく脱がせると、最終通告とばかりに尋ねる。
「………うん。」
健気な覚悟を呟いたその口を塞いだのは一瞬の後。
清四郎は焼き切れる寸前の欲望で、悠理のファーストキスを奪った。
・
・
・
「あっ………あっ………やぁ………………」
野獣と言い表すには美しすぎる男だ。
艶のある黒髪としなやかな筋肉が張り詰めた身体。
男なら誰もが羨むであろうスペックを持ち合わせた彼は、今、目の前の獲物を食らいつくさん勢いで貪っていた。
顔中に荒々しいキスをした後、全身隈無く、その知的な唇で舐め回す。
下着などとうの昔に取り払われ、二人は生まれたままの姿で絡み合っていた。
小さな胸の先端は痛々しいほど尖り、熟した果実のように膨らんでいる。
そこから痺れるような快感が芽生え始めた頃、清四郎の舌は臍の中へ、そして子宮の上へと延びていった。
薄い恥毛を掻き分け、秘められた場所にたどり着いた時、悠理の意識はすでにぐだぐた状態。
両足を軽く持ち上げられても、抵抗する気力は湧いてこない。
丹念な愛撫を施しながら、清四郎は悠理の全てを嗅ぎ取ろうとする。
汗の香りも、蜜の香りも、欲情の香りも全て。
閉じたままの秘肉を舌と指で開けば、とろりと溢れ出す生々しい愛液。
それをとことん味わいながら、屹立した己の分身をシーツに軽く擦り付ける。
求めてきた女の痴態を前に、冷静になれるほど彼も若くない。
優しく紳士的に扱いたくても、逸る気持ちがそうはさせないのだ。
悠理が欲しい───
この一ヶ月間、苦しかった。
途中、道場とは別に山奥へ滝行に出かけていたこと、彼女は知らない。
煩悩を祓う為の苦しい修行だった。
しかし次の日、悠理を目にすれば、全てが無に帰すほど、彼の欲望は限界を迎えていた。
クリスマスに定めたのは清四郎の覚悟だ。
少しでも進展したくて、賭けに出た。
そして悠理は彼の手の中にうまく転がってきてくれたのだ。
だがやはり泣き顔には弱く、無理強いすることで心が破綻することを恐れた。
いつものようにうまく言い含めるほどの余裕はない。
だからこそ一度離れ、冷静さを取り戻そうとした。
熱いシャワーを浴びながら、それでも抱えてきた妄想に高ぶる。
細いうなじを思い切り吸い上げ、体中に唇を這わせ、喘ぎ声を引き出したい。
意識を朦朧とさせる嵐のようなキスを与えながら、彼女の奥深くまで味わい尽くしたい。
それはもちろん数ある妄想の一部で、本当はもっと爛れた欲望を夢想していた。
どんなことでも実践出来る力はあったし、多少強引にコトを運ぶ自信もあった。
それほどの自信を抱えていても、悠理の涙には弱い。
そう自覚したところで一旦仕切り直し、イブの夜を甘く語り合いながら過ごすのも悪くないと、無理矢理軌道修正させたのだが──
寝室に戻れば驚くべき悠理の姿に鎮火しつつあった欲望が燃え盛ってしまう。
あまりにも呆気なかった。
彼女の覚悟を前に───雄の本能は弾け飛んだ。
・
・
・
「ん………っ……あっあっ……やぁ…………!」
ビクビクと激しく痙攣しながら、悠理は初めての絶頂を知る。
もはや自分ではどうしようもないほどの快感に囚われ、どうしようもないほど清四郎の舌を、指を求めてしまっている。
あられもない格好で下半身を啜られる悠理に、羞恥心よりも激しい肉欲を与える清四郎。
ピチャ……ズズズ………
乱れた音を立てながら繰り返される巧みな舌遣いが、無垢な身体を快楽の海に溺れさせてしまう。
清四郎にとっては夢のような時間だ。
思い描いていたよりも甘く芳しい香りに、脳天が痺れるような悦びに支配される。
このまま一晩中、舌と指で悶えさせるのもやぶさかではないと思うほど、悠理の痴態はご馳走だった。
「悠理………もっと感じていいから。……恥ずかしさなど忘れて、僕に溺れろ。」
脚の間に顔を埋めながら、清四郎は片方の手を伸ばし、胸先を苛めた。
ビクンと反応する腰がすっかり出来上がったことを示している。
女としての発芽。
自分の手で芽生えさせた歓びはどんなものよりも高貴に感じた。
二度目の絶頂は早く、悠理は涙をこぼしながら天井を見つめていた。
小刻みに震える全身がびっしょりと汗を纏わせている。
身を起こした清四郎はバスローブでそれを拭い取り、一旦悠理を落ち着かせることにした。
初めての女には過激すぎる経験だったろうか?
