道場小話5

「さすがにわしも年でのぉ。………弟子を増やすのはもう無理じゃわい。」

「んな固いこと言わずにさぁ~。あたいだったら水くみも鶏の世話も経験済みだし、じっちゃんの肩だって揉んでやるじょ?」

「ふぅ………確かに、嬢ちゃんほどよく動く弟子はなかなかおらんが………稽古をつけるとなるとこのじじいにゃ無理じゃて。ほれ、あそこの師範代に教えてもらえばええ。」

「やだ!じっちゃんに教わらなきゃ、清四郎に勝てないじゃんか!」

「まだそんな事を言っておるのか………。好きおうて結婚式を挙げたのは、つい最近じゃったろうに。」

「だって…………あいつ…………あたいの言うこと聞いてくんないんだもん!」

「はてさて────どんなことじゃ?」

「こ、ここだけの話だぞ?誰にも言うなよ?」

「この年寄りは口が固いことで有名でな………無論、誰にふれ回ることもせん。」

「んじゃ、信用する。実は……………結婚してからずっと、アッチの回数で毎晩揉めてるんだ。」

「“あっち”とはどっちじゃ?」

「だーかーら!じっちゃんの好きな“あっち”だよ!!」

「ほうほう、あのことか。」

「そっ。それ!あいつ毎晩毎晩、こっちが気絶するくらい求めてきてさぁ………次の日ヘトヘトになるから止めろって言ってんのに、『夫婦になったら何の遠慮もいりませんから』って無理矢理してくんだよぉ!夕べだって五回だぜ?ほら、分かる?目の下のクマ!」

「…………ふぉふぉふぉ。確かに黒くなっておるの。それで嬢ちゃんは、勝負してあやつに勝ったら言うことを聞いてもらうんじゃな?」

「うん!一本でいいんだ。多少卑怯な手でもいいから、あたいに稽古つけてよ!!」

「やれやれ………人間国宝に卑怯な手、とな。相変わらず怖いもの知らずじゃの。」

「だってこのままじゃあたい………すぐに子供産まされちゃうよぉ!!まだまだ遊び足りないのにーー!ヤンママなんてやだよぉー!」

「ふむ………なら嬢ちゃんが夜の主導権を握ればええ。」

「────主導権?」

「そうじゃ。ほれ、この本に男を翻弄させる体位が事細かに紹介されとる。この通りにすれば、なーに、清四郎も男。それも煩悩まみれと来た。簡単に嬢ちゃんの挑発に乗りおるはずじゃわい。くぁくぁくぁ。」

「こんなんであいつ、おとなしくなってくれる?」

「十中八九、解決するじゃろぅて。」

「ふーーーーん。なら試して見よっかな。」

悠理は想像も出来なかった。
恩師に袖の下を渡す夫の存在を。

浅はかな妻の行動を予測することなど朝飯前の清四郎。
とうの昔に買収された人間国宝は、愛弟子の願いを叶えるべく助言しただけ。報酬は下らぬ物だが、煩悩まみれの和尚にはもってこいの品だった。

その甲斐もあって、より大胆になった妻の艶姿に、腐れた夫は毎夜ほくそ笑むこととなる。

「おっかしぃなぁ。ちっとも回数減らないぞ?むしろ増えてる?」

果たして、お馬鹿な悠理が気付くのはいつの日か────?