「ん~~。こんなん持ってたっけ?」
15畳はあるだろう。
悠理はリフォームされたばかりのクローゼットルームで、見慣れぬネクタイを手に眉をひそめる。
タグが付いたままのそれは、彼が選ぶ物にしては少々派手に見えるのだが・・・。
「あいつの趣味じゃねーよな。」
新婚生活十日目の朝。
悠理は新妻らしく、その日夫が締めるネクタイをいそいそと選んでいたのだが、その空気は徐々に不穏なものへと変化しつつあった。
「・・・・てことは、もしやプレゼント?誰から?自分で買ったなら直ぐにタグを切るよなぁ。」
もやもやした気分でブツブツ呟いていると、シャワーを終えた清四郎がバスローブ姿で現れた。
「おはよう、悠理。」
早朝からトレーニングルームで軽く汗を流した男は、すっきり晴れやかな笑顔で挨拶する。
「清四郎、おはよ。」
怪訝な顔の悠理が挨拶を返すと、清四郎は真ん中に置かれたローチェアに腰掛け、来い来いと手招きした。
「そのネクタイはね、お義母さんから頂いたんですよ。」
「え?母ちゃんから?」
「ほら、先週、イタリアで豪遊してきたでしょう?その時の土産です。」
「な~んだ、そっかぁ。へへ・・・変な心配しちゃった。」
清四郎の膝の上でホッと胸を撫で下ろす悠理。
見上げれば嬉しそうな夫の顔が目に飛び込んでくる。
「な、なんだよ?」
「いやはや。いつまでもこんな風にヤキモチを妬かれる夫であり続けたいものですね。」
「バカ。あんまり妬かせんなよ。・・・おまえが後悔するんだぞ。」
「━━━と言いますと?」
悠理はバスローブの襟元から手を忍び込ませると、まだ湿り気のある胸板を確かめるようなぞる。
自分のものより色の薄い突起に、カリと爪を立てながら・・・。
「知ってるくせに……。」
「そりゃあ、前回の騒動では丸二日も拘束されましたがね。あんな悠理も珍しくて新鮮でしたよ。おまえの嫉妬心は相当なものです。」
と言ってクスクスと笑う。
「母ちゃんの娘だもん。」
「ふ、確かに。でも、悠理………」
清四郎は這っていた手を掴み、引き寄せるとその掌へ唇を強く押し当てた。
「僕の方はもっとすごいんですよ?その辺のこと解ってます?」
「う、うん。」
「おまえも人妻になったんですから、男に誘われてもホイホイとついていかないように。いいですか?」
「もし、そんなことしたら、あたいも監禁されちゃう?」
「もちろん。二日なんかじゃ済みませんが、ね。」
ニヤリと口端を上げた夫に、クフフと笑いながら首元にかじりつくと、悠理は甘い声で小さく囁いた。
「んなこと言われたら、ヤキモチ妬かせたくなっちゃうぞ。」
「!!!」
そんな二人の朝は、漂うパンケーキの香りよりも甘く・・・朝食を並べていたメイドの顔色は用意した苺よりも赤かった。