信州にある野梨子の親戚宅で起こった不思議なお話。
野梨子編(魅録視点)
その日、野梨子は憂い顔で窓の外を眺めていた。 今にも雨が落ちてきそうな空模様。 声をかけるべきかどうか迷ったが、部屋に漂う湿気に両肩が重く感じた為、俺は思いきって明るい声を出してみた。 「じめじめと鬱陶しいよな!これじゃバイクにも...
野梨子編
パキッ 弾けるような音と共に、瑞々しい蓮の茎が折れる。 「野梨子さん、一体どうなさったの?心ここにあらず、ね。」 「━━━━ごめんなさい。」 華道は五歳から嗜んでいる。 母に連れられ、池之坊の高い敷居を跨いだ。 今は...
その後の二人
信州での事件は、十日も経たぬ内に記憶から薄れていった。 あの後、別荘へと戻り、事件の概要を語り聞かせた四人。 可憐と美童は「行かなくて良かった!」と口を揃え喜んだ。 悠理は雨に濡れた所為ですっかり風邪を引き込み、せっかくの...
伊織編
「伊織は良い男だねぇ。」 そんな評価を下されたのは、齢15の頃。 言った相手は、家に出入りしていた花屋の後家で、一回り以上も離れていた。 男好きする白い身体を使い、艶かしく誘ってくる。 年頃といえば年頃。 断る理由など思いつか...
本編
しとしとしと 空から零れる涙は悠理を濡らす。 細い肩に掛けられた薄い浴衣がじっとりとその重さを増してゆき、痛いほどの冷たさに肌が震えた。 遠くより聴こえてくるは女の声。 男に取りすがる絶望の悲鳴。 ━━━━貴方は………...