寄せては返す波。
天辺で輝く太陽は、この世の全てを照らすように明るい。
何度も訪れた南の島の浜辺は、いつもと同じ景色で出迎えてくれる。違うと言えば────
「悠理。」
「清四郎。」
優しい風と共に現れる、生まれて初めての恋人。
サングラスがあまり似合わないこの男が、真夏の風景の一部となった。
「いい島ですね。」
「だろ?父ちゃんがすごく気に入って、四年前に買い上げちゃったんだ。そん時は何も無かったけど、今は会員制ホテル作ったから、割と居心地良いよな。」
「ほぅ。そんな島を………僕たちにくれると?」
「そりゃ………おまえがあんなこと言い出すから………」
大学をかろうじて卒業出来ると知ったその日。
清四郎は唐突に想いを告げてきた。
長く片思いしていたことに気付いた、と珍しく照れながら。
────好きです。絶対に、おまえの心を手に入れて見せます。
目がマジだった。
だから怖かった。
速攻で自宅へ逃げた。
でも当たり前のように追ってきた。
夜、皆で夕飯を食べようとしていたその時、目を潤ませた五代に連れられ、父ちゃんと母ちゃんの前に深々とお辞儀をして見せた。
「結婚を前提に、悠理へ交際を申し込みました。」
食べていたオマール海老が、父ちゃんの口から零れた。
キャビアが乗ったクラッカーを母ちゃんは落とした。
あたいは────
暴発したように髪が逆立った。
当然二人は、嬉々として手を叩き、こっちの気持ちなど聞かず宴会の準備を始める。
父ちゃんに至っては、今すぐにでも全財産を譲る勢いで清四郎の肩を抱き寄せた。
それからというもの…………
結局、清四郎の手から逃げられず、まんまと奴の思い通りにコトが運んでしまう。
昔と違うのは………あいつの目があたいだけを真剣に見ているとこだろうか?
絆されたわけでは、決してない。
諦めたという言葉も適さない。
ただ…………
あたいは確かに、清四郎の本気とやらに、心奪われてしまっただけ。
まだ“好き”だと言えやしないけど。
昔よりも少し近い距離にいる男に今は、不思議と落ち着く自分を感じている。
「そん代わり、来年から死ぬほどこき使われるぞ?」
「覚悟してますよ。」
憎たらしいくらい爽やかな笑顔。
昔より遙かに多くの知識と強さを得て、その上、心の余裕までをも手に入れた男。
そんな男があたいなんかを選ぶなんて、一体どんな気分なんだろう。
「じゃ…………とっとと式挙げないとな。仕事始めたら、時間なくなっちゃうだろ?」
「………………おまえも覚悟が決まりましたか。」
「いいか?“釣った魚に餌はやらない”───なんてことしたら、即離婚だかんな!」
「まさか。」
嬉しそうに抱き寄せられ、窒息しそうなほど口を塞がれる。
この男のキスは………ほんとに危険だ。
「安心しろ。溺れるくらい………愛してやりますから。」
囁かれた言葉が真実かどうかはともかくとして、あたいはもう、こいつが居ない夏は楽しくないって思ってる。
海も、
空も、
風も、
二人で感じる全てが心地良い。
だからずっと─── 一緒に居よう。
そう心に決めたんだ。