〜Rテイスト〜
”いいよ“
たったそれだけの言葉で覚悟を伝えた悠理だが、心臓はドラムを鳴らすかのように激しく鼓動していた。
しかしそれは自分だけではなかったようで………
血走った瞳で見つめてくる男もまた、触れ合う胸でその興奮を伝えてきた。
「ほんとに?………いいんですか?」
情けない話だが、たとえ了解を得たとて、これからの行為を彼女が優しく受け止めてくれるとは限らず、清四郎は不安で胸がいっぱいだった。
悠理の目を覗き込みながら、どこまで理解しているのかを確かめる。
「し、しつこいなぁ!良いったらいいんだよ!だって………」
だって………おまえが好きだから……。
おまえがそんなにも必死で望むなら、あたいだって……先に進んでみたいよ。
「……こうなること……覚悟してたし……」
仄明かりの中、長い睫毛が震える。
淡いピンクの唇がほんの少し尖り、頬に赤みがさす。
シミ一つない美肌。
真っ直ぐな鼻筋。
なによりも輝くのはその潤んだ瞳だった。
”よくみれば美人“──なんてもんじゃない。
どこからどう見ても極上の美人だ。
清四郎は我知らず息を呑んだ。
まるで初めて知った事実かのように、彼女の恥じらう姿に釘付けとなる。
どうしたらいい……?
このままだと……こいつを無茶苦茶にしてしまいそうだ!
知性と理性の男は、今この瞬間にでも獣となり、悠理の全てを食らいつくしたい衝動に駆られた。
それほどまでに自分は飢えていたのか?
慈しみ、大切にしたいと願いながらも、本能の暴走には勝てないというのか?
奥歯に力を込め、心を整える。
悠理の覚悟に報いるため、決して獣に成り下がってはいけない。
この夜は二人にとって、特別な記憶となるのだから。
「………わかりました。出来るだけ優しくします。」
「……うん。」
「無理だと思ったら、ストップをかけてください。」
「………止めれんの?」
果たして、止めれるのか?
こんな魅力的な女を前にして、止めるなんてこと……出来るのか?
ほんとは一晩中……いや朝が来ても、貪り尽くしたいんじゃないのか?
すべてを注ぎ込み、愛と欲望に塗れさせ、自分無しでは生きていけないと懇願させてやりたいんじゃないのか?
それほどの醜い我欲を抑え込むことが出来るのか?清四郎……
「おまえに傷を残すようなことはしたくない。だから我慢せず言ってください。」
「……わあった。」
本当に理解しているのかはわからない。
だが、胸に渦巻く嵐を感じた清四郎は、再び悠理の唇を味わい始めた。
甘くて、柔らかくて、まさに果実のようなそこへ、一つ一つ熱を灯らせる。
やがて舌を絡め深く触れ合うと、まるでそれ自体がセックスであるかのような深い刺激に襲われ、癖になる感覚を追い求め離れられなくなる。
溶け合う思考。
崩れていく輪郭。
悠理の口の中で己の舌が溺れている。
どこもかも舐めしゃぶろうとする、手に負えない情欲に突き動かされて。
まだまだ辿々しい動きにこそ興奮が募り、彼女の荒ぶる鼻息が堪らなくそそる。
「んっ………!っ……ぁ……んん!」
どうしても
どうしても
眠っている官能を引き出し、花開かせたい。
いつしか清四郎の手はバスローブの中へと侵入し、幼さの残る胸を揉みしだいていた。
キスに夢中になりながらも、自然と先走る愛撫。
固く尖った先端にこそ触れはしなかったが、悠理はその違和感に気付いていたはずだ。
清四郎が挿し込んでいた舌を抜いたとき、悠理は無意識だろう、惜しむようにそれを追った。
なんてエロティックな遣り取りなんだ。
ぼんやりとした頭でそう考える。
腰は半ば砕けていて、きっと逃げることも不可能なはず。
この先きっと、されるがままなんだろうな。
悠理はなんとなく想像した。
この大きな手で
広い胸で
あの鍛え上げられた腰で
全てを喰らい尽くされる覚悟を決める。
「………せいしろ。」
「どうした?」
「…………大好き。」
今ここで、それは”悪手“としか言いようがない。
目眩を感じるほどの興奮はまさしく“嵐”だった。
「僕は…………」
豊富な語彙力が失われ、ただただ悠理が欲しくて、清四郎は我を忘れた。いつもの知的で穏やかな眼差しも消え去り、己の欲を満たすためにギラついている。
再び行われた口付けは、やがて悠理の首へ、鎖骨へ、そしてささやかな膨らみへと落ちていき、その細い体を余すことなく男の舌で味わった。
バスローブを全て剥ぎ取ると、いつもより大人っぽいショーツがお目見えし、細い二本の脚が微かに震えている。
そこからは躊躇うこともなかった。
下着の上からむしゃぶりつくと、啜り泣く悠理を更に号泣させるほどの愛撫で狂わせる。
布越しの其処は清四郎の唾液でビチャビチャとなり、やがて張り付いたそれを慌ただしくむしり取ると、彼は喉を鳴らしながらかぶりついた。
「やぁ…っ…!!ぁあ……!!」
初めての行為に目が眩む。
それは想像していたよりも刺激的で、羞恥心を生む行為だった。
口の中に収められた悠理の性器は、まるで彼のために用意されたご馳走。巡る血液の全てが其処へと集中し、激しい快感が溢れ始める。
そして──
清四郎の指が小さな真珠を剥き出しにすると、彼は強烈な勢いで吸いつき始めた。
「ひッ……いあああッ!」
想像もしていなかった刺激に悠理の腰が跳ねる。
呼吸と心臓の鼓動が瞬く間に速くなり、その羞恥心から今すぐにでも逃げ出したくなった。
うそ……清四郎がそんなとこ舐めるなんて!あり得ない!!
