Beginning comes always suddenly(R)

果たしてそれはどんな導きだったのか・・・・。
幸か不幸。
彼女にとってどちら?
僕にとっては、間違いなく前者である━━━

その日、二人は山奥の古びたラブホテルの前に居た。
時は既に夜7時を過ぎている。
魅録の車で、彼の指示通り辿り着いたそこは、鬱蒼とした山の中にあり、一見営業しているのかどうかも解らないほどだったが、日が暮れるに連れ、徐々に明かりが灯って来た。
今、このホテルには、とある事件の犯人とおぼしき、男女二人が潜伏している。
昨今、携帯電話の追跡機能は非常に優秀だ。
男に焦点を当て、探知している。
特にこんな山の中。
他に紛らわしい建物も存在しない為、判りやすい。
僕たちは、彼らの確固たる繋がりを証拠として持ち帰るべく、魅録が小細工した暗視カメラを片手に、二人がコトを終えて出てくるまでじっくり待つことにした。
気分は正しく探偵である。

十月上旬の山間部は冷たい空気に包まれている。
闇色になった空からは、細い糸のような雨も降り始めていた。
魅録が買ったばかりの四駆はアウトドア仕様の為、車内の内装は若干武骨である。
撥水加工が施された特殊なシートはひんやりとしていて、気温が下がっていく中、僕は暖房のスイッチを入れるかどうかで迷っていた。
待ち伏せともなると持久戦。
もしかすると朝まで・・・なんて可能性も頭に浮かぶ。

━━━━ブランケットが必要だったか。

そう思い付いた時、珍しく神妙な顔で沈黙していた悠理が騒ぎ始めた。
現場に到着して、かれこれ一時間。
これは想定内の事態だったのかもしれない。

「清四郎!トイレ!」

「トイレ?」

山の中腹にコンビニなどあるはずもなく、一度は我慢しろと言ってはみたが、青白い顔を見せる悠理にもう余裕は見られない。

「腹痛いよぉ~!」

「下痢………ですか。参ったな。」

油汗を滲ませ叫ぶ彼女を見て一刻を争う事態だと判断した僕は、直ぐ様車のキーを回しラブホテルに乗り入れると、彼女を抱えるようにして青いランプが光る部屋の階段を駆け上った。
有り難いことに、ワンルーム・ワンガレージタイプの為、エレベーター要らず。
部屋まで直結だ。
互いに男女の意識がないということは、こういった場面で確実に判断を鈍らせる。
さほど広くもない部屋へと入るなり、悠理をトイレに放り込んだ僕は、ホッと一息吐いた後、改めてその現状に頭を掻き呻いた。

山奥のラブホテル
完璧な密室
年頃の男と女

「ふ……こういった機会でもない限り、あいつがこんな場所に入ることは無かっただろうな。」

世界有数の財閥令嬢がこんな山奥の古びたラブホテルを使うなど考えられない。
いや、勿論それ以前の問題でもあるが、悠理とてあと5年もすれば年頃の女。
男の一人や二人、出来ていてもおかしくはない。
今はとても想像出来ないが・・・・。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出した後、薄いピンク色のシーツが敷かれたベッドに腰掛ける。
静まり返った空間に違和感を感じ、枕元のコントロールパネルでクラシック音楽にチューナーを合わせると、
珍しくもハイドンが流れた。
あまり好みでないがそのままにし、辺りを見渡す。

━━━━約15畳といったところか。

古びた内装ながらも、ベッドだけはしっかりと新しい物を使っているし、テレビも42インチの薄型だ。
更に年代物のカラオケ機器も備え付けられていた。
昔、一度だけラブホテルを使ったことはあるが、そこはシティホテルさながらのクオリティだったと思い出す。
相手についてはあまり記憶にないのだが・・・・。

そこへ、カチャリと音を立てトイレの扉が開く。
ヘの字口の悠理は腹を擦りながらペタペタとこちらへ歩いてくると、ドサッとベッドに倒れこんだ。

「う~~~。なんかすっきりしない。風呂沸かそっかなぁ。」

10月だというのに薄い長袖のTシャツと、コットン生地のサブリナパンツのみといった格好。
もっと早くに気付くべきだったな、と後悔したが、起きてしまったことは仕方ない。

