その国はとても豊かで、数多くの動物たちが生活する緑の森と美しい川、そして肥沃な大地に恵まれていた。
初老を迎えたばかりの国王は妻と娘、そして臣民への愛に満ちあふれ、とても慕われている。
これはそんな王国でのお話。
「じゃーーん!ほらわざわざ来てやったぞ!有り難く思え!」
「突然・・・誰です?貴女は。」
「はあ?あんたらが呼び出したんだろ?このユーリ様を!」
「国王がお会いになりたいとおっしゃったのは大魔女ユリコですよ?」
「母ちゃんは父ちゃんと旅に出てて暫く帰ってこないんだ。」
「なんですって………?」
突然現れた怪しげな格好の魔女よりも、その言葉にショックを受けたのか、がくりと項垂れる男。
すだれた前髪をくしゃりと搔き上げ、やるせない光をその黒い瞳に宿す。
美しい男だった。
喪服かと見紛った黒服はどうやら僧侶の衣装であり、それも相当‘位’の高い人物が着るものだろうとユーリは推測した。
すらりとした、しかし決して軟弱ではなさそうな彼によく似合う。
「ん?ところで坊さんがお城で何してんだ?」
「僕はセイシロウ。王室お抱えの僧侶です。これから話す事、絶対に他言しないと約束出来ますか?」
「あたいは口が堅いんだい!」
とてもそうは思えなかったが、僧侶・・・セイシロウは仕方なく秘密を暴露することにした。
今は藁にも縋る思いだったから・・・。
「実は、姫君が病に倒れています。」
「へぇ・・・・お姫さんって確かまだ15歳くらいだったよな。」
「はい。ノリコ姫が急な発熱に苦しみ始めたのが一昨日の夜。今も朦朧とした意識で食べ物も口にしません。僕が作った薬湯なども効かないようだし・・・これはもう大魔女に頼むしかないと考えていたんですが・・・」
はぁ・・・と溜息を吐く彼はよほど手を尽くしたのだろう。
手にしている大きな錫杖がやけに重そうに見える。
「ふん、一昨日からの熱か。坊さんなら一通りの医学も呪まじないも知ってるよな?」
「全部試しました。それでも一向に熱は下がらない。」
「となると・・・呪詛の類いかな?それも魔女の力を借りた強力なヤツ。」
「呪詛?ノリコ姫に対して?」
聞き捨てならないと目を瞠るセイシロウにユーリは大きな帽子から一匹の猫を取りだした。
「うわ!」
「こいつはタマフク。あたいの相棒だ。どんな事でも読み取ってあたいに教えてくれる。」
「猫の力を借りるんですか?」
「ただの猫じゃないぞ。魔女の猫を馬鹿にすんなよな。」
ユーリはセイシロウの胸を小突くと、いきなり大股で扉に向かって歩き始めた。
「ど、どこへ行くんです?」
「姫の寝室だよ。」
「勝手に入ってはいけません。姫付きの侍従に相談しないと・・・」
「一刻を争うんじゃないの?知らないよ、どうなっても。」
傍若無人な行動と物言いにセイシロウはムッとしたが、彼女の言葉は尤もで・・・
仕方なくユーリの一歩前へと踏み出し、トントンと錫杖を床に打ち付けた。
神々しい光が辺りに広がり、どこから現れたのか、黄金色をした輪が彼の側面に出来上がる。
「うひゃ!おまえ魔法まで使えんの?」
「簡単なものなら・・・・」
「え、でもこれって空間移動だよな。すげぇ・・・」
本気で感心した様子を見せる魔女に、セイシロウは苦笑する。
こいつは本当に魔女なのか、と。
そして姫君を救う術を持ち合わせているのか、と。
徐々に大きくなる輪は、贅を尽くしたピンク色の部屋へと繋がった。
「さ、どうぞ。」
「便利だなぁ。あたいもこんな風に一人でも上手く魔法が使えたら良いんだけど。」
「修行、しているんでしょう?」
「あはは、落ちこぼれだからさ。なかなか上達しなくて母ちゃんにどやされてる。」
「・・・・・・・・・・・・。」
招き入れたことを後悔するような発言。
セイシロウは本気で不安を感じ始めていた。
