悠理編

茜射す空の下。
秋は日一日と深まり、その朱色をより一層濃くしている。
この時期になると夕陽が沈むのも早く、東の空にはもう、うっすらと星が輝き始めていた。
ひんやりとした風が頬を撫でる校舎裏は、ポプラの葉が足元をカサカサと過ぎていく。
侘しさを誘う、乾いた音。

そんな中、泣く子も黙る、我らが生徒会長は、下級生のお上品な女子生徒に呼び止められ、愛の告白とやらを耳にしていた。

「菊正宗様をずっとお慕いしておりました。お付き合いしていただけませんか?」

さすがは良家の子女。
絹糸のような繊細な声に、男心を擽る甘さを加え、真っ直ぐな目で言い切った。
手入れの行き届いた長い黒髪は風に揺れ、シャンプーの香りが振り撒かれている。

だが、そんなものに惑わされるような可愛げのある男ではない。
恋だの愛だのに興味を示さない彼の性分、結果は明らかだった。

「申し訳ありませんが、今のところ男女交際には興味がないので、お断りします。」

と、優しい声ながらも冷淡な台詞で、彼女の未練ごとぶったぎる。

しかし、これが彼のやり方。
美童の華やかさに隠れているものの、清四郎もまた学園トップクラスのモテ男。
ようは女に囲まれて喜ぶか、喜ばないかだけの違い。




彼女が立ち去った直後、

「あらまぁ。可哀想に。」

明らかに含みを持たせた声で、可憐はひょっこりと顔を出した。

「まったく………覗き見とは、はしたないですな。」

いつものように片眉を上げ、嗜めるも、彼女に反省する素振りは見当たらない。

「まさか!たまたま通りかかっただけよ。面白そうな場面に足が止まったのは確かだけどね。しっかし、あんたってほんと冷たい断り方するわねぇ。」

「そうですか?」

「そうよ!彼女泣きそうな顔してたじゃない。折角勇気を出して挑んだってのに。」

‘そうでしたかねぇ?’と惚ける男に何を言っても暖簾に腕押し。
可憐はフンと嘶きながら、制服に包まれた腕をつねる。

「あんたの理想って高そうよね。一体どんな子なら良いの?まさか野梨子以上の女を探してるんじゃないでしょうね?」

「野梨子?」

「美人で頭脳明晰。正真正銘の大和撫子。あんな幼馴染みが居たら、他の女に目がいかないのも無理はないんだろうけど。」

彼女の断定的な物言いに納得がいかないのか、清四郎は首を傾げる。

「そんなつもりはありませんよ。」

「なら、どんな女がタイプなの?」

こと恋愛に関してはしつこい可憐。
簡単に逃がしてくれそうもなかった。

━━━━なぜこんな流れになったんでしょうな。彼女の好奇心に付き合っている暇はないんですがね。

「タイプなど……特に。それにまだ恋愛にうつつを抜かす予定も…………」

‘無い’と言いかけてハタと止まる。

━━━好みの女性、ねぇ。

昔から野梨子との関係を勘違いされる事は多いが、自分は決して彼女のような女がタイプとは思えない。
もちろん身内の様に大切に扱っているし、可愛いとも感じる。

かといって、可憐が勘ぐるような特別視をしているわけではないのだ。
確かに頭が良いに越したことはないが、自分はどちらかというと、元気で素直で、刺激的で、側に居て心が浮き立つような女が良い。
平凡な日常を覆してくれるような、見たことの無い世界を見せてくれるような、そんなパワーを持つ女性………

