清四郎は怖い────
優しい顔をして、
優しい声をして、
あたいの全部を暴いてしまう。
逃げることも、
拒むことも出来ない追い詰め方で、
あたいを籠の鳥にしてしまう。
いっつもそう。
昔から、そう。
優しいのに、怖い。
手も足も出ないのは何故?
ちっともあたいらしくないじゃないか。
涙を流して、
引き千切られるような痛みを感じながら、
あいつの腕に捕まってしまう。
どうして?
「……………何か言いたげですね。」
汗だくの首筋。
でも息は上がってない。
清四郎にはお見通しなんだ。
あたいのことなんて全部。
「…………おまえ……怖いんだよ。」
「怖い?」
力じゃない。
強さじゃない。
それはきっと想いの深さ。
「時々、息が出来なくなる。」
酸欠の金魚みたいに水面に顔を出そうとするけど、息を吹き込んでくるのは清四郎の口だけ。
その僅かな酸素で生かされてる気分になる。
「それがどうした?」
近付いてくる指に思わず噛みつきたくなるけど、力が出ない。
輪郭をなぞるその指は優しいのに、目だけは獰猛に欲深くて────
「………あたいのこと、壊したいのか?」
「違うな。一緒に………溺れたいんですよ。」
抱きかかえられ、貫かれる。
嵐のようなキスと熱い身体。
こんなの………抵抗出来るはずないじゃないか。
揺さぶられ、絶頂へと強制的に押し上げられる自分は、この男の一部になったかのように自由が利かない。
「悠理…………おまえは………知らないんだ。僕たちのこの形が……この触れ合いが………一番自然だということを。」
自然?
これが自然なのか?
分からない。
分からない。
でも清四郎の必死な顔が、あたいの中で熱へと変わる。
情けないほどの喘ぎ声が押し出され、頭がグチャグチャになっていく。
「んっ……ぁっあっ!!あ…………!もぉ………無理ぃ………っ!」
「ゆうりっ………!」
放り投げられた宇宙に二人きり。
だだっ広い空間と、酸欠の身体。
でも清四郎と一緒なら、それはむしろ望んだ世界なのかもしれない。
快楽に堕とされ、
自由を奪われても、
こいつと一緒なら────
「あたいも……………溺れたいよ。おまえと………」
ぬるい幸せよりも、こんなのがいい。
あたいの全てを満たす男はこの世に一人だけ。
菊正宗清四郎────────その男だけ