「剣菱ちゃんて、もしかして処女?」
「あ?」
講義が終わった後、そんなセクハラめいた質問をしてきた男は、興味津々な様子で隣に座る悠理を窺った。
新入生の中でもひときわ個性を放っているその容姿。
個性、というよりは、むしろ悪目立ちに近い。
それもそのはず、髪は突き抜けたアイスブルー、両耳のピアスは大小合わせて15個ある。
何を主張したいのか、着ているTシャツにはナ●スのハーケンクロイツが大きく描かれていた。男の名は「福司 希望(ふくつかさ のぞむ)」。
こう見えて外部入試でトップの成績だったらしい。
そんな彼がここのところ悠理に付きまとう様になった理由。
それは魅録と行く筈だったロックバンドのコンサートがきっかけだった。
どうしても外せない用事が出来てしまった魅録は、チケットを譲る相手を探していた。
入学して間もないというのに、彼の交遊関係は広い。
だが、そんな魅録をもってしてもなかなか見つからず、これはネットで売り捌くほかないなと諦めかけていた頃、ようやく福司が名乗りをあげたのだ。
たまたま動画配信を目にした男は、あっという間にそのロックバンドに嵌まってしまい、無論コンサートには是が非でも行きたかったと言う。
悠理はそれを聞き、‘にわかファンかよ’と胸の中で愚痴ったが、それでもファンの一人であることに違いなく、色々情報を与えている内に懐いてしまったのだ。
それからというもの、男はほぼ毎日、悠理の前に顔を出し、何かしらのちょっかいをかけている。
だが、こんなあからさまな発言をしたことは今までになかった。
悠理は口をムッとへの字にしたまま男を睨むが、元々このくらいの事で羞恥を感じるタマじゃない。
「そーだよ!」と声高々に宣誓した。
「やっぱり?よし!」
『何が‘よし’?』
歓喜した男の様子に、耳をダンボにしていた周りの学生達が首を捻る。
悠理においては、男心を理解するなどハードルが高過ぎる為、何の感慨も抱かない。
「俺も、実はこう見えてチェリーなんだ。仲良くしよう!」
「チェリー?」
漢字二文字なら解りやすかっただろう。
敢えてその言葉を使わないチャラい男はニコニコとした笑顔を見せ、どこか誇らしげでもある。
悠理はあからさまに訝しい表情をした。
そこへ・・・
「ちょっと!あんたたちねぇー!」
ランチに誘うつもりでやって来た可憐が慌てた様子で二人の元に駆けつける。
さすがに看過できない事態だ。
「嫁入り前の娘が、下らない相手してんじゃないわよ!もう高校生じゃないんだから!」
そう嗜めると、すぐに福司を振り返った。
「あんたも!何考えてんの!?悠理はこう見えてもきちんと女の子なんだからね!!」
‘きちんと’かどうかはともかくとして、確かに性別は女である。
しかし福司は懲りた様子もなく、人懐っこい笑みを浮かべた。
「お互い初めて同士なら、誰かと比べることもないから上手くいくっしょ?それに俺、剣菱ちゃんがどんぴしゃ好みなんで。バージンならすんごくラッキー!」
全くもって人の意見を聞かない男である。
可憐のこめかみが震えた。
「あたいはおまえなんか好みじゃないぞ?」
それはそうだろう。
確かに福司は同じ趣味を持つ男であるが、悠理の男選びの基準からは大きく外れていた。
何よりも強さが感じられないのだ。
「え?こんなにも波長が合うのに?」
とぼけた顔で福司は首を捻る。
可憐は、これ以上下らない付き合いはしたくないとばかりに悠理の腕を掴み、カフェテリアへと連行することにした。
仲間たちはさぞかし腹を空かせて待っていることだろう。
「あっ、剣菱ちゃん!明後日のコンサートの後、ホテル予約しておくから!」
恥ずかしげもなくそう叫ぶ男を、可憐だけでなく他の学生たちも呆れた顔で見送った。
「ほんと、なんなのあの男!!」
テーブルをドカンと叩きつけた可憐は隣に座る美童に『まあまあ』と慰められつつも、決して怒りがおさまらない様子だ。
