melt into one(R)

―――冷たさが、あとから、あとから降ってくる。
その冷たさは降り止むことはない。
積もり積もって、いつかこの身体を閉じ込めてしまう。

―――清四郎。

一人の男の名だけが心の中で熱く燃える。
たったそれだけが、自分を生かしているのだと、勘違いするほどに。湿気た雪に阻まれながら、悠理はようやく山荘に辿り着いた。
独りになるにはもってこいの場所。
周りにはなにもない。
そう、何も―――。
鍵を開け、少しだけカビ臭い部屋を見渡す。

「懐かしいな。」

ここは昔、父に連れられ兄と数週間過ごした場所。
母ですら知らぬ、別荘だった。
凍えるような寒さに身を竦ませながら、暖炉に薪をくべ、火を点す。
少し湿気った薪は、それでもなんとか煙を吐き始めた。

「あ、ストーブあるじゃん。」

目に留まったのは懐かしの石油ストーブ。
冬は極寒と化すこの地に備え付けられているのは当然のことだった。

ようやく暖かさがリビングに広がり始め、悠理はエルム材で作られたアンティークなロッキングチェアに身を委ねる。
何せ最寄り駅から一時間、雪の中を歩き続けたのだ。
さすがに体力の消耗は激しかった。

ここに来ている事は誰も知らない。
父も、当然母も、兄も、五代だって知らない。
もちろん仲間達にだって伝えていない。
あの男にだって―――。

絨毯の上でゆっくりと揺れるチェア。
悠理は静かに瞼を閉じると、パチパチと弾ける薪の音と共に、記憶を掘り起こし始めた。

雪の夜は長い。
そしてどんな物音もその中に閉じ込めて行くのだ。

大学部に入ったばかりの頃。
それを一夜の過ちと言えば笑い話に出来るだろうが、生憎悠理には出来ない思い出となった。

六人でたっぷりと楽しんだ飲み会。
深夜の繁華街で散々酔っぱらった挙げ句、運悪くチンピラに絡まれてしまう。
勿論そんな事は日常茶飯事で、仲間が遠巻きに見守る中、悠理はその男を瞬殺し得意気になっていた。
しかし油断禁物。
それら一部始終を車の中から見ていたチンピラの兄貴分が、背後から静かに迫っていたこと、気付かなかった。

「悠理!!」

離れた場所から見ていた魅録の鋭い声が響く。

後頭部に手刀を食らわされ、あっという間に地べたへと倒れこんだ。
身体を抱えられ、車に連れ込まれそうになった時、清四郎が鬼気迫る勢いで助けに来る。
それは朦朧とした意識下でも判るほどの激しい怒り。

――珍しいな

なんて思いながら、安堵と共にゆっくりと意識を手放し………気付いた時にはホテルの一室だった。

「っつ!!」

「痛むでしょう。もう少し氷枕で冷やしておきなさい。」

なんとか起き上がってみれば、そこは、広々としたツインルーム。
薄いカーテンの向こうには東京の夜景が広がり、それを堪能出来るよう小さなナイトスタンドの灯りだけが
仄かに辺りを照らす。
シルエットを浮かび上がらせているのはバスローブ姿の清四郎。
一人掛けソファでゆったりと寛ぐ姿は、若手社長の様な風格すらある。
片手には琥珀色の酒。

―――まだ飲むのかよ。

と胸の中だけでごちる。

「みんなは?」

「帰しましたよ。」

「なんでここに?」

「自宅に送ろうと思ったんですがね。タクシーが酔っぱらいを乗車拒否するもので。
もちろん剣菱邸にも電話したんですが、運の悪いことに名輪さんはおじさんのお供で少し遠出されているらしくて、結局ここに。」

「そっか――」

鈍く痛む頭はすっかり酔いを冷まし、悠理は清四郎のグラスをチラリと見た。

「あたいにもくれよ。」

「大丈夫なんですか?吐き気は?」

「ないない。喉乾いたし。」

「タフですねぇ、やはり………。」

呆れた様子で、それでも作り始めるソーダ割りのバーボン。
清四郎の器用で長い指先が滑らかに動く。
ようやく手渡されたグラスは凄く冷えていて、悠理はホッとひと息吐いた。
喉を優しく潤した酒は、まるで清四郎の心が滲み出ているよう。
何故なら、その黒い瞳は慈愛に満ちていたのだから・・・・。