手加減できない拙さに清四郎は苦笑いする。
奥深く、それこそ粘膜の味まで知った男は、悠理の身体を抱きしめると、再びキスから始めた。
抵抗らしい抵抗もなくそれを受け入れる悠理は、口内を清四郎に明け渡し、ありとあらゆる角度から舐め回される。
唾液を啜られ、与えられ、時々唇を食まれ、愛の言葉を聞く。
「悠理………好きだ…………」
普段クールぶっていても、実際は熱い男だ。
隠していた情熱をぶつけられれば、悠理とてその嵐に巻き込まれてしまう。
「あたいも………好き…………せぇしろ………」
譫言のような告白にも彼の歓喜は引き出され、鎮まることのない下半身が彼女を求めて猛り出す。
「………おまえが欲しい。」
「………いいから………も、好きにしていいから…………」
全てを諦めたような台詞だが、それは本心だった。
今なら、この麻薬に冒されたような今なら、清四郎を受け入れることが出来るかもしれない。
痛みもなく、快楽だけを与えてもらえるかもしれない。
先ほど視界の端に映った彼のモノは、美しく撓るような形でいて、なおかつ圧倒されるほどの大きさで張り詰めていた。
武器にも思えるそれが、自分の中に侵入するなんてどこか現実離れしているが、動物達の交尾を見てきた悠理はもちろん可能であることを知っていた。
────馬よりもマシな大きさだよな。
頭の片隅でそう言い聞かせる。
気付けば清四郎が何かしら手にして、それを股間に装着しているのが見えた。
随分手慣れた様子だったが、敢えてその辺の疑問は無視することにした。
手間取る清四郎なんて“らしく”ない。
「もう一度、指で解そうか?」
「───んなのしなくても入るだろ?」
「…………痛みますよ?」
「………とっくに覚悟決まってるから、さっさとしろ。」
言葉こそぶっきらぼうな悠理だが、その赤く染まった頬に本音を感じ取り、清四郎はうれしくて仕方なかった。
溢れんばかりの思いをキスで表現させ、またしても全身をなぞるよう舌を這わせ始める。
するとすぐに、悠理の口からは喘ぎ声が漏れ出し、それは決して演技などではない自然なものであるから、清四郎もたまらなく興奮した。
可愛くて───
愛しくて───
こんな女だと知れば知るほど、一時も離したくなくなる。
出来ることならこのまま抱き潰してしまいたい、などと野蛮な妄想が頭の中に広がる。
この女を前にして、冷静になどなれない。
胸の先に舌を絡ませ優しく吸うと、喉を反らし乾いた悲鳴があがった。
「ひゃ………あぁ!」
胸の感度は想像を遙かに超えたレベルで、ピンと勃ち上がる紅色の突起が清四郎の舌を絶妙に弾き返す。
唇で軽く引っ張れば、悶えるように体を左右に振り、彼女の腕は意に反して清四郎の首をしっかり抱き寄せた。
次々に記憶していく快楽の在処。
悠理に全てを教え込みたい。
全てをそそぎ込んで、自分だけに鳴く金糸雀にしてしまいたい。
痛いほど挿入を求めているくせに、清四郎は悠理の体をとことん知り尽くしたくなっていた。
どうすればもっと声をあげるのか。
どうすれば総毛立つほどの快感を与えられるのか。
手に収まるほどの胸をゆっくり揉みしだき、片方の手を脚の間へ忍ばせる。
ヌルヌルとまとわりつく愛液を指に、小さな芽を軽く押さえれば、悠理はビクンと強めの反応を示す。
女なら当然の反応で、馴染ませるように円を描いていると、嬌声は徐々に大きく激しいものへと変化していった。
「やぁ………やだぁ!!あっ……ああっ!!」
薄皮を剥き、捏ねるように押し潰す。
仰け反った体がその快感度合いを示していて、清四郎は夢中で行為を与えた。
「ひっ……ぅうう……!も、やめてぇ!」
悠理は叫んだ。
身体の芯をじわじわと溶かしていくような快感に、頭が狂ってしまいそうになる。
恐怖すら感じている身体はそれでもあらがえぬ絶頂を待ちわびていた。
「気持ちいいか?悠理。」
────わかってるくせに!
