夜ともなれば──
日中の粗野でがさつな印象を、野生味溢れるカリスマ的個性へと転換し、僕を誘い出す。
ここ一年……いや一年と半年か。
彼女の美しさは、時として神がかっていて見えるのだが、恐らくは男……それも僕という男を知ったからだろうと信じている。
普通の男ではこうはいかない。
悠理は僕を支配し、僕に愛され、そしてその現実にひどく満足しているのだ。
夜だけは………
二人の関係性が逆転する。
どんなに遅くともメール一本で彼女を迎え、野獣の舌なめずり一つで、食われる覚悟を決める。言われるがままに奉仕し、請われるがままに貪り尽くす。飽きることもなく……
そんな僕達を誰も知らない。
「せ、え、し、ろ♡」
明らかにごきげんな声で、悠理はベッドに膝立ちをした。
就寝前の急な訪問。我が家の家族は彼女を当然のように受け入れる。
「………飲んできたんですか?」
「へへ……わかる?魅録ちゃんとしっぽり飲んじゃった。」
「相変わらずの夜遊び三昧ですな。」
特に行動を制限しているわけではない。魅録が側にいるのなら、安心して任せられる。むしろ彼以外には任せられないのだが、少なくとも悠理より腕の立つ男が側に居てくれるのは有り難かった。
「で……どうしたんです?」
「わかってるくせに……」
酒臭くても、タバコ臭くても、この厄介な獣は僕のものであるからして……深酒した夜は一緒のベッドで眠りたがる習性を許容している。
「シャワーは?」
「ん〜、明日でいいだろ?」
「じゃあせめて服を着替えなさい。クローゼットにある僕のシャツを着ていいから……」
「ふふん。シャツなんてどーせ脱がしちゃうくせに〜。」
「………。」
ま、それは図星であり、願望であるわけだが……
おもむろに、なんの恥じらいもなく裸になる恋人が、僕のシャツを被りこちらへと駆け寄ってくる。
恋は盲目とはよくいったものだ。たとえまな板のような胸であろうと、舐めしゃぶり、乱れさせ、感じさせてやりたいと思うのだから……始末に負えない。
布団を少し開ければ、しなやかに滑り込んでくる猫の仕草。こんな甘え方をされてはひとたまりもないのだが……。
「ぬっくい!」
正面から勢いよく抱きつき、幸せそうなため息を吐く。どこまでも素直で、どこまでも直情的。
これこそが彼女の魅力だ。
「随分冷えてるな……。真冬でないにしろ、薄着は止めなさい。」
「せぇしろちゃんが温めてくれるんだろ?………ね?」
背中に回された手が、やがて尾てい骨まで降りていき、彼女の舌なめずりが始まる。今はどうやって獲物を仕留めるか、それだけが頭にあって、本能の司令に突き動かされているのだろう。
「ふふ……お尻硬いな……」
「女性と比べれば……そりゃあね……」
「………なに?他の女、触ったことあんの?」
この質問はやばい。酔っているとはいえ適当な返答をすれば、不興を買ってしまう。
「おまえのことですよ。ほら……こんなにも滑らかで……柔らかくて……」
「ん……逃げたな?」
互いの尻を触りながらの言葉遊びも悪くはないが、そろそろ奉仕の時間だ。
細い身体を抱え上げ、胸の上に乗せると、シャツの裾を捲り、それを噛むよう促す。
フルンと揺れる胸。
小さいとはいえ、紛うことのない女性の象徴だ。
熟しきっていない果実を味わい、蕩けさせ、欲情を引き出し、濡れさせる。
その充実した行為は何度繰り返しても飽きない。
手にすっぽり収まる若き肉を、次に舌先で刺激し、やがて口全体で頬張る。
小さな蕾が紅く染まり、彼女の声に艶が出始めても、まだまだこれから。
腰を抱きながら、吸い上げ、捏ね回し、舐め尽くす。全神経をそこに注ぎ、悠理を高ぶらせていくミッションは楽しくて仕方なかった。
「ん……んっ!!!」
片方だけでは物足りないと体を捻り、もう一つの果実を突き出す素直な貪欲さ。
「はいはい………順番ですよ。」
存分に甘やかしてやりたくなるのはこんな時だ。
「んっ……んんんっっ!」
細い腰を撫でながら、すっかり尖った蕾を甘噛みする。もっともっと、と強請る彼女は、自分のフェロモンが垂れ流されていることを知らないだろう。
野生児たるその香りの強さ。
下腹部に直結する媚薬だ。