「おまえはすぐに油断する。そこが駄目なところですよ?」

「うん、わぁってる。」

「毎回肝を冷やす身になってください。」

「・・・・あんがと。」

滅多に出てこないはずの感謝が、するりと口から飛び出した。

「そういや、あのチンピラは?」

「警察に引き渡しましたよ。あの辺りでは有名な組でしてね。 女衒紛いの事をしてシノギをあげていたんです。ちょっと手加減し損ねて気絶してしまったので、病院送りかもしれませんが。」

「・・・・マジで?おまえにしちゃ珍しいな。」

「そう・・・ですね。」

フッと口元を緩めた清四郎の瞳は柔らかく細められ、悠理はドキッとした。
見慣れたはずのその表情に・・・。

「 さすがだと思ったのは、女衒――といっても美少年専門。おまえはあの男に少年だと思われたんですよ。
ようするに、風俗にスカウトされた………」

「なんだとぉ!!あんにゃろ!あと、二、三発蹴りあげときゃよかった!!」

憤慨する悠理にクスッと笑みを零す。

「おまえを気絶させた彼もショックを受けていましたねぇ。‘今まで見誤ったことはなかったのに’って。随分とプライドを傷つけられたような表情をしていました。」

「く、くそぉ!あたい、女なのにぃーー!」

地団駄を踏む勢いの悠理に、清四郎は茶化した雰囲気を引っ込める。
それはもう、あっさりと。

「女に見られたいですか?」

「ん?」

「手伝ってやりましょうか?」

「・・・どやって?」

悠理の問いかけには答えず、清四郎はベッドの端に腰を下ろした。
悠理を真っ直ぐ見つめながら―――

「簡単ですよ。男を知れば、自然と女に見えるようになります。」

しらっと告げた。

「男を・・・知る?」

その言葉の意味はさすがに解る。
耳年増の友人のおかげで。
悠理はごくりと喉を鳴らし、清四郎の視線を受け止めた。
なにか大きなものに飲み込まれたような、まったりと重い空気が漂う。
それは果たして望んだものだったのか。
そう感じても、近付いてくる手から逃れようとはしなかった。

長い手。
男の節ばった手。
清四郎の綺麗な手。

ベッドに押し倒され、口付けられても悠理は抵抗せず、清四郎の愛撫をひたすら受け入れた。
羞恥は不思議と感じない。
今までこの男には色んな部分を見せ過ぎて来た。
無論、‘女らしさ’を除いて。

心地良さと共に、身体が開かれる。
ふと見つめれば、珍しく息があがった様子の清四郎が居た。
汗を滲ませながら、焦りを帯びた目をしている。
何かに追いたてられるかのように。

「ゆうり・・・!」

「せぇしろぉ・・・」

自然と洩れ出す甘えた声。
意識せずに出したことなど一度もなかった声。

「悠理・・・僕がおまえを、女にしてやる。」

貫かれた痛みは酷くはなく、ただただ熱くて、燃え盛るような身体にしがみついた。

「あっ、あっ・・・せぇしろーー!」

鍛えられた肩に、腕に、腰に揺らされながら、悠理は喘ぐことしか出来ない。

「ゆ・・うり・・・・はぁ・・」

何度も、
気が遠くなるほど何度も穿たれ、清四郎の官能的な声を聞き続けた。
歓びが胸に広がる。
強く求められていると解ったから。
そう感じた時の身体は、自分でもままならないほど柔らかく蕩けて行く。
清四郎が優しくて、細胞の一つ一つに染み渡る。

「悠理・・・おまえはもう‘女’です。僕の手で女にしたんだ。」

「ん・・・」

ひたすら啼かされた身体に、ようやく微睡みが訪れた頃、清四郎の言葉が静かに耳を伝う。
男の腕の中で眠るなんて経験がないのに、何故か居心地が良くて、安らいだ。

「・・・・ですよ。」

何か聞き逃したような気もするけれど、眠りは容赦なく訪れる。
それに抗える体力は、悠理にはもう残っていなかったのだ。

結局、それから何かあったわけでもなく、二人何時ものような距離感に居た。
さすがに悠理はチラチラと清四郎の様子を見ていたが、変化は見られない。
それを寂しく感じながらも、「ま、いっか。」と楽天的な自分が顔を出し、何かを聞くこともなかった。

―――何か。

その内容はたくさんあるが、シンプルにまとめれば一つだけ。

――なんで、あんなこと言い出したんだ?

