♥悠理視点
清四郎が好きだ……
……なんて、口に出せない想いを1年も抱えてる
どうせ片想い決定なんだ
好みじゃないってのも解ってる
恋愛なんか興味ありませんよ…………って呆れた顔で告げられるに決まってる
やだな
自分の想いが届かないってほんとヤダ
諦めなきゃならない恋ってほんとムダ
それなのに
毎日顔を突き合わせて
友達のまま馬鹿話を繰り返して
何気なくサヨナラを言うんだ
一緒に帰る野梨子の後ろ姿がどんだけ羨ましいと思ったか
旅先で当たり前のように幼馴染を守る姿がどんだけ憎らしいと思ったか
自分の醜さが嫌になる
心の狭さが切なくなる
恋って楽しいはずじゃないの?
綺麗になるはずじゃないの?
この搔きむしりたくなるような想いが恋なら、
この出口が見えない苦しみが続くのが恋なら、
そろそろギブアップしてもいいよな
それなのに…………
何度も切ったはずの諦めの糸を、
あいつはいつも結びなおしてしまうんだ
いつも期待させて
いつも動揺させて
恋なんて教えてくれないくせに
中途半端に触れてくる
そのおっきな手はなんなんだ?
そのおっきな背中は誰のためにあるんだ?
言葉はそっけなくても、目が優しくて
とことん馬鹿にしてくるけど、最後は側に居てくれる
髪をかき混ぜるとき、どんな顔してんの?
背中を預けるとき、どんな風に笑ってんの?
教えてくれよ
心の中を
見せてほしいんだって
ほんとは優しいんだろ?
夢に出てくる清四郎が一番優しいなんて
そんなのヤダよ
そんなの虚しいだけじゃん
初めてだからさ
わかんないよ
おまえのことが
わかんないよ
あと1年………
いや半年だけ片想いしたらいい?
本当は今直ぐ結論が欲しいけど
あと半年だけ………ちょっとだけ
「何、ブツブツ言ってんです?」
「ひゃっ!」
いつの間に寝てたんだ?
それも寝言まで。
よだれはいつものこと。
だから気にしない。
「そろそろ下校時間ですけど?」
「あれ‥‥みんなは?」
「とっくに帰りましたよ。」
カーテンを閉める清四郎の背中。
ちょっと疲れてる感じ。
「もうこんな時間か………」
秋だから仕方ないけど、外はかなり暗い。
パソコンを入れたカバンを小脇に抱え、部室の鍵を振る。
「さ、出てください。」
「あ、うん。」
渡り廊下はすっかり静まり返っていて、
いつもの学園じゃないみたい。
隣に清四郎だけが居るってのも
いつもの日常じゃない感じ。
職員室に立ち寄った後、校門まで二人で歩く。
そこからは別々の道。
たった数分の二人だけ。
「じゃ………また明日。」
残念な気持ちってのはこういうことだよな。
遠回りしてもよかったじゃん。
なんか用事作って、無理矢理押しかけて………
なんで出来ないんだよ。
人一倍図々しいくせに。
なんで我慢してんだよ。
ほんとは吐き出したいくせに。
背中を向けると街灯に照らされる静かな大通りが目に入る。
家に帰れば、また悶々とした夜に苦戦するんだろう。
ヤダな……帰りたくない。
「悠理。」
’ちょっと寄っていきませんか?’ を期待して振り向けば、冷えた風が一瞬通り過ぎ、次に視界は真っ黒になっていた。
秋の風と制服の匂い。
清四郎の匂い──
「おまえが好きですよ。」
「???」
意味わかんない。
なんのこと?
つかなんで抱きしめられてんの?
「両想い………ってことです。」
「………え?」
恐る恐る首を上げれば、薄闇の中でもはっきりわかる清四郎の顔。
嘘じゃない
冗談でもない
真剣な眼差しの先には間抜け面。
「1年間、想い続けてくれてありがとう。」
「へ??」
なんで?
どーなってんの?
今日の夜飯なんだっけ?
混乱する頭と硬直する体。
けれど清四郎はどちらも逃がそうとはしなかった。
風はそれなりに冷たいはずなのに、ちっとも寒くない。
ぎゅっと抱きしめられたまま、清四郎の体温がこちらに移ってくる。
「好き。」
「はい。」
「1年も………好きだったんだ。」
「そうですね………」
「知ってたの?」
「なんとなく。」
「そんなにバレバレだった?」
「おまえは分かりやすいタイプでしょう?だいたいさっき寝言で告白してましたしね。」
「ガーン………」
にっこり微笑むその顔は、決して勝ち誇っちゃいない。
真っ直ぐに、それでいて優しい笑顔。
「1年間、僕も悠理を好きになっていました。友人じゃなく、女として見るように。」
「なんで……?ちっともそんな感じじゃ………」
「打算で恋は出来ない。果たしてこの感情は本物かどうか………僕自身考える時間が欲しかったんです。」
「それが1年………」
「もどかしかったでしょう?」
「うん」
「僕も苦しかった。おまえを苦しめていると解っていたけど、もう2度と過ちは犯したくなかったんだ。」
清四郎の言葉はなんとなく理解できた。
理解したつもりになってるだけかもしんないけど。
「じゃあ、あたいの気持ちはこのままでいいのか?」
「僕の気持ちはもっと膨れ上がりますけどね。」
いつの間にか真上にほっそい月が現れた。
ここは学園のロータリーで、
あと少ししたら警備員が校門にカギを閉めに来るはずだけど、
そんなこたどうだっていい。
どうせしばらく離れられない。
どうせ喜びは押し殺せない。
互いを見つめ合うこの数分が、
長い片想いの終着点であることに、あたいの心は静かに涙を流した。