「そう言えば、ここに到着する前、地元のソフトクリームを三個も食べていましたね。子供じゃないんだ。こうなることは予想出来たでしょう?」

「だって‘絞りたてミルク’を使ってるって書いてあったんだもん。ちゃんと美味しかったしさぁ~。」

言い訳にならない台詞で呑気に舌を出す彼女を、僕はコツンと小突く。

「今の状況を少しは恥じろ。嫁入り前の娘が。」

「今の状況?」

いくら男として認識されてないにしても、あまりにも無神経で無頓着。
そんな幼さに苛立ちを覚えたが、ここで怒っても僕のプライドが傷つけられるだけだ。
心を落ち着けるよう深呼吸した後、ゆっくりと彼女を諭し始めた。

「いいですか?今回、おまえと僕の関係だから良いものの、本来はこんなにも簡単に異性とこういったホテルに入ってはいけません。まぁ、僕も一応は男ですから100%安全とは言い切れませんがね。」

ハタチを過ぎた女に説く話ではないのかもしれない。
しかし彼女はいつでも規格外。
こういった常識を教え込むのも僕の役目だ。

「は?緊急事態なんだからしょーがないだろ?それにおまえがあたいに何かするわけないじゃん!あんだけ女に見えないって断言してたくせに。」

珍しく鋭い彼女の指摘に、苦い思いで拳を握る。

━━━確かに、そうだ。

普段から僕は悠理を女と認識していない。
恐らくは…………

気まずさを払拭する為、風呂を沸かすよう促し、重ねられ置いてあった薄っぺらい寝巻きを手渡す。
彼女が風呂に入り、腹具合を回復させている間、僕は部屋から出て再び外で張り込むつもりだった。

しかし…………

『あ…………あん、あ………やぁ……もう、だめぇ!そんなことしちゃ………おかしくなるぅーー!』

安普請とはこのことだ。
薄い壁からは隣の客の喘ぎ声が丸聞こえ。
それもどうやら、相当激しいプレイにのめり込んでいるらしい。
僕は寝巻きを手渡す格好のままで、凍りついてしまった。
もちろん悠理も・・・・・。
微かなクラシック音楽など何の意味もなさないほどの大きな嬌声。
完全に思考が停まる。
そろっと悠理を窺えば、真っ赤な顔で、しかし今まで見たことがないほど恥ずかしそうに俯いていた。

━━━免疫があるようで無いんだな。

思わぬ姿に複雑な感情が芽生える。

「あ、あたい………ヤダ、こんなとこ。」

「え・・・・・ええ。」

かといって、腹の具合が悪いまま車に戻るのは危険だ。
ようやく頭が働きはじめた僕は、そっとテレビのリモコンを掴み、スイッチを押した。

『奥さん、どう?ここ、気持ちいいだろ?』

『あ、すごいわ……!上手すぎる………』

画面一杯に流れるアダルトチャンネル。
普段、余程の事でもない限り冷静さを失わないはずの僕は、やはり慌てていたのだろう。
電源ボタンではなく別のチャンネルを押してしまう。

『ひっ………!や、ぁ!やめてぇーー!』

『だから言っただろう?もう逃げられないんだって・・』

『こんなひどい……こと!やめて・・・・ア……アァ……』

ハードなレイプものは、赤かったはずの悠理の顔色を青くさせた。
信じられないといった表情で、凝視している。
テレビではない。
この僕を、だ。
ようやくテレビの電源を落としても、隣から聞こえる官能的な声は止まることを知らない。

「ゆ、ゆうり……僕は……」

‘部屋を出ます’
たった一言そう言えば良かっただけなのに、緊張で喉が張り付いてしまったのか、思うように声が出ない。
互いに硬直したまま、十数秒見つめ合った後、彼女の美しい瞳が何かを探ろうとしているのが判った。

「おまえも、あんなこと………したい?」

「………………え?」

ようやく出た声は掠れていて、僕はもう一度尋ね直す。

「あんなエッチなこと・・・・誰かとしたい?」

━━━エッチなこと・・・・・?