「あっ………ああ……ああ……あっ!」
胸をしゃぶるだけでこの感度、反則としかいいようがないな。
汗に濡れた体をシーツで拭くと、僕はようやく下着を脱ぎ去った。
肩で息をしながらも、悠理はそれをジッと見つめる。
舌なめずりは肉食獣の証。
「おいしそ……♡」
「駄目です。」
「なんで?」
「………保たないから。ここ最近、ずっと我慢してたものでね。」
「我慢?………もしかしてあたいとやってからずっと?」
年頃の健康な男なら耐えられないそれに、まるで試すような忍耐を与えた。
一週間は経つだろう。
体に悪いとわかってはいたが、悠理を抱くまで耐え抜いてみたかったのだ。
まるでマゾだな、と自虐する毎日。
「………だから、もう、ね?焦らさないでくださいよ。」
何も着けていない彼女の下腹部を、そろりそろりと強請るように撫でる。
最初は気の毒そうな顔をしていたくせに、途端に悪い笑みを浮かべる。何かしら企んでいるようだ。
「ふふん。それなら余計、楽しませてやんなくちゃ、ね?」
「悠理?」
「ストイックな清四郎ちゃんは、どこまで我慢しちゃうのかなぁ?」
ずりずりと足下まで体を移動させた彼女は耳に髪をかけると、思い切りその口を開き、飲み込んだ。
そう……僕の性器を。
「うっ………!」
柔らかな粘膜に包まれると、もはやどんな抵抗も出来ない。ピチャピチャ……部屋に響く淫靡な湿音が、徐々に思考を奪っていくだけ。
「っぷはぁ!……つかこれ、でっかい……。我慢しすぎたろ、バカ。」
何も言えず一旦顔を背けるも、どうしても悠理の行為が見たくて、視線を戻す。まるでキャンディーバーのように、甘さをじっくりと味わうかのように……彼女の生暖かい舌と口内は僕を蕩けさせていった。
出したい……
出したくて仕方ない……
だが許可を得ずしてそんなことをすれば、悠理の怒りを買うだけ。
窄められた口と、絶妙な舌使い。
僕を濡らしながらも、恐らくは自身も濡れているはず……。
麻痺していく理性。
脚の付け根からつま先へと電気のような刺激が走り抜け、やがてソレしか考えられなくなる。
「くっ……悠理……もう………」
一瞬こちらを見て限界を知るも、彼女はとうとう口を離さなかった。
悪戯に長けた舌先が裏筋を何度も舐めあげ、窄まった唇が括れを締め付ける。
見事なテクニック……。
教えた以上の実力を発揮する悠理が、ある意味恐ろしく感じる。
「ぁ……もう……だめだっ……悠理!」
ぞくぞくとした刺激を伴い、僕は呆気なく達してしまった。
なんという背徳感。
なんという征服感。
彼女は最初こそ苦しそうに眉を顰めるも、やがて満足げな表情を見せ、舌なめずりしてみせた。
「さすがに濃すぎるぞ?」
喉を流れ落ちる己の精液を想像し、頭がカッと熱くなる。
たったそれだけで、次のターンへの準備が整ってしまう愚かさに自嘲するも、僕は悠理を押し倒し、両脚を思い切り開かせた。
「あ……まて……こらっ!」
案の定、透明な蜜に濡れる花弁。躊躇うことなく顔を押し付け、花の香りを嗅ぐ。
汗ばんだ彼女の甘いフェロモンに脳が痺れ、それを味わうべく口の全てを使い嘗め啜る。
貪欲に
執拗に
掻き出す愛液全てを自分のものにしたかった。
「ひっ…んんっ……あぁ……!せぇしろ……やぁ……!」
ビクビクと振るえる四肢。耐え難い快楽に溺れる体は自分の意志から遠ざかりつつある。
甘く切ない嬌声が響くも、止めれるはずがない。
それほどまでに悠理の声は僕を昂らせるのだから。
全ての蜜を吸い出せば、次に彼女の中を探り始める。舌を尖らせ、奥へ奥へと……。
「んんっ…ん……はぁ………」
快感にうち震える体が、いよいよもどかしさに耐える。こんな細いものじゃなく、太くて硬い雄のシンボルを求め、啜り泣き始めるのだ。
「せ……しろ……もう、はやくぅ……!」
可愛い懇願を一旦無視し、彼女の膣を弄ぶ。そして最近発見したばかりの後ろの穴を優しく指でほぐせば、悠理は腰をバタつかせ喘いだ。
禁断の場所に触れられる羞恥が、彼女の興奮を強く引き寄せる。
「やめ……!そこ……駄目だってば……あ、あぁ!!」
ぐったりと脱力したその身体。息を整える間も快感の残骸を追い求めている。