「破廉恥な殿方ですわ。」
野梨子はあからさまに不快な表情を見せる。
「まぁ、性格は悪くないと思うんだけどよ。ちょっと無神経なとこもあるよな。でもああ見えてノリのいい奴でさ・・・」
「あたりまえでしょ!!無神経どころの話じゃないわ!」
魅録のささやかなフォローは木っ端微塵に砕かれた。
「悠理!あんたまさか誘いに乗るつもりじゃないでしょうね!いくら女として微妙だからって、あんな男で手を打つなんてこの可憐さまが許しませんからね!」
――――それこそ余計なお世話だ。
と全員が思ったであろう。
「乗るつもりなんかないじょ。そりゃ少しくらい興味あるけどさ、誰でも良いってもんじゃなし。」
「「「「「え?」」」」」
悠理の発言に五人の箸が止まる。
「興味、あったんだ?」
真っ先に口を開いたのは美童だった。
「ありましたのね。」
野梨子も呆然としている。
「・・・・・。」
魅録は敢えて何も聞かなかった。
「ほ、ほんと?あんた、男に興味あったの?」
震え声の可憐は、思わぬ結果に頬を赤らめる。
まさか、この食欲魔人の野生児がそんな事を言うだなんて思ってもみない。
「そりゃあたいだって一生処女なんてヤダぞ?その辺は適当に見つけて、とっととヤるつもりだったし。」
可憐は眩暈を感じた。
一般的な結婚や恋愛観から程遠い場所にいる女だと思ってはいたが、まさかここまで離れた価値観の持ち主だとは想像もしない。
友人の将来を本気で危ぶみ始めた頃・・・・
「なら、僕としましょうか?」
「「「え!?」」」
「はっ?」
今まで沈黙を貫いていた男が、やんわりと参入する。
「適当に、と言いましたが、女性はやはりリスクが高い。病気や妊娠、後々のフォローも含め、出来ることならお互いを深く知っている相手の方が問題は起こりにくいでしょう?僕はおまえの生理周期まで把握していますし、それに病気も持っていません。」
野梨子は、幼馴染みの口からスラスラと澱みなく出る言葉に気絶したくなった。
他の三人も同様だ。
「清四郎とあたいが?」
「ええ。」
「病気ってやっぱ怖いの?」
「もちろん。」
「ふーん。」
悠理は考えこんだ様子で首を捻る。
「それに、ね。」
清四郎は悠理を覗き込むと、余裕のある笑みを見せた。
「僕は決して下手ではないと思いますよ。初心者同士だと、それはもう目も当てられない事態に陥ることが多々ありますが、その点心配しなくていい。」
「せぇしろうは上手なんだ?」
「常に努力するタイプですから。」
可憐と美童の口元が震え出す。
しかし何故か言葉が出てこない。
「・・・・・・じゃ、そうすっかな。」
「ええ、決まりですね。」
「いつ、する?」
「今からでもいいですよ?」
「わぁった。」
二人は食べ終わったトレーを下げる為立ち上がると、そのまま仲間を放置してカフェテリアを後にした。
残された四人は、その後10分間硬直したままであったという。
学園を後にした二人は、さてどうするか、と相談し始める。
「場所は?」
「え、あ~、ん~・・どこでもいいけど。」
「ホテルにしますか?」
「ラブホ?」
「まさか。僕はああいった所が苦手でして。」
「なら、おまえが決めろよ。」
清四郎は顎に手をやると何かを思い当たったのか、一台のタクシーを呼んだ。
行き先は果たして・・・・
「ここ、どこ?」
「僕の隠れ家です。」
「おまえ、そんなもんいつの間に・・・」
辿り着いた場所は、都心から車で一時間ほどの場所にある高台の別荘地。
隣家まで辿り着くには自転車が必要だろう。
ここに清四郎は一軒の家を所有していた。
なんと自分名義で、だ。
「株でそこそこ儲けたときに買ったんですよ。」
軽く億は下らないだろう、その別荘は見た目モダンな機能的住宅に見えた。
中に入れば更に顕著となる。
