六人が冬休みの旅先に選んだ東北の地。
四泊五日のスキー旅行。
野梨子と美童の二人は、外せない用事があった為、後から合流することとなっていた。
可憐と悠理、清四郎と魅録は、静かな特急の中、向かい合わせでボックス席に座る。
「ぶあっくしょい!う~っ、なんかこの電車寒いじょ。」
慌ててロングカーディガンの前を掻き合わせる悠理。
盛大なくしゃみと共に飛び出した鼻水を、可憐が差し出したティッシュで拭う。
「あんたの席、扉に近いから冷えるのよ。ほら、魅録と交換してもらいなさいな。せっかくのスキーなんだから、風邪ひいたら勿体無いわよ。」
「うん。魅録、頼む。」
清四郎と隣り合わせに居た魅録はすぐに立ち上がり、席を譲った。
「ほら、清四郎のコートも借りとけ。カシミアだから暖かいぞ。」
「仕方ないですね。」
促された清四郎は、膝の上で折り畳まれていたロングコートを悠理に差し出し、座席をトントンと叩く。
彼自身は薄手のニットセーターだったが、鍛え方が違うせいか、些細な気温ごときに左右されることはない。
悠理はそんな男の横、所謂窓際の席に腰掛けると、大きなコートを肩まで引き上げ、ふぅ~と長い息を吐いた。
その体格差故、まるで‘コートお化け’のようにすっぽり包まれてしまっている。
「念のため、薬でも飲んでおきますか?」
「・・・・うん。」
「じゃ、あたしお水買ってくるわ。さっき車内販売通過しちゃったから、こっちから追い掛けたほうが早いわよね。」
「可憐、俺にもビール、頼む。」
「はいはい。おつまみも、でしょ?」
残された三人は、流れ行く窓の外を眺めた。
いつしか景色は白一色。
気温はぐんと下がり、窓は仄かに曇っている。
「くそっ!確かにさみぃな。トイレいってくるぜ。」
魅録は肩を竦めながら立ち上がり、二両前にある手洗いを目指した。
悠理と清四郎はとうとう二人きり。
乗車率の低い列車なのか、客は疎らで静かな車内。
清四郎は棚にある鞄から薬を取り出した後、鼻を啜る悠理を意識しながら、再びそっと座った。
「熱は、なさそうですな。」
「ん。」
「やはり、寝不足のせいですかねぇ?」
「おまえが悪いんだろ!」
「ふ………最終的に激しく求めて来たのは悠理ですよ。暫く二人きりになれないからと、いつもよりも大胆に誘ってきたじゃないですか。」
「あ、あほ!声が大きい!」
コートの襟元に顔を半分埋め、睨みを効かせるが男はくすりと笑うだけ。
「悠理・・・・」
一転して、艶めいた声を出す清四郎に、彼女はビクッと反応する。
これも既に条件反射。
真っ昼間からそんな声を出すなんて反則だ!と思いながらも、彼が醸し出す雰囲気に飲み込まれていく。
「夕べはすごく可愛かった。普段もあんな風に求めてくれればいいのに。未だ興奮が覚めてなくて、身体が疼くんですよ。ほら………。」
バサッ
自らのコートの半分で下半身を隠し、他人からは見えない空間で悠理の手を握った清四郎は、勃ち上がろうとしている己自身をスラックスの上から触れさせた。
「…………お、おい、何、硬くしてんだ!ここ、どこだと思って……」
「思い出してしまうんです。悠理を見ていると、あの時の快感を………」
少し早口で答える男に強く握られた手で、服の上からでも解るほど異常な熱を持ったその肉を包む。
「ひっ!!」
「悠理・・・擦って?」
真っ赤になって首を振り、どれほど拒否の意思を示しても膨張し続けるシンボルに、悠理は飽和状態になった脳内で呆然と口を開ける。
「は……ぁ……こんなところでおまえに触れられているなんて………すごく興奮しますよ。」
清四郎の声に更なる官能が滲み出す。
「お、おい、出すなよ!」
「まさか。中学生じゃあるまいし、コントロールくらい出来ますよ。」
そう言いながらも悠理の耳元にそっと近付くと、パニックを起こしている恋人をからかうかのように、熱っぽく囁いた。
「本当は、すごく出したいんですけどね。おまえのココに…………」
「!!!」
尾てい骨が震えてしまうほど艶かしい声。
子兎状態の悠理が抵抗出来るはずもない。
離れ際にさらりと触れられた秘所が、ずくりと疼く。
そこへ魅録がタイミング良く(悪く?)、続いて可憐もペットボトルを片手に戻ってきた。
「あら、悠理、顔真っ赤よ?熱でも出てきたのかしら。ほら、これで早くクスリ飲みなさいよ。」
悠理は慌ててコートの下に隠れた清四郎の太ももを軽くつねるが、案の定反応は薄く、むしろ涼しい顔で薬を差し出してくる。
━━━こいつ~!何て事しやがる!
