※ショート
悠理:「なあ。今度、新しく出来た大型遊園地行くんだけど、皆どうする?」
可憐:「大学生にもなって遊園地なんてやーよ。私はパス。」
野梨子:「わたくしも最近お稽古事が忙しくて・・・遠慮いたしますわ。」
美童:「僕もどうせなら彼女と行きたいな。実はここのところ狙っている女の子がいるんだよね。」
魅録:「俺は付き合ってやっても良いぜ?」
悠理:「マジで!?さっすが魅録ちゃん!いい男!」
清四郎:「僕もお付き合いしますよ。」
悠理:「え~・・・清四郎も??」
清四郎:「何です、その顔は。不満なんですか?」
悠理:「い、いや・・ほら、おまえ別に遊園地好きじゃないだろ?」
清四郎:「誰がそんなこと決めたんです?僕には新しい遊園地のアトラクションを知りたいという純粋な願望があるんですよ!」
悠理:「へえ、そなんだ。」
魅録:「あーー・・・なら、おまえ清四郎と二人で行ってこい。」
悠理:「ええーー!!魅録、さっき付き合うって言ったじゃんかぁ!」
清四郎:「悠理。魅録も忙しいんです。無理を言ってはいけません。」
悠理:「ちぇ・・・。じゃあ、清四郎、土曜日にあたいん家、迎えに来てくれる?」
清四郎:「もちろんです。車を借りるとしましょうか。ああ、ホテルは僕が手配しますから大丈夫ですよ。」
悠理:「ホテル?」
清四郎:「まさか、たった一日であの広大な遊園地を堪能出来るとは思っていませんよね?」
悠理:「ああ!そういうことか。そだな・・・せめて丸二日は必要だよな。よし!ホテルは頼んだ!」
清四郎:「任せておいて下さい。」
可憐:「ねえ・・誰か教えてやりなさいよ。」
野梨子:「あの調子ですと、一部屋しか取らないつもりですわね・・。」
美童:「清四郎も用意周到だからねえ。これで大手を振って悠理をモノにするつもりだよ、きっと。」
魅録:「俺・・さっき、あいつに視線で殺された。」
4人の溜息は悠理には届かない。
もちろん、清四郎のほくほく顔に隠された意図も、彼女にわかるはずがなかった。
「え―と、なんでこうなっちゃったんだ?清四郎ちゃん。」
悠理はベッドの片隅に胡座を掻きながら、実に不満げに尋ねた。
「何がです?」
答えた清四郎はいつもと変わらぬ調子で片眉を上げる。
「なんで二人、おんなじベッドで寝る羽目になってんだってことだよ!」
「だから、さっきも説明したでしょう?遊園地がオープンしてまだ日も浅く、近隣のホテルはほぼ満室だったと。唯一、今居るホテルのこの部屋(エグゼブティブダブルルーム)しか空いてなかったんですから仕方ないじゃありませんか。」
「せ、せめてツインに換えて貰えなかったのかよ!」
吃りながら伝えるも、飄々とした清四郎はこともなげに答える。
「おや―――僕と同じベッドだと何か困るんですか?」
「あ、あほぉ!何も困らんわい!」
悠理はクッションを拳で殴った。
「もしかして意識してたり?」
「い!意識って何だよ!!」
「僕を男として意識してるんですか?」
「!!!」
清四郎の含み笑いは、悠理の背中に嫌な予感を与えたが、今さら逃げられない。
これ以上、口を開けば何か大きな後悔をすることになりそうだった。
胡座を掻いたままの悠理に近付く男は、意味ありげな表情で覗きこんでくる。
「少しくらい、意識してるでしょう?」
その確信めいた問いかけに、悠理はゾクリと肌を震わせた。
―――あたいが?清四郎を男として?
悠理はまじまじと男の目を見つめ、その答えを探そうとする。
いや、導き出そうとするその目に、逆らえないのだ。
これが魅録なら?
きっとじゃれあいながらも、ひとつのベッドで眠るだろう。
子供同士のように。
これが美童なら?
むしろ何も思わない。
寝相の悪さを指摘され、それに反論しつつも二人の間にクッションを挟み、安らかに眠ることとなるだろう。
なのに、清四郎だけはそれが出来ない。
途端に悠理の胸がざわつき始める。
どくどくと血流を感じるほど。
頬が火照り、二人で一つのベッドにいることが、妙に艶かしく感じるのだ。
――これが意識してるってこと?
あたい、清四郎を『男』だと思ってる?