広いリビングには、大きな窓から太陽の日射しがまともに入ってくるが、それを遮光ガラスが自動的に調節する機能が備わっていた。
それと共に、隣接するキッチンはドイツ製。
機能的かつスタイリッシュなフォルムのアイランド型だ。
案内された二階は和室と洋室が混在している。
「ここ、家族で来るのか?」
「いえ、一人ですが?」
「なんでこんな広い家・・・」
清四郎は一つの和室に灯りをともした。
そこは真新しい畳に小さな床の間。
文机と座布団が置いてあるだけの簡素な部屋だった。
「瞑想したり、本を読んだり、たまに詩も書いたりするんですよ。マンションだと環境が変わりすぎて居心地が悪いでしょう?かといって、自宅と同じような家を買うのも芸がない。で、行き着いた場所がここだったんです。」
「ふぅ~ん。おまえのことだから結婚する為かと思った。」
次に案内された広々とした寝室は先ほどの部屋と違い、濃い色の絨毯が敷かれてありクイーンサイズのベッドが鎮座している。
シックな色合いのベッドカバーと、仄かな灯りをともすナイトスタンド。
ベランダに続く掃き出し窓には、同じ色味のカーテンがぴったりと吊り下げられている。
「この部屋にしましょうか?」
――暗に、この部屋‘で’しましょうか。
という意味だ。
瞬間、悠理は胸がドキドキと高鳴るのを感じた。
馬鹿げた理由で誘われて、それに応えた理由。
それは相手が清四郎だったからだ。
実のところ、悠理は清四郎に恋をしていた。
しかし、女に見えないと言われ、あまつさえ剣菱の為に婚約までする情緒欠陥者を好きになっただなんて口が裂けても言えない。
かといってこの先、清四郎以上の男が登場するのは奇跡的確率でしかなかった。
悠理は“結婚”の二文字を諦め、自由に生きることを望む。
だが、仲間の前で発言した通り、一生処女でいるつもりはない。
そんな不自然な身体を引きずりながら生活するなんて、野性的な感性の持ち主である悠理にとって、あり得ない事態だ。
本当は福司でも良かったのかもしれない。
ただ、後腐れが残りそうだから嫌だっただけで。
しかしまさか清四郎がこんな提案をしてくるとは・・・嬉しい誤算である。
――でもこれって、セックスだけの関係、だよな。
悠理はここに来てようやく置かれた立場を認識させられる。
当然だろう。
自らの発言が招いた結果なのだから。
途端に胸が冷たい風に吹かれ急激に冷えてゆく。
温もりある愛情を求めようとする、貪欲な自分が顔を出し始めたからだ。
―――ダメだ!この男にそんなもん求めちゃ!ダメだ!
確かに友情はあるだろう。
いつも必死で助けに来てくれる。
心配してくれる。
必ず背中を貸してくれる。
それは清四郎の強すぎる責任感と保護欲が成せる技。
そんなもの解っていた。
自分だけが特別扱いされてるなんて思ってない。
野梨子や可憐の様に女扱いされるわけでもないのだから。
それでも清四郎の腕が欲しくて無茶をする。
少しでも構って欲しくてバカをする。
しかし今回のそれは、最大限に馬鹿げたことなのかもしれない・・・と悠理は思った。
「泣きそうな顔、していますね。怖くなりましたか?」
優しく覗きこむ男は、どこか嬉しそうだった。
思わず手を広げ、顔を隠そうとする。
が、全てお見通しなのだろう。
「こ、怖くなんかないやい。」
「そうですか?僕は怖いですよ。」
「え?」
悠理がキョトンと見つめると、苦笑した清四郎は前髪を全て掻き上げた。
「おまえを抱いたら、もう手放せなくなると解っているので、ね。」
「!!!」
それは不意打ちだった。
まさしく爆弾発言。
清四郎の心が滲み出た、紛れもない告白だった。
「あ、あたい・・・」
「知ってますよ。おまえにそんなつもりなど無いことは。でも、どうしても言っておきたかったんです。体と体だけの関係なんて寒々しいですから。」
違う!
