……ったく、いい体してるよなぁ。
こりゃモテるはずだよ。(特に男)
こいつ、努力家だし、才能もあるし、あたいとは大違い。
長いことかけて鍛えた身体は無駄も隙もない。
ほんとイヤミなくらい出来上がってる。
男とか女とか、あんま意識したくないけど、やっぱ”らしい“体って大事なんだろうな。
胸なし
くびれなし
色気ゼロ
こいつ………よくこんな体見て、興奮出来るな。
今時の小学生のほうがよっぽどエロいじゃん。
はぁ~。言っててほんと情けなくなる。
コンプレックスは頭の悪さだけだったのに、今はもいっこ増えちゃったよ。
「なにブツブツ言ってるんです?」
待ちに待った週末。
お互いの家は気恥ずかしいから、都内のホテルを予約することにしてる。
二人きりで過ごすために。
二人きりで愛し合うために。
がっこでは品行方正な清四郎も、その仮面を脱いで’ただの男’になる。
あたいを好きだと自覚してから、もう一人の自分が現れたと苦悩してるみたいだ。
「べ、別に。」
最初は交代でシャワーを浴びる約束だったのに、今じゃ何するのも一緒。
少なくともホテルの部屋で過ごす間は、ずっとくっついてる。
「もしかして、見惚れてた?」
鏡越しにバレバレだったあたいの視線。
この男、察しがいいから困る。
「恋人に……見惚れて何が悪いんだよ。」
「悪くはありませんよ。ただ見られているだけじゃ物足りない。」
まだ完全に乾いてない体で抱き寄せられ、清四郎の熱を感じる。
逞しい胸板と力強く長い腕。
水滴が、張りのある肌を滑るように落ちてく。
「せ、しろ………」
ただ抱きしめられてるだけなのに、目眩がしそうなくらい気持ちいい。
喉が鳴り、鼓動が高まる。
触れ合うことに慣れた体は、たったこれだけで燃え上がってしまうほど単純だ。
「ルームサービスが先でしたよね?」
意地悪な質問を無視して、目の前にある肉に舌を這わせる。
ヤツが敏感に感じる部分をわざと避けながら、焦らすように愛撫する。
「…………肉欲に負けましたか。」
「うるひゃい。」
そう。
あたいは馬鹿だから、こうでもしないとこいつを満足させらんない。
他の女みたいな色気も愛想もないし、あるのは無駄な体力と清四郎への気持ちだけ。
だから、こんなことで少しでも“好い”と思ってくれたら………それでいいんだ。
「待て、悠理。」
腰に巻かれたバスタオルを外そうとした手を握られ、思わず見上げる。
いつもはしない特別な行為。
視線の先には清四郎の綺麗な目。
それが苦しげに細められていて、緊張が走った。
「僕は娼婦と過ごしてるわけじゃないんだ。何か言いたいことがあるならきちんと言え。」
「娼婦って…………ぶはっ!」
思わず笑ってしまったあたいに、制裁のデコピン!
「いでぇ!!なにすんだよ!」
「人が真面目に尋ねてるんだから、茶化すんじゃない。」
「…………。」
でも今は卑屈な言葉を吐き出したくない。
何も気にせず、ただ清四郎の熱い肌を感じたいのに………。
「好きだから…………おまえを悦ばせたいんじゃん。あたいにはそんなことくらいしか出来ないし………」
「ほぉ……珍しく殊勝な言葉を吐きますね。」
声色は優しいけど、その目は獰猛。
両手を一気に掴まれ、背中へと回される。
「どうせ、下らない事でモヤモヤしてるんでしょう?」
腰を曲げ屈み込んだ清四郎の口はキャミソールを器用に捲り、ほんのり冷えてきた胸をやらしい動きでなぞり始めた。
「卑屈なおまえは、おまえじゃない。僕の心を引き寄せ、こんなことまでさせる女は、この世に一人しかいません。」
「んっ………!!」
咥えられた乳首が熱い口の中で弄ばれる。
飴玉を舐めるように転がされて、しゃぶられて━━━こんなことされたら、もうなんも考えらんない。
「あ………あっ………せぇしろぉ………」
「………まだまだ主導権は握らせませんよ。」
あっという間に落ちていく身体。
元々スケベな男が本気を出したら…………言わなくても解るよな?
・
・
結局、何にモヤモヤしてたかは、エッチが終わった後に白状させられた。
「馬鹿ですねぇ。身体目当てでおまえと付き合ってるわけじゃないんですよ?そんなこともわかりませんか?」
心底呆れた顔で横たわりながら、あたいの髪を撫でる。
優しい手。
その手が’愛しい’と囁いている。
「んじゃさ………あたいのドコがいいんだ?」
そんな質問は思いも寄らなかったのか、少しだけ目を逸らした清四郎は、まるで思春期の少年みたいに照れて見せた。
「馬鹿みたいに素直で可愛いところですかね。純粋で優しさもあって、一緒に居てホッと出来る。いや、わりとこの体も気に入ってますよ?相性もいいですし反応も素晴らしい。おまえが思うほど悪くない体なんです。」
「ふ、ふーん………」
んなコト言われたらこっちも照れちゃうだろ。
「胸に関しては、将来的に大きくしていく楽しみもありますから、今はこのくらいで丁度いい。余計な心配はしないように。」
「うん!」
清四郎の言葉は不思議。
昔も今もあたいを操る魔法だ。
あんだけ気にしてた悩みも、どーでもよくなっちゃう。
「ねぇ、もっかいシよ。」
いつもは自分からお代わりなんてしないんだけど、今日はすごくいい気分。
あたいはあたいでいいんだと思ったら、気持ちがすっごく軽くなった。
「もちろん。期待に応えさせてもらいましょう。」
嬉しそうな清四郎の顔が近付いて来て、一回目よりもずっと優しいキスが降り注ぐ。
瞼を閉じれば、育ちきった胸で奴を翻弄する自分が居て、それはとっても素敵な未来だと思った。
焦らない焦らない。
ここはまだスタート地点なんだから。