に尽きる。

同様な疑問は自分にもあって、

――なんで、嫌がらなかったんだ?

と不思議に思う。

セックスが『女らしく』させることくらい、可憐や他の人間から聞いて知っている。
ホルモンの分泌やら何やらが関わってくるらしいが、だからといって何故清四郎にそれを委ねたのだろう?
あの一夜は、ただそれだけのコトだったのか?
あいつは『男に見られる哀れな友人』を興味本意で抱ける男なんだろうか?

聞きたいけど怖くて聞けない。
「そうですよ?」といつもの笑顔で言われたら、何か、心の何かが崩れていきそうで・・・。

悶々とした日々が続く・・・。

そんな中、可憐が「ニュースよ!」と叫びながら部屋へと入って来た。
相変わらずの騒がしさで。
大学部の部室は高等部よりも広いが、なかなか、六人は集まらない。
それほどまでに皆忙しいのだ。

「なんだぁ?」

趣味で置いたパンチングマシーンを一人殴り付けていた悠理は、興奮しきりの可憐に眉をひそめた。

「清四郎に恋人が出来たみたいなの!」

息を整え発した言葉。
瞬間、胸を氷が貫いた。
鋭く、
何の予兆もなく、
ただ痛みだけを与えるかのように。

「お相手はなんと、二年生の才女!それもなかなかの美人なのよー。ま、もちろん私には敵わないけどね。」

聞きたくもないのにペラペラと話始める可憐の口を塞ぎたかった。
しかし、それでも悠理は曖昧に頷きながら、へぇと相槌を打っていたのだ。
何も聞こえないよう、その現実から目を背けて。



同じニュースを後から来た美童からも聞かされうんざりしたところ、
現れたのは渦中の男、清四郎だった。

「おや、一人で?」

「よぉ。おめでとさん。」

「はい?」

惚けた顔をする男が憎らしく、悠理の声に無意識の刺が含まれていた。

「恋人出来たって?才女、それも美人らしいじゃん。よーやくせーしろーちゃんにも春が来たってわけだ。めでたい!」

その言葉を聞いた直後、清四郎から一切の表情が無くなる。
真顔というよりは、感情を失ったような、そんな顔だった。

「本気で―――言ってるんですか?」

「あ、あったりまえだろ!おまえ、性格が性格だから、なかなか女出来ないだろーなって思ってたんだもん。
そりゃあビックリしたけど、でも―――・・良かったよ。」

心にもない言葉がこれほどまでにすらすらと口から出るとは―――
悠理は今すぐにでも自分の口をホッチキスで閉じてしまいたかった。
能面のような清四郎の顔は、更に冷気を感じさせる。

「僕は――あの時・・・」

「あれはっ!あの事は絶対内緒にしててやるから。安心しろ、なっ?」

言葉を遮り、矢継ぎ早に話した悠理は、居ても立ってもいられず荷物を手にする。
これ以上、清四郎の前で作り笑顔は難しかった。

「おめでとう、清四郎。ほんとに――。」

その言葉だけを言い残し、部室から飛び出す。
万が一追いかけられても捕まらない速度で。

そんな後ろ姿を、冷えた心で見送る清四郎は、深く深く溜め息を吐いた。

やだ
やだ!
やだ!!!
清四郎のバカタレ!!
歩く道々、悠理の悪態は続く。

‘恋人’なんか作りやがって。
人の事、何だと思ってんだ!

