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切っ掛けは何だったっけ?

あ、そうだ。
皆で昼飯食った後、美童が広げたエロ雑誌(プレイボーイ)。
可憐と野梨子が不愉快な顔をしてるのに、あの男、嬉しそうに他の二人に見せつけてたんだよな。

魅録は「へぇへぇ」って言いながら、あんまり興味を示さなかったけど、清四郎はいつもみたく、顎を撫でながら「ふむ」って見入ってた。
あいつ、“ムッツリスケベ”だから何考えてんのかわかんないけど、とにかく美童が嬉しそうに語る女の好みを聞きながら、写真を眺めてたんだ。

「僕はこのくらいボリュームある方が好きだな。色々楽しめるからねぇ。」

指さした女は可憐の1.5倍くらい胸のある、金髪のストレートヘア。
谷間を強調したちっちゃな黒の水着が、今にもはち切れてしまいそうなほどのボリュームだった。

重そうな胸。
生まれてこの方経験したことないけど、きっと肩が凝るんだろうな

「清四郎は?」

当然のように話を振られ、清四郎は少し悩みながらもページをめくった。
興味津々な美童がやらしい目をしている。
ついであたいも、カフェオレを啜りながら意識を集中してしまう。

清四郎は三枚ほどめくったところで指を止め、ゆっくりと口を開いた。

「バランス的にはこのくらいが一番いいんじゃないですか?」

そのページには青みがかったアッシュヘアの女の子が一人。
たぶんCかDくらいはある、綺麗な形の胸だった。
水着も着てなくて素っ裸だったのに、清四郎は照れる素振りも見せずそれを凝視していて、むしろこっちが焦る。
ちったぁ魅録を見習えよな……くそ。

「あぁ、確かにいい感じの子だね。色気は少ないけど顔は可愛いし。へぇー、清四郎の好みはこれかぁ。」

「あくまでバランスの話をしただけですよ。あまり大きいのは苦手なもので。」

「うーん、でも揉み心地は絶対おっきい方がいいよ。後ろから抱きしめた時なんか、ホント幸せな気分になるよね~。」

夢見心地で答える美童は、きっとお気に入りのガールフレンドを思い出してるんだろう。

「それは良かったですね。ですが、そろそろ女性陣の不興を買いそうなので、この話はここまで。野梨子、熱いお茶を淹れてくれませんか?」

「ふん。ご自分でなさったら?」

野梨子は案の定、不機嫌にそっぽを向いた。
刺々しい返答に苦笑した清四郎は、ふとあたいの方を見て、軽くウインクする。

なんだよ、それ。
どういうこと?

よくわからないけど、モヤモヤとした気持ちにさせられ、慌てて顔を逸らす。

清四郎のやつ…………
やっぱあたいの胸じゃ、その気になんないのかな。
そりゃそうか。
ブラジャーの意味すらない平らな胸なんて、お呼びじゃないもんな
ちぇ。

その日からずっとモヤモヤが続いていて、ふと目にする本や雑誌は豊胸ものばかり。
エステ・美容整形、下着選び。
女の悩みを解決するための誘い文句は巷に溢れすぎている。

「はぁ………手っ取り早くでかくなんねぇかな。」

スマホの検索キーワードでも「胸 大きくなる」がトップにくるくらい、あたいは必死になっていた。
昔は胸の大きさなんて気にしない性格だったのに、清四郎と付き合い始めたから、こんな風になっちゃったんだ。

ふん!全部あいつの所為だ!

