just for kicks(R)

※耳かきショート

「せぇしろー、耳掻きしてやる!」

「遠慮します。」

「なんでだよ!」

「鼓膜がいくつあっても足りないからですよ。」

「どういう意味だ!」

「そういう意味です。」

二人の日常的なじゃれ合いを、馬鹿馬鹿しいとばかりに見つめる四人。
ここは神聖な学舎。
その中で唯一の無法地帯ともいえる生徒会室にて、有閑倶楽部の面々は夏休みに向けての旅先を考えあぐねていた。

「あんたたち、真剣に考えなさいよ!特に悠理!耳掻きは家でやりなさい。いちゃこらされるこっちの身にもなってよね、ったく!」

「本当ですわ。ただでさえ暑いんですのよ?これ以上室温を上げないでくださいな。」

不愉快そうに詰られたとて悠理はちっとも堪えない。
清四郎の周りをじゃれるよう、ぐるぐると廻り続ける。

「いちゃついてなどいませんよ。」

実年齢より上に見られる清四郎とて、恋人が出来たのはこれが初めてである。
本当は照れているはずなのに、一ミリも顔色を変えない不遜な男を、美童はここぞとばかりにからかった。

「そうだよねぇ。これが二人っきりだったら素直に膝枕してもらって甘えるのにねえ?」

「美童!」

さすがに気色ばむ清四郎。
迫力ある切れ長の瞳で、ギロリと睨み付ける。
そんな二人を眺めながら、意味深ににやついている魅録にも、その矛先は向かった。

「なぁ、せぇしろぉ!いいだろ?ほら、この耳掻き棒、優れものなんだよーー!気持ち良くて堪らないんだって!」

「悠理…………」

空気を読まぬままくっつく彼女を、清四郎は押し戻す。

「僕は毎日の耳掃除を日課としてるんですよ?だから汚れてなどいません。」

「んなこた知ってらい!でも耳掻きって掃除するためだけじゃないだろ?気持ちいいからするんじゃん!」

そう断言する彼女の手にかかれば、きっと阿鼻叫喚の地獄が待っていることだろう。
容易に想像出来る惨劇を頭に、清四郎は決して頷こうとはしなかった。

「ちぇ、人の好意を無駄にしてぇ。」

かといって、拗ねた恋人をそのままにしておくのは忍びない。
唇を尖らせる悠理の耳元で、
「今夜、僕がおまえの耳掃除をしてやります。」
と、密やかに囁いた。

「聞こえてますわよ。」

「はいはい。とにかくさっさと行き先を決めましょ。その後、耳掻きでも何でもしてちょうだいな!」

美女二人に容赦なく睨まれ、首を竦める二人は、冷ややかな視線から身を寄せる。
倶楽部内で決して怒らせてはいけない女性陣。
彼女たちの堪忍袋に限界が見えた為、清四郎は悠理とのじゃれあいに終止符を打った。

そして━━━━
何だかんだ話し合った結果、沖縄の島巡り五日間に決まり……六人はようやく生徒会室を後にする。
夏の夕暮れは目に痛いほど赤く、蜩の鳴く声が少し物悲しかった。

正門前のロータリーにて。
剣菱ご自慢の送迎車に乗り込む清四郎は、名輪に軽く挨拶をし悠理の隣に腰を落ち着けた。
二人は付き合って二ヶ月目の初々しいカップル。
清四郎に代わる野梨子の送り迎えを、魅録に頼むようになったのもここ一ヶ月ほどのことである。

「明日土曜日だろ?買い物いこーよ!その後映画観てさ!」

「別に構いませんが、確か三週間ぶりにおじさんたちが帰ってくるのでは?」

「うん!でも父ちゃんたち、直ぐに系列会社の謝恩会に出なきゃならないんだ。あたいは行かないけどさ。」

━━━おや。パーティ好きのこいつにしては珍しい。

清四郎は片眉を上げる。

━━━確か ‘武蔵鶴(むさしづる)物産’の40周年記念でしたかな?悠理が好む、贅を尽くしたパーティのはずですがねぇ。

そう思考を巡らせながらも、二人きりでデートすることにウェイトが傾く清四郎。
この調子なら、週末はべったりと甘い、濃厚な時間が過ごせそうだとほくそ笑む。

清四郎と悠理が交際していることはもちろん周知の事実。
万作は後継者の獲得に喜びを隠さず、百合子に至っては、早速結婚式の日取りを考え始めている。
相変わらず規格外な剣菱一家だが、今やラブラブな二人にとってそれは最早障害にはならない。
清四郎はもちろん、剣菱家に入る事を覚悟しているし、悠理もまた二人で過ごせるのならたとえどんな形でも良いと考えている。
敷地内には百合子がデザインした洋館が出来上がりつつあるが、それが二人の新居になることは明らかであった。