「ふ………。頭はともかく、今のところそんなヤツは一人しか居ませんがね。」

「は?」

一人納得する清四郎に、可憐は眉を寄せた。

「なんのこと?」

「…………いいえ、なんでも。」

「ねぇ、そういえばあんた、女と付き合ったことないわよね?」

━━━━まだ続けますか。

やれやれと首を竦め、肯定する。

「………それがなにか?」

「じゃあ、一度野梨子とデートしてみたら?」

「は?」

「お互い兄妹みたいな雰囲気から脱け出せるかもしれないじゃない!意識さえ変われば、いつ恋人同士になってもおかしくないわよ、あんたたち。」

興味本位の提案は不愉快ですらあったが、話を切り上げるため、清四郎は「ふむ」と軽く頷いた。

「デート……ですか。」

「そう!もし駄目だったとしても、二人なら問題ないでしょ?元通り、兄妹に戻れば良いだけなんだし。」

「やる意味はないと思いますけどねぇ。」

「これはちょっとした実験なのよ。野梨子だって、まともなデートしたことないんだし。何事も経験、経験。」

可憐の押せ押せムードにのまれる清四郎。
風も一層冷たさを増してきた為、渋々ながらも「わかりましたよ」と答えた。
胸に蔓延る不満は口に出せないまま。

━━━全く。今さら野梨子とデートなんて………一体何が変わると言うんです。



「わたくしと清四郎がデート?」

次の日の部室で、そんな話題を振られた野梨子は目を丸くして驚いた。
寝耳に水もいいところ。
飲んでいた煎茶を思わず落としそうになる。

「そ!一度くらい試してみなさいよ!幼馴染みから恋に発展する可能性だってゼロじゃないわ。」

しかしそんな可憐の猪突猛進なアドバイスに美童は唸った。

「どうだろうね?この二人はそんなことくらいじゃ変わらないと思うけどなぁ。」

「美童は黙ってて!!」

ピシャリ言いきられ、仕方なく口を噤む。

「へぇ、楽しそうじゃねぇか。あんたら、あまりにも近くに居すぎて、意外と見えてねぇ事だってあるのかもしれないぜ?」

「そう、そうなのよ!魅録ったら良いこと言うじゃない。」

魅録の追い風に便乗する可憐。
美童が口を挟む余地は完全になくなった。
彼はとある人物に、チラリ視線を流す。

(あーあ、知らないよ。どうなっても。)

六人の絶妙な均衡を、誰よりも貴重に感じていたのは美童だ。

(気付かせたのは可憐、君だからね。)

それは決して野梨子や清四郎ではない。
まだまだ幼い、一人の少女。
その不貞腐れた頬には、彼女すら飲み込めない真実が見え隠れしていた。


清四郎と野梨子がデートに定めたその日。
三連休の初日はどこも多くの人出で賑わっていた。

二人はそんな街中をぶらぶら歩く。

「さて………映画でも観ますか?それとも何処か行きたい場所でも?」

「そうですわね……。私、映画よりも写真展に興味がありますわ。フランスの………」

「あぁ、『ウジェーヌ展』ですね。残念。実は先週観てきたばかりなんです。」

「あら、そうですの?誘って下さればよろしかったのに。確か開催期間は残り僅か…………私、やっぱり行って参りますわ。」

「では、お付き合いしますよ。」

「いいえ。清四郎は何処かで時間を潰していてくださいな。見終わったら連絡を入れますから。」

「分かりました。」

結局、初っぱなから別行動する彼らだったが、デートと意識していないのか平常通り。
野梨子と別れた清四郎は徒歩圏内にある馴染みの古本屋へと足を向けた。

雑然と並ぶ薄茶けた本達。
分厚い洋書などもちらほら見当たる中、興味ある一冊を物色していると、不意に甘い香りが漂ってくる。
どうやらクレープの露店が近くにあるらしい。

━━━悠理が居たら飛び付くだろうな。

クスリ、笑みを溢した後、清四郎はそんな自分の思い付きに違和感を感じた。
彼女が食いしん坊なのは今更な事実。

けれど今、自分は彼女が店に駆けていく後ろ姿を想像しなかったか?
そしてそんな可愛らしい姿を目にしたいと望まなかったか?

