悠丞君は鈍感で、自分では解っていないようだけど、人を惹きつける魅力がとってもある男の子なの。
善人、悪人の識別はほぼ100%正解だし、何故か相手の戦闘力を削ぐような空気感を醸し出しているのよね。
あれは確か初等部に入って間もなくのこと。
私と悠丞君はとある誘拐犯に目を付けられ、港沿いの倉庫に連れ込まれたことがあった。
相手はどうみても悪人面してたんだけど、悠丞君と話している内に、ただの世話好きおじさんに変わっていって、最終的にはおみやげまで持たされて、たった五時間で解放されたの。
最初の頃、悠丞君はずっと私の手を握りしめていて、相手の男が危害を加えないよう、背中で一生懸命庇ってくれていた。
私より背が低いのに、その姿はとても男らしくて、益々好きになっちゃったのも解るでしょ?
人から悪意を取り去るなんて、ほんと普通じゃ出来ないこと。
悠丞君は持って生まれたその才能に気付いていないけど───うちの両親も、それに悠丞君のお父様も知っている。
どんな極悪人だって、彼の言葉に心がほぐれ、何故か自首したい気持ちになるんだから、ほんと表彰ものの能力だと思うわ。
そんな悠丞君が纏う空気に、年頃の女子達はフラフラと惹き寄せられ、私自身心穏やかでは居られない。
だから許嫁だってこともバラすしかなかったし、早めに既成事実も作らなきゃって焦ってる。
母さまや父さまに知られたら、卒倒されるだろうから内緒だけどね。
悠丞君は見た目通り奥手で、なかなか進展しないのは確実。
でも、きっと私のお願いには弱いから、高等部に進んだ辺りで、ちょっと本気出して迫ってみようと思ってるの。
海が見えるペンションがいいかしら?
それとも南の島の豪華なホテル?
こういう分野は美童さんや可憐さんが得意なんだけど、二人は今パリに居るし………アドバイスがもらえない。
それともメールでさりげなく聞いてみようかな?
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「椿ちゃん、どうしたの?」
「………ううん、何でも。あ、そうだ。次の土曜日、時間あるかしら?デートしない?」
「え?で、デート!?」
「だって………私たち婚約までしてるのにデートもしないっておかしいでしょう?」
ふふ、悠丞君ったら、真っ赤になって可愛い。
「…………映画とか?」
「映画も良いけど、確か万作ランドが20周年を迎えたのよね?すっごく派手なパレードが観られるかも。」
「あ、それ良いね。チケットは父さんに頼んでみるよ。」
「ありがとう。ついでに───ホテルも予約してくれる?」
「…………え?ホテル?」
もう!
何っにも気付かないんだから。
本当にあの二人の子供なのかしら。
「冗談よ。日帰りで楽しみましょ。」
彼の手を取れば、昔と同じで私よりほんの少し小さいけれど、それでもあの時の温もりが甦ってきて、すごく胸が落ち着いた。
きっといつか、悠丞君の身体にすっぽりと包まれる日が来る。
その日を待ち遠しく思いながら、私は彼の肩にそっと顔を寄せた。