気付けば、あれほど耳障りだった喘ぎ声が遥か遠くへと遠ざかっていた。
徐々に潤んでいく薄茶色した二つの目が、必死で僕の思考を暴こうとする。

この年だ。経験がないわけではない。
しかし、今それを彼女に伝えることはどこか間違っているように感じ、僕は優秀な脳をフル回転させ答えた。

「そう・・・ですね。好きな女性とならいつかはしてみたいです。」

「‘好きな女性’……って野梨子?」

「は?何を言ってるんです?違いますよ。」

「なら、可憐?」

「違います!どうして彼女たちの名前が出てくるんですか!」

悠理は気まずそうに首を傾げ、その淡いピンク色の唇から決定的な一言を告げた。

「なら…………あたい?」

言葉に詰まる。

直ぐに『違いますよ』と言えない自分が、
『何馬鹿なことを言ってるんです。』と誤魔化せない自分が、
必死に正しい答えを探そうとする。

「………な~んてあり得ないよな。あたいなんかおまえにとっちゃ、猿と一緒。女にはほど遠いってか!」

おどけた表情がどことなく痛々しい。

━━━どこまでが本音でどこからが冗談なんだ?

唇を噛み締めながら、それを探った。
しかし悠理は答えを聞かずにくるりと背を向け、バスルームへと向かう。
その後ろ姿がどことなく寂しそうに感じた僕は、気付けばその腕を強引なほどの力で掴んでいた。

「わ・・・!何・・・?」

「女に見えてます!きちんと!!」

「・・・・・え?」

「おまえは女です!あの時は・・・・その・・・・・・・照れ隠しだったんです・・・・すみません。」

「う、うそ・・・・・」

「こういった嘘は・・・・さすがに吐けませんよ。」

ゆっくりと振り向いた悠理は、細い身体をそっと摺り寄せてきた。
瞬間、血が沸騰したかのように全身が熱くなる。

「・・・・・それなら・・・あたいとエッチ出来たり・・・・する?」

ごくん・・・・・
唾を飲む音が、耳に大きく響く。
見下ろせば、薄いシャツの衿元から美しい鎖骨が見え、緩やかな谷間が僕の胸板に触れている。

出来る・・・・どころの話ではない。
こんなにも大人しくて女っぽい悠理は、初めて目の当たりにするのだから・・・。

━━━誘われているのか?もしかすると欲情している?

立て続けに起こった突発的な事態に、彼女も興奮し始めたのかもしれない。

「で・・・・・出来ますよ・・・・・。男ですから・・・・。」

ようやくそう告げると、彼女から一歩下がってみる。
しかし悠理はそれを追いかけるように、肌を密着させてきた。

「・・・・・・あたいの事・・・・好き?」

「・・・・・・・・。」

好き・・・・?
好きか嫌いの二択であれば、当然好きである。
彼女ほど刺激的な友人はいないし、何よりもその破天荒ぶりといい、行動力といい、前向きさといい・・・
非常に好ましい。
もちろんそれらを凌駕するほどの下品な部分も併せ持っているが、それでも悠理は可愛い女の子だ。

そこまで考えて、再び思考は停止する。

━━━可愛い・・・・・・?
僕は今、悠理を可愛いと認識していなかったか?
いつの間に?
人間よりも猿に近い行動をする彼女を・・・・?

思い描く理想からは程遠いはずなのに・・・心と身体は悠理じゃないと物足りないと感じている。
これが所謂男女の「好き」というのなら、僕は悠理を「女性」として見ていたことになる。

━━━いやいや・・・・落ち着け、清四郎。まだそうと決まったわけじゃない。
とにかく今はイレギュラーな事態だ。
それに冷静さも失っている。
こんな状況下で悠理とどうこうなってしまったら、後からきっと後悔するはずだ。

「好きといえばもちろんそうですが、それはあくまでも友人としての好意です。」

「やっぱ・・・・・女に見えてないんだな。」

潤んだ瞳で見上げられると、どうも弱い。
僕は直ぐにでも、その不安を取り除いてやりたくなった。

「女に・・・見て欲しいんですか?この僕に・・・・・」

「わ、わかんないけど・・・・清四郎がさ・・・好きな女とこういうコトしたいって聞いたとき、胸がぎゅって痛くなった。いつかはあたいの知らない女と・・あんなテレビみたいなことするって解ったとき、すごく悲しくなったんだ。」

それは・・・・明らかに嫉妬であり、恋情であり、独占欲である。
まさかそのような感情を僕に対して抱く日が来るなんて・・・誰が想像し得ただろう。

━━━可愛い・・・・

僕は基本、女性の好意が苦手だ。
もちろん男のソレは言うまでもない。

女の独占欲や恋に対する執着を見過ぎてきたからか・・・どうも逃げ腰になってしまうのだ。
だから、今まで恋をしたことはなかった。
女性との関係も比較的ドライに終わらせたし、深入りすることもなかった。