清四郎は首を振る。

どうしてこんな思いに至るのか……と。

確かに悠理は刺激的な女で退屈はしない。
だがお互い男と女ではなく、むしろライバルに近い存在だと思ってきた。
ペットとしての彼女は可愛いが、歯向ってくるとその牙にやられる。
決して油断できない相手なのだ。
本能の警鐘とでも言うべきか?
何度となく打ちのめされた過去を思い出し、清四郎は苦い笑みを浮かべた。

━━━━確かにこの世で無二の女ですが、付き合うとなると命が足りませんな。

手にしていた埃臭い本を棚に戻し、クレープの香りに誘われるよう露天を目指す。
小さなオレンジ色のワンボックスカー。
そこで若い男が赤いバンダナを巻きながら、生地を丸く広げていた。

━━━恐らくデートとは、こうした何気ない景色の中で、お互いを慈しむものなのだろう。
だが、僕と野梨子にそんな空気は漂わない。
彼女を女性として扱うことはあっても、心は………それを感じない。
野梨子は明らかに、家族と同じラインに立つ人物なのだから。

清四郎は財布を取り出し、生クリームとチョコレートのクレープを頼んだ。
そして普段なら決して食べないそれを静かに口に含む。

━━━━あいつとなら、きっと取り合いだ。

じんわりと広がってゆくその情感は、普段の彼には縁遠きもの。
カップルだらけの街並みを眺めながら、清四郎は形にならない何かを見つけたような気がした。



「とても素晴らしかったですわ!」

興奮気味に椅子へと座った野梨子は、現れた店員に紅茶を頼むと、ふぅと吐息を洩らした。
あれから二時間。
待ち合わせたのは、馴染みの喫茶店だ。

「でしょう?日本に来るのは珍しいですからね。実際、本国で行われる個展の方が作品数も多いのでしょうが。」

「機会があれば行ってみたいですわ。」

「僕もです。」

清四郎がコーヒーをお代わりしようか迷っていると、野梨子は申し訳なさそうな表情で口を開いた。

「ごめんなさい、清四郎。」

「どうかしましたか?」

「わたくしが今回、この話に乗ったのは………試したかったからですの。」

「試す?」

神妙な口振りに、清四郎は挙げようとしていた手をテーブルの上で組む。

「ええ。」

伏せがちに視線を落とした野梨子は、いつになく憂いを帯びていた。
自慢の観察眼が鋭く光る。

「何か訳があるようですね。聞かせてください。」

「いつか言わなくては、と思うのですけど………」

そうして野梨子が語り始めた話は、清四郎に少なからず衝撃を与えた。

「魅録を………ですか。」

「…………ええ。」

「意識し始めたと?」

「おかしいですわよね。今まで友人としてしか接してこなかったのに………」

『恋とはそんなものだ』
と、その時の清四郎には言えなかった。
自分には縁遠く、自覚したことのない感情。
可憐や美童なら嬉々として相談に乗れるのだろうが、情緒に疎いと言われている男にとってはかなりの難題だ。

そして相手が魅録。
清四郎のプライドを刺激される、数少ない男である。
選ぶ相手としては申し分ないが、やはり感情のどこかでピリと意識してしまうのは、己の矜持が高すぎる故か?