確かにあれは清四郎の優しさからの行動だったろう。
『女に見えない』自分を、少しでも『女に見られるよう』、助けてくれたんだ………と思う。

「あたい・・・他の男なんかに‘女’に見られなくても、別によかったのにな。」

そう、本当はそんなことどうでも良かった。
たった一人にだけ『女』と認められたらそれで良かった。
いつもいつも、女扱いされないことに腹を立てていたのも、清四郎に嗤われるから。
からかわれて、猿扱いされて、それが堪らなく惨めで―――。

あの夜、清四郎は情熱的で、もしかしたら自分はすごく『女』に見えているのかも、なんて自惚れた。
それほどまでに、激しく求められていたから――。

「でも結局、違う女を選ぶんだな。……そりゃそうか。」

現実に打ちのめされ、悠理は大きな孤独を感じた。
結局は選ばれない自分に幻滅しながら・・・・。

そうしてこの山荘へとやってきたのだ。
一人物思いに耽るため、強いては清四郎との事を忘れ去るため。
逆効果だとも露知らず。

「腹減ったぁ――サンドウィッチ買ってきて良かったじょ。」

たとえどんなに落ち込んでいても、身体は正直だ、と感じる。
悠理はリュックの中から、冷たくなった卵のサンドウィッチを取り出すと、再びロッキングチェアに腰かけた。

静か―――
薪の爆ぜる音は耳に心地よい。
敷かれた獣柄の絨毯にゆらゆらと炎の影が映る。

「ここにあいつが居たらなぁ。」

そんな虚しい呟きは空を舞う。

「ちぇ、どーせ今頃イチャイチャしてんだろーけど!」

大きな一口で最後の欠片を飲み込み、詰まりかけた胸をドンドンと叩いた。

ドンドン

ドンドン?

遠くから聞こえるドンドン。

何だろう?

立ち上がり耳を澄ませば、それはどうやら玄関先から聞こえてくる。
慌てて廊下に向かい、そのハッキリとした音に導かれるよう歩くと、辺りは真っ暗だというのに、細いスリット窓から見える庭先は、仄かに明るかった。

木製の重々しい扉を開ければ、そこには白い、いや雪が白く積もった長身の男。
暖かそうな黒いコートが真っ白に変わっている。
その上、珍しく小刻みに震えているではないか。

「せ、清四郎!」

「まさか、玄関ベルまで故障してるとは。早く入れてください。あーー寒い!極寒ですね。」

驚きを隠せず叫んだ悠理をあっさりとスルーして、足を踏み鳴らす。
明るいと思ったのは車のフロントライトで、それに照らされたシルエットがやんわりと揺れる。

「な、何で分かったんだよ!誰にも言ってないのに!」

「取り敢えず話は後です。あ、食材買ってきましたから、運ぶのを手伝ってくださいね。」

親指で促され、悠理は仕方なく車へと向かった。
大きな箱は四つもあり、『何入ってんだ?』と首を捻るほど重かった。

なんとか二人で運び終えた後、車のキーを持った清四郎はズカズカとリビングへ向かう。
初めて訪れたくせに、なんの迷いもなく・・・。

「お、ここだけは暖かいですね。やはり暖炉があるのは助かりますよ。」

重ねられた薪が少なくなっていることを目敏く見つけ、一つの箱を持ち込む。
そこには乾ききった薪がたくさん入っていた。

「おじさんの言うとおり、持ってきて良かった。」

「父ちゃん・・・が教えたのか。」

「ええ・・・・・」

よくよく話を聞けば、当初、居所の知れない悠理を探し出そうと、清四郎は魅録に援助を頼んだらしい。
携帯電話のGPS信号を辿りこの地域だと特定できたが、結局詳しい場所は解らず、
万作の記憶を掘り起こさせ、ようやくこの別荘が判明したのだ。
ちなみに山荘の半径5kmは圏外。
通話もメールも不可能だ。

