※魅野カップル
「の………野梨子?」
魅録の上擦った声は久々に聞いた気がする。
驚く顔が見たいとは思っていたけれど………
こんなにも良い反応をされると嬉しくなってしまうのは、自分の中の『女』が確実に育ち始めているから。
そう結論付けた野梨子は、いつもの清らかな微笑みを封印し、悪戯めいた笑顔を見せつけた。
「似合いません?」
大和撫子と形容される彼女には、何よりも和服が似合うと信じていた魅録。
その衝撃は計り知れない。
赤と白。
この時期ならではのツートンカラー。
‘ふわふわもこもこ’
醸し出す甘さを打ち消すほど、露出した肌がセクシーに見える。
似合う似合わない云々ではなく、驚いたのだ、彼は。
野梨子はこういった衣装を絶対に選ばないだろう、と高を括っていたのだ。
だが……彼女の覚悟を感じるその姿に、男としての部分が煽られるのは当然。
魅録の喉が大きく鳴った。
「に、似合ってるよ。驚いたけどな。」
「ふふ。良かったですわ。今年は三人で衣装を買いに出掛けましたの。色んなデザインがあって迷いましたけど。」
その軽やかな声から、買い物に精を出している女達が思い浮かび、魅録はくすりと笑った。
交際三年目。
野梨子とは既に深い関係だが、女性としての恥じらいと貞節を重んじる彼女が、このように大胆な姿を見せた事は一度もない。
そしてそれを理解している彼もまた、彼女に求めたことは無かった。
野梨子には野梨子らしい姿が一番だと思っていたし、実際そういうところに惚れて付き合ってきた。
だが━━━
これも確かに悪くはない。
「その下、どうなってんだ?」
「………えっ?」
「あ、いや………ちょっと気になってな。」
どうみても下着の紐が見当たらず、魅録は思いついた疑問をぶつけた。
「き、きちんと着けてますわ。魅録ったら!もう。」
ようやく頬を染め、自らの格好に羞恥を感じ始めた野梨子。
まさかブラの所在を確かめられるとは思ってもみない。
「へぇ………どれどれ?」
「あ………魅録…………」
「おいおい、黒の下着なんて……初めてじゃねぇの?」
「………か、可憐が……どうしてもって勧めてきましたの。お気に召しません?」
「いや………燃えるね。」
魅録の興奮した声は明らかだった。
普段、機械弄りをする武骨な手は、意外と繊細に身体を這いずり回る。
柔らかな衣装はそのままに、野梨子の白い肌を仄かな桃色に染めていく。
「あ………魅録………電気を………」
しかし懇願は聞き届けられない。
「勿体ねぇだろ?せっかくのクリスマスプレゼント、良~く見せてもらうぜ。」
「あっ………んっ……」
逞しい腕に抱えられベッドへと運ばれた野梨子は、真新しいシーツの上で、丁寧に開封されていった。
(たまにはこんな衣装も悪くありませんわね)
強引に勧めてきた可憐に感謝する。
ノーマルな自分達にはこのぐらいの刺激が一番。
特別な夜にだけ愉しむサプライズ。
しかし…………
新たな扉を開いた魅録に気付くのはもう少し先の話。