LOVE PRACTICE(R)

R作品

 


 

夕方、それも西日。

痛いくらいの強い日差しに思わず眉を顰めるも、恐らく夜も気温が下がらないことは容易に想像出来た。

暑い

熱い

母に持たされた西瓜は特別大きく重い物だったが、これにかぶりつく恋人の顔を思い浮かべれば、しかし苦にならない。

──きっと喜ぶだろう。

清四郎はそっと口角を上げると、手の甲で汗を拭った。

今日は剣菱家で勉強会を開くのだが、勉強嫌いの恋人に美味しい餌をちらつかせようという魂胆。

相変わらずの知能はまともな点数を弾き出してはくれない。

せめて平均点を目指し、頑張らせたいのだが、どうせ集中力は早々と切れるはずだ。

何せ、今は勉強より恋人同士の語らいが優先されるわけであって……参考書そっちのけ!ってな感じになりかねない。

恋が人を変えるとはよくいったものだ。

清四郎はにんまり笑った。

「ま、勉強を見る約束ですからね。それなりの点数は採ってもらわないと。」

そう気を引き締めたはいいが、結局のところ会える喜びに胸躍らせる清四郎だった。

「わわ!でっかい西瓜~!重かったろ?」

家に到着するや否や、恋人を出迎えた悠理は珍しく気遣いの言葉を吐いた。

ひまわり柄のTシャツにオレンジ色のショートパンツは彼女らしいコーディネートだ。健康的な美脚が目に眩しい。

「母からです。とても甘いらしいので、今すぐ冷蔵庫へ。」

「サンキュ!後で食べようっと。」

メイドが気を利かせて受け取ると、二人は当然のように悠理の寝室へと向かった。

「今日は数学にしますか。」

「お、おう!」

ヨーロピアンな丸テーブルに広げられた参考書は、悠理にとってまさしく敵。手強いモンスターだった。

いつも微々たる点数しか採れない自分を情けなく思う一方、これが一体何の役に立つのだろうと疑問視している。将来こんな問題を必要とする場面が思い浮かばない。

とはいえ、恋人との時間は何よりも大切で、清四郎の横顔や長い指先を眺めながら、今までなんとか苦行を乗り越えてきた。

スパルタな彼は、落ちこぼれな恋人を見捨てたりしない。

「清四郎って、いつから勉強好きになったんだ?」

「物心ついた時からですよ。」

「“物心”……っていつ?」

「まあ、おおよそ2〜3歳ですかね。」

「う、噓だろ……?そんな時期から勉強してんの?あたいなんてずっと泥遊びしてたぞ。」

「おまえは今も似たような生活を送ってますな。」

あっけに取られる悠理の側で、清四郎は昔を懐かしむ。

勉学だけが全てだと思っていたあの頃。悠理との出会いがなければ、今の自分は存在しない。

がむしゃらに勉強ばかりをして、さぞかし面白くない、頑なな人間に成長したことだろう。

世界を股にかけるトラブルとは縁遠い生活を、のんびり送っていたはずだ。今更そんな凡庸すぎる人生はお呼びじゃない。

「そっかぁ、やっぱそんくらい勉強してるから、賢いんだな。」

“元々の出来が違うんですよ”