しかし、相手が悠理というだけで、こんなにも心が飢えを感じ始めている。
悠理の想いを心底喜んでいる自分が存在している。

━━━参ったな。こちらが困惑するほど、可愛いじゃないですか・・・。

そんな感情は衝動を突き動かす。
気付けば、悠理の背中に手を回し、抱きしめていた。

「・・・・・・本気で気付いていないのか?おまえは・・・・僕が好きなんだ。」

「あ、あたいが・・・・清四郎を?」

「ええ・・・・僕が他の女を抱く想像をしたんでしょう?気持ち悪くありませんでしたか?」

「・・・・・や、やだ・・気持ち悪い・・・・」

「それは嫉妬です。悠理は僕を誰にも取られたくないんですよ。」

「・・・・・うそ・・・・・・・」

身を捩りながら否定する彼女を、さらに力を込めて抱く。

「僕も・・・・・・・今気付いた。おまえが・・・・・好きだってことに・・・。」

生まれて初めての告白が、まさかこのような場所だとは・・・。
しかしタイミングを逃してはならない。
これは一つの運命であり、チャンスなのだから。

「せいしろが・・・あたいを好き?」

慌てて顔を上げた悠理は驚愕の表情を見せた。

「ええ・・・好きです。もし、おまえが他の男のものになったなら、すごく気分が悪い。明らかに嫉妬しますよ。」

美しい肌が薔薇色に染まり、彼女の際立った美貌を輝かせる。

「じゃ・・・・・両想い?」

「━━━ですね。」

ようやく二人して笑顔になったはいいが、隣から聞こえる嬌声がBGMとはいささか気分が悪い。
僕は再び悠理を風呂に追いやると、クラシック音楽をJPOPに替え、音量をグッと引き上げた。
色即是空など役には立たない。
先ほどから芯を持ち始めている下半身を宥めるため、滅多に聞くことがないJPOPを流しているのだ。
しかし、そんな努力は呆気なく潰える。

風呂から上がった悠理の姿は・・・・・・・
渡したはずの寝巻きではなく、バスタオル一枚だったのだから・・・・。

濡れた髪は、細い首元に張り付いている。
水滴が悠理の前髪から白い肌へと滴り、静かに濡らしていく。

彼女が露出した姿など飽きるほど見ているというのに、場所が、心が違うだけで、こうも艶かしく感じるものなのか。

興奮はゆるりと形になっていく。
沈静化したソレも、努力を嘲笑うかのように主張し始めた。

「せぇしろも、入る・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ・・・あ・・・いや、入ります。」

━━━間違いなく、悠理に誘われている。
その覚悟を確信した僕は、直ぐ様、バスルームへと足を運んだ。
悠理が使った湯に浸かるだけで、どんどんと硬さを増していく分身を愚かしく思いつつも、後戻りできない状況にまで来ているのだと理解していた。

今日、
こんなところで、
果たして最後までしていいのだろうか?
・・・・というか、彼女が耐えられるのか?

堂々巡りの考えを振り払い、男としての覚悟を決める。
悠理に手を出すということは、数ある道からその一本を選ぶということ。
将来は確実に決まった。

風呂から出た僕は、脱衣所で携帯電話を手にし、剣菱邸へと繋ぐ。
運良くおじさんに繋いでもらえた為、簡潔に話を済ますことが出来た。

「電話で申しわけありません。悠理さんと真剣なお付き合いをさせて頂きたく、連絡させて頂きました。」

唖然としたのだろう。
30秒は無言であった。
しかし其の返答は、予想通り。

「わかっただがや。清四郎君なら反対する必要もねぇだ。」

「ありがとうございます。一生大切にします。」

電話を終え、悠理の元へと向かう。
もちろんバスタオル一枚を腰に巻いた姿で──。



彼女はベッドの端にちょこんと腰掛けていた。

「お腹の調子はどうです?」

「あ、うん。も、大丈夫。」

「良かった。」

隣に座った瞬間、こちらにまで伝わるほどの動揺を見せた。
緊張が限界にまで達しているのだろう。
バスタオルの裾をギュッと握っている。

「悠理・・・・いいんですね?」

「あ・・あの、あたい・・・上手く出来ないかも・・・・」

──果たして上手くする必要があるのか?

