仮面を脱ぐ男(R)

夜の帳が下り───
昼間は騒がしい剣菱邸も闇の静寂に包まれる。
騒がしさの一端を担うこの家の令嬢も、今年25歳。
なんと、一人の娘を持つ若妻だ。

夫とは長い付き合いの末、二年前、結婚に踏み切った。
当然の如く婿入りした彼は、長男をさておき、直ぐ様’跡取り’と認められ、日々その辣腕を見せつけている。
昼間は冷徹、そして厳しく真面目な経営者の顔。
しかし夜は───
そんな仮面を剥ぎ取り、恐ろしく淫らな男に生まれ変わる。
皆が想像し得ないような、欲深き男へと。


「はぁ………今日も疲れましたよ。」

「うん。お疲れ。」

一歳半の娘が眠っていることを確認し、清四郎は夫婦の寝室へと戻ってきた。
肩が凝っているのか、腕を回しながらヨーロピアンテイストなソファへどっかりと座り込む。
外し置いた眼鏡は有名デザイナーの一点物。
繊細なフレームが、凜々しく整った顔に良く似合っていた。

座るや否や、無防備な眉間を揉み込み、溜息を吐く。
それは最近よく見かける光景。
時には5分ほど、同じような仕草を繰り返す。

夫の蓄積された疲労をそこはかとなく感じ取った悠理は、彼の近くへと体を移動させ、背後から覗き込む。
珍しく心配そうな表情で。

「あんま無理すんなよ?まだ若いんだし。」

「………そうですね。体を壊しては元も子もありませんから、気をつけますよ。」

昔と違い、自分の立ち位置をよく理解しているらしい。
清四郎は素直に頷いて見せた。

「あ、そだ。こういう時、確か、蒸しタオルがいいんだよな?」

突如閃いたのか、慌ただしく洗面所へと駆け込む悠理。
熱いお湯を白い洗面器に張り、その辺に置いてあったラベンダーのアロマオイルを数滴垂らす。
漂う芳香は清々しくも甘く、「あちちっ」と作り上げたそれを、悠理は夫の目の上にふわりと乗せた。

「ど?気持ちいい?」

「…………ちょっと熱いですが………まぁ、気持ちいいですよ。」

「へへ。」

勝手気儘な傍若無人。
それが彼女の専売特許だったはず。
しかし清四郎と恋に落ちてから、ふとした時にこういった思い遣りを見せるようになった。
優しくも奔放な行動は、清四郎の心を疼かせるに充分な働きを見せる。
彼の想いを刺激し、膨らませ、そして欲望へと直結させるのだ。

「………悠理。こっちへ。」

「あ、こら。まだそのままにしてなきゃダメだって………」

「来い。」

放った一言が彼女の自由を奪うと知っていても、清四郎は止めなかった。

夜は決して長くない。
そして自分は強く求めている。
膨らんだ想いを昇華させるには、到底足りないだろうほどに。

戸惑いつつ、しかしソファの前にやってきた悠理は、指示通り彼の足元に跪いた。
何が始まるかなど、言わずと知れたこと。

「………準備をして。」

「…………うん。」

夫がこうなれば、彼女は調教された奴隷のように従うほかない。
もし反論すれば、翌朝起き上がれないほどの責め苦が待っている。
しかしそれを期待する自分もどこかに潜んでいて………
悠理の身体は甘い痺れに囚われた。


そっと、スラックスの割れ目から取り出した屹立は、見事なまでに硬くそそり立っていた。
跳ね返るような弾力と、仄かな香り。
清四郎らしい、爽やかで淫靡な香りだ。
悠理の喉がごくり、と鳴る。

「…………疲れてんのに、もうこんななの?」

「男とはそんなものです。」

“疲れ魔羅”と呼ばれる現象を、悠理は結婚して初めて知った。
もちろん、疲労困憊で帰宅した夫が、ぎらつく目で獣のように襲ってくる───
なんて経験、両の手を一巡しても足りないくらいあったが、それが一般的な症状とまでは知らなかった。

押し倒され、
剥ぎ取られ、
啼かされる。

悦びに濡れる身体は、いつも恨めしいほど従順だった。

────しかし今日は特にすごいな。

悠理は目を疑う。
飛び出た凶器は硬く、そして太く、浮かび上がった血管までもが力強く脈打っている。

「ほら………舐めて。僕にそのやらしい姿を見せなさい。」

悠理は唯々諾々と従うしかない。
まずは両手で根元をそっと掴み、ふぅと息を吹きかける。
条件反射のようにピクンと反応するソレが、ちょっとだけ可愛い。
そして艶のある唇で、音を立てて口付けを。
何度も繰り返し、男の欲情を煽ってゆく。

熱く反り返った逞しさは、いつ見ても感嘆の溜息が溢れ、目が潤んでしまう。
自分には無い男の象徴。
これが腹の奥深くまで収まるなど、何度考えても不思議な話だ。

口淫は静かに始まった。
根元から這い上がる舌は赤く小さい。
もどかしいとすら感じる動きはあくまで拙いが、むしろ深い心地良さを生み出す為、清四郎は特に何も言わなかった。