「なぁ、せいしろ。」

「なんです?」

「耳掻き、しちゃだめ?」

「何故そこまで耳掻きにこだわるんですか?」

「んとさ……」

悠理の両親は言わずもがな、いつまでも熱々のラブラブ夫婦だ。
大なり小なりのいざこざはあるものの、基本は人目を憚ること無くいちゃついている。
そんな中、百合子手ずからの耳掻きは日常茶飯事。
両親の仲睦まじさを見て育った悠理には、愛し合う二人の光景としてインプットされている。
もちろんそれだけが理由ではない。
いつもは寸分の隙もない清四郎。
そういった彼の無防備な姿が見たくて仕方ないのだ。
膝の上に転がして、彼がくすぐったそうに肩を竦める姿が知りたい。

「・・・まぁ、どうしてもというのなら覚悟を決めますけどね。けれど使う耳掻き棒は竹でお願いしますよ。」

「竹ぇ?あのじじ臭いやつ?」

「あれが一番ソフトに当たるんです。」

「ふーーん。分かったじょ。五代ん部屋から貸りてくる。」

実のところ、柔らかな綿棒を選び、出来るだけ安全性を確保したかったのだが、がさつな悠理のこと。
むしろ乱暴に扱われそうで、ここは敢えて華奢な作りの竹製を選んだ。

━━━━きちんと指導すれば問題ないだろう。

覚悟を決めた清四郎は、恋人からの初めての‘耳掻き’に、ある一定の緊張をもってのぞんだのである。



夕食を終えた二人は寝室のソファに座っていた。
三人掛けのそれはサーモンピンクのベルベット素材。
もちろん百合子の趣味である。
ごく自然な様子で部屋着に着替えた清四郎。
彼の為に用意された数々のお泊まりアイテムは、全て五代の手によって管理されている。

「ほら、膝に頭のっけて!」

「はいはい。いいですか?くれぐれも鼓膜を破らないでくださいよ?」

「わぁってる。そっとする、そぉっと……………」

ティッシュと耳掻き棒を握りしめ、目をキラキラと輝かせる悠理は、よほど楽しみにしていたのだろう。
そう考えれば、清四郎とて思わず可愛く感じてしまう。

━━たまには身を任せてみますか。

ショートパンツを履いた悠理の太ももは、素肌の温もりが心地良い。
柔らかな感触と甘い香り。
どちらも彼の精神を和らいだものにしてくれる。

「行くじょ?」

漆黒の髪をそっと撫でた後、悠理は整った形の耳を覗き込む。
清四郎の言う通り、ほとんど汚れていない。

━━━面白くねぇの。

しかしゆっくりと差し入れた時、彼の肩がぴくんと震えたのを見て、思わず口元が緩んでしまった。

「痛い?わけないよね。」

「え、ええ。」

人に耳の穴を晒したことなど何年ぶりだろうか。
幼い頃、母親にしてもらった擽ったさを思い出す。
あの時の絶対的な安心感はないけれど、心地良さはそれ以上で………清四郎はクスッと笑いを溢した。

「もう少し奥でも大丈夫ですよ。ええ、そこら辺………ああ……上手です。」

促される通り、細い竹棒は動く。
それが確かに気持ち良さを生み出すものだと分かれば、後は悠理の好きな様にさせた。

「ど?気持ちいい?」

「ええ……………………すごく。」

上も下も程よい力加減で掻き回され、とろんと瞼が落ちてくる。
悠理の愛らしくも窺うような声がまた、遠くに居たはずの睡魔を静かに呼び寄せた。

━━人にされることが、こんなにも優しい快感を生むだなんて……。
いや、心を許した相手だからこそ、委ねることが出来るんだな。

そう思い至った清四郎はとうとう睡魔に囚われた。
整った横顔に浮かぶ、安らかな寝顔。
悠理は、こみ上げてくる母性にくすぐったさを感じる。

━━━可愛い。

膝の上の重みすら愛しくて、そっと黒髪をすかした。

艶のある髪は絡まることはない。
整髪料は思ったよりも優しい手触りを残しており、香りもミント系。
男にしてはキメ細かな肌質で、吹き出物一つ見当たらない。
うっすらと髭剃り痕だけは見えるが、それも濃くないからか、男臭くは感じなかった。

