ひな祭り(小話)

三月三日は桃の節句。
剣菱邸では百合子主催の人形祭りが開かれていた。ご自慢の巨大な雛壇には多くの人形たちが並べられていて、そのほとんどが全国の名高い職人に作らせた銘品である。

一部の若いメイド達も、この日ばかりは可愛らしい着物に身を包んで白酒を飲み、赤く頬を染めている。
悠理に至っては無論、十二単ばりの衣装が用意されており………屋敷内は華やかな空気に包まれていた。

「なぁ、せぇしろ。この人形、おまえにちょっと似てない?」

「………そうですかねぇ?」

「似てる似てる。ほら、何考えてんのかわかんない無表情。───やっぱ似てるよ。笑」

「む。…………人形なんて、皆そんなものでしょう?」

「まさか!一つ一つ表情違うんだってば。よーく見て見ろよ。」

「ふむ…………確かに。こちらの清楚なお雛様はどことなく野梨子に雰囲気が似てますね。あぁ、こっちは可憐かな?ぽってりとした唇がそそられるな。これは魅録の母君にそっくりだし………無駄に色っぽいですねぇ。」

「むっ!」

「こちらなんて、いつぞやの旅館の女将に似てますよ。なかなか大人っぽく仕上がっていて、着物を脱がせたら、さぞや………」

「ど、どスケベ!!!」

「ふふ………冗談です。ちょっとした仕返しですよ。」

「もぉ!!変な目で見るなよ!」

「はいはい。人形に嫉妬せずとも、おまえが一番綺麗ですよ。たまにはおばさんの趣向も悪くないですな。とてもよく似合っています。」

「うん。清四郎も………すごく似合ってる。着せかえ人形はヤだけど………そんな凛々しいおまえ、わりと………」

「わりと?」

「…………………………好き。」

「…………殺し文句ですね。そんな台詞を聞かされたら、直ぐにでも寝室にこもりたくなりますよ。」

「あほ、何言ってんだ!それにこの着物、むちゃくちゃ脱がせにくいぞ?重いの何のって………」

「それこそ攻略する楽しみがあるじゃないですか。よし、早速試してみましょう!おばさん、お先に失礼しますよ。」

百合子をはじめ、メイドたちが意味深な笑みを浮かべる中、清四郎に抱きかかえられた悠理は寝室へと運ばれる。

重さは悠理の体重+10キロほどもあったが、獲物を前にした彼にとって、それくらい苦でも何でもなかった。

無事結合する頃、二人はすっかりくたびれていた。それでも、滅多にないコスプレ故、興奮は高まり、結局は日が変わるまで楽しんでしまう。

 

「昔の女って………大変だったんだなぁ。」

「別に………十二単で寝る訳じゃありませんよ。」

「にしてもさ、いやな男の“夜這い”、断るにはもってこいの衣装じゃん?」

「ふ………男は本気であれば、そんなことくらいで諦めたりしませんがね。」

「ふーん、そなの?」

「ええ。」

言いながら伸びる長い腕。薄い着物一枚羽織った悠理の肌をまさぐり始める。

「あ………こら!もう、寝たいのにぃ………」

「………おまえの色っぽい襦袢姿がいけないんですよ。」

 

色欲にまみれた一組の番(つがい)。
雛壇に座るお雛様達の溜息も、さぞや深かったことだろう。