心の声を押し殺し、悠理の肩を抱き寄せた。

「僕も自信がありませんよ。でも・・・おまえと繋がったなら、きっとすごく幸せな気分になれる。」

「幸せ?」

「ええ・・・。悠理にもそれを味わって欲しいんです。」

コクンと頷いた彼女の前髪をそっと払い、額に軽くキスを落とす。

「悠理・・・・大好きです。」

「あ・・・・・あたいも・・・・」

ようやく何かの確信を得たのだろう。
悠理が見せた瞳に、もう迷いは見当たらなかった。




初めてのキスは蕩けるように甘く、唇同士で堪能するだけに留めた。
その代わり、顔の至る所に塗しつける。
くすぐったいのだろう。
何度も笑い声をあげる彼女が可愛くて、余計に熱が入ってしまった。

シーツに横たえバスタオルを外せば、美しい形をした丸みが現れる。
確かにその大きさは平均値を下回ってはいるが、小さな突起は色素の薄い肌同様、可憐な朱華色をしていた。
舌を伸ばし、弾力を持たせる。
徐々に跳ね返すような硬さを帯びてきた為、口の中で転がすと、彼女は可愛い声をあげた。

「ん・・・・あ・・・・・ッ・・・」

初めての感触にシーツの上でじりじりと身を捩らせる。
そんな初々しい姿に、血液が音を立てて下半身に集中する。

「悠理・・・・もっと声を聞かせて下さい。」

自虐的だなと思ったが、それでも悠理の甘い声が聞きたかった。

「あ・・・はずかしいから・・・・・・・・・・やだ。」

「そう?なら、そんな気分がなくなるほど感じさせてあげますよ。」

僕は軽く歯を立てた。
悠理はそんな刺激に背を仰け反らせ、跳ねる。

「あああ・・・・!!やぁ・・・!」

グミのような弾力を味わいながら、悠理の細い腰を、太腿を撫でていく。

自分でも気付かぬ内に夢中になっていた。
こんなにも初心な反応を示す悠理が可愛くて、もっともっと啼かせてやりたいと思う。
ぷっくりと勃ち上がった蕾を交互に愛撫し、さらに硬く尖らせようと試みる。

「あ・・・・せぇしろ・・・ああ・・・!!」

素直な嬌声は、隣にも負けていないだろう。
本当は聞かせたくないが、致し方ない。

「悠理・・・・ゆうり・・・・すごく、綺麗だ。」

胸以外の部分には、紅色の接吻痕を残していく。
繊細な肌質の所為か、すぐに鮮やかな色が浮かび上がった。

僕の所有痕。
僕だけの悠理だ。

クチュ・・・と音を立てたそこからは、ゆっくりと女の香りが漂っていた。
僕は夢中になって彼女を啜り上げる。
何も解らず、ただひたすら声をあげ泣き叫ぶ悠理に、もう容赦など出来ない。

「ああ・・・美味しい・・・・」

愛液が掬いきれない程、溢れ出る。
感じやすい身体に感謝しながらも、さらに舌技を駆使して啼かせ続けた。

敏感な尖りは極力優しく攻め立てる。
包皮をそっと剥き、舌の先端を使いチロチロと刺激すれば、彼女は驚くほど呆気なく達した。

痙攣する身体が汗を纏う。
薄っすらと開かれた目は焦点が定まっていなかった。

「・・・・・悠理、気持ちいい?」

「・・・・・おかしくなる・・・頭、真っ白で・・・・・」

「それで良いんですよ・・・・・。」

僕はそこでようやく、枕元にある避妊具に手を伸ばした。
先走りでたっぷりと濡れたソレに薄いゴムを装着し、悠理の秘唇を擦りたてる。

「あ・・・・それ・・・・」

「ええ、僕の性器です。ゆっくりと挿入しますから、安心してください。」

「・・・・・・う、うん。」

悠理は驚くほど大人しい。
普段の彼女ならば、きっと茶化してくるだろうに。

何度も根気強く擦ったおかげか、悠理は僕の侵入をスムーズに受け入れてくれた。
もちろん耳元から首にかけての愛撫は怠らない。
更なる甘い囁きで、彼女から緊張を取り除かねば・・・・この締まりの良さだと、流石にそう長くは持たない。