──とまでは言わなかったが、清四郎は出来の良い息子を生んでくれた両親に心から感謝した。

自分が優秀であるからこそ、こうして悠理の面倒もみれるわけだし、この先の未来に不安を感じることもない。

可能性はどんどん広がるばかりだ。

「そんじゃあ、あたいと清四郎の子供ってどっちに似るんだろう。」

「は………子供、ですか。」

それは思いがけない発言だったが、確かにこのまま順調に交際を進めていけば、いつかは結婚し、子宝にも恵まれるだろう。

悠理は健康体であるからして、家族計画を立てなければ大変なことになりそうだ、と清四郎は思い至った。

「どちらに似ても運動神経だけは問題ないでしょうね。」

「へへ……だよな!男でも女でも、絶対じっちゃんの所に通わせるんだ。」

「それまで元気で生きてくれればいいんですがねぇ。」

妖怪めいた師匠の顔を振り払ったあと、清四郎の胸がじわっと温かくなる。

悠理が自分との将来を考えてくれていたことに喜びを感じたからだ。

まだ高校生ながらも、幸せな未来を思い描ける相手は互い以外に考えられない。

まさしく運命のパートナー。

切っても切れない強固な縁。

それをずっと繋ぎ続けたい。

「子供は何人くらい欲しいですか?」

「うーん、最低でも2人、出来たら4人かな。」

「頑張りますねえ。まあ、おまえの体力を考えれば難しくはない、か。」

「いけるいける!」

あまりにも簡単に言い放つ能天気な恋人に、清四郎はちょっとした悪戯心が湧いた。

「知っていますか?」

「ん?なに?」

「子作りするためには、それなりに激しい性行為が必要だってこと。」

「……え?は、激しいって……今よりも?」

「もちろん。」

二人が結ばれたのはおよそ一か月前。初めてのキスがあまりにも甘美で、清四郎の性衝動が止められなかったという理由により、あっという間に致してしまったのだが………

その時、悠理はあまり深く考えずに身を任せた。というか、理解が追い付かなかったのだ。

恋人同士ならそういう関係になっても問題ないと思っていたし、悠理自身、年相応に興味があった。

キスから始まるセックスが一連の流れだということも、知識として持ち合わせていた。

座学は嫌いだが、視聴覚室のモニターに流れる男女のそれは面白く、男子生徒がこそこそ冷やかす中、わりと真剣に観ていた記憶がある。

とはいえさすがに自分に置き換えたりせず、純粋な視覚的刺激と好奇心だけで楽しんでいたのだ。

クラスメイトの中には早々に体験する奴もいるのだろう。

恋と発情を同義として捉える男子も多かったように思う。

その頃の悠理は客観的に見つめていたが、いざ自分がその立場に立ったとき、それはそれは混乱した。

しかし清四郎への恋心が重石のような不安を取り除き、そして彼からの優しさは悠理が思い描いていたよりも遥かに素敵なプレゼントだった。

二人が結ばれてからというもの、週に二度、多い時では三度ほど体を重ねてきたが、清四郎の要求は時々激しくもあり、躊躇いながらも、それでも必死で応えてきた。

ただここにきて、子作りのハードルの高さを通達され、不安がこみあげる。

「ど………どんくらい?」

「そうですねぇ、気絶するくらいでしょうか。ああ、もちろん苦痛などではなく、気持ちよすぎてという意味で。」

「き、気絶!?」

過去、幾度かの気絶を経験してきたが、そのほとんどが悲惨な目に遭った直後が多く、いい思い出は見当たらない。

「やだ!怖い!」

「………怖くないですよ。なんなら今から少しずつ試してみましょうか?」

「あたい、まだ子供なんて欲しくないもん。」

そりゃそうだ……と清四郎は頷くも、悠理を追い詰めることが楽しくて仕方ない男は怯える恋人を抱きしめ、耳元に囁いた。

「本当は悠理も興味あるんでしょう?」

「………んっ!?」

いきなりエロモード全開で誘ってくる男は、その美しい唇で耳たぶを優しく噛む。

彼お得意の愛撫。

熱い吐息が吹き込まれ、簡単に腰が砕けてしまう。

纏わりつく色気と妖しげな雰囲気。

絡め取られれば最後、逃げることなど出来ない。

「おまえの悦ぶ姿が見たい。無茶苦茶に乱れて、喘いで、僕を欲しがる姿が見たいんです。」

「へ、へんたぃ………あっ!」

シャツにもぐりこんだ手があっという間にブラジャーのホックを外す。

自身の無防備な恰好を恨むも、たとえ制服姿であろうと清四郎の手技をもってすれば同じこと。

悠理の素肌をなぞる掌は、早速官能のスイッチを探り当てた。

こういう時の清四郎は悠理が驚くほど繊細で、丁寧で、優しい。

並べ立てる台詞もまた、聞いたことがないほど情熱を帯びていて、とことん甘い。

(どこで勉強してきたんだろう?エロ小説かな?)

