夏の夜の小さなお祭り

※夏祭りショート


お囃子の音。
熱気漂う中、赤い提灯が屋台を彩る。

地元のお祭りなんて滅多に来ないけど、今日はママの代わりに私がパパのお相手。

綿飴
焼きそば
かき氷
ついでに輪投げで景品を当てるのもいいかもしれない。

「ママの分もたっぷり遊ばなくちゃね。」

「さぞかし悔しがることでしょうな。」

せっかく楽しみにしてたのに。
いきなり悪阻がひどくなって、ベッドから出れないなんて、可哀想なママ。
おかげでパパとデート出来たけど、さすがに心苦しい気がする。

「金魚掬いしよっかな。」

「ふむ。…………そういえば悠理は出目金が好きですよ。」

「デメキン?ならたくさん救って、持って帰ってあげる!」

苦労の結果、四匹の出目金をゲット。
赤と黒のコントラストが綺麗。
早速おじいちゃまに、大きめの水槽を譲ってもらわなくちゃ。

「悠歌はセンスがありますな。」

そういうパパの手にも、赤くて小さな金魚が7匹。
流れるような手捌きは、金魚屋のおじさんも驚いていた。

「ね、パパ。リンゴ飴のでっかいやつ、ママのお土産にしていい?」

「何本でもどうぞ。」

「あ~・・・・たこ焼きも欲しいかなぁ?」

「今日はさすがに辛いでしょうから、明日、食べれそうなものにしなさいね。」

「はーい!」

カランコロン、鳴り響く下駄の音。
本当はママとこうして音を重ねたかったパパ。
ごめんね、娘で。
来年はきっと、二人仲良く手を繋いでるはずだから、今回だけ我慢してね。

ピロピロン♪

タイミング良く届いたメールには「たこ焼き欲しい」の一言。
さっすが、ママ。
元気になったみたい。

「パパ!たこ焼き三船買ってきて!」

「三船も?」

「ほら。ママの食欲戻ったみたい。」

携帯電話の画面を見せつければ、パパの顔が苦みを帯びた。

「やれやれ。一日くらい食べなくても死にやしないんですけどね。」

言いながら財布を取り出し、屋台を目指す。
何だかんだ言っても元気な方が嬉しいんだよね。
ママだって寂しさを我慢出来なくなったから、たこ焼きを要求してきたんだよ。

『冷めないうちに帰ってきて。』

それが暗黙のお願い。
ほんと───甘えん坊なんだから。

「さ。帰りましょうか。」

袋いっぱいのたこ焼きと何故か焼きそばまで。
帰ったらちっちゃなお祭りの続きをしよう。
金魚を愛でながら、皆で夏の夜を楽しもうね。

来年もまた─── 加わった小さな家族を囲んで、たこ焼きを食べているに違いないけど。