サイドテーブルから避妊具を取ろうと手を伸ばせば、気付いた悠理は首を横に振り、「だーめ……今日はこのままで……」と、挑発めいた台詞を投げかけた。
「………安全日でしたか?」
「わかんない。」
「……それなら着けるべきでしょう?」
「なんで?あたいは……」
”そのままのおまえがいい“……と囁き、大きく股を開く。
「………厳しいミッションですな。特に今日は。」
「だからこそ楽しめるんだろ?」
ふむ…、そうきたか……
それならば、存分に楽しむとしようじゃないか。
彼女の腕をシーツへ押し付け、期待に満ちた瞳へキスを。
そこから鼻先を噛り、ようやく唇へ辿り着いた時、悠理はまるで待ち構えていたかのように口を開けた。
互いの秘部を舐めしゃぶった後のキスは背徳感に包まれる。
味を確かめるように、興奮を伝え合うかのように……次に訪れる解放を待ちわびるかのように。
湿った音と息遣い。
酸素を取り込もうとするたび、彼女の舌を味わう。
ねっとりと、じっくりと……
一つ一つの箍を外す快楽に身を委ね、腰を絡め合えば、啜り泣くような声を引き出せる。
「……はぁ……せぇ…しろ……も……無理……早くぅ……!」
それは腰に響く哀願。子宮の在処を確かめるように押さえ、滾った雄の涎を垂らした姿に覚悟を決めると、彼女の美しくも繊細な其処へゆっくり沈めてゆく。
「ああ……すごい……清四郎……硬いよぉ……!」
硬くて当然。
どれほどこの瞬間を待ちわびたか。
雄の本能を掻き立てるその声を、どれほど耳にしたかったか……。
ねっとり焦らすように揺らせば、悠理は自ら腰を押し付け、奥へと誘い始めた。
本能のままに動く、やらしい女だ。しかしこの女こそが相応しい。
僕の隠された欲求を全て与えても、きっと壊れることのない唯一無二の女。
一旦引き抜き、再び挿入する。
次はもっと深くへ──
締め付ける具合があまりにも善くて、思わず吐き出しそうになるも、そこは奥歯を食い締め耐える。
奥深くからじわじわと侵食されるような淫靡な快感が訪れ、頭が甘い痺れに冒される。
「悠理……悠理………嗚呼、なんて美しいんだ……」
「あ……ああっ……もっとぉ!!」
両腕をあげ、小さな胸を揺らし、快楽を貪り尽くそうとするその瞳。
この女を手放すなんて愚かな男になりたくない。
この女に見捨てられる男になんてなりたくない。
「清四郎………」
「愛してる……おまえだけが……僕の女だ……」
きゅぅっと締め付けるその反応こそが、彼女の返事だと信じたい。
容赦ない動きを待ち構えていたかのように、悠理は背中にしがみついた。
それは大きな渦に巻き込まれる前の覚悟。彼女を全身で抱き寄せ、ひたすら腰を振り続ける。
堪らない愉悦が襲い来るも、終わりたくないという本音も顔を出す。
「あぁ……!せぇしろ……もういいから……出して!そのまま……!」
彼女の願望を叶えてやりたい気持ちが膨らむ。が、さすがにお互い高校生。
悠理を妊娠させるのは良心が痛んだ。
ギリギリまでその見事な腟内を味わった後、猛ったままの分身を抜き、クリトリスに擦り付ける。その後吐き出された白き欲望は、二度目とは思えぬほど多く、彼女を汚した──。
「うわ……!こんなに出たのかよ。」
「………溜まっていたので。」
「中出ししてたら、妊娠したかもな。」
「まさか強請られるとは……思ってもみませんでしたよ。」
「へへ……理性的なせいしろちゃんがどんな反応するか気になったんだ。」
小悪魔上等。
後先考えずの言動を、彼女は楽しんでいるのだろう。
それならそれでいい。
こちらも利用させてもらうだけだ。
「………いいですよ。」
「え?」
「子作りしますか。」
「………は?」
どちらにせよこの関係が行き着く先はただ一つ。
剣菱夫妻は諸手を挙げて喜んでくれるだろう。優秀な跡取りと娘の手綱を握る男。僕以上に相応しい相手は居ないのだから。
「ということで、第二ラウンド、愉しむとしましょう。」
「……ほえ?」
記憶の中によみがえるいつぞやの雛壇。
その先のウェディングベルを思い描きながら、悠理を再び押し倒した。
この美しい獣は、僕のもの──