多趣味な彼がその手の本を読んでいることは想像に難かった。

「………悠理の肌は滑らかで、気持ちいいですな。」

背中から腰、そしてゆっくり臍の周りをなぞる大きな手。

たった1か月で悠理の身体を知り尽くした清四郎だが、それでも100%の本気で抱いたことはない。

男の本気を知るにはまだ早いと思っているからだ。

「せいしろ………」

「ん?」

「怖いの………やだぞ!」

「怖い思いなんてさせませんよ……神に誓って。」

神様なぞちっとも信じてなさそうな顔で清四郎は微笑んだ。

そしてこれが始まりの合図と言わんばかりに、うっとりするような口付けを。

もちろん勉強はそっちのけ。

若い二人の甘い時間が幕を開ける。


「あ、あぁ……!やぁ………ダメ、ダメだって………!」

布切れ一枚纏うことを赦されず、悠理はシーツの上で悶えていた。清四郎の舌が体中を這いまわり、それによる快感で咽び泣く。

強く、弱く、優しく、時に暴力的なほど吸いつかれ、全身が汗に塗れていく。

執拗な愛撫と、もどかしさ。

まだまだ開発途中の身体が、耐えきれずに震え出す。

しかしこの夜、清四郎はいつもの優しさを封じた。

次のステップへ進むため、時折凶暴なほどの責め苦を味合わせる。

涙を流し懇願する恋人が必死で手を伸ばすも、それを無視し、快楽のポイントを責め立てる。

弱点は既に知り得ていた。

後はどんな風に快楽へ陥れるかだけ。

紅く染まった小振りの蕾を固く固く尖らせてやれば、細い腰が激しくのたうつ。

(なんと女性らしい動きだ……)

清四郎は彼女の二面性にいつも驚かされていた。

色気とは無縁の日常からは到底考えられない艶姿。

乱暴な言葉遣いを封じたその唇は、先ほど交わしたキスで濡れている。

ただただ色っぽく喘ぎ続けるその声に男の欲は滾り始め、一刻も早く埋めたいと願うのだが、まずは悠理を高ぶらせることに全神経を集中させる。

今宵はもう一段階向こうの世界を見せてやりたい。

一歩踏み込めば、彼女はきっと虜になると予想して。

「せ、せいしろ……なに……?」

胸の先を捏ねながら悠理の両脚の間に顔を埋めた清四郎は、ふぅと息を吹きかけ、小さな芽を指で弾いた。

それは決して強い力ではなかったけれど、初心者にとっては相当な刺激で、悠理の目から涙が零れる。

「んんんっ!!!」

「可愛い形をしてますよ。ほら涎まで垂らして………」

指に絡めた透明な愛液を、清四郎はさも旨そうに口に含んだ。

(こいつ!どエロだ!)

