忘れられない女(4)

  1. 忘れられない女(3)

 


 

「せぇしろ……どこにいんの?」

暗闇の中、もがく手すら徐々に闇色に染まっていく。
息苦しさ、焦燥感、孤独感。
悠理が苦手とするそれらの感覚に囚われ続ける真っ黒な世界。
一つの光を求め彷徨う手が、指が、闇から抜け出そうと必死に足掻いている。

身体が重い……
本当はこんなところに居たくないのに……

暗闇から逃げるように瞼を閉じれば、浮かび上がってくる一人の女。
賢く、美しく、その美貌に隠された狡猾さと、二人の青い過去。

何も思い浮かべたくないのに
何も想像したくないのに
彼らがどんな関係だったにせよ、今の清四郎は悠理のものなのに。

吐き気がする。

男の髪も、知的な瞳も、優しく落ち着いた声も、美しい喉仏も、屈強な身体も、爪一つに至るまで悠理が所有している。

「貴女……良くも悪くも子供なのね。けれどそのままのあなたで彼の隣に立ち続けることが出来るかしら?」

やかましい。
おまえなんかに傷つけられたりするもんか!

奥歯から血がにじむほどの憤り。

なぁ……清四郎。
あたい、知ってるんだ。
おまえって一見薄情そうにみえるけど、本当は誰よりも優しい奴だって。
一度でも受け入れた人間には、とことん情けをかける奴だって……知ってるんだ。
仲間の為なら覚悟を決めて、どんな危険だろうと飛び込んでいく。
それって責任感だけじゃないよな。
あたいだって……そんなおまえに何度も助けられてる。
だから、好きにならずにはいられなかったよ……
あたいはお前が思ってるよりずっと────

 

「悠理?」

波の音が聴こえる。
淡い日が差し込む部屋は、いつもの天井ではなかった。
恋人の眼差しと、甘く不安げな声。
長い指が、悠理の頬を優しくなぞった。

「怖い夢でも見たんですか?」

そうだ、ここは沖縄だった。
昨日この地に降り立ってから、タクシーで真っ直ぐにやってきた会員制ホテル。
その権利は清四郎の親が持っている。
プライベートビーチには会員以外入ることは出来ず、10棟に満たないコテージは二階建てで、朝日も夕日も臨める完璧な立地に存在した。

白いシーツに包まれた大きなベッド。
南国らしい花の香りが漂う。
昨夜は近くのレストランからケータリングし、思う存分沖縄の料理を楽しんだ。
酒を飲み、フルーツを齧り、映画を観る。
二人は自堕落な夜を過ごし、そしていつしか眠っていたのだ。

「おはよ……。怖い夢っていうか……不安になる夢だった。」

清四郎の眉が寄せられ、顔が近づく。

「悠理……彼女のことは気にするな……と言っても難しいんでしょうね。」
「あたい、別にそんなつもりじゃ……」

剥き出しの敵意で、攻撃的な発言を繰り返す冴子に、どことなく敗北感を感じずにおれなかったあの時。
悠理は自分に何が足りないか、よくわかっていた。
彼女がどんな目線で見つめているのかもわかっていた。

それでも清四郎は手放せない。
自分に足りないものを補う男は彼しかいないと信じているからだ。

「おまえの不安を……不快な思いを、どうやったら取り除けるんだろうな。」

困り果てた様子の清四郎がちょっとだけ可愛く感じ、くすっと笑みをこぼす。

「大丈夫だって。おまえが思うほど気にしてるわけじゃない。ただ……」
「ただ?」
「清四郎の弱みを握られてるような感じがして、嫌なだけだ。」

そういって悠理は恋人の唇を奪った。
細い腕を彼の首に回し、力いっぱい抱き寄せる。

「なぁ……朝飯前に……いいだろ?」

滅多に誘わない彼女の想いを感じ、清四郎は悠理の唇を深く、強く貪り始める。

「ん……っ……はぁ!せ……」
「煽った責任は……しっかりとってくださいよ……。」

そうしてその日一日、二人は部屋を出ることはなかった。


 

