Girl’s Position(悠理)

「トラブル?」

「ええ。今日は遅くなります。先に休んでいなさい。」

「まじでーー?何の日かわかってんの!?」

「社員がクリスマス返上で働いているんだ。僕だけ悠長に楽しめませんよ。」

「………っ!」

「二、三個、パーティがあったろう?遅くまで楽しんで来ていいから………。」

誤魔化すみたいな優しいキスで、あいつはそそくさ出ていった。

パーティを楽しめ?
どうやって?

あたいは昔と違うのに。
おまえが変えちゃったくせに。

用意した衣装だけが虚しくて………
それでも袖を通して、化粧して、あいつの帰りを待つなんて。
忠犬ハチ公まっしぐらじゃん。

「つまんないよ。」

メイド達が飾り立てたクリスマスツリー。
シェフ渾身のディナー。
父ちゃんと母ちゃんはオーストラリアで聖夜を過ごす。
兄ちゃんも当然仕事。

あたいだけが………一人っきり。

わぁってるんだけどさ。
これは我儘だってこと。

「嬢ちゃま、ケーキが出来上がりましたぞ。」

「ん。そのままにしといて?」

マカロンがこれでもかと張り付いた特大ケーキ。
二人で食べるために頼んだんだけど、無駄になっちゃうのかな?
ため息が溢れる。

━━━可憐と野梨子、今ごろ何してんだろ?

クリスマスらしい衣装を買おうと言い出したのは可憐で、それに便乗してしまったこと、今はちょっぴり後悔してる。
下着までクリスマス仕様だなんて気恥ずかしさ満点だ。
そりゃ……あいつ喜ぶかな?って期待してのことだけど?
当の本人が居ないんじゃ、それこそ意味無い。

「はぁーー、あと三時間。」

テレビから流れる、しつこいくらいのクリスマスソング。
キラキラ輝くイルミネーションを、たくさんのカップルがうっとりと見上げている。
頭の出来以外で人を羨ましく思うことは少ないけど、今は本気で羨ましい。

「会いたい、会いたいぞ!!せーしろーー!帰ってこーーい!!」

壁に反響する自分の声に恥ずかしくなった。

もう、子供じゃないんだ。
ここは大人しく待つに限る。

ベッドにボフン。
天蓋カーテンもクリスマス仕様で、どことなく重々しい。

テレビも消して………自分の心音だけをBGMに。




「悠理?」

ひんやりとした空気が肌に触れ、慌てて目を覚ませば、そこには会いたかった清四郎の姿。

「ただいま。」

「…………おかえ、り。」

「こんな可愛い格好で待ってると知ってたら、もっと早く帰ってきたな。」

「ふ、ふん。遅いわい!」

「ギリギリ、聖夜ですよ?」

時計を見れば23:45。
ほんっと、ギリギリ!

「ケーキ、食べる?」

「お腹ペコペコなんです。」

「あ、じゃあ、ローストチキン……」

あたいの唇に指を当て、清四郎はニヤリと笑う。

「言ったでしょう?お腹ペコペコなんです。だから、まずはおまえでこの飢えを満たさないと………」

「は、腹じゃないだろ!それ!」

「おや、悠理も期待していましたよね?だから、こんなセクシーな衣装で待っていてくれた。違いますか?」

スルスルとネクタイをほどきながら、ギラついた瞳で誘惑してくる悪い男。

「もう………!適当にしたら許さないかんな!」

「ええ、もちろん。夜が明けるまで。」

「あほ!ケーキも食うんだい!」

「なら、悠理にデコレートして頂きましょう。」

有言実行。
衣装と下着は早々に剥ぎ取られ、生クリームでベタベタになった身体は、ヤツの舌で綺麗に舐め取られた。

「もっとゆっくり味わえ!!」

「だから味わってるでしょうが。」

「違う!こ、この服だ!」

「おまえが寝ている間、充分堪能しましたよ。」

嘘つき男。

でも、ま、いっか。
あたいの「クリスマスプレゼント」はちゃんと届いたし?
神様って本当にいるのかもしれないな。