夏遊戯

※久々のショート

 

ミーンミーンミーン
ジジジジィィ……

混在する蝉の声。
照りつける太陽に負けじと声を張り上げる。
ミンミン蝉なんてまだ生息していたのか。
子供の頃はほとんどがソレだったはずなのに、今じゃ懐かしいとさえ感じる鳴き声だ。

「うぅ………くっそあちぃな…………水……」

乱暴に奪われるグラス。
これは常温だから、氷を入れてきてやろうと思ったのに……。
彼女は中身も確かめず、一気に飲み干した。

「外はもう30℃あるみたいですよ。」

体感温度はそれ以上だろう。
雲ひとつない青空に、目に突き刺さるような日射しが厳しい。

「ふ〜ん……プールで泳ぐにはもってこいだな。」

「気持ちはわかりますがね、止めたほうがいい。」

「なんで?」

「そりゃ……夕べのことがありますから。」

「?」

決して惚けているわけじゃない。
本当に解っていないのだ。
自らの身体能力を過信している節がある彼女は、小さな傷など物の数にも入らない。
打撲、骨折、記憶喪失。
人より多く経験した分、ちょっとした痛みには鈍くなってきている。

もちろん……昨夜のアレを小さなキズと認識しているかはわからない。
充分気を遣ったつもりだが、本当のことなど男にわかるはずもなく、痛みに歪む顔すら違った意味に捉えることも出来るから不思議だ。

「痛く……ないんですか?」

「ん?………ああ!そのことか。」

ようやく合点がいったようで、彼女は少し照れたように視線を逸らした。

「ちょっと……痛かったけど、今は……うん、大丈夫!」

可愛らしいと思うのはこういうところ。
一般的な色気と無縁だった彼女が、ようやく蕾をほころばせ、小さな花を咲かせてくれた。

生きてきた中で一番の達成感。
武道を極めるよりも遥かな悦びだ。

「……なら良かった。」

乱れたシーツの中、半裸のまま擦り付いてくるしなやかな猫。
その肌の至る所に花弁の形をした痕が残っていて、気恥ずかしくなるほど露骨な記憶がよみがえる。

夜の湿気た空気の中、絡み合う吐息。
繰り返し求めた愛の言葉。
華奢な手首を掴み、細い腰を強く抱きしめ、享楽に耽る。
名前を呼ばれるたび高鳴る胸が、自分ではどうしようもないほど熱く滾っていた。

「朝飯食ってさ、一緒に泳ごうぜ?」

窺い見るその視線。
以前より強力に感じる媚眼は彼女が女になった証拠だろうか?

そんな視線……他の奴に見せたら、殺しますよ?

敢えてそう言わず、形の良い顎を持ち上げる。

「……いいですよ。朝食よりももっと美味しいものを頂いてから泳ぐとしましょう。」

「わわっ……!ちょ、ちょっと、何考えてんだっ………朝だぞ!……せ、せいしろ………ん、んっ!!」

可能ならば朝も昼も夜も、おまえに沈んでいたい。
このうんざりする熱気の中、これこそが唯一楽しめる遊戯だと思わないか?