※’サンタクロースはもう来ない’の続編
ぶえっくしょい!!
うう・・・・何でだよぉ。
よりによって、クリスマスに風邪なんてひかなくてもいいじゃんかぁ。
二人で過ごす初めてのクリスマスだったのにぃ。
ちゃんとホテルの最上階で、特大ブッシュドノエルを食べる予定だったのに~!
プレゼントだって用意してたし、ちょっとお洒落して、あいつを驚かそうと思ってたのにーー!
「全部、おじゃんだ~!!」
悠理の声なき雄叫びは空しく宙をさ迷う。
今日はクリスマスイブ。
恋人たちが寄り添い、愛を囁く、ロマンティックな夜だ。
現在、恋の真っ只中にいる悠理にとってもそれは同じ。
彼女と恋?
何よりも似合わない組み合わせだが、とにかく………半年前、乱暴者の孫悟空は、千里眼を持つお釈迦様に恋をしたのだ。
唐突に。
察しの良いお釈迦様は、彼女の発芽を長年、じっと待ち続けていた。
忍耐力には長けている。
最悪10年は待つつもりだった。
悪い虫が現れたら粉砕するだけの話。
だが予想よりも早くその時は来た為、彼は即、行動を始める。
恋を意識する悠理に寄り添い、可愛がり、とことん甘やかす。
ようやく同じ想いを抱いてくれた事に喜びは隠せず、冷徹と言われていた仮面をすっかり剥ぎ取った。
そうなればもう、悠理は清四郎の手に落ちたも同然。
酒の力を借り、ポロリと告白した孫悟空は、その夜、雲の上の気分を味わうこととなった。
そして半年が経ち、仲間達が目を疑うほどのラブラブぶりを発揮する二人。
なるべくしてカップルになった気もするため、誰もが目を瞑り、受け入れている。
「あーあ。詰まんない。どうせあいつは旨いもんでも食ってるんだろなぁ。」
次々とぼやきが零れるも、今回の風邪は自業自得。
タマフクと共に雪が降る中、薄着で3時間も遊んでいたのだから・・・。
庭駆け回る犬の如く、彼女は後先を考えない。
さすがの五代も苦笑いだった。
薄暗い部屋の天井を見つめていると、自分がより一層孤独に感じてくるのも体力が落ちている所為だ。
寝室に飾られた、クリスマスツリーの煌めきが目に染みる。
それは自分がウキウキと飾り付けたものだった。
「寂しいよぉ・・せぇしろ・・・」
キィィ・・・・
ノックもなく、ただ静かに扉が開く。
メイドでも五代でも、もちろん母親でも無い。
関節痛で痛む首を傾げれば、そこには・・・
子供の頃憧れていたサンタクロースの姿が。
それにしては随分細身だが・・・。
「メリークリスマス、悠理。」
「せぇしろ?」
ぼやける目を擦って確かめるも、その人物はどう見ても清四郎。
だが、彼がこんな格好をするはずがないと、何度も疑ってかかる。
「きっと寂しがってると思いましてね。サンタクロースがプレゼントを届けに来ましたよ。」
長身の彼が「らしい」布袋を持って歩く様は、とても目立つ。
きっとメイド達が大喜びだったことだろう。
ベッドの側までやって来た彼は、悠理の額に手を当てると、少々苦い顔をして見せた。
「まだ高いな・・・熱冷ましを飲みましょうか。」
「・・・うん」
「おや?泣いていたんですか?」
目尻から零れた涙は先ほどのものとは違った意味を持っていたけれど、清四郎はそれを誤解したまま。
優しく吸い取ると 熱を持った頬を優しく撫でた。
「相変わらず、馬鹿ですねえ。雪の中をはしゃいでいたんですって?」
「う・・・」
「そんなにも今夜が待ち遠しかったんですか?」
「・・・・ん。」
いつになく素直な恋人は、彼の手に頬をすり寄せ、甘えるように見つめた。
「お洒落して、ホテルで美味いもん食べて、その後・・・・・いっぱいエッチしたかったんだもん。」
「!!!」
今宵は大人しくサンタクロースのままで居よう。
そう覚悟してやって来た清四郎だったが、残念なことにその覚悟は木っ端微塵。
あまりにも可愛くて、弱々しくて、愛おしくて、心が震える。
「お洒落と美味しいものは後日のお楽しみということで。だけど・・・」
彼はゆっくり布団の裾を持ち上げると、赤い衣装を脱ぎながら、そこへと侵入していった。
「せ、せいしろ?」
「三番目の願いなら、どれだけでも叶えてやれますよ。」
「あ、あほ!風邪うつるってば!」
「そんな生半可な鍛え方はしていません。それにたっぷり汗をかけば、熱も下がるはずです。」
そう断言する医者もどきの恋人。
悠理の分厚いパジャマの下で蠢き出す、大きな手。
「あ・・・ん・・・」
「熱でいつもより敏感になってるみたいだな。たくさん啼かせてあげますからね。」
ニコニコ笑顔の清四郎に対して、悠理はすっかり真顔。
(う、うそだろぉ!!このエロサンタクロースめ!)
心の中の悪態を余所に進められる彼の愛撫は、しかし蕩けるように甘かった。
・
・
・
翌朝。
悠理は嘘の様にすっきりとした頭で目覚めた。
身に着けている新しいパジャマは初めて見る柄。
カラフルな小さいネコ達が、無数に描かれている。
それが清四郎からのプレゼントだと知ったのは、少し後のことだったが。
背後から抱き締められている逞しい腕は熱っぽい。
いつも体温の高い男だけれど・・・今日は特別、熱く感じた。
「まさか・・・」
ゆっくり振り返れば、案の定、呼吸が荒い。
深夜遅くまで睦み合っていたせいで、悠理を冒した風邪菌はすっかり清四郎の元へと移動したのだろう。
「な~にが’生半可な鍛え方してない’だよ。サンタクロースが風邪ひくなんて、前代未聞だぞ?」
彼が持参した熱冷ましが役立つことを祈って、悠理は内線電話でメイドを呼び出した。
散々なクリスマスだけど、二人で過ごせれば充分ハッピー。
立ち上がった悠理の背中は、まるで羽が生えたかのように軽かった。