沖縄で丸三日楽しんだ悠理は、すっかり晴れ晴れした気持ちで自宅へと戻った。
清四郎が予約したホテルはとても落ち着いた雰囲気で、快適に過ごすことが出来た。

部屋直結の白い砂浜。
24時間使えるプールは悠理にとって最高のサービスだ。
二人は朝から夕暮れ時まで泳ぎ、潜り、沖縄の海を満喫した。
夜は大きなベッドで愛し合い、互いの愛を疑う事がないよう繰り返し交わった。

「結婚、しましょうか。」

そんな呟きが聞こえた気もしたが、くたくたに疲れ果てた悠理は夢の中。
たとえそれが聞き間違いであれど、彼女にとって将来の夫は清四郎しかいない。
清四郎にとってもそうであると確信があった。

(余計な邪魔さえ入らなければ───)

 

 

 

程よく日に焼けた身体を鏡越しに見つめながら、悠理は冴子の顔を思い出す。

────清四郎が初めて知った女

過去など気にしないでおこう……そう思っていたのに、どうしても瞼にチラつく嫌な女。

美しさと高い教養を持ち合わせ、恐らく医師としてもレベルが高いのだろう。
何せ清四郎の父親が一目置くのだから間違いない。
スタイルもよく、溢れる自信と大人の色気が備わっている。
確かに今の自分では勝てる要素が全く見当たらない。
せいぜい金と体力、それに食欲。

あんな女が清四郎の過去に存在するなんて、それはちょっとズルいんじゃないか?と思わざるを得ない。
悠理にとって清四郎が初めてで、彼もそうであってほしいと願ったが、こればかりはどうしようもない現実だ。

「邪魔すんなよ……今更。」

不機嫌と不安が入り混ざった感情に、悠理の心はグラグラと揺さぶられた。

『可能な限り、会わないようにするから』

彼の気遣いは嬉しいけれど、冴子に対する憤りはなかなか治まらない。劣等意識がメキメキと育ってゆく。

自分たちは一般的な男女の括りに当てはまらないと思っていたが、どうやらそんなこともなさそうだ。

「ふん!次、ちょっかい出してみろ。けちょんけちょんにしてやる!!!」

響き渡る怒号を、廊下を歩くメイドが聞き、「またうちのお嬢様は……」と溜息を吐いたのは言うまでもなかった。

 


 

「ねぇ、そろそろ旅の準備しましょ!野梨子、悠理、付き合ってちょうだい。」

大学帰りのカフェで。
ウェーブヘアをお団子にした可憐は、雑誌を見せながら嬉しそうに誘った。
そこにはイケメンスタッフがずらり揃った写真が載っていて、銀座の一等地に出来たという美容室の名前が堂々と表記されていた。
中には美童のようなハーフらしき美青年も居て、皆それぞれ美しい顔立ちを披露している。
面食い可憐の食いつきは当然のことだった。

高校最後の夏休み。
ニュージーランドには二週間ほど滞在する予定で、チケットやホテルの手配は全て魅録が行っている。

「別に構いませんけど、男性専用ではなくて?」
「ちっがーう!このお店は日々の疲れに苦労している女性を癒してくれる最高の美容室なのよ!」

一体何に疲れているのか──と二人は思ったが、言葉を挟めばまた厄介な事態になりかねないので、ここは大人しく頷くことにした。

「特に悠理。あんたもきっちり磨き上げて、清四郎の心が離れないようにするのよ!分かった?」

皮一枚のことで心変わりされるのなら、とっくに別れているだろう。
とは言えず、悠理は「わぁったよ……めんどくさいけど。」と同行することを承諾した。
彼女たちに、清四郎と冴子の関係について告げていない。
友達思いな二人が彼に憤りをぶつけること必至だからだ。
言ってしまえばいいかな──と何度か思ったが、それでも悠理にとって初めての恋人。
非難の的にはしたくなかった。

 

 