しかしここまで来て後には引けない。
今は僅かな可能性にでも賭けるしかなかった。
「いたいた。うわ・・・・たしかに辛そうだな。」
額に濡れた布を乗せた、まだ幼い姫を見て悠理は気の毒にとこぼす。
「かろうじて水だけは口に含ませています。」
「オッケ。じゃ早速、タマフクの出番だ。」
にゃおん・・・と可愛い鳴き声を響かせ、肩から飛び降りる神秘的なグレーの猫。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。タマフクはあたいよりもずっと優秀な魔女猫だ。」
そんな言葉にホッと出来るわけもないが、セイシロウは口を噤み、成り行きを見守った。
タマフクは苦しむノリコ姫のおでこに自分の額を当てる。
それは猫の仕草ではなく、まるで人間が労りを見せるようなもので・・・・セイシロウは瞬きもせず動向を見続けた。
にゃおん・・・・・・
たった十数秒のそれで魔女猫は何かを読み取ったらしい。
すぐにユーリの肩に飛び移ると、再びさっきと同じような行動を取った。
「ん・・・・・タマフク、良い子。おいセイシロウ、ばっちり分かったじょ。」
「え?もう?」
驚くセイシロウの手を引き、石造りのテラスへと移動する。
そこからは国全体が一望出来るが、ユーリが指さしたのはそのまた向こうの地だ。
「隣国に強力な魔女がいる。名前は・・・そうだ、確かスネークヘッド。」
「スネークヘッド??」
「もちろんあだ名だと思うけど、でもその魔女を使って隣国の王子はノリコ姫に呪いをかけてるんだ。」
「王子が?」
「心当たりある?」
ユーリの言葉にセイシロウはしばし沈黙する。
そう言えば三ヶ月ほど前、隣国からノリコ姫に「縁談」が持ちかけられた。
一度も会ったことがないというのに、人形の様に美しいとの噂を聞きつけ即断したらしい。
姫はまだ15歳。
幼すぎる彼女を溺愛する父母はそれを丁重に断った。
「あります。」
「ならビンゴだ。」
「振られた腹いせに呪いをかけるとは卑怯な男だ。」
「まあ、人間なんて皆同じさ。」
「そのスネークヘッドに勝てる見込みは?」
「ん~、そうだな・・・・・・・今は10%くらい?」
「は?」
あまりの低確率に言葉を失うセイシロウ。
これでは何の為に呼び出したか分からないではないか。
やはり急遽大魔女を呼び戻し、スネークヘッドと対決してもらうしかない。
そう告げようと振り向いたセイシロウは目を大きく瞠る。
いつの間にか魔女のしなやかな腕が首に絡み、まるでシルクのような肌がしっとりと触れる。
トパーズ色の大きな目が揺らめいて、彼を魅了しようと魔力を最大限に発揮している。
「あたいに力をくれたら確率は50%、いや70%に上がるよ?」
「・・・・・・・・・え?」
さっきまでの溌剌とした表情は消え去り、まるで女、それも妖女の艶めかしさを見せつけるユーリ。
博識なセイシロウといえども、これほどまでに力強いチャーム(魅力)を持つ魔女がいるとはついぞ知らなかった。
「ほら、早く。」
急かされたからではない。
セイシロウは抗えない力に惹きこまれ、気付けばその愛らしい唇に自分のものを重ねていた。
心地良い感触が彼の脳髄に蕩けるような快楽を与える。
その実、奪われているのは自分の力。
しかしそれでも良いと思わせるほどの快感が、ストイックなはずの彼を大きく包み込んだ。
一分ほどかけた濃厚なキスはセイシロウの逞しい身体を脱力させる。
対し、ユーリはまるで天使のような光を纏わせ、満足そうにタマフクへと合図を送った。
確かに猫だったはず・・・・・
だが一瞬で大きな翼を持つ黒い鳥となり、ユーリはその上に軽く飛び乗る。
「んじゃ、行ってくる!」
「ま、待ってください。」
「何?」
「い、いや・・・・・・その、必ず無事に帰ってきてくださいね。」
