Non stop(R)

────今週末、出かけませんか?泊まりで・・・

そう言ったヤツの顔は、いつもよりほんのちょっぴり強張っていたように感じる。


どうしよう───来るべき時が来た!

互いの気持ちを確かめ合って、そろそろ三ヶ月。
ハタチを目前にして、何を躊躇うことがあるのか───未だキス止まりの二人。

デートはたくさんした。
結婚をも見据えた付き合いだ。
親は手放しで喜んでいる。

なのに、まだ、その先へと進むのが怖い。

理由は解ってる──
自分に自信がないからだ。

胸の小ささに加え、細いだけの色気ない体。
お世辞にも男が欲情するとは思えない。
誰だって豊満な………そう、可憐の様なタイプが好きなはず。
抱き心地の良いナイスボディに憧れるだろう。

もしかすると、清四郎は少数派なのかもしれない。
こんなあたいを選ぶんだから───

 

その時、清四郎は苦笑しながら‘これでも結構待ちましたよ’と言った。
年頃の男にしては我慢強く───

男の性欲なんて………
それも普段から冷静でクールぶった清四郎の欲望なんて想像したこともなかったから。
待たせているという自覚はほとんど無かった。

───ムッツリスケベなのは知ってたけどな。

「早く相性を確かめたいな。きっと僕たちは誰よりも上手くいくと思いますよ。」

相性………?
んなもんが必要なのか?
もし悪かったらどうすんの?
それ以前に幻滅されたら?
乳首の色が変だったり───

果てしなく広がる不安を、どう収拾したら良いのか解らない。

今までなら胸が無くてもへっちゃらだったのに。
むしろ動きやすくて良かった。
こんな悩みを抱えるのも、全ては清四郎に幻滅されたくないから。

「あたいも………変わったよなぁ………」

返答のない‘ぼやき’が宙を漂う。

分かってるんだ。
今更嫌われるわけが無い。
だってあいつはあたいのほとんどを知ってる。
もしかすると、自分よりもずっと多くのことを見抜いてるはずなんだ。
それでも選ばれたんだから、何にも恐れる必要はないんだけど。

「あと1カップ大きけりゃ、こんなにも悩まずに済んだのかな?」

「あら。そんなこと………。お嬢様らしくないお言葉ですわね。」

不意に声をかけられ、そこにメイドが居ることを悠理は初めて知った。

「わわっ!居たのかよ!?」

「はい。再三お声掛けしましたけれどお返事が無かったので、お掃除に入らせて頂きました。」

まさか、ブツブツ言ってたの、全部聞かれた?

「そ、そか………んじゃ、頼む。」

ベッドから滑り降りた悠理を、メイド歴10年の舞子は優しく見つめている。

「なんだよ?」

「フフ。お嬢様もお年頃なんですねぇ。舞子は驚きましたよ。」

「お、お年頃って……」

「菊正宗様とのお付き合いもそろそろ三ヶ月になりますでしょう?もう充分、大人の関係になっても良い頃合いですわ。」

全部お見通しの舞子。
キラキラした瞳で訴えかけてくる。

悠理は慌てて熱の帯びた頬を、手近にあったぬいぐるみで隠した。

「は、早くないよな?」

「遅いくらいですわね。」

「マジで!?」

コクリと頷く彼女に、それが正しい答えだと解る。

「大きなお世話かもしれませんが、下着やムダ毛はきちんとなさった方が宜しいと思いますわ。」

「下着………って、まさかフリフリレースとか?」

「ふふ。それは流石にお嬢様のキャラじゃありませんわね。でもせめてのことに、小さなリボンくらい付いていた方が、殿方はは喜ばれますわよ?」

「リボン………か。」

生まれてこの方、下着に女らしさを求めたことはない。
タマフクのデザインが入っていて、動きやすさを重視する。
それだけで充分だった。

「買いに行こっ………かな?」

「あら、お付き合い致しましょうか?」

「え、あ、………ううん、一人で行くよ。」

「かしこまりました。では、名輪を待機させますわ。」

こうして悠理は街へと出かけ、ランジェリーショップの店員にほぼ勧められるがまま、多くの下着を購入した。
色とりどりの愛らしい布達に、男でなくとも心が浮き立つ。
特に最新モデルと紹介されたパット入りのブラジャーは非常に良く出来ており、胸元を細かなフリルが覆い、少ないボリュームを誤魔化してくれる。
貧相なお尻も然り。
最近の下着事情に驚く悠理は、非常に満足したのだった。

───これで少しは、馬鹿にされないかな?

だが、彼女は知らなかった。
男にとって下着など、さほど重要視されるものではないことを。
特に彼はこの三ヶ月間、いやそれ以前から何度も悠理の中身を想像し、淫らなシュミレーションを行ってきたのだ。
もはや余裕の欠片すら残ってはいない。

飢えた狼が、獲物を前にした時────

淡いシルクも
可愛いフリルも
小さなリボンも

全てが何の意味も成さない。