三人が銀座でもひときわ新しいテナントビルの最上階に到着した時、

「あら!」

「え!?」

「まあ!」

それは見事な鉢合わせ。
可憐たちが驚くのも無理はない。
二人はいつもより数段輝く黒髪を揺らし、美しい目を見開きこちらを見つめている。

「和子さん!……と冴子さん?ですよね。」

なんという偶然なのだろう。
因縁かよ……と思ったのはもちろん悠理だ。
先日の事件もあり、本当は二度と顔を合わせたくなかったが、そうか、こういう事態もあるのか、と思い至る。
和子と冴子の関係性をすっかり忘れていたのだ。

「よく此処を知ってたわね。さすがは可憐ちゃん、情報通だわ。」
「えへへ……!和子さん達も初めてですか?」
「そうなの。冴子さんの知人がこちらの経営者らしくて、おねだりして連れてきてもらったのよ。」
「それにしても噂通りですね。髪がすっごく輝いてますよ!」

世間は狭い──とよく言うが、さすがにこれは狭すぎだろう。
悠理は口をへの字にして唸った。

「こんにちは。この間は楽しかったわ。」

髪艶に加え、念入りにメイクされた冴子が声をかける。
元々目鼻立ちの整った美人が本気の化粧をすると大迫力だ。
それは悠理にも言えることだが──

「あら、二人はどこかで?」

興味深げに尋ねる野梨子。
しかし悠理は無言のまま、それには答えない。

「ふふ、私が二人のデートを邪魔しちゃったから嫌われたのよ。ごめんなさいね。」
「邪魔って……」

一体何があったのか見当もつかない彼女たちは、悠理の顔が強張っていることにようやく気付いた。

「そ、それじゃ、あたしたちは予約があるので、この辺で。」
「きっと満足するはずよ。楽しんできてね。」

和子たちと分かれた後、可憐が店の中に悠理を引きずり込む。

「どういうこと?何があったの?」
「……言いたくない。」
「あたしたちにも言えないこと?」

目を逸らしたままの悠理に追及を重ねる可憐。
それを制したのは野梨子だ。

「可憐、話は後にしませんこと?ほら、店の方たちが……」

振り返ればそこに並んでいたのは、写真よりも遥かに美しい青年たち。
皆白いシャツに光沢のある黒いズボンで、優雅な立ち姿を見せている。
豪華な室内に相応しい立ち居振る舞いはさすがだ。

「お嬢様がた。Dame éternelleへようこそ!」
「んまぁ!」

可憐の興味は一瞬でそちらへと移った。
期待していた以上の顔ぶれに心が躍る。

「黄桜様ですね?初めてのご予約ありがとうございます。」

そう言ってにっこり微笑む青年の胸元には、薔薇色の文字で『YUIGA』と書かれてあった。
栗色の長髪は首の後ろできっちり結ばれ、うっすらお化粧しているのか肌が陶器のように美しい。
モデル顔負けの美貌、そして高身長。
可憐の瞳がハートになるのも無理はなかった。

「可憐と呼んでください♡」

そう言って最大の色目を使う彼女に続き、野梨子と悠理は奥の受付へと入っていく。
大理石の床に、白を基調とした家具が並んでいて、ゴージャスなシャンデリアまでもがぶら下がっていた。
高級美容室の看板を掲げているだけある。

「白鹿様、剣菱様、お二方の担当は彼らでよろしいでしょうか?」

つややかな白銀の髪を後ろで束ねた青年。
名前は『SYOMA』と言い、彼が悠理の担当だ。
野梨子を受け持ったのはエキゾチックな顔立ちの『REO』という美青年。
一人ひとり、個室へと案内され、スキンチェック、ヘアチェック、その他諸々の質問を投げかけられた。
どうやら一人三時間コースらしい。
髪の施術をしている間に、化粧を整え、爪の先まで磨いてくれるのだからありがたい。

比較的寡黙な『SYOMA』のお陰で、悠理は無理な笑顔を作らなくても良かった。
基本男性が苦手な野梨子もまた、繊細な気配りの出来る『REO』を気に入り、徐々に打ち解けていく。
可憐は最初に言葉を交わした『YUIGA』が担当。
少々チャラいけれど、見た目がドンピシャ好みということもあり、うきうきしながら身を委ねた。

 