「あったりまえだい!どんな卑怯な手を使っても倒してきてやるからな!」
内容についてまでは聞きたくは無かったが、不思議とセイシロウはこの頼りないはずの魔女が呪いを解いて帰ってきてくれるだろうと確信していた。
大空を飛んでいく黒い鳥。
その上に乗ったカラフルな魔女。
セイシロウの心はたった一度のキスで拙い魔女のモノとなってしまった。
「はぁ・・・・。末恐ろしい魔女だ。」
錫杖をぎゅっと掴んだ彼は、戻ってきたユーリをどう捕獲すべきか、大いに悩み始めることとなる。
結果的にユーリはスネークヘッドと呼ばれる魔女に打ち勝った。
しかし鳥になったタマフクが連れ帰った彼女はボロボロの姿で倒れこむ。
カラフルに着飾っていた洋服はあちらこちらが破け、瑞々しい肌にはたくさんの傷が見受けられた。
その闘いが決して容易なものではなかったと分かる。
癒しの術を使えるセイシロウは慌ててユーリを治癒し始めた。
しかし魔力のほとんどを使いきった身体はなかなか回復を見せない。
その反面、ノリコ姫の熱は下がり、みるみるうちに元気になっていった。
国王は喜び、気遣いに長けた王妃は、魔女ユーリの為、最大限の手当てをすると申し出た。
国を代表するほどの実力を持つセイシロウは付きっきりとなり、ありとあらゆる薬草を手に入れ、ユーリの治癒に全力を注ぐ。
その甲斐あってか、闘いから三日経った頃には、普通に食事が摂れるまでに回復していた。
ノリコ姫は恩人の側に、優しい香りのするハーブを飾る。
「ユーリ様、貴女のお陰で助かりました。」
「へへ。良かったね、お姫さん。スネークヘッドは強力な魔女だったけど、あいつが呪術で使う黒水晶をぶっ壊してやったから、もう安心していいよ!」
「黒水晶?」
セイシロウは薬草湯を作る手を止め、尋ねた。
彼が作るそれは極めつけの苦さを誇る。
嫌がるユーリのため花の蜜をたっぷり混ぜることで、なんとか飲ませることに成功していた。
「そ。黒水晶は魔力を増幅させて、あらゆる呪術を可能にさせるんだ。母ちゃんも持ってる。あたいはまだ触らせてももらえないけどな。」
「なるほど。魔女のアイテムにはそんなものが存在するんですね。」
博識の僧侶も知らぬことがあるらしい。
魔女の世界とは奥が深いな、と感じ入ったように頷く。
「はぁ~、鈍ってきたなぁ。そろそろ身体を動かしたいじょ。」
「まだ本調子ではありませんよ。あと一日、二日は動けません。」
「むぅ。」
二人のやり取りをノリコ姫は微笑ましく見つめる。
15才の少女にしては大人びた瞳を持つ彼女は、命の恩人であるユーリにとてもなついていた。
裏表を感じさせない性格と、明るい笑い声。
相手が国王であろうと、城で働く使用人であろうと、彼女の態度は変わらない。
それがとても好ましいと感じた。
「ユーリ様、もし動けるようになったら、果実の森へピクニックに行きませんこと?」
「果実の森かぁ、いいね。あそこには仲の良い妖精の姉弟がいるんだ!」
「妖精?それはどんな類いの?」
興味津々で身を乗り出すセイシロウは、片手に持った分厚い本を捲り始めるが、ユーリはそれを制し、タマフクを彼の前に差し出す。
「本になんか載ってないよ。とっても綺麗な妖精で、すごく繊細なんだ。人前には滅多に姿を現さない。」
目を閉じたセイシロウにタマフクの額がそっと触れる。
そこから流れてくる妖精の姿に、彼はなるほどと納得させられた。
「確かに見たことがないですね。色素の薄い人間の形をしているが、虹色の羽を持っている。とても神秘的だ。」
「そそ。あたいがいつも遊んでやってるのはビドウとカレンっていう番(つがい)の妖精さ。見た目は儚そうに見えるけど、とにかくよく喋る奴等なんだ。あいつらの噂話には本当のコトもたくさん混じってて、あたいたち魔女は情報収集をするときに、必ず頼ることにしてる。」
