「おや、早速来ましたね。」
「お、おう。」
よほどハードな鍛錬をこなしていたらしい。
いつもの隙のない髪型はすっかり乱れ、清四郎は汗だくの状態で悠理を出迎えた。
「午後の部では師範代が一対一で組み手をしてくれますし、おまえも道着を着て待っていなさい。」
「うん…………」
「どうしました?」
「あ、いや、何でも………ない。」
何故頬が赤らむのか。
見慣れた清四郎の半裸姿に、悠理の動悸は高まる。
「悠理?」
「…………え、あ、うん。」
これほど汗だくになっていても、この男の爽やかさや清潔感は損なわれることがない。
むしろ野性的な雰囲気が漂っていて、堅苦しい詰め襟なんかよりもずっと好ましい───と悠理は思った。
「ほら、道着。」
手渡されたそれを無意識に受け取り、清四郎の横を通り抜け、座敷の奥へと向かう。
男所帯の寺に彼女の更衣室など無い為、いつもそこで簡単に着替えを済ませていた。
「あ、そうそう。」
不意に手を掴まれ力強く引き戻される。
悠理は何事かと身構えるも、彼の芳ばしい香りにクラクラしてしまい、思わず清四郎の体にしがみついた。
汗ばんだ肌は、それでもまだ熱い。
「な、なんだよ?」
不満露わに尋ねると、
「そんな惚けた顔を………師範代に見せてはいけませんよ?彼は……おまえ好みの立派な体格をしているのでね。」
片目を瞑り、冗談か本気かも分からない言葉を囁いてくる。
「ば、ばぁたれ!!んなもん………」
おまえだから、こんな風になっちゃうんだろ!
と言えるほど悠理も素直ではない。
真っ赤になり俯くと、清四郎の指が囁かれた耳朶をそっと撫でた。
「…………なら、良いんです。」
見透かした上での納得。
悠理は慌てて彼の側から離れ、座敷へと駈け出した。
さっきよりも火照る頬は、もはや言い訳すら出来ないだろう。
そんな後ろ姿を満足げに見つめる男は、クックッと声を押し殺し笑う。
「そろそろ、次のステップに進んでも良さそうですな。」
交際一ヶ月目のその日。
清四郎の溜まりに溜まった欲望は、ようやく出口を求め、走り始めた。
「若さは良いのぉ。」
「はぁ………清四郎も年頃、ということですかな。」
「あやつはああ見えて欲深いからの。嬢ちゃんも大変じゃて。」
「わしがそんな気も起きないほど、鍛えてやりますよ。」
「クワァクワァクワァ!それはナイスアイデアじゃわい。」
二人はまだ知らない。
年頃の男の欲望は全てを凌駕し、より一層燃え盛ってしまうことを。
そしてその情熱?を受け止める悠理の行く末は───まさしく神のみぞ知る、である。