「おかえり~。」
「ただいま。ん、なんだ?悠理、えらく難しい顔して。」
「兄ちゃん~(涙)。見てよ、これ!清四郎の奴、こんなにも自習用の問題押しつけやがったんだ。“高校最後の定期試験くらい人並みの点数目指しなさい”───だってさ!今更頑張って点採れるくらいなら、とっくに赤点脱出してらぁ!」
「はは………確かに。どれ?お、数学か………」
「助けて、お兄さまぁ!」
「おいおい…………自分で解かなきゃ意味ないだろ?清四郎君の好意を無にするつもりか?少しくらいなら教えてやるから、ほら、鉛筆持って。」
「でもさ、結構難しい問題なんだじょ?」
「父さんほどじゃないが、こう見えて、わりといい大学出てるんだけどな………」
「あ、そだった。ごめんごめん。」
「とはいえ、確かに難しい。勉強から離れて10年以上経つが………うーん………」
─────20分経過
「あのさ、もいいよ。解けないんだろ?」
「いや待て…………もう少しで………ブツブツ」
「あたい………寝る。おやすみぃ。」
結局、豊作は一晩がかりで清四郎が用意した問題集を解くことに成功した。
そして分かったこと…………それは。
「やれやれ。こんな小難しい問題、悠理に説けるわけないだろ。………となると、清四郎君は泣きつかれる事前提でこれを渡したんだな。随分とひねくれた愛情だが、彼もまだまだ子供っぼいじゃないか。…………微笑ましいよ。」
そう遠くない未来。
彼らは今と違った関係に進み、それはきっと欲深い両親の胸を満たすことだろう。
妹を扱える唯一の男。
羨ましくなるほど才能に満ちた男。
眠気を取り払うべく豊作が手にした珈琲は、いつもよりずっとまろやかに感じた。