違うよ、清四郎!
悠理は胸に溢れる想いを、どう伝えたら良いのかわからない。
「大丈夫、優しくします。おまえの初めての男として、ね。」
その直後、背中を向けた清四郎に悠理は飛びかかった。
まるで猿のように。
「やだやだやだ!!!」
「悠理?」
「最初も最後もおまえじゃなきゃヤなんだー!!!」
「???」
「ずっとおまえじゃないとヤダ!あたいに触る男はお前以外認めないかんな!!」
浅はかな考えだったと、今更ながらに思う。
清四郎以外の男に触れられるなんて、想像しただけでも悪寒が走るのだから。
「そ、それはどういう・・・?」
解りきった答えだろうに、男は無粋にもそう尋ねた。
「せいしろうが・・・」
「ええ。」
「・・・あたいはせいしろうが、好き。」
―――好き
たった二文字を告げるのにこの疲労感。
悠理は顔をぐちゃぐちゃに濡らしながら清四郎の背中に擦り付けた。
そんなおんぶ状態の女をベッドにゆっくりと下ろしたのは約一分後のこと。
清四郎はふぅ、と溜め息を吐く。
「僕を、好きだと?」
「う、うん。」
「なぜ、もっと早くに言わないんです!?」
「だ、だって、おまえあたいのこと女って思ってなかったじゃん!」
「いつのことを言ってるんです?だいたいねぇ・・・」
悠理の隣に腰かけた清四郎は、くしゃっと髪を崩した。
珍しい仕草である。
「あの時だって、女に見えてるから結婚しようとしたんですよ?僕は決して同性愛者ではありませんから。」
「え?」
「確かに見た目は中性的ですがね。僕にとっておまえは充分女です。他の男と交わる姿を想像したら吐き気がするほど、ね。」
その言葉に悠理はそろりと確かめる。
「清四郎はあたいのこと、好き・・なんだよな?」
「これが‘好き’以外の何に見えるんです?」
―――やたっ!!両想い!!
小躍りしたくなるような歓喜が駆け巡る。
しかしそれは男の手であっさり封じられた。
あっという間に押し倒され、ベッドに沈みこむ。
「ちょ、ちょっと!」
「なんです?」
「えと、えーーと、シャワーとか・・・」
思いついたのはそんな言葉。
無論、悠理とて初めて口にしたのだが。
「必要ありません。」
「え?」
「これ以上焦らされてたまるか!タクシーの中で、僕がどれほど苛ついていたか解りますか?」
「そなの?」
「どうやって抱いてやろうか、啼かせてやろうかと、おまえの裸を想像しながらうずうずしていたんですよ。」
「お、おまえ・・・やらしいぞ!!」
「やらしいコトするために、ここにいるんでしょう?」
「そ、そだけど。」
珍しく女らしい表情を見せる悠理の頬へ、清四郎は軽く口付ける。
「ひゃ!」
「一つ一つ、丁寧に‘女’にしてあげますからね。ええ、とても紳士的に。」
紳士だと言うならシャワーくらい浴びさせろ!
と胸の内で悪態を吐いたが、次の瞬間から全ての思考は奪われてしまう。
情熱的なキスによって。
「ん・・・・んぅ!」
想像もしなかった清四郎とのキス。
悠理は流されるようにそれを受け入れる。
時折、うっすら目を開けてみるが、視線が絡み合うと恥ずかしくて、やはり閉じてしまうのだ。
「悠理・・・舌を。」
―――舌?
