ゆっくり目を覚ませば、そこは波の音が聞こえる白い部屋で、
カーテン越しに淡い光が差し込み、遠くでは鳥がさえずっていた。
サイドテーブルに置かれたスマートフォンが数件のメールを知らせている。
タイトルだけ見れば、どれも急いで開く必要のないものだったので、再び同じ位置に戻した。
空調は効いている。
限りなく適温に。
昨夜の高まった熱を冷ますくらいに。
乾いたシーツが人の形を成していることに安堵し、そっと近くへ寄り添う。
安定した寝息と人肌の温もり。
シーツを剥がせば、生まれたままの姿で眠っているのだろう。
そしてその肌には多くの赤い痕跡がついている。
強すぎる欲望の証として。
細い腰
なだらかな太もも
熟しきれていない果実のような乳房
抑えきれぬ自分を何度も恥じたが、昨夜はどうしても彼女が欲しくなった。
たとえ抵抗されたとしても、想いを遂げようと躍起になったことだろう。
しかしそうはならなかった。
彼女の不安げな瞳には、それ相応の覚悟が見え隠れしていたから。
必死で受け入れるその姿は、もはや憐れとしか言いようがない。
細い手首を掴み、シーツに押しつけながら、荒々しくキスをする。
何度も味わっているその唇が互いの唾液で光り、糸を引くまで貪り尽くす。
縺れ合う舌。
敏感な粘膜を擦りあわせ、吐息を奪い合うような口づけを繰り返すと、全身を走り抜ける恍惚感が味わえる。
「ん……!ぁ…も……だ…め」
酸素を取り込もうする彼女の口を再び塞ぎ、唾液を啜り、唾液を飲ませた。
朦朧とする頭の中で、いったい何を思っているのか。
目の前の男の欲望に慄いているのではないか?
とはいえ、今更後悔しても後の祭りだ。
頼りないシャツの中に忍び込んだ手は、興奮に尖った小さな実を刺激している。
性的刺激は恐らく初めてのことだろう。
時折、全身をびくつかせながら、彼女はとうとう涙を浮かべ始めた。
その表情が最高にそそるとも知らずに。
「せいしろぉ………」
頭を軽く横に振りながら、それでも何かを懇願するように腕にしがみつく。
愛しさの中にある野蛮な情欲をコントロールすることは、いくら鍛錬をつんだ身でも難しかった。
「悠理……好きだから、本当に好きだから、どうか受け入れてほしい。」
愚かな台詞に自分でも頭痛をおぼえる。
どれだけ喧嘩に強くても、どれだけ僕を愛していても、男を受け入れることは果てしない勇気が必要なはずだ。
彼女が大切だ。
この世の中の何よりも。
もし世界がひび割れたとしても、
もし明日崩壊するとしても、
この手から逃すことはない───
隅々まで舌を這わせ、悠理の全てを脳に刻み込む。
すすり泣く声には羞恥心が紛れ込んでいた。
深い快感を知り、躊躇う姿が見たい。
全てを与え、全てを奪いたいと願う。
そして貪欲に貪り尽くしてほしい。
それこそ本能のままに。
互いに隠すものがなくなった姿で重なり合うと、悠理の唇が可愛く尖った。
「こんなの……無茶苦茶だ。」
「かもしれませんね。」
丹念な愛撫で蜜を溢れさせたそこへ、熱く滾った欲望を突き立てる。
想像しただけで喉が鳴り、その瞬間をもったいないとすら思い始めている。
「男は情けない生き物なんです。好きな女を目の前にしたら獣にしかなれない。」
「清四郎が?」
「ええ、想像以上に醜い獣ですよ。」
自虐的な言葉。
しかし真実だ。
「ふ~ん……別に悪くないと思うけど。」
「そうですか?おまえはまだ知らないから。」
無知で無垢なその瞳に映る男の本性を、彼女は知らない。
