聖なる夜に溺れて……(R)

剣菱家の令嬢は夢の中に居た。
いつもより少々早い時間だが、彼女はとにかく眠かったのだ。
それも単に腹が膨れているという理由で。

クリスマスパーティで振る舞われた大きなチキンを、悠理はほぼ一人で完食した。
もちろんそれだけでもお腹は十二分に満たされているはずなのに、その後、まるでウェディングケーキを彷彿とさせる、若きパティシエ渾身の作品をも、
ここぞとばかりに食べ尽くした為、多少の胃もたれすら感じていた。

パーティがお開きとなり、自室へと戻った悠理は、賑やかな衣装を脱ぎ捨て、下着姿でごろんと寝転がる。
柔らかなリネン。
花の香りがいつもより優しい。
存外華奢な身体を纏うガーリィなそれは、母、百合子が懇意にしているフランスブランドの物だ。
大学生になったのを機に、シンプルかつ機能的?なタマフクパンツから卒業した彼女の身の回り品は、少しずつ大人びた物へと変化していた。

━━━結局、来なかったな。

美童と可憐はデートで初めから無理だと聞いていた。
魅録は族のクリスマス集会。
どうせ朝日を見るまで走り続けるんだろう。
野梨子は母親のお伴でニューヨーク。
今ごろ光輝く寒空の下、買い物に付き合わされているはずだ。

清四郎も…………
大学の薬学研究会の集まりに参加するため、パーティには来れないと言っていた。
相変わらず、役立ちそうな人脈を得ようと自らの時間を割いている。
無意味とまでは言わないが、それにしても精力的に動きすぎだろう。
こんな大イベントの日に、恋人を一人きりにするなんて………。

だがその代わり、明日はたっぷりサービスしてもらう予定である。

そう、明日は会える。
クリスマスデートの為の洋服も靴も、バッグも準備万端。
あとはゆっくり休むだけ。
寝坊しないように………。

「ふぁーあ。も………寝よ。」

悠理は枕を抱き締め、あっさりと眠りに落ちた。
いつもなら寝酒にホットワインを飲むのだが、さすがに胃がパンパンで入る余地がない。

うとうと………

瞼を落とすと同時、夢の中へと引き込まれて行く。
穏やかな波に導かれるように。



夢は、キラキラと輝くイルミネーションから始まった。
なぜか自分が子供になっていて、清四郎と手を繋ぎ、クリスマスムードたっぷりの街中を歩いている。
彼は子供のようにはしゃぐ彼女を愛しそうに見つめながら、振り回される手をそのままに、優しく微笑んでいた。
目線から察するに、自分は小学生くらいなのだろう。
下から見上げた清四郎はカッコ良くて、とても立派な大人に見える。
もちろん、そんな子供目線の感想だけに留まらず、彼の色っぽい部分をも再認識させられ、無性にくすぐったく感じた悠理は、思わず肩を竦めた。

形の良い顎から耳への美しいライン。
太く逞しい首に、くっきりと浮いた喉仏。
薄く引き結ばれた唇の威力は、もうイヤというほど知っている。
情熱的なキスは幾度となく交わしてきた。
もちろん、それ以上のことも………。

男らしい魅力が、この角度からだとよく解り、頭の中がクラクラし始める。
目線が違うだけだというのに、いつもの数倍、胸が高鳴った。

「新しい遊園地に行きたいですか?」

「うん!」

そんな唐突な誘いにも、ただ無邪気に頷いてしまう。
これが夢だから…………いや、現実でも同じか。

慈愛に満ちた視線を感じながら、悠理は気恥ずかしく俯いた。
自分が幼い姿であることを、とてももどかしく思う。
どうやら洋服すら子供らしいものを身に着けていて、ベルベット素材のワンピースにフリルの付いたボレロ。
柄物のタイツに覆われた足は、黒いエナメルの靴を履いていた。

━━━━なんだよ、この少女趣味なかっこ。

らしくない姿に、明確な焦りがこみ上げてくる。

それだけではない。

手の大きさ。
歩幅の違い。
そして、何よりも彼の目が違っている。
いつもなら激しい恋心を伝えてくるはずの熱っぽい視線が、今はちっとも見当たらないのだ。
それが何よりも悠理の心を締め付けた。