恐る恐る伸ばせば、清四郎はそれに吸い付いてくる。
呼吸が出来なくなるほど、キスは激しさを増してゆく。
「んっ・・・んっ!!」
必死に酸素を求めるが、思うようにいかない。
悠理は清四郎のシャツにしがみつき、意思を伝えようとした。
後頭部を片手で支えていた男は、ゆっくりとそれを外す。
頭に羽毛枕の感触を得て、ようやくほっと一息吐けた。
唇を解放されると、一抹の寂しさを感じてしまうのも、訪れた変化の一つだ。
しかし何よりも、先程から下半身がしっとりと濡れ始めている。
その変化に戦きつつ、足を擦り合わせてみると、清四郎が薄く笑って見せた。
「濡れたんですね?」
「ぬれた?」
「僕とのキスで準備を始めたんですよ。この身体が・・・」
そう言いながら、清四郎は悠理のニットセーターに手をかけた。
「じ、自分で出来る!」
「折角女らしく居るんですから、僕に任せなさい。」
腕を上げ、脱がせやすい様に協力する自分もまた不思議と感じる。
清四郎はそろりとレギンスに手をかけた。
少しもったいぶった様子で、掌を肌に添わせ、撫でるように剥がしてゆく。
「彼ならば、こういうことも拙いんでしょうね。」
―――彼?
あぁ、福司のことか。
しかしその男は悠理の脳裏からサラッと消えてゆくだけの存在である。
「おまえのことしか考えたくない。」
ゆっくりと下着姿を晒した悠理は、清四郎をじろりと睨んだ。
「済みません。ただの嫉妬です。」
嫉妬?
清四郎が嫉妬?
あの福司に?
「なんで?おまえのがイイ男じゃん?」
無意識に滑り出た言葉は、清四郎を激しく歓喜させた。
再び奪い尽くすようなキスをされ、目の前の視界がクラクラと歪む。
「紳士的になど、無理です!」
―――あ、そう。
悠理はおぼろ気ながらに受け入れたが、清四郎の宣言通りその行為は決して紳士的ではなく・・・
まるで野獣に襲われているようだった、と後々可憐に語っている。
次の日の朝。
腰が砕けた状態の悠理はベッドの上で食事を摂り、更に清四郎の朝御飯としてきっちり補食されてしまう。
「僕たちは最高の相性ですよ。」
飢えた狼だってもう少しおとなしいだろう。
悠理は裸のまま、そう思った。
こんな清四郎が今まで隠れていたのか、と驚くばかりだが、それでも頗(すこぶ)る幸せに感じる。
「悠理。」
「ん?」
「今度こそ、結婚しますからね。」
「あ~、うん。」
「なんです?その気の抜けた返事は。」
「いや、それはいいんだけどさ。もしかしてここで暮らす?」
「気に入りませんか?」
「まだわかんないけど・・・でも、おまえとならどこでもいいや!」
「無人島でも?」
「うん!!」
「砂漠でも?」
「余裕!」
「それがプロポーズの返事ですね。」
「うん!」
悠理は再び抱き寄せられ、キスを浴びる。
清四郎の想いを知った今となっては、もう何も怖くない。
自棄になる必要もないのだ。
「大好きです、悠理。」
「あたいも。」
それから彼らは三日三晩、そこで過ごすこととなるのだが・・・
「あ、やべ。あたいコンサート忘れてた。」
「あぁ、そう言えば・・・。」
確信犯のくせに惚けた様子で相槌を打つ。
「確か、次に行われるコンサート会場はロンドンですね。僕が連れていってやりましょう。」
「マジで!?」
「ええ。なんなら全員でロンドン旅行といきますか?」
「うんうん!!せぇしろちゃん!愛してる!!!」
福司希望に、望みなどない。
何故なら、清四郎ほど悠理のツボを押さえている男は居ないのだから。
相性?
波長?
そんなものを超越した彼らの関係性。
悠理は満面の笑みを溢す。
心から求める男は一人だけ。
いついかなる時も、軍配は’菊正宗清四郎’に上がるのだ。