そんな意地悪な質問にも反論出来ず、身体もまた思い通りには動いてはくれない。
ノッキングを繰り返し、求め始めたその身はビクビクと痙攣を起こしている。
「…………あ、あぁ、おかしくなる!苦し……ぃ…!」
どうすればさっきのような快感を得られるのか。
悠理は清四郎の指に腰を押しつけ、恥を忘れ、くねらせた。
もうどうでもいい。
この溜まりきった熱を解放したい!
「イきたい? 」
コクコクと意思表示すれば、清四郎は再び身をずらし、顔を股間に埋めてしまった。
「あ………ぁ………やだ、うそっ………」
散々嬲られた場所に再び熱い吐息がかかる。
完全に勃った芽を優しく吸われただけで、悠理の色めいた体は呆気なく絶頂にたどり着いた。
瞼の裏のハレーション。
全身びっしょりと濡れ、指すら動かせない状態なのに、解放されることはなく、今度は指を使い押し広げられる。
そしてまたしても舌が這う。
啜られる音に目眩がした。
厚い舌の感触に震えが走った。
脱力した両足を持ち上げられ、これ以上ない羞恥を与えられているにも関わらず、清四郎の舌遣いにとことん溺れた。
三度目のエクスタシーは恐ろしく深かった。
唾液が口の端から流れ落ち、濡れたシーツにどっぷりと沈み込む。
痙攣は止まらない。
清四郎は嬉しそうに悠理を見つめ身体を起こすと、己の切っ先をようやく溝の間に擦り付けた。
避妊具の圧迫だけでも達してしまいそうなほど興奮しているのが判り、照れくさくなる。
もちろん今出すつもりはない。
唾液と愛液に濡れそぼった場所へ、ゆっくりと身を沈めていく男の姿を、意識を手放しそうになっていた悠理は朧気に見留めた。
「痛かったら………言いなさい。」
「…………ん」
先ほどまで感じていた苦しいほどの快感を思い出せば、多少の痛みなど我慢できるだろう。
じりじりと埋め込まれる太い茎を感じながら、悠理は恋人の顰められた眉を注視していた。
「…………っ………狭いな。」
「狭い?」
「………苦労しそうだ。」
それは短い時間だったのかもしれない。
しかし清四郎にとっては気が遠くなるほどの忍耐で、あまりの圧力に諦めようとまで思った。
「悠理………少し腰を抱きますよ。」
彼女の身体など片腕で充分。
清四郎は細い腰を軽々と持ち上げ、より楽な角度で悠理の中へと侵入していった。
「んっ………!!」
「痛むか?」
慌てて問うも、彼女は首を振る。
それは彼女らしくない儚さで。
胸にこみ上げる慈愛と感動。
清四郎は火照った頬に残る涙の跡を舌先でなぞり、悠理の耳元で「可愛い」と囁いた。
「な、何言ってんだ、バカ。」
「可愛いやつです………おまえは。」
昔からずっと───可愛いと思っていた。
以前のそれはお気に入りの玩具に対する子供じみた思いだったのかもしれない。
だが執着は膨れ上がり、恋情へと走り始めた時、己の愚かさに衝撃を受けた。
独占欲と支配欲。
全ての源は小さな初恋だった、と気付かされたからだ。
初めて出会ったあの春の日。
可愛い顔をしていた悠理に、野梨子とは違う胸のトキメキを感じた。
蹴り倒され、詰られ、プライドを踏みつけられた清四郎はそんな想いを認める事が出来なかった。認めたくなかった。
中等部で距離を縮めてからも、彼女を弄り倒す事であの時受けた心の傷を癒し続けてきたように思う。
手に入れたかったのは
実らせたかったのは
あの日の初恋────
下らないプライドに振り回されてきた自分がどれほど情けない男に思えたか、悠理はきっと知らないだろう。
少し素直になるだけで、容易く手に入れることが出来た存在。
少し優しくするだけで、彼女はきっと懐深く受け入れてくれたのに。
「悠理………動くぞ?」
「…………う、うん。」
全てを収め、その感動を味わうよりも早く、清四郎に限界が近付いてきた。
腰が震えるほど、精を吐き出したくて仕方ない。
ぬぷり
一度抜き差しするだけでも、脳が麻薬で冒されたように痺れてしまう。
