飛んで火にいる夏の虫(R)

━━━本当はこんなコトしたくない。

ふ、とした間にこみ上げてくる欲求が、僕を困難と羞恥に陥れる。
この菊正宗清四郎を、ただの男に貶めてゆく。

「………っり、ゆうり、悠理!………っく!」

二度目の白い欲望に手を汚した自分は、明らかな虚しさと対峙していた。
こんなやり方、決して本意ではない。
いい年をして何を考えているんだ。

後悔と憤り、そして僅かな達成感。
閉じ込められた官能が身を焦がす。

今日の悠理はダメだ。
ああいった行動は、男を惑わせる。

人のお菓子を奪い取るために、僕の背中にのし掛かり、その幼い胸を感じさせる無邪気さ。

それだけじゃない。

手にしていたシュークリームの最後の一口を、彼女は大きな口で無造作にくわえた。
柔らかい唇と生暖かい舌。
思わずぞくりとさせられる。

それは無意識の仕草なのだろう。
紅い舌を唇に這わせ、乳白色のクリームを舐め取る。

乳白色のそれを………………

「もう……勘弁してくれ。」

脳裏に焼き付いたあの瞬間は何度も昂りをもたらす。

吐き出した汚れをそのままに、再び根元を掴み、ゆるゆると扱き出せば、それは呆気ないほど簡単に勃ち上がった。

屹立は猛々しい。
過去のセックスよりもずっと。

「……悠理、好きだ。好きだ。あぁ………おまえを………抱きたい………」

感情のままの呟きに興奮させられ、トップスピードで上り詰める。

ドクドクと胸を打つ心地好さ。
清潔な床に溢れ行く、悲しき残骸。
首筋に流れる汗と、快感に微睡む視界。

このまま、消えてしまいたい━━━

決して刹那主義ではない自分に、そんな思いが横切るとは………。
恋というものは、やはり手に負えない。

気怠い腰を起こし、何の気なしに部屋の入り口を見る。

━━━━隙間?鍵をかけ忘れていたのか?

家には誰もいない。
どれほど声を洩らそうとも、問題はないはず。
立ち上がるのも億劫なのに、それでも気になり、扉へと向かう。

キィィ………

微かな音の向こうには薄暗い廊下。
そこにまさか悠理がいるだなんて………想像もしていない。

「………………何故?」

「え、えへ。ほ、ほら、今日出た数学の課題、難しいから教えてくれるって言ってたじゃん?」

そんな記憶………いや、そう言えばそうだった。
彼女の姿に見惚れていた僕の脳は、その能力を半減させたらしい。
すっかり失念していた。

「言いましたね……確かに。」

「ち、チャイム押さなかったのは………ごめん!誰も居なかったみたいだし、勝手に上がっちゃって………」

薄暗さの中でも判るほど、彼女の顔は真っ赤に浮き上がる。

「良いんですよ。」

いいんですよ………悠理。
こんな場面を見られたのなら、僕にも覚悟が出来ました。

「さぁ、どうぞ?」

「で、出直してく………」

「大丈夫。早く入りなさい。」

パタン

強引に閉じられた扉。
そこに背をぴったりと付けたままの彼女を、強く抱き締める。

「せ、せぇしろっ!」

‘飛んで火に入る夏の虫………’

それはあまりにも可哀想か。

まずは告白から。

そしてその先へ━━━━