…………って地団駄踏んでも、結局悩みは消えたりはしないんだよな。

胸の谷間はゼロ。
絶壁に近いけど、一応少しだけ膨らんでる……気もする。
ブラジャーはAカップで、某メーカーのワイヤレスタイプ。
楽ちんなんだよ、これ。
だから成長しないのかな?
元々締め付けられるの、好きじゃないんだけど…………。

ある夜、スマホで大食い動画を探していると、とある広告に目が留まった。

「ん?飲むだけで胸がでっかくなる?」

それはピンク色の袋に入ったサプリの紹介で、一週間飲み続ければ3センチ。
二週間だと10センチもアップすると自慢気に謳っていた。

え、すごくないか?
アイドルやモデルも愛用だって?
確かにみんなフカフカの胸してるもんな。
どんな水着だって着こなせるし、男受け良さそう。
へぇ、こういうのに頼ってんのか……。

いや、待てよ。
んなウマイ話、転がってないだろ。
絶対裏がある。

初回500円という値段に心惹かれつつも、ネットで口コミを調べると、案の定賛否両論だった。
でも中には、「ツーサイズアップ!彼氏がとっても喜んでくれました!もう●●サプリ、神!」ってコメントもあって心が揺らぐ。

「ダメ元で買ってみるかな………どーせ500円だし。」

結局、あたいはその誘惑に勝てず、ポチッてしまったのだ。
どんなからくりか知らないが、翌日届いた封筒はいかにもって感じのピンク色で、メイドが不思議そうに手渡してくれたが、中身がばれるのが恥ずかしくて、乱暴に奪い取ってしまった。

朝、たった三錠飲むだけのサプリメント。
味は何もない。
だから飲みやすい。
一日、二日、三日………
見た目の変化は乏しいけど、少しだけ胸が張ってるような気がして、鏡の前であれこれチェックしてみる。

「ん~?どうだろ。」

ちょっとくらいおっきくなったか?
谷間はまだ作れない。
でも心なしかブラにぴったり収まってる気もする。
効果があったのか?それとも………

たっぷり二ヶ月分はある袋を開いて、用量より二粒多く飲んでみる
出来るだけ早くおっきくなりたい。
サプリだもん。
毒じゃないし……大丈夫だよな?

初めは二粒、三日後には六粒。
摂取する丸い魔法の薬はどんどんと増えていった。

「ねぇ、悠理。」

「………え?」

「あんた、顔色悪くない?生理なの?」

それはサプリを飲み始めて二週間ほど経った時のこと。
スムージーを作ってくれた可憐が耳元でこそっと聞いてきた。

「いや………なんか食欲なくて……」

「え????」

長い睫毛に覆われた目を瞬かせながら戦く可憐。
そらそうだよな。
あたいが食欲無い時はだいたい幽霊に乗り移られたかなんかだし。

「ちょっとぉ!医者に行きなさいよ。………ってか清四郎に診せたら?何遠慮しちゃってんのよ!恋人でしょう?」

「んな大げさな………大丈夫だよ。」

たぶん━━━

あのサプリ、毎日十粒も飲んでんのに、効き目イマイチだよなぁ。
やたらと腹だけ膨れるから、ご飯も食べたくなくなっちゃって。
体重も三キロほど減ったし。
こりゃでかくなるってより、逆に萎んで、見すぼらしくなったりして………
ここ数日はそんな不安に苛まれていた。