「一人になりたかったんですか?」

「・・・・・・そだよ。」

「僕の所為で?」

「・・・・・・ふん!恋人がいる男に用なんかないぞ!」

どうしても突っぱねてしまう、天邪鬼な自分が恨めしい。
本当は嬉しいくせに。
寂しかったくせに。
何故、それが素直に言えないのか・・・・。

「可憐と美童には強くお灸を据えておきましたよ。」

「え?」

「彼らは彼らなりに僕たちの事を心配してくれていたんでしょうけど・・・これはさすがに悪質だ。」

「・・・・どゆこと?」

「確かに交際を申し込まれましたが、その場できちんとお断りしています。」

「・・・・・。」

清四郎は柔らかく微笑むと、ぽかんと立ち尽くす悠理の頬をそっと撫でた。

「僕たちの一歩進んだ関係に気付いた彼らが、悠理の後押しをしようとでっち上げたんですよ。想いを気付かせるためにね。果たして効果があったのかどうか・・・・」

『どうです?』と覗き込まれ、間抜けな顔を晒していた悠理もさすがに顔を火照らせる。

――勘違い・・・ってか騙されたのか・・・・。

清四郎には恋人が居ない。
その事実だけで、天にも浮かべそうな気持ちになる。

「僕は、悠理だけが好きです。あの夜・・告げたつもりなんですが、そう言えば返事を貰っていませんでしたね。」

冷えた心がようやく溶け出してゆく・・・。

「’女に見られたい’なんて・・・思ってなかった。」

「・・・・。」

「おまえ以外に・・・そんな風に見られるのなんて気持ち悪いから・・・。」

「・・・・・・それは、嬉しいな。」

「ほんとにあたいだけ?余所であんな事、軽々しく言ってないだろうな?」

「ぷっ!」

上目遣いに睨まれ、思わず吹き出す。

「馬鹿ですね。」

頬を触れていた手で悠理の後頭部を抱き寄せると、清四郎はぎゅっと胸に押し当てた。

「僕がこの手で’女’にしてやりたかったのは、おまえだけだ。過去も・・・・未来も・・・」

「未来・・・?」

「まだまだ足りませんよ。もっともっと綺麗にしてやるから・・・僕以外、誰も近付けないほど・・・」

「・・・・せぇしろ・・・」

恐る恐る背中に回した腕。
清四郎との体格差を改めて感じながら、悠理は目を閉じる。
鼓動が聞こえ、冷えた男の身体が次第に熱を帯びてゆく。
あの日の夜のように・・・・。

「しかし、寒いですね・・・・これはもう、アレしかないな。」

「アレ?」

「ええ・・・アレですよ。」

もう一つの箱からは大判の毛布が二枚。

「おじさんが、この別荘には何もないと言っていたので、念のため持ってきましたよ。」

「え!マジで?」

「暖炉の前でこれさえあれば、なんとかしのげるでしょう?」

「そ、そだな。あんがと・・・あたい何も持って来てないんだ。サンドウィッチも食っちゃったし・・・」

何という無計画。
呆れ顔の清四郎に、しょぼんと項垂れる悠理。

「もう一つの箱は食材です。取り敢えずは二日分。」

「やったーーー!」

単純な性格は今更のこと。
それが愛おしいと感じ始めたのは、もう随分前になる。

自分以外の手で「女」になどさせて堪るか。
チャンスを必ずモノにする男は、以前から虎視眈々とそれを窺っていた。

「悠理。」

「ん?」

「おまえの胃が満たされたら・・・次は僕を満たして貰いますからね?」

「え・・・・?」

「あの夜の・・・続きです。」

ポンと火花を散らしたように赤くなる可愛い女。
清四郎はペロリと唇を舐め上げ、男の欲情を示した。

山荘の夜は寒い・・・・。
だが、二人に訪れた甘い時間は、きっと暖炉の炎よりも熱く、激しく燃え盛ることだろう。

~おまけ(R)~

「あ・・・せぇしろ・・・も・・・熱いってばぁ・・・」

「なんの。まだまだイケるでしょう?」

「と、溶けちゃうよ・・・・・」

「ここはもう随分溶けていますよ・・ほら、こんなにもトロトロになって・・・」

「や・・・ぁ・・ん・・・」

「可愛いですよ、悠理。誰がどう見ても女にしか見えません。」

「ああ・・・!」

「そんな顔は僕にしか見せちゃダメですからね?こら、聞いてます?」

「う・・ふぅ・・・ん・・・」

丸二日間・・・・二人の睦み合いは続いたという。