嫌だった。
歯痒かった。
自分が女に見られないなんて。
我慢出来なかった。

「せぇしろ。」

「ん?」

「キスして?」

すると目を瞠った彼は、辺りを見回して、困ったように笑う。

「子供のくせに………何を言ってるんです。」

「こ、子供じゃないもん!」

叫び返しながらも、今の自分はどう見ても子供で、彼にとってそういった対象ではないと判ってしまう。

「はいはい。」

宥めすかされ、より一層ムキになってしまうところも、正しく子供なんだろう。
悠理は乱暴に手を振りほどき、正面から清四郎に飛び付いた。
まるで猿のように━━━

「子供じゃない!!あたいは………大人だ!だからキスしろよ!早く!!」

それでも彼の唇には届かない。
彼への想いが届かない。

悠理は思いっきり叫んだ。

「せぇしろっ!!」

「はい?」

夢から覚めたのはその瞬間。
瞼を開ければ真っ赤な男が、自分に覆い被さっていた。

「せ、清四郎?」

長い髭を蓄えた、否、付け髭をした本格的なサンタクロースの風情。
凛々しくも端正な顔立ちを損なわないのは流石だ。

「な、なんで、んな格好してんだよ?」

「パーティに参加できなかったお詫びですよ。驚かそうと思ったんですが、まさか、ぐーすか寝ているとは………失敗しましたね。」

「充分驚いたわい!だいたい、この体勢は何?寝込みを襲うつもりだったのか?」

「おや、ダメでしたか?」

いけしゃあしゃあと言い放つ男に組み敷かれた身体は、彼女が身を捩ってもびくともしない。
体重差だけではない、圧倒的な力。

いつもと違う雰囲気の清四郎は、いつもと同じ目で悠理を貫いていた。
焼け焦げるように求められる快感。
欲しかったものがここにある。

「ダメ………」

「悠理?」

「あたいをもっと気分良くさせてくんなきゃ、抱かせてやんない。」

夢の中の悔しさが、未だ燻っているのだろう。
思わぬ我儘が口から飛び出す。

「………良いですよ。今宵の僕はサンタクロースですからね。望みを叶えてやりましょう。」

彼は悠理の全身を、その甘く蕩けそうな視線で愛撫し始めた。

「可愛い下着ですね。白い肌にとても似合っている。」

触れるか触れないかまで近付いた唇が、体の輪郭を辿って行く。
それは直接的な愛撫よりも、ずっと官能的な仕草で………。

かかる熱い吐息と、柔らかな付け髭が悠理を燃え上がらせ、そのまま天空のどこかへ誘われる気分がした。

上気し始めた頬。
まだ触れられてもいないのに、彼女の肌は小刻みに震えている。
異様に喉が渇き、清四郎のキスを……唾液を啜りたくなる。
悠理は襲ってくる期待に、すっかり負けてしまいそうだった。

「は……ぁ…………せぇしろ……」

快楽に引きずり込まれる恋人の様子を、清四郎の目が捉えて離さない。

「いい声だ。だけど僕はまだ触れてもいませんよ?」

「あ………」

付け髭を取り去った顔は、ギラギラとした男の欲望を湛えていた。
恋人の赤裸々な表情に、悠理の全身が疼き始める。

「どうして欲しい?」

「き、キスして?」

「キスだけ?」

意地悪な質問にはプルプルと首を振る。

「いっぱい…………気持ちよくして?」

「‘いっぱい’……ね。では望み通り、夜通し楽しませてやるとしましょう。」

清四郎はゆったりとした赤の衣装を忙しなく脱ぎ去ると、再び悠理を跨いだ。
その中央にあるものは明確に怒張し、血管を浮き立たせている。

ごくり
思わず唾を飲み込んでしまうほど逞しい性器に、悠理は目を釘付けにさせていた。
しかし、直ぐ様覆い被さって来た清四郎の顔に一旦視線は流され、その整った唇へと意識が奪われる。

キスは好きだ。
清四郎から与えられる、微睡みのようなキス。
それは快楽への深淵を予感させ、心がゆっくりと色めき立つ。
しっとりと合わさった唇に、悠理は辿々しく応え、徐々に深く、激しく男を求め始める。
それを嬉々として待ち構えていた清四郎もまた、柔らかく淫らな感触を味わいながら舌を絡め、唾液を混ぜ合わせた。

永遠に交わしていたい。

そう願うほど、キスというものは切なさを含む行為だと感じる。
粘膜を重ね合わせるだけで、どうしてこんなにも互いを近く感じるのか?
大切に感じるのか?
陶酔した頭に浮かぶ疑問をそのままにして、清四郎は悠理の鎖骨へと唇を滑らせていった。

小振りの柔らかな乳房を片手で揉み解しながら、下着のストラップを口に食み、肩から下ろす。
いつ見ても、どれだけ見ていても飽きないその可憐な膨らみは、淡い花の色をしながら、清四郎を誘っていた。

身体の上をなぞるように這う舌の動きに、陥落していく悠理の思考。
胸のてっぺん付近をちろりと掃くように撫でられ、そして脇へと移動する。
全てを味わい尽くされてもなお、悠理は待ったをかけない。
この先の快感を待ち遠しく思う自分からは、決して逃げられないことを彼女は知っているのだ。

淡く、震えるような心地よさに、自然と足が持ち上がる。
清四郎の手は優しくその膝小僧を撫でながら、太ももへと滑り落ち、恥ずかしそうに身を捩る悠理を真っ直ぐに見つめていた。

「悠理………触れるぞ。」

「………ん。」

下着の隙間から差し込まれた指が、感度の良さを暴きたてる。
濡れてとろとろに滴ったそこは、淫らな音を立て、悠理の羞恥を煽り続けるが、足を閉じることは許されず、ただ男の指の抜き差しに喘ぐことしか出来ない。