「どうしました?」

可憐のバカ。
大声出すから清四郎が来ちゃったじゃん。

「ほら、悠理。もじもじしてないでちゃんと相談しなさいよ。」

「聞こえてましたよ。食欲が無いんですって?おまえにしては珍しい。」

目の前の椅子に腰掛けた清四郎は、真剣な顔と指で色んなところをチェックしてくる。
おでこ、目、喉、顎、脈拍まで。
それはまるで医者そのものの振る舞いだった。

「ふむ。」

「なんだよ………別にどっこもおかしくないだろ?」

「最近、夜更かししてませんよね?」

「う、うん。」

「変なモノを食べた記憶は?」

「……………………ナイ。」

「………嘘を吐くのは止めた方がいい。このままじゃ、うちの病院で胃カメラのんでもらうことになりますよ?」

「んげっ!」

嘘と見抜いた上で脅しをかける意地悪な男。
いっつもこれだもん。
ほんとに恋人なのかよ。

「い、家で話すよ。ここじゃ………やだ。」

「なら早速帰りましょうか。話は僕の家で?」

「……………うん。」

もう言い逃れは出来ない。
事実、調子が悪いのは確かだし。

清四郎の手に引かれるあたいを、他の四人はあからさまにニヤニヤしながら見送った。



しん………と静まりかえった清四郎ん家。
いつもならおばちゃんや家政婦さんが温かく出迎えてくれるはずなのに。

「買い物に出かけているようですね。まぁ、直ぐ帰ってくるでしょう。飲み物は何がいい?」

「………コーラ。」

「コーラか……あったかな?とにかく僕の部屋で待っていなさい。

慣れた階段を上りきると清四郎の部屋がある。
半分屋根裏みたいになってて、ワンフロア全部が奴の部屋なんだ。
でっかい本棚とよくわからないコンピューターの数々。
年季の入った勉強机はちっとも高校生らしくないけど、清四郎らしいといえばらしいか。

二ヶ月前のある日、告白したのはあたいからだ。
この部屋で勉強中に「好きだ」と告げた。
緊張と不安、恥ずかしさで胸が張り裂けそうだったけど、言わなきゃ後悔すると思って。

最初はおっかなびっくりといった顔だった。
清四郎にしては珍しいくらい、大きく目を見開いて、口をポカンとあけてた。

でも少し考えた後、何かを噛みしめたように口元を綻ばせて、「僕も、好きです。」と答えてくれた。
頭をよしよしと撫でられ、「仲良くしましょうね。」とこの先の交際を前向きに考えた台詞も吐いてたくせに。

何故だかちっとも手を出してこない。
手も繋がず、抱きしめもせず、チュウだってしないんだよ…………

なんでだ?
清四郎ってムッツリなはずなのに、なんでそんな雰囲気にならないんだ?

両想いと喜んだのも束の間、不安が波のように襲ってきて、あたいは付き合う前と同じ、胸がジクジクと痛み始めていた。
そうか。そういった悩みで胃がもやもやしてる可能性もあるな。

一人掛けソファに腰掛け、サプリメントの事をどう告げようか悩んでいると、お菓子とコーラを持った清四郎がやってきた。
勉強会と同じ雰囲気で、テーブルの端に置かれる。
その後、制服の上を脱ぎだしてちょっとびっくりしたけど、何てこたないただの着替えだった。

「で、一体どういうことなんです?」

グレーのトレーナーを被った清四郎が向かいに腰を下ろすと、ようやく確信に触れてくる。
鋭い視線の中に、嘘は許さないといった力強さがあって、あたいはいつもこの目から逃れられないでいるんだ。

「…………サプリだよ。ちょっと勘違いして、飲み過ぎて………気持ち悪くなってるだけ。」

「サプリ?どんなサプリだ?」

「その………えと、胸がでっかくなるヤツ………」

「は?」

信じられない━━━といった表情を隠さず、清四郎はおでこに手を当てて溜息を吐いた。
まあ………予想通りの反応でホッとしたよ。
呆れられて馬鹿にされて、はもう慣れてる。

「そんなもの………どこから手に入れたんです?」

「ネット。」

「はぁ………怪しいサイトじゃないだろうな。名前は?」

「確か…………●▽▲ってメーカーの……」

清四郎の手に握られたスマホで、その店の情報はサラサラと浮き上がってくる。
最初から最後までページをめくると、またどこかのサイトを開いて、厳しそうな顔をよりひどく歪ませた。

「ふむ。この成分だと命に影響を与える事はありませんね。ただ、服用を長く続けていると何かしらの副作用が発症しているケースもある。特に容量を守らないと胃荒れや食欲不振、下痢、吐き気なんかをもよおす場合も………」

「あ、それ!あたいと一緒だ。」

そっか。
だからご飯が美味しくなかったのか。
やっぱこのサプリの所為なんだな。
よかったーー。

「ところで一日、何粒飲んでるんです?」

ほっとしたのも束の間、険悪な目で睨まれて、誤魔化す事が出来ない。

「じ、10…………」

「あほか!!!」

清四郎の叩いた机で、コーラのグラスが飛び跳ねた。
ついでにあたいも。

「容量を必ず守れ、とここに書いてあるだろう?いい年をしてそんな事も分からないのか!だいたいこんな下らないサプリメントを取り寄せて………効果があると思う方がおかしいだろう!?」

馬鹿だと責められることには慣れてる。
でもあたいの気持ち、ちょっとくらい理解してくれてもよくないか
ちょっとくらい、心配してくれてもよくないか?

