青い鳥

「母ちゃ~ん、んな怒んなよぉ。」

「怒って当然でしょ!初等部に入って早々問題ばかり起こして。毎回呼び出される身になってちょうだい。あなた、本当に女の子なの!?」

「だって……よわっちぃ奴見たら虐めたくなるんだもん。」

「悠理!!」

「むぅ。」

「いいこと?もしまた呼び出されるような事があれば、一ヶ月おやつ抜きですからね!」

「げっ!!わ、わかった。もうしない!」


「清四郎ちゃん。どうしたの?」

「剣菱さんが怒られてる。あれってお母さんかな?」

「…………クラスの男子の背中にナメクジ入れたんですって。ほんと野蛮な人。」

「ナメクジ………へぇ。そんなの触れるのか。僕、触ったことないや。」

「清四郎ちゃん?」

「野蛮というより、野生児なんだね。」

「…………。」



「僕のあの時の見解は正しかったということですな。ま、それも今更か。」

「んあ?」

南アメリカ、アマゾンの奥地で、悠理は清四郎と新婚旅行を楽しんでいる。
ワニを捕まえ、猿を追いかけ、珍しい生き物には片っ端から触れてゆく妻。
清四郎は汗ばむ額を拭い、やれやれと首を振った。

「ジャングルクルーズもここまで本格的だとは思いませんでしたよ。魅録ですら裸足で逃げ出すでしょうな。」

「魅録ぅ?なんで魅録を引き合いに出すんだ?あたいの旦那はおまえだろ?」

「…………まあ、それはそうですけど。考えたら、おまえに付き合える男なんて、この世で僕くらいですよね。もはやこれは運命としか考えられない…………」

「あっ、清四郎!その木に張り付いてるモモンガ捕まえろ!」

「…………可哀想な事を言うな。怯えてますよ。」

不満げに頬を膨らませる悠理だったが、彼の言うとおり、確かにこんな旅、それも新婚旅行をオーケーしてくれる男は清四郎くらいしかいない。

好きだから結婚した。
でもそれ以上に、自分の生き方を認めて貰えているからこそ、結婚しようと思ったのだ。

「せぇしろ………」

「ん?」

「愛してる。」

「…………どうしたんです?いきなり。」

「愛してるよ。おまえほどあたいに相応しい男はいないもん。」

「…………随分と上から目線ですが、まあ”愛してる“の言葉に免じて、素直に喜んでおきましょう。」

ほのかに照れる清四郎の頭上を、二羽の美しい鳥が飛翔する。

「あ!青い鳥だっ!」

「え?」

「ツガイかなぁ?可愛いじょ。」

「捕まえませんよ?」

「うん、そんなことしなくていい。だってそいつら、あたいたちと同じで仲良さそうだもん。」

きらきらと輝く目でいったい何を夢みているのか。
大人になっても変わらぬ奔放さは、清四郎を虜にして止まない。

昔から憧れていた。
彼女の馬鹿さ加減を知っても、離れられなかった。
自分には無い、貴重な何かを持ち続けている悠理を、決して手放したりしたくなかった。

「僕も………おまえを愛してる。骨の髄までね……」

ピイィィイ……!

甲高い鳴き声に消された告白を、しかし悠理の鋭い耳はきちんとキャッチした。そしてポッと頬を染める。

「清四郎………ホテル、戻ろっか?」

「…………良い提案ですね。乗りましょう。」

二羽の鳥は空中で睦み合う。
二人の人間は………ひんやりとしたシーツで愛を交わす。

縛られない心で求め合えば、どんな場所も楽園へと変わり、永遠の愛だって見えてくる。

子供の頃のような素直さで───

清四郎は悠理という見事な鳥を、その手に掴まえた。