────幸せ?
そう聞かれて、曖昧に笑うしかないあたし。
幸せ………なのかしら。
この美貌と完璧なボディスタイル。
それに楽しい仲間たち。
ママは元気だし、特に困ったことはないけれど───素直に“幸せよ!”って笑うことは、まだ出来ない。
玉の輿を狙って、日々自分を磨き続けているけど、なかなかピッタリ来る男は現れないものね。
────高望みしすぎじゃない?
そんな声は無視無視。
だってあたしは“高望み”なんて思っていない。
それだけの男を魅了する力があるもの。
「可憐はほんと、可愛いよね。」
百万人の女に言う台詞をさらりと聞かされる。
美童。あんたって、ほんとスケコマシだわ。
でも言われて嬉しくないわけじゃない。
「可憐は、いい女だよな?」
魅録。
あんたに女の何が分かるっての?
適当に相槌打たないでよね。
でもまあ、悪くないわ。
“いい女”に違いないもの。
「気概は認めますけどね。男を見る目がイマイチですな。」
清四郎。 あんたの意見なんて聞いちゃいないわよ。恋する人間を馬鹿にして───
いつも偉そうに御託並べるあんたに、あたしの気持ちが分かってなるものですか!
───え?“馬鹿にしてない?”
嘘おっしゃい!
その目!その冷たい目が馬鹿にしてるって言ってんのよ!
───な、なによ。そんな落ち込んだ顔しないでよ。
よくよく聞けばこの男、今、片恋いの真っ最中らしい。
相手は誰?
ああ、あたしはダメよ。
あんたみたいな奴とは付き合えない。すぐに喧嘩別れしちゃうわ。
───え?有り得ないですって?
そうよね。ホホホ………(なんかムカつくわ。)
じゃ誰よ。
今更、野梨子ってんじゃないでしょうね。
違うの?
そう………じゃあ、誰?
柄になく言い澱む男に、あたしの第六感が働く。
────まさか、まさかよね?
その“まさか”が大当たりだと解ったのは、あの子の声が中庭で響き渡ったから。
「おーーい!清四郎、可憐!飯いこーぜ!父ちゃんが香港連れてってくれるからさぁー!」
すぐさま反応する清四郎を見て、確信が持てた。
何よ、その顔。嬉しそうじゃない。
───にしても、あんたが悠理をねぇ。
文句?文句なんてないわよ?
でも…………あんたみたいな男が、あんなめんどくさい子を好きになるなんて、恋って不思議だわね。
頷く清四郎の細められた目はすっかり悠理に奪われ、あたしの話なんて聞いちゃあいない。
あーあ。
どいつもこいつも、友達甲斐がないったら!
「数ある条件を捨て、飾り気ない相手を見ていれば、いつかきっと思う通りの恋愛が出来ますよ。」
………ですって!
偉そうに。
あのねぇ、あたしの方が恋愛に関してはキャリアがあるんだから!何年“女“してると思ってんの?馬鹿にしないでよね。
とはいえ───
清四郎の嬉しそうな顔を見てると、やっぱり”甘いスイーツ“だけで生きていくのも悪くないな、なんて思っちゃう。
まぁ、まだまだ若いんだし?
この先、どこにハーレクイン的な物語が転がってるかわからないし?
やっぱ、努力を止めちゃダメよね。
恋とステイタス。
両方手に入れてこそ、“最高の女”と認められるはずなんだから!
そうして過去の男達を嘲笑ってやるわ。
あたしを選ばなかったこと、後悔しなさい。
黄桜可憐!
もうすぐハタチ。
目指すはこの世で最高の男とゴールインすること。
だからそれまでは………安っぽい恋なんかで満足しないわよ。
誰もが羨む幸せをこの手に掴んでみせるわ!
絶対にね。