「あっ……!」
手に余るほどの性器を握らせ、悦に浸る。
これほどの幸福感があるだろうか。
細い指が包み込むその感触に、浅ましくも涎を垂らす愚かな息子。
「扱いて……ください。」
必要ない行為を強要する男に、悠理の目が潤む。
その瞬間、恍惚感が駆け抜け、更なる欲望が膨れ上がった。
細い体を抱き寄せ、再び始まる淫らな口付け。
片手間に背骨から尾てい骨まで指でなぞり続けると、官能的な声が洩れ始めた。
「ぁ……ふ……はぁ……ん」
彼女の美しい手はたどたどしく僕を掴んでいる。
クチュクチュと淫猥な音が響く中で、僕たちは夢中でキスを続けた。
腹の奥から滾る隠しようもない狂熱を、忘我の境地で感じ始める。
「ゆうり……挿れたい……おまえの中に入って、どうにかなりたい……」
返事を聞く前にシーツへと押し倒す。
彼女の手の中にある愚息は一ミリの余裕もなく、興奮に打ち震えていた。
若草のように柔らかな恥毛をかきわけ、解放された肉茎をあてがう。
互いの秘部と秘部。
欲望に膨張し続けたそれが歓喜に咽び泣く。
「…………んんんっ!!!」
ゆっくりと、確実に。
愛しい女の中を押し進んでいくと、彼女の体は違和感と痛みに反り始めた。
唇を噛みしめ、涙を零す。
「悠理、僕を噛め。」
首の後ろに手をまわし肩を差し出すと、言葉通り、悠理の歯形がくっきり刻まれた。
幸福だった。
肉欲に苛まれていた精神が、まるで浄化されるかのような瞬間だった。
悠理に包まれ、悠理に刻まれ、彼女の肌を全身で味わう。
この上ない充実感。
現実と非現実な世界を行き来する中、それでも悠理の中を知ろうと腰が動き始める。
「あ……あっッ……!清四郎!」
ひくつく粘膜にねじ込み、こね回し、ありとあらゆる場所に己の痕跡を刻んでゆく。
耐える悠理の姿をこの目に刻んでおきたい。
いつでも思い出せるほどに。
せり上がる興奮は瞬く間に訪れた。
耐えきれず放出すると、彼女は汗ばむ体を震わせる。
恐らく快感とは程遠いだろう。
それでもうっすら目を開け、僕を見つめてくる。
「すごいな……やっぱ……」
何に対する感想か解らず頬を寄せれば、
「エッチすると、もっと好きになるんだ……」
そんな爆弾発言を口にした。
その後、当然のように二度目へと突入し、朝日が昇るころ、三度目を終えた。
「あたい初めてだぞ!こんなにやられたら死ぬわい!」
彼女らしい苦情を耳にしながら眠りへと落ちていく。
人生で一番幸せな時間だった。
朝食の匂いを嗅ぎつけ、むくっと目を覚ます恋人は相変わらずである。
ルームサービスを頼んだのは正解。
残念なことに彼女の腰は立たなかったから。
「おまえのせいだかんな。」
「すみません。」
どれだけ睨まれても、この幸福な朝が変わることはない。
机に広げられた食事に片っ端から手を付ける悠理を見て、満たされる心。
「あと二日、延泊しましょうか。」
「ふが??」
「僕としても、もう少しこの幸せな余韻に浸りたいので……」
「むむむ……」
焼きたてのマフィンで頬を膨らませる彼女の心情はいやというほどわかる。
どうせしばらくはベッドから出られないのだ。
もっと先へ。
より深い快感で互いを満たしたい。
投げつけられた林檎を受け取った後、乱れたシーツを整える。
たしかに潮の音は穏やかで、鳥のさえずりは爽やかだった。
けれど僕たちはカーテンを閉め、再び淫靡な箱に閉じこもる。
彼女を味わい尽くすため。
極上の幸福感に包まれるため───僕の欲望に終わりは見えない。