waiting in vain

────好きだよ、清四郎。

そう言えば、あいつは嬉しそうに笑う。
どんなに不機嫌だろうと、一瞬で変わる顔色。
これはあたいだけが使える魔法。

────悠理ってすごいよね。

美童が感心する。

まあな。
あの扱いにくい男を転がせるのはちょっと嬉しい。
野梨子にだってきっと無理だもん。

惚れられて付き合って、やっと一年。
最初は喧嘩も多かったけど、今じゃ周りも驚くラブラブカップル。
このまま上手く行けばゴールイン!
なーんて、別に結婚なんか焦っちゃいないけどさ。

大学生とは思えない忙しさで、あいつは必死に何かを掴もうとしている。

早く、早く───

言わなくてもわかるよ。
父ちゃんの後を追いかけてんだよな?
でもそんなに焦んなくてもいいよ。
あたいは昔みたいに逃げたりしない。
のんびり、ゆっくり、青春しよーよ。

ま、言ったって清四郎だもん。
無理だよなぁ。

あたいに負けてから、がむしゃらに修行してきた男。
本気になったら一直線。
昔っから変わんない。

だからなのか、恋も同じだった。
自覚してからは人が変わったように迫ってきて、そんなヤツに本気になられたら敵わないのは当然。
あっという間に捕獲されちゃった。

「はぁ~・・・終わった。」

パソコンの音が止んで、ようやく清四郎がこっちを向く。
んー・・・かれこれ三時間。
よくもまあ、大人しく待ってたもんだ。

「お待たせしましたね。」

「くたびれた。」

何の仕事だか知んないけど、父ちゃんや兄ちゃんに任せられた課題と毎日格闘する清四郎は、すっかり社会人の顔してる。
昔よりずっと───うん、逞しい。

「もうこんな時間か。………映画はさすがに遅いですね。夕食は?」

「さっきパンケーキ食った。」

「…………そうか。我慢させてたんだな。」

腰を伸ばした後、ゆっくりと近付いてくる。
もう何百回と交わした優しいキスの為に。

「どうする?夜遊びに出掛けますか?」

ご機嫌取りも慣れたもんだけど、あたいが今欲しいのはそれじゃないんだよな。

「同じ徹夜するなら………違うことしよーよ。」

「…………ほぉ。誘いましたね。」

一瞬にして変わる清四郎の目。
爛々と輝く男の目に、身体が熱く火照る。

「うん、誘った。」

「なら、覚悟することです。」

ふん。覚悟なんていつだって出来てらい。

あたいはシーツを取り払い、清四郎にしがみつく。
鍛えられた肩に男を感じながら、溶けてゆく心。

「………好き、せぇしろ…………」

「………愛してる、悠理。」

切ないほどの想いを伝え合い、夜へと向かう。
待ち惚けた時間は、こうして埋め合わされるんだ。