※大学部での小話
「ねぇ、菊正宗君の周りって、とびっきり可愛い女の子、三人もいるわよね。」
「………それがなにか?」
「誰が本命なの?」
「は?」
「誰を恋人にしたいわけ?」
「…………誤解しているようですが、僕たちはただの友人ですよ。」
「あら!あんな綺麗どころが三人もいるのに、女を意識したことないわけ?それっておかしくない?」
「そう言われましても………」
「私が想像するに………白鹿野梨子さんがそうなんじゃないの?」
「よく聞かれますが………有り得ませんね。生まれたときから隣なんですよ?家族のようなものです。」
「まぁ、勿体ない。───なら、黄桜可憐さんかしら?彼女、女の私から見ても、すっごく素敵。色気たっぷりよね。クラクラきちゃわない?」
「お陰様で。耐性がつき過ぎて、なにも感じませんね。」
「菊正宗君、それおかしいわよ………?もしかして………ゲイ?」
「その手の詮索は不愉快です。」
「フフ。ごめんごめん。ならやっぱり───剣菱悠理さんかしら?一時期は婚約までしたものね?私、あの婚約会見、テレビで観てたの。貴方済ましてて、かわいげがなかったわー。」
「………人間未満の猿にそんな気は起きませんよ。」
「あら。じゃあ、何故婚約したの?婚約したらいずれは結婚でしょ?夫婦になるのよ?その気になれない人間と夫婦関係なんて結べるのかしら?」
「…………それは、ですね。あの時は慌ただしくてそこまで頭が回ってなくて………」
「ふーん…………頭が回らない貴方なんて、想像できないわ。」
「僕も人間ですから。」
「嘘。ほんとは考えたでしょ?彼女との未来を。それを受け入れたからこそ、婚約したんでしょう?」
「………そんな話、蒸し返さないでください。それに………あいつはあの時、僕を徹底的に拒否したんです。たとえ結婚していても、何も変わりませんでしたよ。」
「あら。プライドが傷ついちゃったのね。お気の毒様。そりゃあ貴方ほどの男を振る女なんて、きっとこの世に数えるほどしかいないわ。そうでしょ?」
「…………えらく意地悪ですね。この間のレポートの評価で、僕に負けたからですか?」
「ま、それもあるけど………純粋に興味があるの。貴方がどんな女を求めてるのか。私に可能性は残されているのか──」
「…………なるほど。」
「私、彼女たち三人には及ばないけど、悪くない方だと思うのよね。後は、貴方の好みかどうかだけ。」
「充分、美人ですよ。」
「ありがと。で、どうなの?ストライクゾーンには収まっているのかしら?」
「僕は………貴女もご存じの通り、相当ひねくれた人間なんでね。お互いの性格を考えると、とてもじゃないが上手くいきそうにありませんよ?まるで反発しあう磁石のようだ。」
「それって、体の良い振り方ね。要するに私は対象外ってこと?」
「…………済みません。」
「ふーん、詰まらないわ。でも無理強いするのは私の美徳に反するから、諦めるしかないわね。」
「良きライバルとしてなら、いくらでも仲良くさせてください。」
「…………ありがと。次は絶対に負けないから!見てなさい!あの教授を唸らせるレポート、書き上げてやるわ!」
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「やれやれ。」
「悪かったな、“人間未満の猿”で。」
「…………聞こえてたんですか?というか、おまえは地獄耳だったな。」
「ひどい言われようじゃんか。むかつく。」
「あのねぇ……おまえが言ったんですよ?大学生の間は交際していることを伏せていたいと。色んな方面から嫌がらせを受けるからって。」
「…………だっておまえモテんだもん。あたいヤだぞ。鞄の中にカッターの刃とか入れられんの。」
「………そんな古風な嫌がらせ、今時誰もしませんよ。」
「そっかな?」
「そうですよ。」
「だいたいあたいみたいな猿………おまえ、ヤじゃないの?本音じゃ、恋人って紹介したくないだろ?」
「心底馬鹿ですね。したいに決まってるでしょ!さっき彼女に告げた言葉は大嘘です。おまえはもう猿なんかに見えてません。充分可愛い女ですよ。何せ僕が毎日可愛がってるんですから。」
「ほんと?馬鹿にされない?あたい………ただでさえ馬鹿で有名なのに…………くすん……」
「ああ、悠理………。ねぇ?もういいでしょう?良いですよね?公表しても。全身全霊で大切にしますから。どうか“イエス”と言ってください。」
「…………わぁった。……いいよ……別に。」
「良かった────あ、そうだ。この際、二度目の婚約発表でもしますか?てっとり早いですし。」
「こ、婚約??…………ん~、そりゃ母ちゃんたちは喜ぶだろうけど………」
「今度こそ誰にも邪魔させませんよ。もし、誰かに嫌がらせされたら、どんな些細なことも必ず僕に言いなさい。わかりましたね?」
「おい、なにするつもりだ?」
「それ相応の報復を……………ふふふ………」
「こ、こわっ!」