タマフクを優しく撫でながら、ユーリは嬉しそうに話す。
彼女の交遊関係は想像以上に広く、成長途中の魔女にしてはなかなか物知りではないか、とセイシロウは思った。
「そういえば、貴女の魔力についてですが………」
「ん?……………あぁ、あん時のこと?」
「魔力を上げるために人間から………その、ああいった形でエネルギーを吸い取るのが一般的なんですか?」
「キス?」
「…………え、ええ。」
‘キス’という言葉にピクリと反応したセイシロウだが、あの時のユーリの変貌ぶりが、未だ瞼に焼き付いて離れない。
妖しく光る瞳に魅入られた後、磁石のように引き寄せられてしまい、気付いたときには唇を重ねていた。
それは普段感じない官能を呼び起こし、いつしか絡め合っていた舌は痺れるように熱かった。
あんなにも淫らな気分にさせられたことは、生まれてこの方、一度としてない。
彼はあくまでもストイックな僧侶であるからして━━━━━
「ん~。あれは………」
「あれは?」
「何となく、そん時の気分ってやつかな?」
「は?」
「別にどんなやり方でも吸いとれるんだけどさ、ほらおまえ結構イイ男だし?気分が乗っちゃったんだよ。」
耳を疑う言葉にセイシロウは愕然とする。
「そ、そんな理由で…………僧侶であるこの僕の唇を奪ったというんですか?」
「キスくらい別にどうだっていいじゃん?」
「ぼ、僕は、初めてだったんですよ!!」
「は?」
「大昔、隣人のボケたお婆さんに無理矢理奪われて以来、キスの経験などありません!だいたいあれはもちろんノーカウントだし……」
ボソボソといじけたように文句を言う男は、果たして本当に国王に認められた僧侶なのだろうか。
ユーリは頭痛を覚えながらも、セイシロウを手招きした。
ベッドの側に立つ男は背も高く、体格も良い。
キリリとした眉に理知的な瞳。
引き結ばれた唇も精悍さを漂わせている。
決してモテない男ではないだろう。
僧侶の戒律はあってなきが如し。
女を幾人もはべらす輩も少なくはないのだ。
「んじゃ、あたいのもノーカウントにすればいいだろ?」
「そ、それは……………」
「あたいだってこう見えて、そろそろ100年は生きてるんだ。充分婆さんさ。」
「え?嘘でしょう?」
「ほんと。ちなみに母ちゃんは400歳だ。」
実のところ、魔女の実年齢を知ったのは初めてだった。
ショックを受けたセイシロウは、がくりと肩を落とす。
「その美しい姿で………100歳。信じられない。せっかく心を動かされる女性に出会ったというのに………」
「え?」
思いがけない言葉に、今度はユーリが驚く番であった。
「ど、どゆこと?」
「僕は貴女のキスに運命を感じてしまったんです。心を鷲掴みにされてしまった。一体どうしてくれるんですか!」
どうもこうもないだろう。
ユーリは呻く。
セイシロウは見た目で換算しても20代半ば。
確かに年頃の青年であり、恋愛や結婚を意識し始めてもおかしくはないのだが………。
「おまえ、年いくつ?」
「20歳ですが?」
「げっ!そんなに若いのか!?老けてんなぁ。」
しかしこの若さで国王に認められているということは、余程の実力を持っているに違いない。
まさしくエリート中のエリートだ。
ムッとした様子のセイシロウが一気に幼く感じ始めたユーリは、無性に可愛がりたくなり、彼の無防備な手をそっと掴んだ。
「な、なんですか?」
「100歳の魔女は、気に入らない?」
「……………え?」
「おまえがその気なら………あたい、おまえだけの魔女になってやってもいいじょ?」
「!!!」
二人がモジモジし始めたのを見て、傍観者であったノリコ姫はそっと扉へ向かう。
━━━これはお父様たちに報告しないと!
さて、この後の二人は一体どうなるのか?
年の差80歳のカップルは果たして誕生するのか?