「悠理・・・・大丈夫か?」

目頭に皺を寄せた悠理は、ようやく深い息を吐き出した。

「は、入ったんだよね?」

「ちゃんと繋がっていますよ。痛みますか?」

「う、うん・・・・ちょっと。」

「なら、暫くはこのままで・・・・・・。」

「え?動かないの?」

「おや、動いていいんですか?もっと痛むかもしれませんよ?」

おどけたようにそう言えば、プクッと可愛い頬を膨らませる。

「・・・脅かすなよ。」

「なら、お言葉に甘えて・・・・」

一度ゆっくり引き抜いた後、再び彼女の中へ戻っていく。
恐ろしいほど甘いその感触が、皮膚を擦る刺激が、僕の脳を震わせた。

「う・・・・・ぁ・・・・気持ち・・・いいな・・・・・」

「せいしろ・・・・ぉ・・・・・」

ぎゅっと閉じられた目尻から涙が一滴。

「ゆうり・・・・おまえの中はすごく良い・・・」

「あ・・・・あたいは、まだ・・・・痛い・・・・・けど・・・・」

「けど?」

悠理の瞼がゆっくりと持ち上がる。

「なんか・・・・・・幸せ。」

小さな花を思わせるその呟きを耳にした時、火花が爆ぜるような音がした。
もう我慢が利かない・・・・。
彼女の最奥まで到達せねば、本気で気が狂いそうだ。

「悠理・・・・済まない。我慢してくれ。」

思いやれない自分が情けなかった。
我武者羅に腰を繰り出す姿があまりにも滑稽で、僕はギュッと目を瞑り、悠理を抱き寄せた。

こんなにも必死な僕を見ないでくれ。
そう心の中で呟きながら・・・・。

彼女の首筋に流れる汗を舌で掬い、限界まで自分を高める。
耳元の呼吸がどんどんと浅くなっていく。

「ああ・・・ゆうり・・・・・・・もう・・・ちょっとだ・・・・・」

「う、ん・・・」

ねっとりと全身を覆い始める快感。
それに身を任せる準備を整え、悠理の身体から少し距離を置いた。
見下ろしたその顔は、驚くほど女っぽくて・・・・興奮が一気に立ち昇る。

「可愛い・・・・・・すごく・・・綺麗だ・・・・」

心からの声を伝え、僕はラストスパートに向け、必死で腰を振る。

「せぇしろ・・・・あ・・・・あ・・・・ぁ・・・」

彼女の伸ばした手の指先にたくさんのキスを与えながら、その感動を届けようとした。

「そろそろ・・・・・・・・・っ・・・いきます・・・・!」

一旦息が詰まった後に吐き出される、夥しい量の精液。
これが皮膜の中にでなく、悠理の子宮へ届いたなら・・・。
そう思わずには居られないほどの愉悦が僕を襲う。

彼女はビクビクと身体を震わせながら、次第に力を抜いていった。
決して達したわけではない。
僕の激しさに反応しただけだろう。

弛緩した悠理から、出来るだけそっと抜け出す。
ぐったりとした性器が重く感じた。

「大丈夫ですか?」

ペットボトルのお茶を与え、僕は手早く処理を済ませる。
異常なほどの汗をバスタオルで拭いながら、半ば放心状態で時計へと視線を向ける。

「・・・・・・・・・彼らもそろそろ出てくるかも知れませんね。」

「・・・・・・・・・・うん。」

悠理はゴクゴクとそれを飲み干し、汗ばんだ僕の背中にぴったりとくっついてきた。

「せいしろ・・・・・」

「なんです?」

「大好き・・・」

自慢じゃないが、生まれてこの方、ここまで性の衝動に振り回された覚えはない。
しかし・・・・今、それは覆り、僕の価値観を大きく変えようとしていた。

悠理の吐息が背中を擽る。
欲しいと切望する己を抑えようがない。
色んな現実が脳内で駆け巡るが、選択した結果は一つだけ。

僕は直ぐ様携帯電話を手にし、魅録へとメールを送った。

「済みません。抜き差しならない事態が発生しました。現場を離脱します。」

これでいい。
不思議そうに見上げる悠理を微笑みと共に振り返り、再び覆い被さる。

「せ、せいしろ・・?」

「僕も大好きです。すっかり嵌まってしまいましたよ。」

慌てふためく彼女の口を塞ぎ、余計な事など考えられないくらい愛してやろうと心に決めた。

その後の僕たちがどうなったかって?
そんなもの・・・言うまでもないでしょう?