それは悠理にとって新境地。
――そういえば昔、可憐にからかわれた時もそうだったな。
ふと婚約させられそうになったあの頃を思い出す。
そうだ。
いつも清四郎だけが、心をざわつかせる。
おまえは所詮女なんだと思い知らされる。
それが悔しくて、腹立たしくて、少し悲しい。
実力の差を見せつけられ、それに必死で足掻こうとする自分は、さぞ滑稽なのだろう。
あの時―――
中学三年生のあの時に、清四郎の強さを目の当たりにしてから、ずっとそれを感じてきた。
がむしゃらに立ち向かっていっても所詮付け焼き刃。
いつもいつもその力を思い知り、そして結局頼ってしまうのだ。
悔しい。
でも、今は―――
「意識、してるよ。だっておまえだもん。」
「悠理………?」
「悔しいけど、おまえだけだもん!あたいにこんな気分を味あわせる奴!」
清四郎の鼓動が跳ねる。
それは期待していた以上の反応だった。
女として認識するようになったきっかけなど、もう思い出せない。
しかし、いつしかこの危なっかしい女を守る人間は自分しか居ないと自負していた。
目が離せない。
声を聞き洩らすことが出来ない。
つい構ってしまい、その反応を確かめる。
自分だけを見て欲しいから。
どんな些細な事でも、頼って、すがって、泣きついてほしかった。
そんな幼い欲望が『恋』だと気付かされた時、新しい世界が目の前に開ける。
そしてどんな無様な自分を見せようが、絶対に悠理を手に入れると決意したのだ。
もちろん長年培ってきた性格は、そう簡単には変わらない。
だからこうして罠をかける。
二人きりになるために。
自分を男と意識させるために。
それが今、見事花開いたのだ。
「悠理……好きだ。」
「ふぇ??」
「好きだ、おまえが好きだ。」
「なっ!何!?いきなり………」
言葉は遮られ、気づけば悠理の目には見慣れぬ天井が映っていた。
清四郎の長く逞しい腕が、大きな身体が、すべての動きを封じている。
「好きです!」
「ち、ちょっとまて!!」
「待てば、僕を受け入れてくれますか?」
―――矛盾してるだろう!!
馬鹿な悠理ですら判る問いかけ。
「あ、あたい、何も言ってないじゃん!」
「なら、聞かせてください。僕をどう思ってる?好きか、嫌いか。」
――そんな二択はズル過ぎる。
悠理はパニックに陥った。
「好き?嫌い?どっちです?」
そんなもん………決まってるだろーが!!
誘導尋問の様なそれに、悔しすぎて涙が出る。
無意識に零れ出す水滴を、清四郎は愛しいとばかりに舐め上げた。
「悠理、お願いだ。教えてくれ。」
「…………す、好きだよ。……く、くそぅ!こんなんずるいぞ!!」
「僕を‘男’として‘好き’なんですね?」
念を押すかのように確かめる男の顔は紅潮し、喜びに輝いていた。
――な、なんだよ!子供みたいじゃん!
悠理の頭は飽和状態。
あまりな事態に、すっかり清四郎のペースに巻き込まれている。
しかし気付かない愚かさもまた彼女らしい。
「そ、そうだってば!!」
「悠理!」
歓喜の声をあげる清四郎は、果たしてどこまで予想していたのだろうか。
無論、彼は策略家。
本気になった‘菊正宗清四郎’に勝てる奴は居るはずもなく、当然の事ながら、悠理などひとたまりもない。
仲間たちはそれを知っていた。
彼を敵に回してはいけないと、本能と経験で判っていたのだ。
その日、悠理はあっさりと清四郎の手に堕ちる。
見事な周到さと共に―――。
「せ、せぇしろ、も、もう寝よーよ!」
「あと一度だけ。」
「おまえ、さっきからそればっかりじゃん!」
「そうでしたか?」
「何回ヤってると思ってんだ!!ばかーーー!」
清四郎が悠理を寝かせるはずがない。
結局、次の日もベッドに縛り付けられたまま、一日を過ごすこととなる。
「ゆ、ゆうえんちぃ~~!」
「もう一泊しましょう。それならいいでしょう?」
「うわぁ~ん、あたい死んじゃうよぉ!!」
悠理の悲鳴は誰の耳にも届かず、今さらながらの後悔も全くの無駄に終わる。
それからの清四郎は、ようやく手に入れた愛しき恋人をことのほか可愛がり、それはそれは甘い男に変貌したそうな。
めでたしめでたし。