「んぅ!…………おっきぃ………おっきいってばぁ………」
悠理はあまりの圧迫感に喉を反らした。
その美しい場所に舌を滑らせ、男は悠然と腰を振り始める。
「あっ、あっあっ…………」
支えられた腰が清四郎と同じ動きで揺さぶられ、その密着は悠理が想像していたよりもずっと淫らな音を立てた。
グチュグチュ…………
見なくても解るほど濡れている。
彼が持つ、あの禍々しいまでの凶器が腹の中を掻き回しているのだ。
「せ………ぇしろ………あ………あたい………死んじゃわないよね?」
「死なない。………死なせるわけないでしょう。」
より深くまで抉られると、異物感の中に僅かな悦びが生まれた。
先端がどこかにぶつかり、そこをゆっくり撫でられると、四肢が勝手に戦慄を覚える。
「んぅ………あ、そこダメ………」
「ここ?………………感じるんですね?」
「わかんない!!でも……あっ………やぁ………あっあっ!!」
一度知り得た情報を最大限に活かす男。
速めた律動でも悠理の弱い部分を攻め立て、激しい快楽へと落としてゆく。
きゅうぅと締め付けるその膣内が、たとえ窮地に追い立てても、清四郎は腰の動きを止めなかった。
次第に肉同士のぶつかり合う音が大きくなり、悠理はもう何もかも手放すことを決めた。
その方がよほど楽だからだ。
彼の背中にしがみつき、汗だくの恋人に包まれる。
「………悠理、もっと………激しくしていいか?」
コクコクと頷けば、抱えられた腰が完全に宙に浮き、より直角に挿入され、清四郎の長さを感じ取る。
「ひゃあ!!」
下から突き上げられる度、悲鳴があがり、身体の半分が彼に支配されているのでは?と思うほど深くまで、其れは届いていた。
粟立つような震えと痙攣。
背中を駆け上がる強烈な快感。
直後に感じた浮遊感は、何度も味わったそれとは全く違うもので、悠理は空を揺蕩うようゆっくりと目を閉じた。
「…………っく………!」
無意識なのだろう。
根元までをも締め付ける蜜壺が、清四郎に限界をもたらす。
驚くほど大量の精をゴムの中へ飛ばし、解放の時を迎えた彼は、悠理を抱きしめながら深く深く溜息を吐いた。
それは彼自身初めての経験。
天地が揺らぐほどの猛烈な快感が全身を支配する。
ぐったりとした悠理をベッドに横たえ、汗や体液をバスローブで拭えば、彼女のヒクついた身体から甘い香りが漂ってきた。
それはフェロモンかもしれない。
清四郎を狂わせる女の匂い。
止まることの出来ない欲望を後押しするような、危険な香り。
奥歯を噛みしめた男は手早く避妊具を交換し、再び悠理に覆い被さった。
虚ろな目で見上げてくる恋人を、ギラつく瞳が見下ろす。
「せ………しろ?」
「…………すまない。」
そんな言葉を皮切りに、清四郎はまたしても目の前のご馳走を貪り始める。
一度目よりも更に奪われた余裕。
悠理の中を穿つ男はそのとき、まさに野獣そのものだった。
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・
乾く暇もないほど強烈なセックスを教え込まれた悠理は、翌朝、真っ赤に腫れた瞼で清四郎を詰った。
「どこが優しいんだ!!しばらくお預けだかんな!」
「…………しばらくとは?」
「え?……えーと……………一ヶ月くらい?」
「却下。妥協案として『一週間』ですかな。」
「なんでおまえが決めるんだよ!」
「その頃になれば身体もすっかり元通りでしょうし………何よりもおまえが我慢できなくなるんじゃないですか?」
コーヒーを飲みながら自信たっぷりに笑う清四郎を見て、悠理が怒髪天を衝いたことは言うまでもない。
「清四郎のばかたれぇーーー!」
こうして一歩先へと踏み出した二人。
一年後。
悠理の預かり知らぬところで計画された結婚式では、全てを達成した男の満足げな笑顔があったという。
Happy End