━━━━━おっちゃんみたいに髭、生やせばいいのに。

悠理が好むワイルドな男。
しかし清四郎がそんな姿に変貌するなんてことは、とてもじゃないが想像出来ない。
普段から清潔で洗練された衣服に覆われており、持ち前の厚い胸板や広い肩幅は、服を脱がせてみて初めて判る。
逞しい筋肉が高い熱を帯び、割れた腹筋が思いの外、滑らかなことも。

━━━ヤバイ………あたい、欲情してきちゃった。

そう思ったとしても、こんな風に寛いだ姿を崩してしまうのは惜しい。
悠理は落ちた前髪をそっと掻き上げ、秀でた額と眉に見惚れた。
今さらだが、清四郎は美しい男である。
美童とは違い、日本男児としての凛々しさに満ち溢れている。

━━━昔はそんな風に思わなかったのにな。

自らの変化に驚きながらも、悠理は愛しさともどかしさが入り雑じった感情に振り回されていた。

━━━━結局はこいつが好きなんだよ………もう、どうしようもないほど………。

大ファンだったA.シュワルツェネッガーすら霞むほどの恋心。
仲間の前ではいつもはおどけて、子供のようにじゃれあっているが、本当は切ないほどの想いに胸をきゅんきゅんさせている。

二人は決して相性が良いわけではない。
意見の食い違いに喧嘩することは、これまでも多々あったし、互いの価値観はもちろん大きく違う。
でも、清四郎以上に自分を理解してくれる男はどこにもいない。
見透かされ過ぎている事に落ち着かない時もあるが、それでも彼の懐に収まる安心感には変えられない。

野梨子にも嫉妬した。
男同士、楽しげに話す魅録にだって妬けた。
人前で惜しみなく晒す可憐のダイナマイトボディには、カーテンを被せたいほど焦れた。

だが清四郎は悠理を選ぶ。

━━━━おまえほど興味深い人間は他に居ませんよ。

━━━━それって、好きってこと?

━━━━突き詰めればそうなりますかね。

━━━━そ、か。

そんな風に始まった特別な関係。
人前では相変わらず淡々としている清四郎が、二人きりになって恋人らしい時間を過ごしている時は、ほんのりと甘くなる。
キスも、その先も、初めての恋に混乱する悠理を優しく導き、包み込んでくれたのだ。

日一日と離れたくない欲求が高まってゆく。
早く清四郎の全てを知りたい。
そんな貪欲過ぎる自分も顔を覗かせる。
皆の知らない清四郎を、こうして自分だけの
ものにして、優越感に浸りたい。

彼女の独占欲は意外にも一般的な女性と似通っていた。

━━━━あたいはそんだけおまえが好きなんだよ。わぁってんのか?

緩く閉じられた唇。
溢れる安らかな寝息。
その口から飛び出す容赦ない嫌味に苛められた過去も、今は気にならない。

悠理はそっと口付ける。
稚拙なキスに想いを込めて。

キスの瞬間、清四郎の手が持ち上がり、悠理の後頭部を掻き抱いた。
あっという間に引き寄せられた彼女は、体勢を戻そうと慌てるが、清四郎の力に逆らえるはずもない。
重なった唇から忍び込んだ舌がどんどん深く、どんどん激しく、口内の粘膜を掻き回す。

「ん………っ!!んふっ!」

余すことなく舐め尽くされ、呑み込めない唾液が顎を伝う。
息を継ぐ暇すら与えられない、喰らいつくすような情熱。
清四郎のキスはいつも悠理を翻弄してしまう。
思考はぶっ飛び、身体の奥底から言い知れぬ震えが持ち上がってくる。

「も………っ!だ………め……」

ようやく解放された時、彼女の視界に飛び込んできたのは、清四郎の鋭い瞳。
既に見慣れつつある、欲情を秘めた男の顔だ。

「誘ったのはおまえでしょう?」

反論は出来ない。
頬が燃えるように熱く変化していく。

身体を起こした清四郎は、次に悠理を横たわらせシャツを剥いだ。
今や、三人掛けのソファは愛の寝床と化している。
ベルベット素材はうってつけだ。
ショートパンツに手をかけた時、悠理は慌ててそれを制した。

