大学小話①

※大学部での小話

 

「ねぇ、菊正宗君の周りって、とびっきり可愛い女の子、三人もいるわよね。」

「………それがなにか?」

「誰が本命なの?」

「は?」

「誰を恋人にしたいわけ?」

「…………誤解しているようですが、僕たちはただの友人ですよ。」

「あら!あんな綺麗どころが三人もいるのに、女を意識したことないわけ?それっておかしくない?」

「そう言われましても………」

「私が想像するに………白鹿野梨子さんがそうなんじゃないの?」

「よく聞かれますが………有り得ませんね。生まれたときから隣なんですよ?家族のようなものです。」

「まぁ、勿体ない。───なら、黄桜可憐さんかしら?彼女、女の私から見ても、すっごく素敵。色気たっぷりよね。クラクラきちゃわない?」

「お陰様で。耐性がつき過ぎて、なにも感じませんね。」

「菊正宗君、それおかしいわよ………?もしかして………ゲイ?」

「その手の詮索は不愉快です。」

「フフ。ごめんごめん。ならやっぱり───剣菱悠理さんかしら?一時期は婚約までしたものね?私、あの婚約会見、テレビで観てたの。貴方済ましてて、かわいげがなかったわー。」

「………人間未満の猿にそんな気は起きませんよ。」

「あら。じゃあ、何故婚約したの?婚約したらいずれは結婚でしょ?夫婦になるのよ?その気になれない人間と夫婦関係なんて結べるのかしら?」

「…………それは、ですね。あの時は慌ただしくてそこまで頭が回ってなくて………」

「ふーん…………頭が回らない貴方なんて、想像できないわ。」

「僕も人間ですから。」

「嘘。ほんとは考えたでしょ?彼女との未来を。それを受け入れたからこそ、婚約したんでしょう?」

「………そんな話、蒸し返さないでください。それに………あいつはあの時、僕を徹底的に拒否したんです。たとえ結婚していても、何も変わりませんでしたよ。」

「あら。プライドが傷ついちゃったのね。お気の毒様。そりゃあ貴方ほどの男を振る女なんて、きっとこの世に数えるほどしかいないわ。そうでしょ?」

「…………えらく意地悪ですね。この間のレポートの評価で、僕に負けたからですか?」

「ま、それもあるけど………純粋に興味があるの。貴方がどんな女を求めてるのか。私に可能性は残されているのか──」

「…………なるほど。」

「私、彼女たち三人には及ばないけど、悪くない方だと思うのよね。後は、貴方の好みかどうかだけ。」

「充分、美人ですよ。」

「ありがと。で、どうなの?ストライクゾーンには収まっているのかしら?」

「僕は………貴女もご存じの通り、相当ひねくれた人間なんでね。お互いの性格を考えると、とてもじゃないが上手くいきそうにありませんよ?まるで反発しあう磁石のようだ。」

「それって、体の良い振り方ね。要するに私は対象外ってこと?」

「…………済みません。」

「ふーん、詰まらないわ。でも無理強いするのは私の美徳に反するから、諦めるしかないわね。」

「良きライバルとしてなら、いくらでも仲良くさせてください。」

「…………ありがと。次は絶対に負けないから!見てなさい!あの教授を唸らせるレポート、書き上げてやるわ!」



「やれやれ。」

「悪かったな、“人間未満の猿”で。」

「…………聞こえてたんですか?というか、おまえは地獄耳だったな。」

「ひどい言われようじゃんか。むかつく。」

「あのねぇ……おまえが言ったんですよ?大学生の間は交際していることを伏せていたいと。色んな方面から嫌がらせを受けるからって。」

「…………だっておまえモテんだもん。あたいヤだぞ。鞄の中にカッターの刃とか入れられんの。」

「………そんな古風な嫌がらせ、今時誰もしませんよ。」

「そっかな?」

「そうですよ。」

「だいたいあたいみたいな猿………おまえ、ヤじゃないの?本音じゃ、恋人って紹介したくないだろ?」

「心底馬鹿ですね。したいに決まってるでしょ!さっき彼女に告げた言葉は大嘘です。おまえはもう猿なんかに見えてません。充分可愛い女ですよ。何せ僕が毎日可愛がってるんですから。」

「ほんと?馬鹿にされない?あたい………ただでさえ馬鹿で有名なのに…………くすん……」

「ああ、悠理………。ねぇ?もういいでしょう?良いですよね?公表しても。全身全霊で大切にしますから。どうか“イエス”と言ってください。」

「…………わぁった。……いいよ……別に。」

「良かった────あ、そうだ。この際、二度目の婚約発表でもしますか?てっとり早いですし。」

「こ、婚約??…………ん~、そりゃ母ちゃんたちは喜ぶだろうけど………」

「今度こそ誰にも邪魔させませんよ。もし、誰かに嫌がらせされたら、どんな些細なことも必ず僕に言いなさい。わかりましたね?」

「おい、なにするつもりだ?」

「それ相応の報復を……………ふふふ………」

「こ、こわっ!」