─────

「剣菱様はかなりのくせ毛でいらっしゃいますね。」

繊細な指先で紙質を確かめるSYOMA。

「生まれた時からだもん。どうしようもないだろ?」
「とても素敵だと思います。地肌も健康的で美しいですし、肌トラブルも見当たりません。」
「…………ふ~ん。」

鏡越しに見る彼の目に、嘘もお世辞も見当たらず、悠理は嬉しくなり頬を緩めた。

「どうせなら、ちょっとだけ大人っぽい髪型にしてくれる?」
「かしこまりました。お化粧でも雰囲気が変わると思いますので、試してみましょう。」

先ほど見た冴子の美貌に触発されたことは間違いない。
あんな完璧な美女が清四郎に執着しているのなら、ここは油断している場合ではないのだ。

「んじゃよろしく!」

そう言って、悠理はゆっくり瞼を閉じた。


 

「え?あんた…………どうしちゃったの?」

目を見開く可憐こそ美貌に拍車がかかっていて、髪型もいつもよりずっと大人っぽい。
上品かつ華やかな雰囲気の仕上がりを見て、なるほど腕前は確かだな、と悠理は思った。
彼女の後ろから遅れて現れた野梨子も、一見変わっていないかに思えたが、艶やかな黒髪が照明の光を浴びれば、どれほど丁寧に手入れされたかが解る。
となると、未だ鏡を見せてくれないSYOMAが、一体どのような魔法を自分にかけたのか……気になるところだ。

「悠理………別人ですわ。」
「ほんと……別人ね。」
「え?そんなに?」

ようやく大きな鏡の前に立たされた時、そこに居たのは外国の女優を彷彿とさせるコケティッシュな雰囲気の美女。
普段の髪型とは真逆に撫でつけられた髪と、アイライン際立つメリハリの効いたメイクは、子供っぽさとは程遠い大人な女性に仕立て上げてくれた。
肌の美しさを出来るだけナチュラルに魅せる彼のテクニックはまさしく本物で、可憐たちは粗雑な友人の変貌ぶりにただただ驚くばかり。

唖然とする悠理は我ながらよく化けたな、と思った。

「美人とは知っていましたけれど……」
「ここまで変わると、ちょっと憎らしいわね。」

普段美少年と間違われるタイプだからこそ、この差は大きい。

「もともと目鼻立ちのはっきりした方ですから、ちょっとメイクを乗せるだけで雰囲気は変わりますね。お客様の素材はもちろんですが、僕自身、自分の腕を褒めてやりたいくらいですよ。」

SYOMAが満足気に微笑む。

「今ならもう少しエレガントなファッションでもお似合いになるかと。」

そんな提案に、誰よりも早く可憐が飛びついた。

「そーよ!ファッションも大事だわ。たまには違ったあんたを清四郎に見せつけてやんなさいよ!」
「そうと決まればショッピングですわね。」

女友達の勢いは凄まじく、悠理はあれよあれよと店の外へ連れ出された。

「またのお越しをお待ちしております。」

SYOMAのどこか愉快げな挨拶に押されて───

 


 

「これ、似合ってるかぁ?」
「素晴らしいですわ、お嬢様の為にあるようなデザインです。」

可憐たちに連れてこられたブティックは、普段なら素通りするだろうアダルトな雰囲気の高級ブランドショップだった。
イタリア発祥のちょっと個性的な衣装が取り揃えられている。
エレガントでありながら、巷ではあまり見かけない色使い。
母ちゃんが好みそうだな、と頭の隅で思い描いたが、全身鏡に映った自分はそれ以上に個性的だった。

「こちらのワンピースは一点ものなんですのよ。」

肩を露出したタイトなミニワンピースは、目の覚めるようなブルー。
そこに銀色に輝く大きなバックルのついたベルトが巻かれる。
パンプスは履き慣れないと言うと、安定感のあるサンダルを用意してくれた。