「でも………あまり脈は無さそうですわ。」

それは清四郎とのお試しデートが決まった時に見た魅録の態度を指している。
野梨子は運ばれてきた紅茶を一口啜ると、再び小さなため息を洩らした。

「清四郎。」

「何です?」

「…………私、少し臆病過ぎますかしら?」

「………野梨子の気持ちはわかりますよ。この居心地の良い関係を壊したくはない、ということでしょう?」

彼女は清四郎の言葉にこくりと頷き、そして大きな瞳を輝かせる。

「清四郎も………同じですわよね?」

「━━━━━え?」

「悠理を………本当は悠理を好きでいるのでしょう?」

それは断定に近い問いかけだった。
言葉を失う幼馴染みに、野梨子は微笑みを見せる。

「清四郎は冷たいところもありますけれど、本当は情の深い人間ですわ。特に悠理への愛情は特別。わたくし、間違っていますかしら?」

「……………特別。なるほど、野梨子にはそう見えるんですね?」

「ええ、幾度もそう感じました。」

観察眼に関しては彼女も清四郎同様、光るものを持っている。
そんな幼馴染みの言葉に明らかな信憑性を見出だすと、清四郎はふっと表情を崩した。

「僕も人並み、ということか。」

「あら、人並みではありませんでしょ?清四郎はきっと………そう、とても厄介な恋人になりそうですわ。」

「………心外ですな。」

「恋は常識を覆すほどの力を持っているのでは?私はそう思っています。」

その断言に返す言葉は無かった。
男嫌いだった少女は淡い恋を経験し、自分よりも一歩先から物事を見渡しているのだから。

「………前途多難、ですね。お互いに。」

「…………ええ。」

お互いを熟知している二人は結局その後、デートらしいこともせず帰宅の途についた。

そこで待ち伏せる人物の悲痛な表情など予想しないままに。


薄暗い、かといって人の表情くらいは判別できる光の中で、一人の少女は立ち尽くしていた。


かれこれ一時間にもなる。
肌を撫でる風は既に冷たく、足元を通りすぎる落ち葉はカサカサと侘しい音を立てている。

━━━あたい、何してんだろ。

今日この日。
二人がデートをしていると知ってはいたが、自宅でゴロゴロしていても心を過るもやもやとした感情を持て余してしまうため、結局は名輪の車に乗り込み、此処までやって来てしまったのだ。
取り繕う為の宿題を片手にして。

━━━もし、二人が楽しそうに帰ってきたらどうしよう。

白鹿家の門を叩いたところ、「お嬢様は出掛けられたままです。」との返事が返ってきた。
ならば二人は……いまだデートの真っ最中ということ。
事実を突き付けられると、尚さら胸が軋んだ。

悠理は自分らしくない行動に溜め息を吐く。
この胸を締め付けるような切なさと痛みが、一体何に結び付いているのか。
それを気付かされる事は正直怖かった。

二人が可憐の勧めでデートを決めた時、身を凍らせるような寂しさが襲った。
こんなことは初めてで、途端に孤独感を感じる。

清四郎が野梨子と恋人同士になれば、もう自分のことなど構ってくれなくなるかもしれない。
元々、小煩い猿のような扱いなのだ。
いくら長い友人とはいえ、その距離感を間違ってはいけないことくらい、悠理とて理解していた。
二人は誰よりもお似合いで、当然、祝福されるカップルになるだろう。

なのに、心はしくしくと痛み、清四郎を取られたくないと喚きたてる。

恋にならなくてもいい。
今のままでいいから、側に居て欲しい。

いつの間にか育っていた想いの、その名も知らないままに望む自分は我侭だ。

依存?それとも子供じみた独占欲?

やはり清四郎は特別なのかもしれない。
魅録にも、美童にも感じない何か。

あの大きな手が欲しくて。
まるで親を請う幼子のように甘えたくて、野梨子の‘特別’にはなってほしくないと願う。

けれど━━━━

誰が見ても、彼女に軍配が上がるだろう。
今時貴重な大和撫子。
清四郎を深く理解し、対等に渡り合える数少ない人物。

それに清四郎も野梨子を大切にしている。
家族のように。
それ以上に。

「くすん。」

恋人になれなくてもいいだなんてただの逃げ口上。
本当は清四郎にとって、誰よりも大切な人間になりたかった。
がさつで野蛮で馬鹿で、どうしようもない自分。
彼の好みからは遠くかけ離れているだろうに。
それらを変えようしなかった怠惰な性格。
今さらながらに湧き上がる後悔。