「ふぁ~あ。よく寝た。」
真っ白なシルク地のシーツ。
真鍮で出来た天蓋からは豪奢なシフォンのカーテンが垂れ下がり、中の二人を覆い隠している。
大きく伸びをした魔女は、隣で眠る若き僧侶の安らかな寝顔をじっと見つめた。
あの後、ユーリが無意識で使ってしまったチャーム。
セイシロウはその魔力であっという間に理性を奪われ、まだ本調子ではない彼女を押し倒す。
興奮した男、それも逞しい男には流石のユーリも敵わない。
ただでさえ体力が完全に復活したわけではないのだ。
だがしかし、自らもまた、セイシロウという男に惹かれ始めていた為、最後まで拒否する気にはなれない。
僧侶である男を可愛いと感じてしまった彼女は、彼の欲望を受け入れたことについて、特に後悔などしていなかった。
・
・
・
目眩く官能の世界を味わったセイシロウは、立て続けに二度、三度、いや五度ほど求め、病み上がりのユーリが悲鳴をあげるまで奪い尽くした。
魔女をここまで翻弄するなど、いくら鍛えられた僧侶とはいえ有り得ない。
ユーリはへとへとの体で流石に文句を言ったが、セイシロウは構わず六度目のそれにチャレンジし始めた。
まるで覚えたての猿の如き衝動。
彼の立場上、当然褒められた行為ではない。
がしかし、初めて「女」を知った彼は、その新たな世界に魅了され、そしてユーリという100歳の魔女に溺れてしまった。
コントロール不可能な自制心に戸惑いながらも、若い彼は留まる事を知らない。
結局十回にも及ぶ交歓の末、ユーリがとうとう気絶してしまい、我に返った彼もまた満たされた身体で床についたのだ。
それがチャームの所為だったかどうかなど、最早どうでも良いこと。
年の割に幼く見える魔女は、どんなスイーツよりも甘かった。
・
・
「やべぇな。孕んだかも。」
裸のまま下腹部を押さえるユーリは、一瞬迷った挙げ句、自らの子宮に魔術をかけた。
魔女と人間の‘混血’は、この世であまり歓迎されない。
人間界で異端者が長く生きるということは、それほど容易くはないのだ。
「ん・・・・ユーリ?」
「セイシロウ、起きた?」
未だ覚醒しない男をユーリはふわり、抱き寄せる。
ふっくら柔らかな胸が、彼の整った鼻を優しく包み込み、甘い香りが夕べの爛れた記憶を呼び覚ます。
それは普段理性的な彼が羞恥に悶えるほどの記憶。
「あ・・僕は・・・・」
「おまえ、すごかったな。おかげで体力が根こそぎ奪われたぞ。」
「す、済まない。」
申し訳なさそうに謝罪する男が愛しくて、ユーリは更に強く抱き締めた。
僧侶のくせにケダモノ。
これはもうギャップ萌えとでも言うのだろうか。
「謝んなくていいよ。あたいはもうおまえだけの魔女。好きにして良いんだ。」
「・・・・いいんですか?」
「ん。」
「では・・・もう一度・・・・・」
「え!?」
「僕は、貴女ほど甘美な存在と出会ったことがない。」
僧侶という皮を剥ぎ取れば、彼は野生的な男だった。
魅力ある一人の青年。
人間如きに心を奪われるなど魔女の風上にも置けないが、それでもユーリはセイシロウを受け入れた。
「あ・・・・」
恋をした二人のキスにチャームなど必要ない。
「ユーリ、・・・・ああ、こんなにもキスが甘いなんて・・・・」
離れては触れ、触れては絡む、を繰り返す。
「セイシロウ・・・」
「ん?」
「いや・・・何でもない。」
限りある命のセイシロウと、千年を生きると言われている魔女。
未来ある青年を惑わせた罪の意識がのしかかる。
ユーリは一瞬、迷いに身を投じたが、彼の執拗なキスがあまりにも気持ちよくて、結局はそれを放棄してしまう。
「ユーリ・・・僕だけの魔女、いや恋人になってください。」
冷えた身体が火照り出し、与えられる熱い想いに胸がざわめく。
刹那的な関係でもいい。
そう踏み切れない何かが、彼の真摯で理知的な目には宿っていた。
「うん。いいよ・・・・」
100年生きてきて初めて抱く温かな感情。
過去、誰にも心を明け渡すことを許さなかったユーリは、自分が魔女であることを初めて後悔した。