焦れったさに高まる嗜虐心。
鼓動が速まり、喉が灼けるように渇いていく。
一刻も早く、悠理を汚したい。
そう願ってしまう自分は、理性の手綱を握るのに必死だ。

悠理が開き始めた先端をパクリと咥え込む。
舌を踊らせ、深い括れを重点的に攻める。
たが、その温かい粘膜で覆い尽くしても、清四郎の表情は特に歪んだりはしない。
ただ、その黒い瞳だけは爛々と輝き、妻の痴態を誇らしげに見下ろしていた。

ジュポ………ジュプ…………

湿った音が響き渡る。
愛らしい口はとても優秀で、深く飲み込んでは抜き出し、舌を見せつけ、肉に絡める。
喉の奥まで肉竿を呑み込んだ後は、口全体を使って逸物を吸い上げる。
艶やかな唇が上下にスライドする様子は目が眩むほど淫らだ。

更なる膨張を見せるも、悠理は吐き出したりしない。
柔らかな粘膜で扱き立て、奉仕し続ける。
口元を汚しながら一心不乱に貪る姿は、彼女の貪欲さを表していた。

悠理は教えられたことをきちんと守りながら、夫の様子を窺い見る。
視線が絡み、二人して欲情に絡み取られているのが分かる。

────もう、欲しいんですか?

────欲しいよ。

声にならない会話で妻の意志を確認した後も、清四郎は腰を落ち着け、その心地よさに酔いしれた。

男は皆、これが堪らなく好きだ。
セックスよりも好きな輩はたくさんいる。
出来れば永遠に味わいたい蜜の味。

だが…………それだけで満足しないのも、この男である。

まだまだ見たい。
悠理が溺れ、快楽に戸惑い、結局は奔放に振る舞う様を。

「…………挿れても良いですよ?」

「────え?」

「どうせ、もう、濡れてるんでしょう?さっきから腰が揺れてる。」

指摘されたとおり、ショーツが冷たく感じるほど、悠理の其処は溢れていた。
舐めしゃぶりながら濡れるだなんて、淫乱にも程がある。

「し、してくんないの?」

「自分で出来るはずだ。さっさと教えた通りに跨がりなさい。」

悠理は渋々腰を上げ、ショートパンツを下着ごと下ろす。
鬼畜な調教の甲斐あってか、セックスに関してだけは、素直に受け入れる体質となっていた。

「…………おっき過ぎて、入んないかも。」

「そんなわけないでしょう。おまえの此処は、僕の形をしっかりと記憶してるのだから。」

さらりと触れられた腰が、悠理の肌を敏感に震わせる。
もはや覚悟を決め、対峙するのみ。
そうでないと、中の疼きが治まりを見せない。

恐る恐る跨がった悠理の中に、清四郎の直立したモノがじわじわと沈み込んでゆく。

「っ………んっ…………はぁ………硬い………」

いくら自分の唾液でコーティングされているとはいえ、その圧倒的な大きさがスルリと入るはずもなく………
苦戦しながらも、ようやく八割ほど沈めた地点で、悠理は懇願するように訴えかけた。

「これ以上、無理だよぉ………」

はち切れんばかりの肉棒が膣内を侵食する。
僅かな痛みすら感じるほどの大きさだ。

「まったく───無理じゃありませんよ。ほら、こうすれば………」

妻の懇願を無視し、清四郎は細腰を掴むと、力一杯引き下ろした。

ズン

音を立ててスパークする脳内。
先端が奥深く───子宮の入り口にまで到達し、乱暴に押し開かれた衝撃に、悠理は堪らず声をあげた。

「ひゃぁあああ!」

「ね?入ったでしょう?」

ハクハクと口を開け首を振るも、埋め込まれた杭を必死で締め付ける。
それは夫の言葉通り、形を記憶した胎内が蠢き始めた証拠。

「このまま出してやりましょうか?動かなくとも充分過ぎるほど気持ち良いので。」

「や、や、そんなのやだ。動いてよぉ………」

「やれやれ。相変わらずワガママですねぇ。」

意地の悪い清四郎は腰を持ち上げ、再び振り落とす。

「あぁぁ!!!」

嬌声は部屋中に響きわたったが、彼はそれを止めようとはしなかった。
どうせ、この部屋は防音が施されていて、猫の鳴き声すら洩れ聞こえやしない。
たとえ聞こえたとて、口の固い使用人が「いつものことだ」と納得するだけのこと。
そんな開けっぴろげな環境に清四郎はくすっと笑い、 挿入しただけで汗だくになった妻を優しく抱き寄せた。

「仕方ない。今日はたっぷりと堪能させてやりますよ。」

自身の数多ある欲望などおくびにも出さず、尊大な台詞を吐く夫。
もちろん彼の本音を悠理は知っている。
天邪鬼なのはお互い様。
期待に胸躍らす彼女はホッとしながら、より一層可愛く頷いて見せた。

鮮やかな色のタンクトップをするりと脱がせ、清四郎はささやかな胸を柔らかく揉み上げた。
子供を産んだとて、まだまだ人並みとは言えないほどの大きさ。
しかしそんな胸がこの上なく愛しい。

