確かに────
確かに僕は彼女に告げた。
“初めてのデートなんです。いくらなんでも男同士のカップルには見られたくない。それなりの格好でお願いしますね。”───と。
今、その発言を三日前に遡って消去してしまいたい。
跡形もなく。
「……………何だよ?その顔。不満なのか?」
「……………いえ。」
「おまえが言ったんだぞ?“それなりの格好してこい”って。」
「そう………でしたね。」
(お釣りがくるレベルです。)
「夕べ可憐に見立てて貰ったんだ。母ちゃんに頼んだらフランス人形みたいにされそうで怖かったから。」
「似合ってますよ。とても──」
(可憐、明らかにやりすぎだ。面白がってるな。)
「こんなペラッペラだと、跳び蹴りも出来ないじょ。タイツどころか、ショートパンツすら履かせてくんないんだもん。」
「僕と一緒に居るのだから、喧嘩する必要もないでしょう?」
(その点に関しては可憐に同意します)
「よっく言う!いっつもあたいにばっか特攻させるくせに。おまえ、後ろで涼しい顔して見てるだけじゃん。」
「それはあくまで………過去のことですよ。」
(おまえの活き活きとした姿は見ていて楽しかったから………)
「ふ~ん。」
「しかし…………短いですね。」
「何が?」
「………スカート。」
(風が吹けば中身が見えるな。)
「だろ?でも男ってこーいうの好きだよな?美童はあからさまにニタニタするし、魅録だってなんだかんだ言って、ちょっとうれしそうだもん。」
「スケベ心をそそられますから。妄想させてしまうんですよ、いろいろと。」
「清四郎も?」
「…………まぁ、それなりには。」
(それなりなんてもんじゃありませんよ。頭の中でお経でも唱えなきゃ、今すぐにでもその辺のホテルに引きずり込んでしまいそうです。煩悩退散、煩悩退散………)
「どんなこと考えてんのかなぁ?」
「ふ…………。聞いたら最後、後悔しますよ?」
(108つの煩悩を捏ね固めて、どろどろの欲望でコーティングした感じです。)
「なんだよ、それ。」
「さ!そんなことより、まずは水族館でしたね。早く行かないとイルカショーに遅れます。」
「あ~そだった。急ごうぜぃ!」
ひらりと身を翻す悠理は女の基本がなっていない。
その柔らかな布はたったそれだけの動きでも空気をはらみ、きわどい部分を晒してしまった。
どうやら……下着はいつものタマフク柄。まだまだ幼い彼女にホッとするのも本音で。
────やれやれ。これは何よりも先に、タイツを買って履かせるしかありませんな。他の雄共に見せるには惜しすぎます。
僕は心に誓う。
これから先、デートの服装に注文などつけないことを。出来ればいつも通りのパンツスタイルを推奨させてもらいたい。
こちらの覚悟が追いついてない内は───