むずむずとした体で薬を飲み、残り二時間もある列車の旅を、‘こうなったら爆睡してやる!’と決意した悠理は、コートをすっぽり被った後、額を窓にゴツンと押し付けた。
・・・・が、しかし、その小さな頭はぐいっと引き戻され、清四郎の肩に優しく乗せられる。
可憐達はその様子を見て、僅かばかり視線を逸らしたが、特にからかってくるような事はなかった。
二人が極めて仲の良い恋人同士であることなど、百も承知なのだから・・・・。
電車は単調なリズムを刻む。
悠理だけでなく、魅録も可憐もウトウトと船を漕ぎ始めていた。
清四郎だけは、取り出した文庫本に集中しているようだが・・・・。
夢の中…………悠理は恋人との甘い時間を再現していた。
欲情を促す艶めいた囁きも、
ひたすら続けられる執拗な愛撫も、
男としての清四郎を感じさせる大胆な腰つきも━━━全て悠理の身体に刻まれている。
先程の行為も相まって、徐々に膨らんで行く下半身の疼きに、彼女はもぞもぞと腰を揺らす。
それに気付いた清四郎はクスリと笑い、文庫本を静かに閉じた。
夕べの大胆な行動。
彼女は清四郎の上で激しく腰を振り、何度も吐精を促してきた。
それは初めての体位であったが、勘が良い悠理は徐々にそのテクニックを磨いてゆく。
ピルを服用している為、二人を隔てるものは何もなく、清四郎は思う存分悠理へと吐き出す。
何度も、それこそ何度も繰り返されるその行為に、一体何の意味があるというのだろう。
快感だけを求め続ける二人は、ひどく濡れた状態のまま、同じ感想を抱いていたに違いない。
「せぇしろぉ!もっと………もっと、出して?あたいの中、ぐちゃぐちゃにしてぇー!」
「…………あぁ、今夜のおまえは………すごいな。最後の一滴まで絞られそうだ。」
「うん……ぁ!すごい……ここまで届いてるぅ……」
下腹を押さえながら、口端から涎を垂らす悠理を、清四郎は舌舐めずりしながら見つめる。
━━━━なんと官能的な光景だろう。
彼女の昂る興奮が、こちらにまで伝わってくる。
下から突き上げ、そして更に深く押し込む。
━━━この際、孕んでしまえば良い。
そう思うのも、雄の本能を剥き出しにして興奮している証拠。
女が達し、しなる背中は、絵にも描けぬ美しさだ。
清四郎は反らした胸の突起にしゃぶりつくと、飽きることなく口の中で転がした。
欲は尽きぬ。
思い出せば出すほど、腰が、重く気怠い官能を呼び起こす。
清四郎は、再びコートの中へと手を差し入れた。
悠理は未だ夢の中。
真冬だと言うのに、コーデュロイのショートパンツを履く彼女をいつか嗜めなければと思いつつ、今はこれで良かったと感じる己を嗤う。
細い太ももからパンツの裾へと手を延ばす。
直ぐに辿り着く秘められた蜜壺を、下着の上からそろり、と触れる。
「んっ………」
夢の中身になど興味はない。
清四郎は細長い溝をゆっくりと擦り始めた。
既にたっぷりと濡れていることに疑問すら抱かず、くちゅくちゅとした湿音をコートの中で響かせる。
丹精込めて開発してきた身体だ。
先程の僅かな愛撫でどうなるかなど、容易に想像出来ていた。
悠理の瞼がようやくうっすらと開かれる。
コートの香りが清四郎であることに安心しそっと見上げれば、投げ掛けられる優しい瞳の奥に、強い欲望が陽炎のように揺らめいていた。
