「さすがにわしも年でのぉ。………弟子を増やすのはもう無理じゃわい。」
「んな固いこと言わずにさぁ~。あたいだったら水くみも鶏の世話も経験済みだし、じっちゃんの肩だって揉んでやるじょ?」
「ふぅ………確かに、嬢ちゃんほどよく動く弟子はなかなかおらんが………稽古をつけるとなるとこのじじいにゃ無理じゃて。ほれ、あそこの師範代に教えてもらえばええ。」
「やだ!じっちゃんに教わらなきゃ、清四郎に勝てないじゃんか!」
「まだそんな事を言っておるのか………。好きおうて結婚式を挙げたのは、つい最近じゃったろうに。」
「だって…………あいつ…………あたいの言うこと聞いてくんないんだもん!」
「はてさて────どんなことじゃ?」
「こ、ここだけの話だぞ?誰にも言うなよ?」
「この年寄りは口が固いことで有名でな………無論、誰にふれ回ることもせん。」
「んじゃ、信用する。実は……………結婚してからずっと、アッチの回数で毎晩揉めてるんだ。」
「“あっち”とはどっちじゃ?」
「だーかーら!じっちゃんの好きな“あっち”だよ!!」
「ほうほう、あのことか。」
「そっ。それ!あいつ毎晩毎晩、こっちが気絶するくらい求めてきてさぁ………次の日ヘトヘトになるから止めろって言ってんのに、『夫婦になったら何の遠慮もいりませんから』って無理矢理してくんだよぉ!夕べだって五回だぜ?ほら、分かる?目の下のクマ!」
「…………ふぉふぉふぉ。確かに黒くなっておるの。それで嬢ちゃんは、勝負してあやつに勝ったら言うことを聞いてもらうんじゃな?」
「うん!一本でいいんだ。多少卑怯な手でもいいから、あたいに稽古つけてよ!!」
「やれやれ………人間国宝に卑怯な手、とな。相変わらず怖いもの知らずじゃの。」
「だってこのままじゃあたい………すぐに子供産まされちゃうよぉ!!まだまだ遊び足りないのにーー!ヤンママなんてやだよぉー!」
「ふむ………なら嬢ちゃんが夜の主導権を握ればええ。」
「────主導権?」
「そうじゃ。ほれ、この本に男を翻弄させる体位が事細かに紹介されとる。この通りにすれば、なーに、清四郎も男。それも煩悩まみれと来た。簡単に嬢ちゃんの挑発に乗りおるはずじゃわい。くぁくぁくぁ。」
「こんなんであいつ、おとなしくなってくれる?」
「十中八九、解決するじゃろぅて。」
「ふーーーーん。なら試して見よっかな。」
悠理は想像も出来なかった。
恩師に袖の下を渡す夫の存在を。
浅はかな妻の行動を予測することなど朝飯前の清四郎。
とうの昔に買収された人間国宝は、愛弟子の願いを叶えるべく助言しただけ。報酬は下らぬ物だが、煩悩まみれの和尚にはもってこいの品だった。
その甲斐もあって、より大胆になった妻の艶姿に、腐れた夫は毎夜ほくそ笑むこととなる。
「おっかしぃなぁ。ちっとも回数減らないぞ?むしろ増えてる?」
果たして、お馬鹿な悠理が気付くのはいつの日か────?