「………胸、でっかい方が好きなくせに。」

「………は?」

こうなったらモヤモヤしてた不満をぶちまけるしかなかった。

「あたいみたいなペタンコ!どーせ、おまえにとっちゃ女でも何でもないんだろ!?」

「いきなり………どうしたんです?」

「付き合ってるっていっても、何も変わんないじゃんか!手だって握らないし、デートだってチューだって。……………あたいみたいな女、恋人として失格なんだろ………だから…………だから………

言ってて泣けてくる台詞だった。

清四郎のバカヤロウ。
こんなこと言わせるなよ。
ちゃんと優しくしてくれよ。
ちゃんと恋人にしてくれよ。

そりゃあたいは馬鹿で駄目な女だけどさ………おまえのこと好きになってから、少しは気にしたりしてるんだぞ。

鼻がツンとする。
目頭が熱い。
今にも零れ出しそうな涙。

あー・・あたい、究極にださいよなー。

「悠理………」

伸びてきた手が、そっと頭を撫でる。

「本当に………馬鹿なんですね。」

それはいつもの呆れたトーンじゃなかった。
どちらかというと甘やかすような声。

「わ、悪かったな。どーせ………」

「いや、今回は僕のミスでもあります。申し訳ない。」

珍しく謝罪され、清四郎の顔を見上げれば、あっという間に接近してくる高い鼻。

「わわ、なんだよ!」

ほとんどくっつくくらいの距離で、ヤツはにっこり微笑んだ。
今から思えば、それは悪魔の微笑み。

「子供だと思っていたら、もうそこまで成長していましたか。ちゃんと発情も出来るようで良かった。大丈夫。胸のことも心配いりませんよ。僕が責任をもって大きくしてやりますからね。」

「へっ?」

「“男に揉まれれば大きくなる”、と聞いたことありませんか?あれはあながち嘘じゃないんですよ。………そうですね、毎日きちんと刺激を与えていけば、そんなインチキサプリなんかよりずっと効果があると思います。」

「ま、毎日!?」

どーやって!?と尋ねる間もなく、清四郎は制服の上から大きな掌であたいの胸を鷲掴みにしてきた。

「早速、今日から試してみましょう。なに、僕に任せなさい。おまえが悩んでいることはきちんと解決してやりますよ。」

「え!ちょ、ま、まてっ…………!清四郎!」

気が付けはあっという間に素っ裸な二人。
ベッドに連れ込まれ、ありとあらゆるキスを教えられ、頭が暴発しそうなほどやらしい清四郎を知った。

胸の先が痺れるほどの刺激をヤツの口と指で与えられ、それを毎日繰り返されていると、いつの間にかブラのサイズが一つ大きくなっていた。
今じゃ胸だけでなく、お尻もちょっぴりふっくらしてきて、自分でも納得出来る身体に近付きつつある。

「ね?サプリよりずっと効果があるでしょう?」

クスクスと笑う清四郎の腕に、あたいは今日も飛び込んでゆく。
エッチで物知りなこの世で最高の恋人。

目指せ、Dカップ!
………とまでは思わないけど、清四郎にとことん愛される体を手に入れる為、毎日二人でいちゃついていくんだ。

「なぁ、もし胸がおっきくなんなかったら、どうした?」

「………そんな些細なこと気になるくらいなら、おまえとは付き合ってませんよ。」

はは。確かに━━
だって、愛があればカンケーないもんな!