「……………我慢、出来ない?」
列車の音にかき消されるくらい小さな声で尋ねると、男はふっと目を細めた。
それが全ての答え。
何も言わず立ち上がった清四郎に、悠理も倣う。
可憐は魅録の肩にもたれ掛かりながらすっかり熟睡していた。
腕組みをしたままの魅録も目覚める気配はない。
二人は二両前のトイレへと向かう。
客は相変わらず疎らで、皆が単調な景色に飽き、眠っているようだった。
トイレは確かに狭いが、二人が重なるには充分な場所。
清四郎は手早く、悠理の下着ごとショートパンツを下ろし、カーディガンの長い裾を捲り上げると、取り出した欲棒を思いきり突き入れた。
「あぁっ!!!」
「しっ。さすがに車掌に見つかると拙い。」
大きな掌で口を塞がれた悠理は、激しい抽送に為す術もない。
衝撃に堪えきれなかった涙が、しっとりと清四郎の手を濡らす。
「ああ、ぐちょぐちょですね。もしかして夕べの僕が残っているのかな?」
そんなからかい口調に、軽く歯を立て、抗議を示す悠理。
確かに朝のシャワーで何度も掻き出されたけれど、奥深くまでは男の長い指をもってしてもさすがに届かない。
「気分が良いな。おまえが僕の精液をずっと抱えているなんて。ぞくぞくする。」
「や、やらしいこと言うな!」
「こんな場所でこんなコトをしていて、なんの説得力もありませんよ。大人しくついてきたのは………おまえです!!」
清四郎の動きは容赦がなかった。
悠理は歯を食い縛りながら、追いたてられるように快楽の扉を開ける。
「ん…………ふっ………ふっ……ん……………!!!」
「よく締まる。夕べのおまえの中もまるで生き物のようだった。淫らで………貪欲な………まるで悠理そのものの……くっ………ふっ…………」
絶妙な収縮を繰り返す胎内へ、清四郎の白濁が飛び散る。
ドクドクと音を立て、腰を襲う快感の波。
悠理の身体もまた強烈な快感で痙攣する中、名残り惜しさを堪えながら離れた清四郎。
互いの汚れた部分をトイレットペーパーでさっと拭い、彼女の身支度を手伝う。
「・・・・戻りますよ。ああ、なんです?その表情は。色っぽ過ぎるじゃないですか・・・・」
涙で濡れた頬を清四郎の舌がなぞり、そして軽く開かれた唇を吸い上げた。
そんな甘いキスをされると、靄がかかったように思考が微睡む。
「……………せぇしろのバカ。」
「はいはい。バカで結構。しかしこうなってくると僕たちは同室の方が良かったかもしれませんね。今からでも宿に頼んでみますか?」
「んなの、恥ずかしすぎる!あいつらに余計な想像されちゃうじゃんか!」
「今さらだと思いますけどねぇ。」
こっそりトイレから出た二人は、独立した洗面所内でも激しいキスを交わし、そこを通りがかった乗客にわざとらしく咳払いをされてしまうが、結局は止めることが出来なかった。
くちゅり・・・と音を立て、糸を引きながら離れた時、二人の目には再び強い欲望が宿っている。
「やはり…………別に部屋を取りましょう。とても我慢出来るとは思えない。」
静かに頷く悠理もまた、襲い来る渇きには逆らえない。
清四郎のセーターをそっと握り、「あたいも・・・」とようやく小さな声で答えた。
どこまでも続く欲情を、二人が上手くコントロール出来る日は来るのか?
五年経ち、夫婦となった今も、その答えにたどり着けた様子は見られない。