「こんなにも硬くなって…………」

桜色の蕾を捏ね回しながら、腰を左右に揺らす。
繊細な部分を刺激するように。
恥毛が擦り合うように。

「あっ………あっ………」

「気持ちいい?でも………これだけじゃもどかしいんでしょ?」

「…………うん。」

「どうして欲しいんです?」

清四郎の言葉責めはいつものこと。
恥じらう妻の姿が興奮を誘う。

「お、奥…………もっと、突いて?」

「もっと奥?良いんですか。壊れるかもしれませんよ?」

「……………いい。壊れてもいいから………早くぅ………」

切羽詰まったように懇願する悠理は、真っ赤な顔で首を振る。
素直で可愛い妻の姿。
冷静な仮面はようやく取り払われ、大きく開けた口が悠理の肩を咬む。

「あぁぁ!」

「良い覚悟です…………」

清四郎は悠理を抱えたまま軽々立ち上がると、一旦鋼のような肉茎をギリギリまで抜いた。
期待に惑う悠理はすっかり涙目だ。

「いきますよ?」

「………っっつ!」

衝撃は繰り返し訪れる。
重力に助けられた律動。
膣奥の更に奥までもが貫かれ、もはや言葉すら出ない。
切っ先が深い位置を捏ねるように蠢き、その都度、真っ白な快感が目の前で弾ける。

「………っひっ!あっ!!」

ようやく声が出たと思えば、下肢からの淫らな水音に意識が奪われる。
どうやら呆気なく潮を吹いたらしい。

グチュ………ヌチャ………

ゆっくりとした動きの所為で倍増する生々しさ。
そんな淫靡な音を聞き、羞恥に染まる悠理の耳元で、心からの笑みを浮かべる夫。

「………気持ちよさそうですね。おまえは本当に素直で、可愛い女ですよ。」

浮遊感に漂う悠理は、そんな清四郎の言葉に、より多くの滴りを零す。
このまま一つになってしまいたいとさえ願いながら、意識ごと取り込まれそうになる快楽に身を委ねる。

「あっ……いい………よすぎるよぉ………」

両脚を逞しい腰に絡め、首にしがみつけば、まるで幼子になったかのよう。
規則的に揺らされることで掘り起こされる快感は、決して子供では味わえないものだけれど。

泡立つ白い粘液が、清四郎の下着を濡らし、染み込んでゆく。
悠理は必死に唇を求め、舌を絡め合った。

もはや、限界は近い。

「はぁ……っ、あっ……ん………ね………イッていい?」

「どうぞ、好きなだけ。」

愛らしい妻の願いは全て叶う。
悠理は厚い胸板にぴったりと体を寄せ、自らの胸をそこへと擦り付けた。
そして小さな突起をわざとらしく刺激し、四肢が震えるほどの絶頂をおびき寄せる。

「ああっ……ん!」

響く嬌声はとことん甘い。
その行為に合わせ、極限まで激しさが増す抽送。
清四郎もまた、遅れを取るまいと上り詰める準備を始める。

重なる呼吸と心音。
次から次へと襲ってくる猛烈な快感。

「あっ…………っふぅ……やぁ!!」

「…………くっ………」

弾けるようにのたうつ妻の身体。
尻を鷲掴みにした清四郎もまた、膨張しきった熱を奥深くへと吐き出した。

それから二人は繋がったままシャワールームへと向かう。
汗と体液を全て流し去り、再び始まる濃厚な時間。
水飛沫を浴びながら、タイルの壁に手を突いたまま獣のような格好で交わる。

どれだけ啼いても、叫んでも、此処なら大丈夫。
悠理は堰を切ったかのように喘ぎ声を出し始めた。

「せぇしろ…………ああ、もっとぉ!!」

自分の大きすぎる欲望に応えてくれるのは、恐らくこの世で彼だけだろう。
普段は理性の塊なくせに、夜はこうして全てを捨て去り、求めてくれる。
思いの丈を残らず注ぎ込み、朝になればまたいつもの仮面を装着するのだ。
そのギャップが堪らない。

「…………くそ、また出そうだ……」

普段よりずっと甘い声を出す妻に、清四郎のストッパーも効かない。

「あ……ん、そんなに出したら…………赤ちゃん出来ちゃうよぉ。」

「大丈夫。今日は安全日です。」

悠理にとってそれが正しいかどうかは分からなかったが、清々しく断言する夫の求める事は全て叶えてやりたいと思う。

「ならいいよ……いっぱい…………出して?」

「悠理っ……」

まさかの朝までノンストップ。
その夜の二人は、場所を変え、体位を変え、時を忘れ、深く激しく互いを求め合った。


次の日。
当然の如く、目の下にクマをこさえた仲良し夫婦だったが、屋敷の者達は気にも留めない。

「あらまあ、お盛んねぇ。」

「母ちゃん。わしらも見習わんと。」

「馬鹿おっしゃい!何歳だと思ってるの!」

「・・・・・・・・・(しゅん)」

何はともあれ、剣菱家は今日も平和である。