終わらない欲望(R)

※短めですがR作品

 


 

「やっ…………!」

「ほら、ちゃんと開いて………」

「やだよ。恥ずかしいじゃんか。」

「今更何言ってるんです?早く診せなさい。」

「やだってばぁ!!!」

朝七時半。
剣菱家にこだまする絶叫は、のんびりと餌を堪能していたタマフクを驚かすに十分な声量だった。
つい先日結婚したばかりの若きカップルは、朝も早よから騒がしい。
とはいえ、メイドたちにとってお嬢様の奇声など日常茶飯事な為、仕事に差し障りはない。
いつも通りに忙しく、朝食の準備を整えていた。

さて、若夫婦の寝室では………

悠理が急に腹痛を訴えた為、診察がてらパジャマを脱がそうとした清四郎。
何を今更・・・とばかりに完全拒否を決め込む妻を、夫は呆れた顔で眺めていた。

「触診するだけですよ?」

「い、いいよ!薬だけくれれば。」

「適当なことを。胃か腸かもわからないのに処方出来るわけないだろう?」

「じゃあ、しばらく様子見するから!」

必死の抵抗を前に、清四郎の機嫌もどんどん悪くなる。
いったい何が恥ずかしいというのだ。
男女の関係になって丸二年。
共に暮らすようになっておよそ一ヶ月。
あれもこれもしまくっているというのに、今更こんなことで………。

清四郎は元よりドSな男である。
悠理の泣き顔・困り顔は何よりの好物だ。
恥ずかしさに身悶える姿など、嗜虐心をそそり倒す。
自分の性癖を改めて自覚させられた清四郎であったが、それでも妻は愛おしい。

「そういえば………今夜は、北海道から送られてきた“たらば蟹”を食べるんでしたっけ?」

「あ・・・・!」

「確かおまえの好物でしたよねぇ?あぁ、でもこの調子ならお預けになるかもしれませんが。」

「や、やだっ!絶対食うんだい!」

「ならしっかりと僕に診せなさい。」

忘れていた御馳走を頭に思い描き、諦めたように腕の力を抜く悠理。
お気に入りの猫柄パジャマのボタンをわざとゆっくり外してゆく意地の悪さは今更のことだ。
やたら緊張が走るのも、夫の熱い視線が注がれているからか。

「横になって………」

「…………うん。」

広いベッドの上、夕べは甘い時間を過ごした。
同じ場所で、触診されているとやっぱり変な気分になってくる。

“新婚ですからね━━━”
という訳の分からぬ免罪符を翳しながら、毎夜の如く求めてくる清四郎。
悠理はいつも不思議で仕方なかった。
仕事で疲れているはずなのに、まるで回復アイテムかのように悠理を貪るのだ。

「ここは?痛みますか?」

「あ、うーん、どだろ。少しだけ。」

悠理とてセックスは嫌いではない。
本能を呼び覚ますような深い快感を覚えてからというもの、定期的に体が疼く事も知った。

それはふとした時。
例えば清四郎の視線に絡め取られたとき。
清四郎の長い指がそっと顎を撫でたとき。
普段、滅多に情熱を見せない男が、甘い囁きを耳に忍び込ませたとき。

何とも言えぬ痺れが体の中を貫く。

────────

「ここは?」

胃の少し下の辺りを押さえられた時、悠理の体は染み込んだ記憶を探り当て、わずかに身じろいだ。
適度な温もりの指先がまるで愛撫するかのように移動する。

「そこは、い……たくない。」

「なら、こうすればどうだ?」

臍の下を軽く触られただけで、とろりと濡れ始める下半身。
恥ずかしさのあまり、慌てて顔を背ける。

「………っ!」

「痛むのか?」

先ほどまで感じていた痛みなど、どこか遠くへ飛び立っていった。
今はもう、夫の指に翻弄されるばかり。

「……いたく……ない……」

はぁ……
思わず熱い息が洩れ、慌てて口を閉じるも、それを聞き逃す清四郎ではなかった。
真面目ぶった医者の仮面を剥ぎ取り、妻の表情をじっくりと見つめる。

悔しそうに横を向いたまま頬を染める初な姿。
手のひらで転がされることに未だ慣れないのだろう。
そんな妻に、あっさりと留め金を外される気がして、清四郎は奥歯を噛みしめた。

「悠理。」

「………なんだよ。」

「やらしい匂いがしますよ?」

夫の優れた鼻についても、今更知った話ではない。
瞬間、真っ赤になった悠理は、清四郎の顔をきつく睨みつけ叫んだ。

「何言ってんだ!すけべ!!」

「どっちがスケベなんです。なんなら今、きちんと確かめてやりましょうか?」

パジャマの上からの卑猥な手つきは、間違いなく証拠を見せろと言っている。
疼く体内。
荒ぶる動悸。
濡れた下着が肌に張り付いていることなど、確認しなくても解っていた。
悠理の頭が煮え始め、口はただ悪態を吐き続ける。