けれど━━━

今、自分は不安に駈られ、こんな場所で立ち尽くしている。
二人が手を繋ぎ、微笑み合いながら歩いてくる幻を、何度見たことか。
絶望に近い感情を、何度噛み殺したことか。

 

「さむ……………」

名輪の車は暖かかった。
けれど彼は兄に呼び出され、悠理を置き去りにするしかなかった。
悠理は秋風に晒される身体を固く抱き縮め、あと十分だけ待とうと心に決める。

そこへ、二人はやって来たのだ。
悠理の幻どおりではなく、いつもの距離を保ちながら、しかしにこやかに顔を見合わせ、話をしている。
ただの幼馴染みには見えないほど親しげだ。
きっと楽しかったに違いない。

不安と絶望。
悠理はこみ上げてくる涙を服の袖でゴシゴシと擦った。

何故こんなにも涙が出るんだろう?
二人のそんな姿すら見たくないほど、想いが膨らんでしまったのか?

「……………悠理?」

20メートルほど向こうから、まずは清四郎が気付く。
そして野梨子も。

「よ、よぉ。」

冷気にかじかんだ手を上げ、いつものように挨拶をするも、拭ったはずの涙がポロポロと零れ始める。

「あ、あの、これは………その違うんだ。寒くて……………」

だが清四郎は彼女の言い訳を遮り、急くように尋ねた。

「一体どうしたんです!?」

「悠理?」

不安そうに駆け寄ってくる二人の幼馴染み。

━━━━━あたい、馬鹿みたいだ。

そうは思っても涙は止まらない。

「せぇしろぉ………のりこ………ごめんよ~!あたい………あたい…………」

やっぱ無理だ。
二人がもし交際するというのなら、居心地の良い六人の輪の中から、独り逃げ出すほかない。
そうでもしないと、きっと羨ましくて、妬ましくて、野梨子への感情を堪えきれないだろうから。

「あたいは………おまえらを祝福してやれない!だって………あたいは…………」

絶え間なく流れる涙が、言葉を奪う。

あぁ、もっとスマートに言えたら良いのに!

嗚咽が洩れる中、清四郎はポケットからハンカチを取り出し、そっと悠理の頬を拭った。

「悠理、落ち着きなさい。………ほら、鼻をかんで。」

几帳面に折り畳まれたそれを広げ、悠理は言われた通りに鼻をかんだ。
野梨子の視線は、さめざめと泣き続ける悠理にではなく、幼馴染みの表情に釘付けだ。

━━━━まあ、なんて表情(かお)をするのかしら。

彼の全てを知っているはずの野梨子ですら見たことのない、慈愛に満ちた穏やかな微笑み。
けれどその胸の中では歓喜が渦巻いているはず。

「ぜぇ………じろ………」

「はい?」

「あだい………おまえのごと………誰にもわだしだくない。」

聞きづらいはずの鼻声も、清四郎の耳はしっかりとキャッチした。

「…………ええ。」

「のり………ごと……付き合う………の?」

「いいえ………付き合いませんよ。」

「…………ほんど?」

「ええ。付き合いません。僕は…………」

さっきまで不確かだった想いがゆっくりと丸みを帯び、光輝きながら形を作る。

「悠理が一番……大切ですから。」

野梨子は思わず口を覆った。
まさか、この捻くれた男がこんなにもストレートに想いを伝えるとは、想像もしなかったのだろう。

「せぇしろ…………」

悠理にとっては、これこそが奇跡。
信じられないと目を見開く彼女が、彼の温かい腕の中に収まったのはその直後のこと。
顔を背け、「わ、わたくし、もう行きますわ。」と足早に自宅へと入っていく野梨子にすら、二人の視線は届かない。

「僕の恋人に…………なってくれますか?」

「う、うん。」

照れる暇もないほど、悠理は清四郎の胸に顔を押し付けていた。

鼓動が聞こえる。
それは鍛え上げた男にしてはかなり速い。

彼の本心を耳にした悠理は、赤く腫れた瞼をゆっくりと落とした。