しかし彼は休むことなく行為を続け、初めての快楽に戸惑う悠理を責め続ける。
「あっ……あぁあっ……!!」
触れられるたびに蕩けるような電流が背中を走り、つま先にぐぐっと力が入る。
すごい……
これなんなんだ……!?
自分の身に起きていることを分析しようとするも、片っ端から思考が微睡み、もはや駆け上るしかない状況。
苦しみと快感。
そんなせめぎ合いの中、清四郎は駄目押しとばかりに小さな芽を噛った。
「っんんんんんん!!!!」
痙攣が起こると共に背中がそり返り、悠理は声なき声をあげる。
焼き切れた思考。
強制的に与えられた身体の悦びに、為すすべもない自分。
知らなかった快感から逃げ出すことは出来ない。
「悠理……」
手の甲で口を拭う清四郎をぼんやり見つめながら、悠理は恐る恐る手を伸ばした。
まるで水を請う旅人のように。
「大丈夫か?」
身を起こし、顔を寄せ、心配そうに尋ねてくる恋人を、真っ赤な顔をした悠理は心から愛しいと思った。
「今日は……このくらいにしましょう……。」
「………え?」
「まだまだ時間はありますからね。徐々に進めてけばいい。」
「で、でも……清四郎は?満足してないだろ?」
優しく微笑む彼に嘘は見当たらないが、それでも我慢しているのだろう。チラッと下を見れば、起ち上がったシンボルが、恐ろしいほど硬くそり返っていたのだから。
「満足してますよ。おまえの甘い声をたっぷり聞くことが出来ましたし。」
「ば、バカ!」
「可愛すぎるでしょ……全く……」
清四郎は想いを込めて悠理の頭や耳、顔に軽くキスを落としていった。
込み上げる愛しさが溢れ出す。
「そんなに優しくしなくていいのに……。あたいが頑丈なの、知ってるだろ?」
「それとこれとは話が別です。だいたい……」
悠理の眼尻の涙を舌先で掬った清四郎は、申し訳無さそうに告白した。
「最初っから……おまえを壊すつもりはない。そんなことをしたら、僕が後悔するんですよ。」
思い描く全ての欲を、今の清四郎は溢れ出すマグマと捉えている。
長年培った精神力で、それを精いっぱい抑え込んでいる状態なのだ。
悠理を怯えさせることも、崩壊させることも望んではいない。
長く時を共にする女に、極上の優しさを。
焦がす胸の内は知らせずに……。
「………後悔?」
「ええ……。悠理には、セックスが楽しくて気持ちの良いものだと理解してほしい。だからゆっくり進みましょう。さっきのは……どうだった?」
「こ、こわかったけど……………気持ちよかったよ。」
「それなら上々。この旅で……そういった感覚を、少しずつ教えてあげます。」
清四郎の腕が悠理を閉じ込める。悠理は彼の汗ばんだ胸板に安心感を覚えていた。
─── こいつってば、ムッツリって思ってたけど、正真正銘ドスケベなんだな。美童と変わんないや
初めての恋人をそう評価すると、やがてくる睡魔に誘われてしまう。
他人の腕の中で眠るなんて、初めてのこと。
それなのに……
何故か安心してしまう自分を、悠理は不思議に、そして擽ったく思った。