「やっ!」

「悠理?したくないんですか?」

「ち、違う。」

「なら何故?」

もじもじと膝を擦り合わせる姿は決して嫌がっている様子ではない。

「ぬ……」

「ぬ?」

「あたい…………濡れてんの。おまえを膝枕してただけなのに………」

メガトン級の発言。
むしろ暴言といっても過言ではない。

頭のヒューズが遥か彼方へと飛んでしまった清四郎。
ブチッ
ボタンが弾けるのも構わず、最後の砦ごと引き下ろす。

「やぁ!!!」

「見せなさい!」

細い割りに恐ろしい脚力。
しかし清四郎の本気の前では全てが無駄に終わる。
悠理の長い両足は呆気なく広げられ、秘めた場所が露となった。

「本当だ………びしょ濡れじゃないですか。」

決して揶揄したわけではない。
それはむしろ大いなる感動だった。

交際して間もなく身体を繋いだ二人。
積極的な清四郎に対し、悠理はどこか殻を脱ぎ去る事が出来ないでいた。
しかし敏感に反応する姿から嫌悪感は見られず、清四郎はどんどんと先へと歩を進めていく。

痛みを与えるなど愚行の極み。
しつこいほど解し、舌を奥深くにまで差し込んで、柔らかくなった粘膜を唾液でどろどろにさせた。
悠理の狭い膣内は清四郎に痺れるような快感を与えてくれるが、彼女はどう感じているのか?
喘ぐ声は甘い為、決して悪くはないと思うのだが。

「膝枕だけでこんなに…………?」

わざと確かめるように尋ねられ、悠理はミジンコになってしまいたいくらいの羞恥を覚えた。

「…………だって、おまえ………可愛かったんだもん。」

「悠理は可愛い男に欲情するんですか?初耳ですな。」

「ち、ちがわい!普段はちっとも可愛くない男が可愛く見えたから…………それがせぇしろうだから…………」

言葉尻を小さくしていく彼女が愛らしい。
清四郎は堪らず、ズボンを慌ただしく脱ぎ去ると、それを床へと投げ捨てた。
早く悠理の中に埋めたくて仕方ない。
このしとどに濡れた楽園へと潜り込みたい。

「………ちょっと早いですが、いれますよ?」

「……う、うん。」

限り無く膨張したソレは予想通りすんなりと収まった。
あとは彼女を啼かせるだけ。

「あ………あん!………うそ、も、イクかも!」

「もう?まだ少ししか動いていませんが。」

「な、なんか………いつもと違う……ぞわぞわする、中。」

戸惑う悠理を押さえ込み、滑らかな抽送を続ける。
彼女だけではない。
膣内の変化は彼自身も感じ取っていた。

「いいですね。僕もすごく感じます。」

捏ね回し、突き上げながら、悠理の胸を優しく舐めしゃぶる。
ピンク色の突起が徐々に紅色へと色づき、それが大好物な清四郎はしつこく舌を絡ませた。
時折甘く噛んでやると、胎内がキュッキュッと締まり、得も言われぬ快感が清四郎の肉棒を伝い始める。
自分達のセックスの相性が悪くないことは既に知ってはいたが、まだまだこの先の高みを目指せると思えば、興奮はさらに高まった。

「悠理、僕は絶対におまえを離しませんよ。二度と離してなんかやりません!」

彼の激しい情熱を垣間見た悠理は、蕩けて崩れそうな身体で必死にしがみつく。

「好き、好き、せぇしろぉーー!」

「悠理!!…………く、ぅ………!」

名を叫ぶと同時に天地が逆転するほどの恍惚を味わった二人。
清四郎は悠理を腕に閉じ込めながら、何度も腰を震わせ、蠢く胎内へと欲望の全てを吐き出した。





それからの彼らは━━━━━━

「悠理、今日は僕の番ですよ。」

「あれ?そだっけ?」

竹製の耳掻き棒を片手に、清四郎は膝を叩く。
悠理は素直にその上に転がると、髪を掻き上げ、きれいな貝を思わせる耳を彼に差し出した。

「気持ちよくしてやりますからね。動いちゃだめですよ?」

「ん、うん。」

鳥肌を誘うようなぞわぞわとした感覚に身を委ね、悠理は清四郎の繊細な指の動きを味わう。

「この辺りはどうです?」

「あ………ん……気持ちいい……」

むずむずと足を擦り合わせ始めれば首尾は上々。
二人の耳掻きは正しく前戯となっていた。

「一生、こうして愛し合っていきましょうね?」

「うん!」