「はぁ………もう駄目っ。だめ、だ………んっ!」

切羽詰まった声すらその口に奪われ、悠理は弾けるように身を跳ねさせた。
一度目の絶頂が訪れた後、しとどに漏れ出た淫水を恥じる。
シーツはひんやりと冷たかった。

二度目の絶頂は、彼の唇で与えられた。

互いに一糸纏わぬ姿。
声なき声をあげる悠理を上目遣いで見つめながら、白い内腿を両手で押し広げ、ぱっくりと割れた秘裂へと唇を近付ける。
何度も行ってきた口淫。
彼女の色、形、反応、全てを清四郎は知っている。

ぴちゃり
下から上へ敏感な突起を舐め上げれば、息を呑んだ悠理の背が弓なりに反り返る。
巧みな舌技で嬲り、ザラついた表面で肉の突起を愛撫すると、敏感な体は面白いほどビクビクと跳ねた。

「あぁ………気持ちいぃ!せぇしろぉ………」

「もっと啼きなさい。……おまえのそんな声はすごく興奮する。」

清四郎はそっと、自身の屹立へと手を伸ばした。
ビンビンにいきり立つ己を軽く上下に擦るだけで、簡単に達せそうなほど昂っている。
力なく開いた彼女の足をそのままに、清四郎は音を立て、秘所を舐めしゃぶり続けた。

先ほどから小さな肉粒ばかりを攻めているせいで、痛々しいくらいに勃起したそこは、真っ赤に充血している。
もはや毒にしかならぬ甘美な刺激に、悠理は必死で泣いて請うた。

「も……もぉ……むりぃ…………!」

限界まで焦らされた絶頂を手繰り寄せようと、手を伸ばし叫ぶ。
逃げ惑う腰を引き寄せた清四郎が、尖った先端にチュルチュル……と音を立て吸いつけば、悠理は無我夢中で頭を振りながら、真っ白な世界へと飛び立った。

不規則に震える身体。
だらしなく伸びた脚。
濡れた口を拭い、膝で立ち上がる清四郎。

鈴口から滲み出した透明な水を、己全体にまぶしつけ、彼は深く深呼吸した。

まだ幼い色を残した秘唇はぱっくりと口を開け、男を待ち構えている。

その狭く柔らかい膣に捩じ込み、目眩く快感を貪り、やがて彼女の中を白濁したもので汚すまで………アドレナリンは脳内で噴出し続ける。
それでも興奮が止むことはないのだろうけど。

赤く色付いた肉芽の下にある蜜口は、トロトロとした蜜で濡れそぼり、物欲しげな収縮を繰り返している。
清四郎の切っ先は甘い蜜をたっぷり絡めた後、静かに沈み込んでいった。
細い腰を抱き寄せ、胸の先端を弄りながら、快感を分散させる。
そうでもしないと、悠理の胎内は直ぐにでも清四郎を搾り取ろうと煽動するため、男としては非常に困るのだ。
早漏………なんてレッテルは、プライドの高さを誇る男にとって無用な物。
無論、回復力には定評があるが。

「悠理………動きますよ。」

「せぇしろぉ………」

どろどろになった意識の中、悠理は清四郎の目を見つめ、頷く。

繋がった身体は誰よりも近くに居るのだけど、あの夢の中のもどかしさを思い出せば、すぐに快楽へと追いたててほしいと感じる。

逞しい腰から繰り出される激しい律動にとことん溺れたい。
その情熱的な瞳で、燃やし尽くしてほしい。

「優しくなくていいから………無茶苦茶にして………?」

心臓が止まるような一撃に、清四郎は息をのんだ。
いくらクリスマスとはいえ、これはサービス過剰というものだろう。

だが、彼女の望みを叶えると約束したのも確かなことで………

清四郎は悠理に身を被せると、優しく唇を啄み、離れる瞬間にそっと呟いた。

「………後悔、するなよ?」





翌朝━━━━

太陽は厚い雲に覆われ、冷たい空気の中、雪が降り続いていた。
朝………ではなく、昼近くになって起きた二人は、部屋に用意されたブランチを食べ尽くすと、互いに顔を見合わせ、クスッと笑う。

「どうします?」

「ん~・・・どうしよ。」

「確か予定では、新しく出来たテーマパークに行くんでしたね?」

「でもこんな雪だし………」

「おや、雪は好きでしょう?」

「いいの?足元濡れるよ?」

「そこはそれ。サンタクロースのブーツがありますから。」

「ぷっ!!ほんとだ!」

白い布袋から出てきたのは、悠理への小さなプレゼントと自身の着替え。

「これ、何?」

「開けてみてください。」

目を輝かす恋人を目の当たりにするまで、僅か数秒。
掌サイズの箱の中身は、二人の未来へと繋がっている。

清四郎は胸の中で呟いた。

メリークリスマス。
この先何度でも祝おう。
死が二人を分かつまで・・・・