今更のことだが、悠理の頭は混乱状態。

乱れた前髪をかきあげる仕草と、赤い舌が唇を舐める艶めかしさに、今すぐにでもノックアウトされそうになる。

「も、もう………止めてくれよぉ………」

懇願する恋人に“容赦”という優しさは与えず、清四郎の唇は悠理の秘められた場所を啜り上げた。

わざとらしい音を立て、紅色の粘膜を繰り返し舐め続ける。

太い性器を突き立てる場所には舌が差し込まれ、と同時に小さく主張する蕾を指先でこね回すと、彼女は呆気なく白い世界に堕ちていった。

「ひ……ひぃん………」

息も絶え絶え。

涙を流しながら恋人を見下ろすと、彼はまだまだこれからといった表情でにやりと笑った。

それは悠理が見たことのない雄の本気。

今まで隠れていた清四郎の本性だった。

「や、やだ………怖いってば!」

「怖くないですよ………それに僕はまだまだ悠理を味わいたい。」

そっと指を伸ばし、悠理の中を探り始める。

一本が二本になり、とある場所に辿り着くと、まるで電流が流れたかのように彼女の身体が跳ねた。

そこは間違いなく女の弱点であり、何度も擦り上げることで絶頂を迎えることが出来る場所。

「ま、待って……せぇ………あ、ああ!!やだぁ………」

強制的に与えられる快感が、体を震わせる。

自分ではコントロール出来ない甘い刺激が全身を駆け巡り、逃げようとするも出口が見当たらない。

一分足らずの行為。

悠理は我知らず、大量の潮を吐き出した。

脱力と放心の後、何が起こったかもわからず、ただぼーっと天井の一点を見つめる。

満足気な清四郎が自身のシャツを脱ぎ、しとどに濡れた場所を拭った時、悠理はようやく虚ろな目を緩慢に動かした。

「あたい………」

「気持ちよかったですか?」

こくん

素直に頷けたのも、それがあまりにも非現実的な経験だったから。

どこか遠くまで体が浮遊してしまいそうなエクスタシー。

それが清四郎によってもたらされたことで、彼に縋りつきたい気持ちが湧き上がる。

「次は僕のもので………天国に連れて行ってやりますよ。」

 

いつの間にか裸体になった彼の中心では、恐怖をおぼえるほど聳え立つソレが待ち構えていた。

普段なら奥深くまでたどり着かず、何度も「タイム!」と言い渡し、程よい加減で抜き差ししてくれる性器。

けれど──

今の悠理は未知の場所にまで辿り着いてほしいと願う心が芽生えていた。

「清四郎………」

「ん?」

「キスしながら………やって?」

蕩けるような声で請われれば、男として応えるほかない。

両脚を可能な限り広げた後、幼き胸を弄びながら、要望通り熱いキスを与える。

下腹部を擦りあわせながら、二人は思う存分舌を絡め合った。

抑えきれない興奮を示すかのように唾液を啜り合い、与え合う。

その淫靡な空気に限界を感じたとき、清四郎は思い切り悠理の中に己を埋没させた。

「んっ…ぁ!!!」

最初から深く、

最初から激しく、

彼の律動が始まる。

(嘘、うそ!ウソ!!)

頭が真っ白に塗り替えられる中、悠理は今までに感じたことのない畏れに見舞われていた。

続々とやってくる、それはまるで高波のような快楽。

ひたすらに与え続けられる媚薬のような中毒性。

塞がれたままの口内では、清四郎の舌が淫らに暴れていて、まるで侵食されていくような怯えが生まれた。

重なり合う2つの身体が同じように揺れている。

奥の奥までその長いモノが行き来し、悠理の中を掻き回す。

彼の熱い杭がぬるっとした粘膜全てを擦り上げているのだ。

やがて腰が痺れ始め、ただひたすらに甘い声が洩れ始める。

清四郎の汗が、

その屈強な腰が、

抗えない悦楽をどんどん引き出し、もうどんなことをされてもいいとまで思わせる。

先ほどよりも明確な形を持ったその気持ちよさが脳内を支配し、それでもキスを放棄しない男の動きが悠理を責め続けている。

(あ……も……ダメぇ……!)

瞼の裏で光る閃光。

強く吸われた舌が合図となり、悠理はとうとう初めての深い絶頂に身を浸した。

神々しさすら感じる女の表情に、限界を迎えた清四郎の吐精が始まる。

ギリギリで抜き出した熱の塊から吐き出された白濁は、弧を描き、上下する腹をたっぷり汚す。

得も言えぬ快感が清四郎を満たし、何度でも味わいたいと願うそれは、まさしく最高の愉悦だった。

乱れたシーツの上、完璧な裸体が横たわる。

手も脚もしなやかに長く、若々しく小振りな胸は果実の如く可憐な蕾を尖らせていた。

細く引き締まった腰と薄く淡い翳り。

日常の姿からは程遠い、女としての悠理。

目にしっかりと焼き付いた彼女が自分のものだと認識すれば、圧倒的幸福感に包まれる。

美しい悠理……僕だけのものだ。

喉を鳴らす清四郎は、息を整えようとする恋人に再び覆いかぶさった。

「ま……ちょ…待って……も、終わったんじゃ……」

「天国はまだまだこれからですけど?」

「ひっ……!?」

「きちんと連れて行ってやりますよ……最後まで……」

翌朝───

ピクリとも動かぬ悠理の側で、男は満足そうに眠りについた。

その後、悠理が子供の数について口にしたことは一度もない。