「悠理ったら、普段からこんな格好をすればモテモテなのに。」

どうやら気に入った衣装が数点見つかったらしい。
白いジャケットとシフォンのスカートを手にしながら、可憐はぼやく。

「今更……男にモテてもしゃーねーだろ?」
「ふ~ん?そう?清四郎だけで良いってこと?あいつはそれなりにモテてるんじゃないの?」

ニヤニヤしながら顔を近付ける可憐は、もしかするとある程度予想していたのかもしれない。
清四郎と冴子の関係性を。

「も、モテてるって、どういうことだよ!?」
「へぇ、あんた知らないのね。夜の街に繰り出せば、必ず数人の女から声掛けられてるってこと。」
「え?」

慌てて振り向けば、野梨子も苦笑しつつそれを肯定した。

「わたくしも目にしたことがありますわ。もちろんきちんとお断りしていましたけど……清四郎はああ見えて女性にモテるんですのよ。」

確かに清四郎は見目麗しき青年だ。
加え、鍛え上げられた身体つきも、上品な身のこなしも、全てにおいて一般男性より優れている。
ただ、他人とは見えない壁を作るタイプでもあったし、彼に突撃する輩はほぼほぼ男だと思っていた。

「…………そっか、そんなにモテんのか。」
「あら、いいじゃない!恋人がモテないなんてあたしなら嫌だわ。」
「気にすることありませんでしょ?今は悠理だけの恋人なんですから。」

鏡に映る自分を見つめ、悠理は溜息を吐く。
どうしても鳴海冴子と比べてしまう。
どこから見ても完璧な才女。あんな美女に誘われて逃げ出す男なんているのだろうか?

────取られたらどうしよう。

清四郎の言葉を信じたいと思っているのに、
もし邪魔されるようなら闘うと決めているのに

悠理の心から靄のような不安が消えてくれない。

「あたい……あいつより綺麗かな?」
「あいつって、誰よ?」

俯き加減に目を伏せれば、可憐がピンと来たように冴子の名を口にした。

「一体どういうことなの?清四郎とどんな関係……って、まさか…………」
「可憐?どうしましたの?」

口を覆った友人を不思議そうに見つめる野梨子。
その驚愕に満ちた瞳がじわじわと曇っていく。

「冴子さん……って元カノだったり………?」

’元カノ’という定義に当てはまるのかはわからない。
ただ、清四郎にとって’特別な女’であったことは確かだ。

「ど、どういうことですの?清四郎とあの方がお付き合いを?聞いたことありませんわ!」
「んなの、どうだっていいんだ!別に過去の話だし、あたいは気にしちゃいない。」
「何言ってんのよ!気になって当然でしょうが!それにしても、今更目の前に現れるなんて、無神経だわ。」

悠理は頭を抱えたくなった。
果たして彼女たちに今までのことを話すべきかどうかを……悩む。

そこへ携帯電話の着信が鳴る。
それは渦中の恋人だった。

「………清四郎?」
「悠理、今どこです?」
「え?あ、銀座の………ブティックだよ。可憐たちと買い物。」
「ふむ……名前は?」
「えと確か……’テゾーロ’だっけ?」
「’Tesoro’ですね。了解。今から行くので、一緒にご飯でも如何です?」
「え、迎えにきてくれんの?」
「当然でしょう。そうですね10分ほどで着くと思います。店内で待っててくださいね。」

電話を切ると、二人の美女が溜息で迎えた。

「ようするに、彼女は清四郎と深い関係だったってことね。」
「もしかして、今でも特別な想いが……?」

悠理は首を振り、努めて明るい笑顔を見せる。

「そんなわけないない。恐らく、あたいたちが幸せに見えるから邪魔したいんだろ。おまえらも気にすんなって。」

まるで自分に言い聞かせるかのように放つ台詞。
冴子が本気で奪いに来たら、一体どうなってしまうのか。
想像するだけで、悠理の胸は鉛色に染まった。

「いい?もし何かあったら相談なさい?わかったわね?一人で抱え込むんじゃないわよ!?」
「サンキュ……」
「それにしても清四郎も清四郎ですわ!あんな涼しい顔して……」
「いや、すごく気まずそうだったよ。あたいにバレるくらいだもん。」

可憐たちは顔を見合わせ、笑みを零す。

「あの男がそんなボロを出すなんて……あんたはとことん惚れられてんのね。」
「心配する必要はありませんわ。悠理、堂々としてらっしゃいな。」

優しい応援。
彼女たちの言葉が悠理の心を何よりも癒し、励ました。