「お、おまえが悪いんだろ!」

「僕が?」

「清四郎が………そんな風に触るから…………あたい………」

「気持ちよくなったんですね?」

嬉しそうな夫をまともに見れないまま、諦めたように頷く妻。
彼の手は徐々に確信部分へと伸びてゆき、悠理の弱い部分を布越しに押し始めていた。

「………っ!や、止めろよ…………」

「そんな顔で言われても、説得力がない。」

いつもより強めの力加減で刺激されると、抵抗する気力ごとドロドロに溶け始める思考。
全身を熱い血液が駆けめぐり、吐く息はやたらとなまめかしく感じた。

剥き出しの胸をもう片方の手で捏ねられ、いつしか先っぽを口の中に含まれる。
悠理はもう、小さな悲鳴をあげる事しか出来ない。

「あっ………ああっ!!清四郎!」

弓形になった体が、清四郎の視線に絡め取られる中、パジャマに忍び込んだ手が濡れた下着を確かめ、浮き上がった形を淫靡になぞり上げる。
何度も執拗に擦られ、小さく膨らんだ肉の芽を丁寧に刺激され、視界は瞬く間に白い光を帯びていった。

気が付けば、自分の荒い呼吸が頭の中に響いていた。
清四郎は濡れた長い指を軽く舐め取り、自らのパジャマの前を割り開く。

そして、
“診察はどうなったんだ?”
という無言の問いかけをさらりとかわし、半開きになった妻の口を覆うように塞いだ。
快感に滴った涎を、全て吸い取る勢いの熱いキスが、悠理をどんどん追い立てる。
顎を持ち上げ、より深く、濃密に、喉の近くまで差し込まれる舌。

「ん………ぐぅ…………っ!!」

爽やかな朝には到底相応しくない濡れた音が部屋中に響きわたり、悠理は清四郎が本気で診察を放棄したことを知った。

汗ばんだ首から下りていく愛撫に肌が粟立つ。
人よりも小さな膨らみを大きな手で揉み上げられ、先端をコリコリと摘ままれれば、抵抗する気力も湧いてこない。

貧乳だと自覚している悠理だが、清四郎にとっては“とるに足らない”ことらしい。
いつもしつこいくらいの愛撫を施し、旨そうにそれを吸い立てていた。

「あっ………あっ……ん………」

強く吸われると、涙がこぼれるほど気持ちいい。
ぐちゅり………濡れた脚の間を、清四郎の膝がやらしく的確に刺激してくる。
ぐりっと押し当てられた硬い膝は性器に見立てられたよう奥へと進み、まるで疑似セックスをしているかのように興奮した。

喉を反らし、声なき声をあげる悠理。
今すぐにでもイってしまいそうだった。

「せ………しろ………」

生殺しは御免だ。
潤んだ悠理の目がそう訴えかけてきて、清四郎はごくっと唾を飲み込んだ。

「………挿れてほしいですか?」

それでも一応、返事が聞きたい。
焦らすような囁きを耳元に与えると、新妻の耐え難い吐息が再び洩れ出した。

「いじわる………」

特有の媚びた目に更なる色を乗せ、悠理は清四郎の首元にしがみつく。
甘い、甘い、声色。
理性や制御など、簡単に吹き飛ばしてしまうような破壊力を持つ。

清四郎は押しつけていた膝を外し、パジャマ下を下着ごと脱がせた。
糸を引くほど感じている悠理の両足を抱え上げると、聳え立つ己の肉茎を取り出し、露が滴るその中に侵入する。

「ああっ!!」

夕べの残滓が残っているのか。
ヌルヌルとした感触が清四郎のモノにまとわりつき、より奥へとスムーズに誘い込む。
追い立てられるように腰を振ると、廊下にまで届く甲高い声が飛び出し、清四郎はまたしても口を塞ぐしかなかった。

狂おしいほどの快楽に悠理は泣きながら受け入れる。
身体ごと激しく揺さぶられ、清四郎の激しい心音を聞き、多くの愛液を垂れ流す姿を瞼に思い浮かべると、今が朝だろうが、どうでもよくなってしまう。

夕べだって何度も快楽の頂点に連れて行かれた。
身体の相性の良さは初めて結ばれた時から解っている。
無論、悠理は他の男を知らないわけだが、可憐や美童の話を聞くに、長く付き合うには“そういうもの”も大事なんだそうな。

「あっ………んぁ………ああ!も、ダメ、イく………」

乱れに乱れる悠理。
じっくりと観察されながら、最奥を抉るように押し込んでくる清四郎は、開発されたばかりのポイントを的確に突いた。

痺れる腰。
朦朧とする頭。
視界が弾け、細い脚が震える。
自分ではコントロール出来ない体に恐怖すら感じる。

「…………っく………出すぞ………!」

最後の最後、感じる部分を掻き回され、悠理はいとも簡単に絶頂へと導かれた。
と同時に清四郎もまた焼け付くような白い熱情を吐き出す。

はぁ

はぁ

軽く息を整えた後、蕩けるようなキスを繰り返す清四郎。
悠理の汗ばんだ髪を梳き、整った額にも口付けを落とす。

「ほんとに…………痛くないんですか?」

「…………ん。いたくない。」

痛みの代わりにやってきたのは猛烈な欲情で、清四郎のやらしくも的外れな診察が何となく功を奏した事を悠理は知った。

「たらば蟹───たらふく食うかんな。」

「……………はいはい。」

色気の次は即座に食い気。
欲望に忠実な妻の姿に、これからも色々なメンテナンスを担わなくてはならないな、と覚悟する清四郎であった。